BEAM Technologies

この記事で分かること

1. BEAM Technologiesの概要

理化学研究所発のディープテック企業です。人体に無害で強力な「遠紫外線LED」の開発や、宇宙の微小重力環境を活用した次世代半導体の結晶成長に取り組み、医療や環境、水産養殖DXの課題解決を目指しています。

2. 窒化アルミニウムガリウムが遠紫外線を出せる理由

大きなバンドギャップを持つ窒化アルミニウムの配合比率を高め、材料全体のエネルギーギャップを拡大させているためです。これにより、発光時に放出される光の波長が非常に短くなり、遠紫外線を出力できます。

3. 遠紫外線が人体に無害で殺菌効果がある理由

微小なウイルスの遺伝子を破壊する一方、人間の皮膚の角質層や目の表面で光が完全に吸収されるためです。生きた細胞まで物理的に届かないため、有人空間でも使える高い殺菌力と安全性を両立しています。

BEAM Technologies

 レゾナックは理研発スタートアップのBEAM Technologies、および宇宙ベンチャーの日本低軌道社中らと、地球低軌道(LEO)における宇宙半導体製造の実現に向けた新たな覚書(MOU)を締結しました。

 今回の連携は「オールジャパンの体制で、ポストISS(国際宇宙ステーション)時代の宇宙製造プラットフォームを構築する」という、さらに一歩踏み込んだ国家規模のプロジェクトです。

 これまでの宇宙実験は「実験室で少量のサンプルを作る」レベルでしたが、この連携の狙いは「商業ベースの製造ラインを宇宙に確保することとされていおり、地上での結晶成長が極めて難しいとされる次世代化合物半導体がターゲットとされています。

 前回は化合物半導体やなぜ宇宙での製造を行うのかに関する記事でしたが、今回は理研発スタートアップのBEAM Technologiesはどんな企業に関する記事となります。

BEAM Technologiesはどんな企業なのか

 株式会社BEAM Technologies(ビームテクノロジーズ)は、2022年3月に設立された理化学研究所(理研)発のディープテック・スタートアップです。

 、「最先端の光半導体技術(Far-UVC LED)」と「宇宙空間での半導体製造」を掛け合わせ、地球上の医療・環境・一次産業の課題解決を目指す先進的な企業です。

窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)による「Far-UVC LED」

 理研の持つ光半導体技術をベースに、波長200〜230nmの「遠紫外線(Far-UVC)」を高出力(1mW)で照射できるLEDチップを設計・開発しています。

  • 高い安全性と殺菌力の両立: 従来の紫外線(UV-C)とは異なり、人間の皮膚や目には無害でありながら、ウイルスや細菌に対しては強力な不活化・殺菌効果を持ちます。有人空間での常時除菌が可能です。
  • 圧倒的な低コスト化: 安価なサファイア基板を採用し、チップを極小化することで、既存のデバイスへ容易に組み込めるコストパフォーマンスを実現しています。

[宇宙製造] 軌道上での結晶成長プラットフォーム

 同社の最もユニークな挑戦の一つが、地球低軌道(LEO)の微小重力環境を活用した半導体材料の製造です。

  • 地上での化合物半導体(GaNやAlNなど)の結晶成長では、重力による熱対流や不純物の混入が避けられず、品質に限界(物理的限界)がありました。
  • 微小重力下の宇宙空間で結晶成長(エピタキシャル成長)を行うことで、対流を排除した「原子レベルで完璧な」高品質半導体結晶の製造を目指しています。

主な事業領域(BEAMの由来)

 社名の「BEAM」は、光のビームという意味に加え、同社がターゲットとする以下の4つのドメインの頭文字に由来しています。

領域具体的なアプローチ(一例)
Biology(医療・ヘルスケア)有人空間における安全な感染症対策、医療・公共施設での空間除菌デバイスへの組み込み。
Environment(環境)家電や照明、携帯端末などのメーカーに対する極小LEDチップのOEM提供、空気質の改善。
Agri & Aquaculture(農業・水産養殖)「アクアメディカル構想」:IoTセンサーによるデータ解析とFar-UVCを組み合わせたエビなどの養殖DX。病原体を殺菌し、疾病を未然に防ぐ予防医療的アプローチを中南米(エクアドル)や東南アジアで展開。

3. ビジネスモデル

 デバイスの売り切りにとどまらない、多層的な収益構造を構築しています。

  1. デバイス販売(フロー収益): LEDチップやモジュールのOEMおよび直販。
  2. システムパッケージ販売(フロー収益): 農業・水産養殖の現場に最適化された照射・センサーユニットの提供。
  3. リカーリングサービス(ストック収益): IoTを用いた遠隔モニタリング、AIデータ分析、光源の定期メンテナンスを月額課金型で提供。

4. 最近の動向(2026年のトピックス)

 極めて高い技術的ポテンシャルから、直近でも大きな資金調達と業界のアライアンスを発表し、注目を集めています。

  • 2.2億円の資金調達(2026年6月): シードラウンドにおいて第三者割当増資を実施。「微小重力を活用した半導体製造プラットフォーム」の構築に向け、開発を加速させています。
  • 大手素材メーカー等とのMOU締結: 半導体材料大手のレゾナックや、商用物資補給船開発を進める日本低軌道社中などと、地球低軌道における半導体製造に関する基本合意書(MOU)を締結。宇宙での次世代化合物半導体量産に向けたエコシステム構築に乗り出しています。

 理研のアカデミア発の確かな技術をベースに、グローバルサウスでの一次産業DXから、最先端の宇宙製造(Space Manufacturing)までをターゲットに見据える、日本のディープテックシーンにおいて非常に尖った1社です。

理化学研究所発のディープテック企業です。人体に無害で強力な「遠紫外線LED」の開発や、宇宙の微小重力環境を活用した次世代半導体の結晶成長に取り組んでおり、医療や環境、水産養殖DXの課題解決を目指しています。

窒化アルミニウムガリウムはなぜ遠紫外線を出力できるのか

 窒化アルミニウムガリウムが遠紫外線(Far-UVC:200〜230nm)を出力できる理由は、「バンドギャップエンジニアリング」によって、材料のエネルギーギャップを極めて大きい状態に設計できるからです。

1. 発光波長とバンドギャップの関係

半導体LEDが発光する際、光の波長 λ(nm)は、電子が遷移する際のエネルギー差である「バンドギャップエネルギー(Eg)」に反比例します。

 バンドギャップ(Eg)が大きければ大きいほど、放出される光の波長は短く(エネルギーが高く)なります。 可視光よりも波長が短い「遠紫外線」を出すためには、非常に大きなバンドギャップを持つ材料が必要です。

2. 2つの素材の「混晶」による波長制御

 窒化アルミニウムガリウムは、以下の2つの窒化物半導体を混ぜ合わせた(混晶にした)材料です。

  • 窒化ガリウム(GaN): バンドギャップ約3.4 eV(発光波長:約365nm = 近紫外線)
  • 窒化アルミニウム(AlN): バンドギャップ約6.2 eV(発光波長:約200nm = 遠紫外線)

 この2つの配合比率(アルミニウムの組成比:x )を変化させることで、バンドギャップを3.4 eVから6.2 eVの間で自由にコントロールできます。

 遠紫外線(200〜230nm)を出力するためには、アルミニウムの比率を極限まで高める(一般に x = 0.7以上、つまりアルミニウム組成を70%以上にする)ことで、意図的に大きなエネルギーギャップを作り出しています。

3. なぜ製品化(高出力化)が難しいのか?

 理論上はアルミニウムの比率を上げれば遠紫外線を出せますが、結晶成長の技術的な難易度が極めて高いため、これまで高出力化が困難とされてきました。

  • 結晶欠陥(ディスロケーション): アルミニウム比率を高めると、基板(サファイアなど)との原子間隔の違いから結晶にひび割れや欠陥が入りやすくなり、電力を投入しても光にならずに熱に変わってしまいます。
  • p型ドーピングの難しさ: アルミニウム比率が高いAlGaNは、電気を流すための不純物(アクセプタ)が機能しにくく、電流を効率よく注入できません(抵抗が非常に高くなる)。

 BEAM Technologiesをはじめとするディープテック企業や研究機関は、この結晶の欠陥を抑える独自の成膜技術や、ナノレベルでの構造制御(量子井戸構造の最適化)を用いることで、高効率・高出力な遠紫外線LEDの実現に成功しています。

大きなバンドギャップを持つ窒化アルミニウムの配合比率を高め、材料全体のエネルギーギャップを拡大させているためです。これにより、発光時に放出される光の波長が非常に短くなり、遠紫外線を出力できます。

遠紫外線はなぜ、人体に無害で不活化、殺菌効果があるのか

 遠紫外線(Far-UVC:主に波長222nm)が「人体には無害」でありながら「ウイルスや細菌は強力に不活化・殺菌できる」という魔法のような性質を持つ理由は、「光の浸透深さ(透過性)」と「対象物のサイズ」の圧倒的な差にあります。

 、「ウイルスにとっては致命的な光だが、人間の生きている細胞までは物理的に届かない」というメカニズムです。

1. なぜウイルスや細菌を「殺菌・不活化」できるのか?

 遠紫外線(222nm)は、従来の殺菌灯(254nm)と同様に、生物の根源であるDNA/RNAやタンパク質に吸収されやすい性質を持っています。

  • 遺伝子の破壊: 光のエネルギーがウイルスや細菌の遺伝子(DNA/RNA)に吸収されると、その化学結合が切断され、複製能力を失います(不活化)。
  • 外殻タンパク質の変性: 特に222nmの光は、ウイルスの表面にあるタンパク質(スパイクタンパク質など)にも強く吸収され、構造を破壊します。

 細菌の大きさは数マイクロメートル(μm)、ウイルスは数十〜数百ナノメートル(nm)と極めて微小です。そのため、222nmの光であっても体の中心部まで容易に突き抜けて、全体を破壊することができます。

2. なぜ人間の「人体には無害」なのか?

 人間の皮膚や目は、ウイルスに比べて数千倍〜数万倍の厚みを持っているため、影響を受けることがありません。

① 皮膚におけるメカニズム

人間の皮膚の一番表面には、死んだ細胞でできた「角質層(厚さ約10〜20μm」があります。 222nmの遠紫外線は、タンパク質や水分への吸収係数が「254nmの光に比べて約10〜100倍も高い」という物理的特性を持っています。

 高すぎる吸収率ゆえに、光が皮膚に当たった瞬間、最外層の角質層(死んだ細胞の層)で100%吸収されてブロックされてしまいます。その奥にある、新しい細胞を作る「基底層」や「真皮」といった生きている細胞(生細胞)までは物理的に1ナノメートルも届きません。

② 目におけるメカニズム

 目に対しても同様です。目の表面は「涙液層」や角膜の一番外側にある「角膜上皮細胞層」で覆われています。222nmの光はこれらの最表層で完全に吸収されるため、目の痛みや白内障の原因となる「角膜内皮」や「水晶体」まで光が到達することはありません。

3. 従来の紫外線(254nm)との決定的な違い

 これまで水銀灯などで使われてきた従来のUV-C(254nm)と、遠紫外線(222nm)の違いをまとめると以下のようになります。

項目遠紫外線(Far-UVC / 222nm)従来の紫外線(UV-C / 254nm)
タンパク質への吸収率極めて高い(表面で止まる)ほどほどに高い(奥まで透過する)
皮膚への影響角質層で止まるため無害表皮・真皮まで届き、皮膚がんや紅斑の原因に
目への影響角膜上皮で止まるため無害角膜や水晶体に届き、電気性眼炎や白内障の原因に
有人空間での使用可能(24時間常時照射して除菌できる)不可能(人がいない時しか照射できない)
ウイルスへの効果DNA/RNAおよび外殻タンパク質を破壊主にDNA/RNAを破壊

 かつては「波長が短い(エネルギーが高い)ほど人体に危険である」と考えられていましたが、コロンビア大学のデビッド・ブレナー教授らの研究(2010年代以降)により、「波長が短すぎると、逆に人間のタンパク質の壁(角質層)を透過できなくなる」という逆転現象が発見され、現在の有人殺菌技術へとつながっています。

微小なウイルスの遺伝子やタンパク質を破壊する一方、人間の皮膚の角質層や目の表面で光が完全に吸収されるためです。生きた細胞まで物理的に届かないため、有人空間でも使える高い殺菌力と安全性を両立しています。

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