この記事で分かること

白川英樹氏の研究内容
電気を通すプラスチック(導電性高分子)を発見・開発し、2000年にノーベル化学賞を受賞した筑波大学名誉教授の白川英樹氏が、2026年8月24日に転移性肝腫瘍および原発不明がんのため、横浜市内の病院で亡くなりました。
1967年、東京工業大学(現・東京科学大学)助手時代に、通常は電気を通さないプラスチックである「ポリアセチレン」の薄膜化に成功。実験時の触媒濃度の誤りという偶然がきっかけで、金属光沢を持ち電気を通す性質を持つポリアセチレン膜が誕生しました。
アメリカのアラン・マクダイアミッド教授、アラン・ヒーガー教授との共同研究によって導電性高分子のメカニズムを解明し、2000年に3氏共同でノーベル化学賞を受賞しました。
受賞の理由は何か
白川英樹氏の2000年ノーベル化学賞受賞における授賞理由は、「導電性高分子(電気を通すプラスチック)の発見と開発(for the discovery and development of conductive polymers)」です。
米国の共同研究者であるアラン・マクダイアミッド(Alan G. MacDiarmid)教授、アラン・ヒーガー(Alan J. Heeger)教授との3名での共同受賞でした。
授賞理由となった主なポイント
従来の「常識」を覆した発見
「プラスチックは電気を通さない(絶縁体である)」というそれまでの科学界の固定観念を根底から覆し、金属のように電気を導く高分子(ポリアセチレンなど)が存在することを示しました。
導電化メカニズムの解明
ポリアセチレンに微量のハロゲンガス(ヨウ素や塩素など)を化学的に添加(ドーピング)することで、電気伝導率が数百万倍に跳ね上がる現象を実験的に立証し、その基礎理論を確立しました。
新分野「電子機能性高分子化学」の開拓
化学と物理学の境界領域に「導電性高分子」という全く新しい学術分野を切り拓き、その後の有機エレクトロニクス研究の基盤を築きました。

受賞理由は「導電性高分子(電気を通すプラスチック)の発見と開発」です。プラスチックは電気を通さないという常識を覆し、化学物質の添加で導電性を劇的に高める手法を確立して新分野を開拓しました。
なぜハロゲンガスで導電化出来るのか
ハロゲンガスをポリアセチレンなどの高分子に作用させると、高分子の分子鎖から電子が引き抜かれ、電子の「穴(ホール)」ができるために電気を通すようになります。
このプロセスは半導体技術と同じくドーピング(添加)と呼ばれます。
導電化のメカニズム
- 二重結合の「電子の海(π共役系)」
ポリアセチレンの分子構造は、単結合と二重結合が交互に並ぶ「π(パイ)共役系」を持っています。この構造内では、一部の電子(π電子)が特定の原子に固定されず、分子鎖全体を比較的自由に動ける状態になっています。しかし、これだけではまだ導電性は低いです。 - ハロゲンの強力な電子吸引
ヨウ素(I2)や臭素(Br2)などのハロゲン分子は、非常に強い電子吸引性(電子を欲しがる性質)を持っています。ポリアセチレンにハロゲンガスを吹きかけると、ハロゲンが高分子から電子を強奪します。 - 「ホール(正孔)」の発生と移動
電子を奪われた高分子の分子鎖には、プラスの電荷を帯びた空席(ホール)が生じます。電圧をかけると、近隣の電子がこの空席に順次移動していくため、結果としてプラスの電荷(ホール)が分子鎖に沿って高速で移動できるようになります。これが電流(正孔伝導)となります。
受容体(アクセプター)としての役割
ハロゲンのように電子を奪う物質を「p型ドーパン(アクセプター)」と呼びます。白川氏らは、本来は絶縁体だったポリアセチレンにヨウ素をドーピングすることで、電気伝導率を約1000万倍(金属並みの導電性)に跳ね上げることに成功しました。

ハロゲンガスの強力な電子を奪う性質により、高分子の分子鎖から電子が引き抜かれ、プラスの電荷を帯びた「電子の穴(ホール)」が生成されます。電圧をかけるとこのホールを介して電荷が移動し、電流が流れます。
導電性ポリマーはどんな分野で応用されているのか
導電性ポリマー(電気を通すプラスチック)は、「軽い」「柔らかい」「薄く加工しやすい」というプラスチック特有の特長と「電気を通す」金属の特長を両立しているため、身近なデジタル機器からエネルギー分野まで幅広く応用されています。
主な応用分野と用途
- スマートフォン・PC(コンデンサ・電極材料)
アルミニウム電解コンデンサの固体電解質として使われ、電子回路の小型・長寿命化や高性能化を実現しています。また、有機ELディスプレイ(OLED)の発光層や電極材料としても不可欠です。 - リチウムイオン二次電池・全固体電池(バインダー・集電体)
充放電時の電子移動をスムーズにする導電助剤や電極の保護層として利用され、バッテリーの急速充電や高容量化に貢献しています。 - タッチパネル・透明電極
液晶画面やタッチパネルに使われる透明で曲げられる導電膜として利用されています。従来の金属酸化物(ITO)に比べて柔軟性があるため、折りたたみスマホなどの次世代デバイスで期待されています。 - 太陽電池・エネルギー変換
「ペロブスカイト太陽電池」や「有機薄膜太陽電池」などの次世代太陽電池において、光によって発生した電荷を効率よく取り出す正孔輸送層(ホール輸送材料)として重要な役割を果たしています。 - 静電気防止材・電磁波シールド
半導体部品の製造ラインで使われる搬送トレーやフィルムの静電気除去、電子機器が発する電磁波ノイズを遮断するシールド材として広く活用されています。 - センサー・ヘルスケア
ガスセンサーや血糖値センサー、心電図を計測するウェアラブルデバイスの「電極シート」など、生体親和性が高く柔らかい素材としての利用が進んでいます。

スマホやPCのコンデンサ・有機ELディスプレイ、リチウムイオン電池の電極材料、タッチパネルの透明電極、ペロブスカイト太陽電池、半導体の静電気防止材など、電子機器やエネルギー分野で幅広く応用されています。

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