この記事で分かること

半導体パッケージ基板:ABFの特性
パッケージ基板とは、半導体チップ(ダイ)を載せ、マザーボードなどのメイン基板に接続するための中継基板のことです。半導体チップは非常に微細な端子を持ち、そのまま一般的なプリント基板(PCB)に直接実装することは極めて困難です。
そこでチップとマザーボードの間に介在し、電気信号を橋渡しする役割を持つのがパッケージ基板です。
従来の半導体の微細化による性能向上が限界に近づく中、半導体の先端パッケージング技術であるビルドアップ多層構造による高密度・微細配線が求められ、半導体性能向上の新たな競争軸となっています。
前回はビルドアップ層に使われるABFに関する記事でしたが、今回はABFの特性に関する記事となります。
なぜ熱膨張率が低いのか
ABFの熱膨張率(CTE)が極めて低い最大の理由は、熱でほとんど膨張しない「無機フィラー(シリカ微粒子)」が樹脂の中に超高密度かつ均一に敷き詰められているためです。
本来、樹脂(プラスチック)は熱を加えると大きく膨張する性質がありますが、ABFは以下の化学・プロセス技術によってその膨張を抑え込んでいます。
1. 低熱膨張な「シリカ(二酸化ケイ素)」の超高密度配合
エポキシ樹脂などの有機材料は熱膨張率が高い(約50〜100 ppm/℃)のに対し、ガラスの原料でもあるシリカ(無機物)は熱膨張率が極めて低い(約0.5 ppm/℃)性質を持っています。
ABFはこのシリカ微粒子を重量比で70〜80%以上という非常に高い割合で配合しています。材料の大半を「熱で伸びない石(シリカ)」にすることで、全体の熱膨張を劇的に下げています。
2. フィラーを凝集させない「ナノ分散技術」
通常、微粒子を大量に入れるとダマ(凝集)になって混ざらないか、粘度が高すぎてフィルム化できなくなります。
味の素はアミノ酸研究で培った界面化学技術を活かし、シリカ微粒子の表面を特殊処理することで、樹脂の中にダマなくナノレベルで均一に分散させています。
均一に広がることで、シリカ同士が樹脂全体に「伸びを抑える骨格(ジャングルジムのような構造)」を形成します。
3. 樹脂とフィラーを引き留める「強固な界面密着」
樹脂が熱で膨張しようとしたとき、シリカとの接合面(界面)が剥がれてしまうと膨張を抑えられません。
ABFでは特殊なカップリング剤等を用いて、「樹脂」と「シリカ」の境界を強い化学結合で一体化させています。これにより、樹脂が膨張しようとする動きをシリカが強固に引き留めます。
4. 高密度な「三次元網目構造(高架橋)」
アミノ酸誘導体などの硬化剤とエポキシ樹脂が反応してできる分子構造自体も、隙間のない高密度な網目(架橋構造)を形成しています。
ポリマー鎖(分子の鎖)の熱運動自体が物理的に拘束されるため、熱による変形が起きにくくなっています。
なぜ熱膨張率を下げなければならないのか
上に載せるシリコンチップの熱膨張率は約 3〜4 ppm/℃と非常に低いため、基板側の膨張率が大きいと、加熱・冷却のたびに「反り」や「はんだ接合部の破損・断線」が起きてしまいます。ABFは熱膨張率をシリコンチップやガラスに近づけることで、半導体の破壊を防いでいます。

熱で膨張しないシリカ(無機物)を70%以上高密度配合しているためです。独自技術でシリカを均一分散させ、樹脂と強固に一体化させることで、樹脂全体の熱による膨張を物理的に強く抑え込んでいます。
なぜ絶縁特性に優れるのか
ABFが極めて高い電気絶縁特性を持つ理由は、材料に含まれる「化学構造」「無機物の配合技術」「製造プロセス」の3つの側面から電気の通り道を徹底的に遮断しているためです。
1. アミノ酸技術による「高密度な三次元網目構造」
ABFの主成分であるエポキシ樹脂は、硬化剤(アミノ酸誘導体等)と反応することで分子同士が強固に結びつき、隙間のない高密度な三次元網目構造(高架橋構造)を作ります。
分子の隙間が非常に狭いため、微小な電気を帯びた粒子(電子やイオン)が材料内部を移動できず、高い絶縁性を発揮します。
2. 絶縁体である「シリカ(無機フィラー)」の高密度配合
ABFの中には、極めて高い絶縁性を持つシリカ(二酸化ケイ素)などの無機微粒子が大量に含まれています。
味の素の独自技術により、このシリカ微粒子が樹脂の中でダマにならずナノレベルで均一に分散しているため、電気の漏れ(リーク電流)を物理的に遮断するバリアとなっています。
3. 「ボイド(気泡)」を作らない密着・完全被覆
絶縁破壊(ショート)の大きな原因となるのが、材料内部に残る微小な気泡(ボイド)です。空気は電気を通しやすいため、気泡があるとそこから放電が起きてしまいます。
ABFは加熱すると一時的に適度に溶けて微細な凹凸へ隙間なく流れ込み、気泡を完全に追い出した状態で硬化するため、弱点となる箇所(欠陥)が生まれません。
4. 不純物(イオン性物質)の極限排除
樹脂の中に金属イオンや塩素などの不純物が混ざっていると、それが電気の抜け道(導電路)になってしまいます。
ABFは半導体専用の超高純度材料として製造・精製されており、電気を運んでしまう不純物が極限まで取り除かれています。
高周波(AI・5G)時代における絶縁の進化
単に「電気を通さない」だけでなく、超高速で信号をやり取りする現代のCPU/GPUでは、電気信号が熱として逃げてしまう現象(誘電損失)を防ぐ「低誘電率・低誘電正接(Low Dk / Low Df)」の分子設計がなされていることも、先進的なABFの大きな特長です。

アミノ酸技術による高密度な三次元分子構造と、絶縁体であるシリカの均一配合が理由です。微細な凹凸へ隙間なく密着して気泡を防ぎ、不純物も極限排除することで漏電や絶縁破壊を物理・化学的に防いでいます。
レーザー加工性に優れる理由は何か
ABFがレーザー加工性(CO2レーザーやUVレーザーで微細かつ綺麗な穴/ビアを開けられる特性)に優れる理由は、主に以下の4つの技術的要素によるものです。
1. レーザー波長に合わせた高いエネルギー吸収設計
エポキシ樹脂や添加剤の分子構造が、加工に使われるレーザー(CO2レーザーやUVレーザー等)の波長光を効率よく吸収するように設計されています。
照射された光エネルギーが瞬時に熱に変換され、樹脂が綺麗に蒸気化(アブレーション)するため、スピーディに穿孔できます。
2. シリカ(無機フィラー)の「超微細化」と「均一分散」
樹脂の中に含まれるシリカ微粒子が非常に小さく、かつダマにならず均一に散らばっています。
もしフィラーが大きいと、樹脂だけが削れて固いシリカが削り残され、穴の壁面が荒れたり底にカスが残ったりします。ABFは樹脂とフィラーが同時に均質に削れるため、穴の壁面が滑らかで綺麗な形状になります。
3. 熱ダメージ(焦げ・溶け)を抑えるシャープな熱分解挙動
レーザーの熱が穴の周辺に無駄に伝わらないよう、熱伝導と分解温度が緻密に制御されています。
照射された部分だけがピンポイントで分解・蒸散するため、穴の周囲の樹脂がだれて溶けたり、焦げ(熱変性)が発生したりするのを防ぎます。
4. 膜厚の均一性と気泡(ボイド)フリー構造
あらかじめフィルム状に成膜されているため、厚みのムラや内部の気泡(ボイド)が存在しません。
エネルギーの伝わり方にブレが生じないため、径が10〜20 μmといった極小のビア(層間接続穴)を、基板全体で均一かつ大量に高速加工することができます。

レーザー光を効率よく吸収する分子設計と、微細シリカの均一分散が理由です。照射部のみが速やかに分解・蒸散し周囲の焦げや削り残しを防ぐため、極小の穴を高速かつ滑らかに形成できます。


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