バーティブの液体冷却システム

この記事で分かること

1. 液体冷却システムとは何か

AI半導体などの莫大な発熱に対し、空気ではなく水などの「液体」を用いて効率的に冷却するシステムです。液体の高い熱伝導率を活かし、従来の空冷では対応できない超高密度データセンターの熱を強力に吸収・排出します。

2. バーティブの液冷システムの特徴

チップから屋外の排熱まで一気通貫で提供する総合力が強みです。空冷との高度な融合やプレハブ化に対応し、高性能なCDU(分配ユニット)による徹底した漏水リスクの抑制と優れた省エネ性を実現しています。

3. CDUとはなにか

液冷システムの心臓部となる管理装置です。施設側とサーバー側の水路を熱交換器で分離し、AIの負荷に応じた流量や圧力の精密制御、結露を防ぐ温度調整(露点制御)によって安全かつ効率的に液を分配します。

バーティブの液体冷却システム

 AIの爆発的な普及に伴い、データセンターの「熱対策(冷却)」と「電力管理」の需要が世界的に急増する中、米国のデータセンター用インフラ大手であるバーティブ(Vertiv)が、マレーシアのジョホール州に新たな製造拠点を開設しています。

 ハイパースケーラー各社がアジアでのAIインフラ整備を急ぐ中、機器を他の大陸の工場から輸送していては、数ヶ月のリードタイムがボトルネックになります。需要地に直結したマレーシアに拠点を構えることで、バーティブは製品を「スピードとスケール」をもって供給する体制を整えました。

 前回は、バーティブがどんな設備を扱っているかに関する記事でしたが、今回はバーティブの液体冷却システムの特徴を知ることができます。

液体冷却システムとは何か

 液体冷却(液冷)システムとは、データセンターのサーバーや半導体(CPU/GPU)が発する莫大な熱を、従来の「空気(ファンによる送風)」ではなく、「液体(水や専用の不伝導性液体)」を使って効率的に吸収・排出する技術です。

 車のエンジンを冷やすラジエーター(水冷式)のシステムを、データセンターの超高性能サーバー向けに極限まで進化させたものと言えます。

なぜ今、液冷が必要なのか?

 背景にあるのは「AI半導体の劇的な発熱量の増加」です。

 従来の一般的なサーバーは1ラックあたり数kW〜10kW程度で、エアコンの冷風を当てる「空冷」で十分に冷やせました。しかし、最新のAI用GPU(NvidiaのBlackwell世代など)は、チップ1個で1,000W(電子レンジ並み)を超える熱を発します。

 これが1つのラックに何十個も凝縮されると、ラック全体の電力(発熱)は100kW以上に達します。

 水などの液体は空気の約4倍の比熱、約24倍の熱伝導率を持ち、体積あたりで比較すると空気の約3,000倍もの熱を運ぶ能力があります。だからこそ液冷が必須となっています。

主な方式

 データセンターで導入されている液冷システムには、主に以下の3つのアプローチがあります。

  • ダイレクト・トゥ・チップ(Direct-to-Chip / コールドプレート方式)
    • GPUやCPUの表面に「コールドプレート」と呼ばれる金属製の受熱板を直接貼り付け、その内部に細い管を通して冷却液を循環させる方式です。現在、バーティブをはじめとする大手インフラ企業が最も注力している主流の技術です。
  • 液浸冷却(Immersion Cooling)
    • サーバーそのものを、電気を通さない特殊な液体(シリコンオイルやフッ素系液体)を満たしたプールの中に丸ごとドボンと沈める究極の方式です。ファンが一切不要になり、非常に高い冷却効率を誇ります。
  • リアドア熱交換器(RDHx)
    • サーバーラックの背面(ドア部分)に巨大なラジエーター(冷却水が流れるパネル)を取り付け、サーバーが排出した熱風をその場で冷風に変えて室内に戻す方式です。空冷と液冷の中間に位置します。

システムの「心臓部」:CDU(冷却液分配ユニット)

 先ほどのマレーシア工場でも生産されているCDU(Coolant Distribution Unit)は、この液冷システムにおいて最も重要な役割を果たします。

 サーバー側を流れる「超高純度な冷却水(クローズド・ループ)」と、データセンターの建物外の冷却塔へと繋がる「施設側の水(オープン・ループ)」の2つの系統を、内部の熱交換器を介して仲介します。

 液体が漏れないように圧力を精密に制御し、常に最適な温度と流量の冷却液をサーバーラックへ送り続ける、まさにシステム全体の「心臓(ポンプ・コントロールセンター)」です。

AI半導体などの莫大な発熱に対し、空気ではなく水などの「液体」を用いて効率的に冷却するシステムです。液体の高い熱伝導率を活かし、従来の空冷では対応できない超高密度データセンターの熱を強力に吸収・排出します。

バーティブの液体冷却システムの特徴は何か

 バーティブ(Vertiv)の液体冷却(液冷)システムは、新興の競合メーカーと比べて「データセンター全体のインフラを丸ごと最適化できる総合力」と「圧倒的な運用実績」に大きな強みがあります。

 AI時代の超高密度な熱問題を解決する、バーティブならではの主な特徴は以下の4点です。

1. チップから建物外の排熱まで「一気通貫」の製品群

 バーティブは、液冷に必要なパーツをすべて自社ポートフォリオで網羅しています。

  • サーバー内のコールドプレート(半導体に直接貼る受熱板)
  • ラック内の流体を配るマニホールド(腐食に強い高級ステンレスを採用)
  • 制御の要であるCDU(冷却液分配ユニット)
  • 建物の外で熱を逃がすチラーや最新の外気排熱システム(Vertiv™ CoolLoop Trim Coolerなど)

 これらを単一ベンダーでエンドツーエンドで提供できるため、システム全体の相性トラブルがなく、設計や保守の窓口を一本化できます。

2. 「空冷+液冷」の高度なハイブリッド&モジュール化技術

 AIのワークロード(処理負荷)は凄まじいですが、実はラック内のすべての熱が液冷で取れるわけではありません。約75%は液冷で直接回収できても、残りの25%は周辺パーツから空気中に放熱されます。

 バーティブは、「Vertiv™ MegaMod™ HDX」や「CoolPhase™ Flex」のように、液冷システムと既存の空冷システムを最初から高精度に融合させたプレハブ(モジュール)型のポッドを得意としています。

 既存のデータセンターの設計を大きく変えずに、段階的にAI環境へ移行できます。

3. リスクを極限まで抑える「CDU」の制御技術

 データセンターにとって「サーバー室への液体の持ち込み」は漏水ショートのリスクと隣り合わせです。バーティブのCDU(Vertiv™ XDUなど)は、徹底したリスク管理が施されています。

  • 完全な二系統分離: 施設の粗い水と、サーバー側の超高純度な冷却水を内部の熱交換器で完全に分離。
  • インテリジェント制御: 結露を絶対に起こさないよう、室内の露点(湿度と温度のバランス)を計算して液体の温度・圧力・流量を自動で精密コントロールします。もちろん、高度な漏水検知アラームやポンプの冗長化(予備の備え)も標準装備です。

4. 「温水冷却」による高い省エネ・節水性能

 バーティブのシステムは、最高40℃〜45℃といった「あえて少し温かい水」を循環させてもAIチップを安全に冷やせる設計になっています。

 水が温かくてもよければ、外気を使って水を冷やす「フリークーリング」のチャンスが劇的に増えるため、従来の冷却システムと比べて年間の冷却エネルギー消費を最大70%削減し、水の使用量も大きく抑えることができます。

チップから屋外の排熱まで一気通貫で提供する総合力が強みです。空冷との高度な融合やプレハブ化に対応し、高性能なCDU(分配ユニット)による徹底した漏水リスクの抑制と優れた省エネ性を実現しています。

CDUとはなにか、どのように液の分配を管理するのか

 CDU(Coolant Distribution Unit:冷却液分配ユニット)とは、液冷システムを採用したデータセンターにおいて、システム全体の「心臓(ポンプ)」と「脳(制御装置)」の役割を果たす中央管理装置です。

 データセンターの建物全体を循環する冷却水(施設ループ)と、サーバーやAIチップに直接触れる精密な冷却水(二次ループ)の2つの系統を分離・仲介する役割を持っています。

CDUが液の分配を管理する5つのメカニズム

 CDUは単に液体を送り出すだけでなく、サーバー室での漏水ショートや結露を防ぎつつ、チップを最適な温度に保つために、主に以下の5つの要素を高度にリアルタイム制御しています。

1. プレート式熱交換器による「熱だけの移動」

 CDUの内部には、薄い金属プレートを重ねた構造の熱交換器が入っています。

  • 施設ループ(外側): 冷却塔やチラーから来る、比較的クリーン度の低い一般的な水。
  • 二次ループ(内側): サーバーラックへ流す、不純物や腐食防止剤を厳密に管理した超高純度水(または電気を通さない液体)。
  • 管理方法: 二つの液体が混ざり合うことなく、金属プレートを介して「サーバー側から回収した熱」だけを「施設側の水」へと受け流し、外へ排出します。これにより、サーバー室側に異物や錆が持ち込まれるリスクを遮断します。

2. 可変速ポンプによる「流量と圧力」の精密制御

 AIチップの温度は、計算負荷(処理量)によって秒単位で激しく上下します。

  • 管理方法: CDUはインバーター駆動の可変速ポンプを搭載しており、サーバー側の温度センサーと連動して液体の流量(L/min)を動的に増減させます。
  • 圧力の適正化: 圧力が強すぎると配管の接続部から漏水(リーク)するリスクが高まり、弱すぎるとチップまで液が届かずオーバーヒートします。CDUは配管内の圧力を常に一定の安全圏に保つよう制御しています。

3. 結露を絶対に起こさない「露点(ろてん)制御」

 冷たいジュースのコップの表面に水滴がつくように、サーバー室内の空気より冷たい液体をラックに流すと、基板が結露してショートします。これを防ぐのがCDUの最も重要な知能です。

  • 管理方法: サーバー室内の温度と湿度から、結露が始まる温度(露点)をリアルタイムに算出します。施設側から入ってくる冷水の量をバルブで調節し、二次ループの液温が常に室内の露点より常に数度高くなるよう自動でミックス・調整してラックへ送り出します。

4. マイクロチャネルの目詰まりを防ぐ「純度管理」

 AIチップを冷やす「コールドプレート」の内部には、熱吸収効率を極限まで高めるために髪の毛ほどの細さの溝(マイクロチャネル)が無数に掘られています。ここに僅かでもゴミや藻が詰まると冷却不能になります。

  • 管理方法: CDUの内部に高性能な高性能フィルター(通常は5〜50ミクロン級)を配置し、ループ内を循環する液体を常に濾過し続け、水質と透明度を維持します。

5. 万が一のための「漏水検知と冗長化」

 ミッションクリティカルなデータセンターにおいて、冷却の停止は許されません。

  • 管理方法: CDUの底部や配管周りには漏水検知ロープ(センサー)が張り巡らされており、微量な液漏れでも検知した瞬間にアラームを発し、該当するラインのバルブを自動遮断します。また、ポンプは「N+1」や「2N」と呼ばれるバックアップ(冗長)体制をとっており、片方のポンプが故障しても、もう片方が瞬時に出力を上げて冷却を維持します。

CDUは液冷システムの心臓部となる管理装置です。施設側とサーバー側の水路を熱交換器で分離し、AIの負荷に応じた流量・圧力の精密制御や、結露を防ぐ温度調整(露点制御)によって安全かつ効率的に液を分配します。

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