この記事で分かること

住友化学の超低屈折率透明薄膜形成用塗工液
住友化学は、次世代光学デバイス向けに世界最高水準の超低屈折率(1.06)を実現する透明薄膜形成用塗工液の開発に成功したと発表しました。
CMOSイメージセンサーのマイクロレンズ周辺などの光導波路や反射防止膜に低屈折率材料を用いることで、光の閉じ込め効果や透過効率を高め、斜め入射光のロスやノイズを低減し、感度・画質向上が可能になるなどの応用が期待されます。
透明薄膜形成用塗工液とは何か
透明薄膜形成用塗工液とは、基板の表面に液体を塗り、乾燥・加熱などを行うことで、光を通す極めて薄い膜(数ナノメートル~数マイクロメートル単位の固形膜)を作るための液体材料です。
主に「溶媒(液体にする液成分)」「バインダー(膜の骨格になる樹脂や無機成分)」「機能性添加剤(ナノ粒子や屈折率調整剤)」で構成されています。
なぜ「液体(塗工液)」で膜を作るのか?
半導体やディスプレイの薄膜形成には、真空装置で気体を付着させる方法(蒸着やCVD)もありますが、液体を塗って膜を作る「ウェットプロセス」には大きなメリットがあります。
- 微細な凹凸への埋め込み性: 液体のため、半導体チップ表面の微細なスキマや溝にもスッと入り込み、空洞を作らず均一に埋め込めます。
- 光学特性の精密な調整: 液体の調合段階でナノ粒子や特殊な分子構造を混ぜ込むことで、屈折率や透過率を自在にコントロールできます。
- 高い生産性: 真空環境を必要としないため、大面積への塗布や高速・低コストな製造ラインに組み込めます。
薄膜ができる仕組み
- 塗布: 基板を高速回転させながら液を垂らす「スピンコーティング」などで、遠心力を使って数マイクロメートル以下の均一な液膜を作ります。
- 乾燥: 溶剤を蒸発させて液体から半固形状態にします。
- 硬化(加熱・UV照射): 熱や光を与えることで成分同士を結びつけ(架橋反応)、ガラスやプラスチックのように硬く透明な固体の膜に変性させます。
主な用途
成分を変えることで、さまざまな機能を持った透明薄膜に仕上げることができます。
| 分野 | 主な用途・機能 |
| 光学・イメージセンサー | レンズやセンサー内の反射防止膜、光を集める光導波路(高屈折率・低屈折率の制御) |
| ディスプレイ | 液晶・有機ELの反射防止(アンチリフレクション)、傷防止ハードコート |
| 半導体・光電融合 | チップ内の微細な構造を保護する平坦化膜、光信号を通すクラッド材 |

基板表面に塗布し、乾燥や加熱等で光を通す極薄の膜を形成する液体材料のこと。スピンコート等で均一に塗布でき、イメージセンサーの集光部やディスプレイの反射防止膜など、光学デバイスの機能膜として使われます。
なぜイメージセンサで低屈折率が求められるのか
イメージセンサーで低屈折率材料が求められる最大の理由は、高屈折率材料と組み合わせることで「屈折率の差(Δ n)を極大化し、光の閉じ込め効果と透過率を極限まで高めるため」です。
高屈折率材料が「光を集めて進める(コア)」役割を担うのに対し、低屈折率材料は「光を逃がさない壁(クラッド)」や「光を跳ね返さない反射防止層」の役割を果たします。
主な3つの理由
1. 全反射の効率を高め、光漏れ(クロストーク)を防ぐ
センサー内の光導波路(光を通す管)では、中心(コア)を高屈折率、外周(クラッド)を低屈折率にすることで光を全反射させて進めます。
外周の屈折率が低ければ低いほど屈折率差(Δ n)が大きくなり、全反射の限界角度(臨界角)が広がるため、斜めから入ってきた光も外に漏らさず受光素子へ導くことができます。
2. 高屈折率化の「技術的限界」を突破できる
光の閉じ込め力を上げるには Δ n(屈折率差)を大きくする必要がありますが、高屈折率材料の屈折率をこれ以上高める(例: 2.0からさらに引き上げる)ことには材料物理的な制約があります。
一方で、外周材の屈折率を従来の 1.4 程度から空気に近い 1.06 まで落とすことができれば、高屈折率側の限界に頼らずに Δ n を一気に劇的拡大できます。
3. 空気の屈折率(1.0)に近づけて表面反射を最小化する
光が空気(屈折率 1.0)からセンサー表面に入射する際、屈折率のギャップが大きいほど表面で光が跳ね返り(反射ロス)、写真が暗くなったりフレアが発生したりします。
センサーの最表面に空気に極めて近い超低屈折率膜を配置することで、空気からの光をスムーズに引き込み、透過率を大幅に向上させられます。
- 高屈折率材料: 光を強力に曲げ、集める(光の通り道)
- 低屈折率材料: 光を壁で跳ね返し、反射ロスを消す(光の閉じ込め・透過)
この2つを「ペア」で使うことで、画素の超微細化が進む現代のイメージセンサーの性能限界を更新することができます。

高屈折率材料との屈折率差(Δn)を広げて全反射の効率を高め、隣の画素への光漏れを防ぎ光を閉じ込めるためです。また、空気とのギャップを減らして表面反射を抑え、光の透過率を向上させる効果もあります。
どのように低屈折率にしたのか
住友化学などが超低屈折率を実現した最大のポイントは、膜の内部に「ナノレベルの微細な空気の穴(細孔/ポア)」を隙間なく大量に作ったことです。
自然界で最も屈折率が低い物質は「空気(屈折率 1.00)」です。どんなに優れた樹脂やガラス材料でも単体では1.4程度が限界ですが、膜の中に大量の空気を取り込む(多孔質化する)ことで、固形膜でありながら1.06という空気に極めて近い数値を実現しています。
塗工液から「空気の穴」を作る主な仕組み
液体(塗工液)を塗って乾燥させるプロセスの中で、どうやってナノサイズの穴を作るのかには主に以下の手法が使われます。
- 熱分解性造孔剤(ポロゲン)技術
- 塗工液の中に「膜の骨格になる成分(シリカやポリマー)」と「加熱で気化して消える有機成分(ポロゲン)」をあらかじめ混ぜておきます。
- 基板に塗ったあとで加熱処理を行うと、ポロゲンだけが熱分解して気体となって抜け出し、後にナノサイズの空洞(空気の穴)が残る仕組みです。
- 中空ナノ粒子の活用
- 中身が空洞になっている超微細な球状シリカ粒子(中空シリカ)を塗工液に混ぜ込み、敷き詰めることで膜の中に空気を閉じ込めます。
技術的に何が一番難しいのか?
単に膜をスカスカにして穴を空けるだけなら簡単ですが、半導体プロセスで使える品質にするには2つの大きな壁がありました。
- 1. 光の散乱(濁り)を防ぐ「透明性の維持」
- 穴のサイズが光の波長(400~700nm)に近くなると、光が乱反射して膜が白く濁ってしまいます(ヘイズの発生)。住友化学の技術では、穴のサイズを数ナノメートル以下に均一制御しているため、光が穴を認識できずにそのまま通り抜け、ヘイズ<0.1% という極めて高い透明度を維持できます。
- 2. スカスカな膜の「強度の維持」
- 穴だらけの膜は本来スポンジのように脆く、半導体製造の加熱(300℃)や洗浄工程で崩れてしまいます。骨格部分となる樹脂やシリカの結合(架橋構造)を緻密に設計することで、「中身は空気だらけなのに熱や衝撃に強い」という矛盾する耐久性を両立させています。

膜内部にナノサイズの微細な空気の穴(ポア)を均一に形成し、屈折率1.0の空気を取り込んだため。穴のサイズを厳密制御することで、高い透明性や耐熱性を維持しながら1.06という超低屈折率を実現しています。

コメント