この記事で分かること

双日のマレーシアからのイットリウム調達
双日は、半導体製造装置などに使用されるレアアース(希土類)の一種であるイットリウムを、2027年以降にマレーシアから調達する方針を明らかにしました。
中国によるレアアースの輸出規制強化や、一時的に対日輸出が停止・縮小するリスクへの懸念が高まっています。半導体やハイテク産業におけるサプライチェーンの安定化に向け、調達先の多角化(チャイナ・プラス・ワン)の推進が急務となっていました。
長年提携関係にあるオーストラリアのレアアース大手ライナス(Lynas Rare Earths)が、マレーシアにある現地精錬工場の拡張を進めていることから、供給体制のめどが立ちました。
イットリウムはどの国に多く埋蔵されているのか
公式の埋蔵量は発表されていませんが、米地質調査所(USGS)などのデータによると、主要な埋蔵国・産出国は以下の通りと予測されています。
イットリウムが多く埋蔵・存在する主な国
- 中国
- 概要: 世界最大のレアアース埋蔵国(約4,400万トン、全体の約4〜5割)であり、イットリウムの生産・供給では世界シェアの圧倒的大部分を占めています。
- 特徴: 特に福建省、広東省、江西省などに分布する「イオン吸着型鉱床(重レアアースを多く含む土壌)」にイットリウムが豊富に含まれています。
- ミャンマー(ビルマ)
- 概要: イットリウムを含む重レアアースの主要産出国です。
- 特徴: 中国南部と同様のイオン吸着型鉱床が広がっており、中国企業等と連携した採掘が盛んに行われています。
- ブラジル
- 概要: 世界第2位規模のレアアース埋蔵量(約1,100万トン)を誇ります。
- 特徴: モナザイト(Monazite)やゼノタイム(Xenotime)などの希土類鉱石を多く含み、イットリウムの潜在的資源量が極めて大きい国の一つです。
- オーストラリア
- 概要: レアアース埋蔵量は約630万トン規模(マウント・ウェルド鉱山など)です。
- 特徴: 主に軽レアアースが中心ですが、副産物や精錬プロセスを通じてイットリウムの抽出が可能です。ライナス社(Lynas)などが開発を進めています。
- ロシア / ベトナム
- ベトナム: 約350万トンのレアアース埋蔵量があり、未開発のイオン吸着型鉱床・重レアアース資源が存在します。
- ロシア: 約380万トンのレアアース埋蔵量があり、アパタイトやウラン鉱石などの副産物としてイットリウムが含まれています。
- インド / アメリカ
- インド: 海岸の砂鉱床(モナザイト砂)にイットリウムが含まれます。
- アメリカ: カリフォルニア州のマウンテンパス鉱山などにレアアース鉱床(バストネサイト)が存在します。
イットリウム特有の埋蔵・供給事情
- ゼノタイムとイオン吸着鉱床が鍵
- イットリウムは、重レアアース(Y, Dy, Tbなど)に分類され、主にゼノタイム(燐イットリウム鉱)やイオン吸着型粘土鉱床に濃縮されて存在します。
- 実質的な生産・精錬の「中国一極集中」
- 埋蔵自体は世界各国に分散しているものの、環境負荷の高い精錬・分離工程のノウハウと設備が中国に集中しているため、現在流通しているイットリウム化合物の大部分は中国由来となっています。

イットリウム単独の埋蔵量は公表されていませんが、これを含む重レアアース(イオン吸着型鉱床等)は中国(江西省・広東省等)に突出して多く存在します。次いでミャンマー、ブラジル、オーストラリア、ベトナムなどのレアアース主要国に多く埋蔵・点在しています。
イットリウムの用途は何か
イットリウム(元素記号:Y)は、原子番号39の遷移元素・希土類元素(重レアアース)です。プラズマ耐性、耐熱性、光学特性、超伝導性などに優れており、先端産業の基幹材料として幅広く活用されています。
1. 半導体・液晶製造装置(耐プラズマ材料)
- イットリア(酸化イットリウム:Y2O3)
- プラズマに対するエッチング耐性が非常に高く、半導体製造装置のチェンバー内壁やフォーカスリングなどの保護コーティング・セラミックス部材として極めて重要です。
2. 構造用セラミックス(強靱化剤)
- YSZ(イットリア安定化ジルコニア)
- ジルコニア(ZrO2)にY2O3を数mol%添加することで、常温での結晶構造破壊を防ぐ安定化ジルコニアになります。
- 高い靭性と耐熱性を持つため、セラミックス刃物、歯科用インプラント、SOFC(固体酸化物形燃料電池)の電解質膜、酸素センサーなどに使われます。
3. 光学・電子・蛍光体材料
- YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット:Y3Al5O12)
- YAGレーザー結晶の母材として、医療用メス、金属加工機、レーザーレーダー(LiDAR)などに利用されます。
- LED・蛍光体(YAG:Ce)
- 青色LEDと組み合わせることで黄色発光を生み出し、白色LEDを実現するための重要材料です。
4. 高温超伝導材料
- YBCO(イットリウム系超伝導体:YBa2Cu3O7-x)
- 液体窒素温度(77K / -196℃)以上で超伝導状態になる高温超伝導体(YBCO)の主要成分として、強磁場用超伝導マグネットや線材の研究・実用化が進んでいます。
5. その他の用途
- 高機能ガラス・光ファイバー:屈折率の制御や低分散化のための添加剤。
- 耐熱合金の添加剤:高温酸化を防ぐための微量添加金属(クロムやアルミニウム系合金など)。

プラズマ耐性の高い酸化イットリウム(Y2O3)として半導体製造装置の保護部材に使われるほか、ジルコニアの強靭化(YSZ)、白色LED用蛍光体(YAG)、高温超伝導体(YBCO)の原料など幅広く活用されます。
なぜ脱中国を進めているのか
日本企業や政府がレアアース(特にイットリウムなどの重レアアース)の「脱中国(サプライチェーンの多角化・デリスキング)」を急いで進めている主な理由は以下の通りです。
1. 地政学リスクと「資源の武器化(経済的威圧)」への対策
- 輸出規制による影響:中国は軍民両用品目(デュアルユース)の管理強化などを理由に、レアアースやその関連材料の輸出手続きを厳格化したり、輸出管理対象を拡大したりしています。
- 過去の苦い経験(2010年等):2010年の尖閣諸島沖での漁船衝突事件時にも中国からのレアアース輸出が実質停止し、日本の製造業が打撃を受けました。同様の供給リスクに再び備える必要があります。
2. 精錬・供給プロセスにおける極端な一極集中
- 精錬拠点の独占:レアアースの採掘自体は豪州や南米などにも存在しますが、環境負荷が高く高度な技術を要する「精錬・分離工程」は世界シェアの大部分を中国が握っています。
- ボトルネックの解消:いくら海外の鉱山から原鉱石を掘り出しても、精錬を中国に頼っている限り真の供給安定化にはなりません。そのため、マレーシアなど第三国での精錬ライン拡充(ライナス社等)に合わせた調達ルートの確保を進めています。
3. 半導体・先端産業の経済安全保障
- 主要用途での不可欠性:イットリウムは、半導体製造装置のプラズマ耐性部品や次世代ディスプレイ、EV向け電子部品などに不可欠な高機能材料です。
- 製造停止リスクの回避:わずかな素材の供給停止が、自動車や半導体工場全体の稼働ストップに直結するため、重要物資としての安全網構築(デリスキング)が進められています。
完全に中国と無縁になる(デカップリング)ことを目指すのではなく、万一の供給断絶が生じた場合でも国内の基幹産業が止まらないよう、オーストラリアや東南アジア(マレーシア・ベトナムなど)をはじめとするフレンドショアリング(友好国間での供給網構築)と多角化を推進しています。

中国は精錬工程の大部分を占め、輸出規制や地政学リスクによる供給停止が懸念されるためです。特にイットリウムは半導体製造等に不可欠なため、リスク分散(デリスキング)として友好国との供給網構築が進んでいます。


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