この記事で分かること

レアアースの代替技術:サマリウム、サコバ磁石
2026年上半期(1〜6月)における日本のレアアース(希土類)輸入量は、中国による対日輸出規制導入前(2024年同期)の約2割にまで大きく落ち込んでいることが判明しました。
EV(電気自動車)の駆動用モーターや半導体製造装置・材料に不可欠なレアアースの調達急減に対し、ベトナムや米国など中国以外からの代替調達や内製化が進んでおらず、サプライチェーンへの強い懸念が広まっています。
第三国ルートの本格化など調達先の多角化を進めてるとともに、代替技術の実用化が強く望まれています。
前回はイットリウムの用途の一つである耐熱コーティングに関する記事でしたが、今回はサマリウムに関する記事となります。
サマリウムの用途は何か
サマリウム(Sm)は高い耐熱磁性や優れた中性子吸収能力を持つレアアース元素で、産業・医療・化学の最前線で活用されています。
サマリウムコバルト磁石(サコバ磁石)
ネオジム磁石よりも耐熱性・耐食性に優れる強力な永久磁石です。300℃を超える高温環境でも磁力を保てるため、航空宇宙部品、モータ、精密センサに使用されます。
原子炉の中性子吸収材
特定の同位体(サマリウム149)が中性子を強く吸収する性質を持ち、原子炉の制御棒や安全装置の遮蔽材として利用されます。
医療(ガン治療・骨痛緩和)
放射性同位体のサマリウム153は、がんの骨転移に伴う痛みを和らげる放射性医薬品(塩化サマリウム注射液)として臨床応用されています。
有機合成化学の還元剤
二ヨウ化サマリウム(SmI2)は、複雑な有機化合物をピンポイントで還元できる試薬(Kagan還元など)として医薬品開発などで重要視されています。
光学ガラス・触媒
赤外線を効果的に吸収する特殊ガラスの添加剤や、化学反応を促進する触媒としても役立っています。

サマリウムは耐熱性に優れるサマリウムコバルト磁石(航空宇宙やモーター用)のほか、原子炉の中性子吸収材、がんの骨転移痛を和らげる放射性医薬品、有機合成の還元剤、特殊光学ガラスなどに使われています。
サコバ磁石のサマリウムフリー技術にはどのようなものがあるのか
サマリウムコバルト(サコバ)磁石は、300℃前後の高温環境でも磁力を保てる優れた耐熱性を持っていますが、サマリウム(レアアース)の資源リスクや高コストを回避するため、サマリウムを使わずに同様の高温耐熱性を実現する「サマリウムフリー技術(代替磁石・技術)」の研究開発が進められています。
1. 希土類完全フリー(レアアースフリー)の高温磁石技術
サマリウムだけでなく、レアアース全般を使用せず、豊富で安価な元素のみで高温耐熱磁石を作る技術です。
- L10構造 FeNi(テトラテーナイト)磁石
- 鉄(Fe)とニッケル(Ni)をナノレベルで規則的に配列させた磁石です。もともと隕石から発見された構造ですが、人工的な短時間合成技術が進んでいます。サマリウム・コバルトを使わずに優れた耐熱性と磁力を両立できる有力候補です。
- Mn-Bi(マンガン・ビスマス)磁石
- 一般的な磁石とは異なり、「温度が上がると保磁力(磁力の減磁しにくさ)が高くなる」という非常に珍しい特性を持ちます。サコバ磁石が主に使用される100〜200℃以上の高温域で高いパフォーマンスを発揮します。
- Fe16N2(鉄窒化物)磁石
- 鉄と窒素というごく身近な元素で高磁束密度を実現する技術で、資源リスクが一切ない次世代磁石として研究が進んでいます。
2. ネオジム磁石の高耐熱化技術(サマリウムからの置換)
ネオジム磁石は磁力が極めて強力ですが、熱に弱い(100〜150℃程度で減磁する)という弱点がありました。これを技術革新で克服し、サコバ磁石の領域(サマリウムフリー)へ置き換えるアプローチです。
- 結晶粒微細化・組織制御技術
- 磁石の結晶構造をナノレベルで極小化・最適化することで、熱による減磁を防ぎ、200℃以上の高温下でも動作可能な高耐熱ネオジム磁石を実現しています。これにより、自動車や産業モーター分野でサコバ磁石からサマリウムフリーなネオジム磁石への移行が進んでいます。
3. セリウム(Ce)など安価な希土類への代替技術
サマリウムや重希土類(ジスプロシウムなど)の供給リスクを避けるため、希土類の中でも比較的安価で資源量が豊富なセリウムを活用する技術です。
- Ce-Fe-B系磁石
- サマリウムを使わずに、セリウム主体の組織制御によって耐熱性とコストのバランスを取る磁石技術です。
現状と今後の展望
現在、自動車駆動用や一般的な産業用モーター(〜200℃程度)の領域では、高耐熱化されたネオジム磁石への置き換え(サマリウムフリー化)が進んでいます。
一方で、航空宇宙エンジン周辺や発電設備など300℃を超える極限環境においては、依然としてサコバ磁石が不可欠な場面も残っており、テトラテーナイト(FeNi)やMn-Bi磁石といったレアアースフリー技術の実用化が期待されています。

サコバ磁石のサマリウムフリー技術には、FeNi(テトラテーナイト)やMn-Bi等のレアアースフリー磁石開発、微細化技術で耐熱性を高めたネオジム磁石による代替、安価なセリウムへの置換などがあります
テトラテーナイトはなぜ耐熱性が高いのか
テトラテーナイトが高耐熱性(高温でも磁力を失いにくい性質)を持つ理由は、主に「L10構造による巨大な結晶磁気異方性」と「高いキュリー温度」の2点にあります。
L10構造が生み出す強い保磁力(結晶磁気異方性)
テトラテーナイトは、鉄(Fe)とニッケル(Ni)の原子がナノレベルで1層ずつ交互に規則正しく並んだ「L10構造(正方晶構造)」をとっています。
この異方的な結晶構造により、磁化の向きが特定の方向(c軸方向)に強力に固定される結晶磁気異方性が発生します。熱エネルギーによって磁気の向きが熱運動で乱されようとしても、強いエネルギー障壁によって向きが保たれるため、高温下でも磁力が消えにくい(高い保磁力を保つ)性質を持ちます。
非常に高いキュリー温度(約550℃)
磁石が強磁性(磁力)を失う限界温度である「キュリー温度」が約550℃〜580℃と非常に高いため、熱による磁力の根幹の低下が起こりにくい特性があります。
一般的なネオジム磁石のキュリー温度(約310℃)と比べてもはるかに余裕があり、高温環境でも磁性そのものが安定しています。
このように、「熱で磁性を失わない高い限界温度」と「熱で磁性方向が乱れない構造的強さ」を兼ね備えているため、サコバ磁石と同等以上の高耐熱性を発揮できます。

鉄とニッケルが規則正しく並ぶL10構造により巨大な結晶磁気異方性が生じ、熱で磁気方向が乱されにくいためです。また磁力を失う限界のキュリー温度が約550℃と高いことも耐熱性を支えています。


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