この記事で分かること
1. 半導体レーザーの仕組み
P型とN型半導体の接合部に電流を流し、電子の再結合で生じた光を両端の鏡(へき開面)の間で往復・増幅させて放出する素子です。LEDより直進性と単色性に優れ、小型で高効率な光源として活用されます。
2. なぜ青や緑になるのか
光の色は電子が落ちる際のエネルギーの「落差」で決まります。窒化ガリウムは元々この落差が大きく、強いエネルギーの青や緑を放つのに適しています。ここにインジウムを混ぜる比率で、色の微調整を行います。
3. なぜ赤色にできないのか
赤色を出すには大量のインジウムが必要ですが、混ぜるほど結晶に巨大なひずみが生じ、壊れて光らなくなります。そのため、青・緑は窒化ガリウム、赤はガリウムヒ素と、材料自体を使い分けるのが一般的です。
半導体レーザーの仕組み
京セラがウシオ電機の半導体レーザー事業を取得するというニュースが、2026年4月14日に発表されました。
https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2604/14/news123.html
京セラは、米国の連結子会社である KYOCERA SLD Laser(KSLD) を通じてレーザー事業を展開していますが、光の三原色(RGB)を自社で揃えることに課題があり、ガリウムヒ素(GaAs)基板を用いた赤色レーザーにおいて、高い市場競争力と量産技術を持つウシオ電機から事業取得するものと思われます。
前回は京セラの買収理由などに関する記事でしたが、今回は半導体レーザーの仕組みやなぜ赤色だけ基板が異なるのかなどに関する記事となります。
半導体レーザーはどのような仕組みなのか
半導体レーザー(LD:レーザーダイオード)は、「半導体に電気を流すことで、光を増幅させて一点に集中して放出するデバイス」です。
1. 光が発生する原理(再結合)
半導体レーザーは、P型半導体(正孔が多い)とN型半導体(電子が多い)を接合させた構造をしています。
- ここに電圧をかけると、電子と正孔が接合部に向かって移動し、ぶつかります。
- このとき、電子が持っていたエネルギーが光として放出されます。これを「再結合」と呼び、LEDと同じ原理です。
2. 光を閉じ込め、増幅させる(誘導放出)
LEDとの最大の違いは、光を「増幅」させるプロセスがあることです。
- 発生した光が別の電子を刺激し、全く同じリズム(位相)と色の光を次々に発生させます。これを「誘導放出」と言います。
- 半導体の両端を鏡のような面(開口面)にすることで、光が内部で往復し、雪だるま式に強まっていきます。これを「共振」と呼びます。
3. レーザー光として放出
十分に増幅された光は、わずかに透過性のある鏡の面から、鋭く、まっすぐな光の束として飛び出します。これが、私たちが目にする「レーザー光」です。
特徴のまとめ
- 指向性: 光が広がらず、遠くまで真っ直ぐ進む。
- 単色性: 特定の波長(色)だけを取り出せる。
- 高エネルギー: 小さい面積に強いエネルギーを集中できる。
この「特定の波長だけを強く出せる」という性質があるため、赤色や青色といった特定の材料(ガリウムヒ素など)を使い分けることが、製品開発において非常に重要になります。

半導体レーザーは、P型とN型半導体の接合部に電流を流し、電子の再結合により生じた光を鏡面間で往復・増幅させて放出する素子です。LEDより光の直進性と単色性に優れ、小型で高効率な光源として重宝されます。
なぜ共振が起こるのか
共振(オプティカル・フィードバック)が起こる理由は、半導体チップそのものが「合わせ鏡」の構造になっているからです。
1. 「へき開面」による天然の鏡
半導体の結晶を特定の方向に沿って切断すると、原子レベルで真っ平らな面(へき開面)が現れます。この面は、外部との屈折率の差によって天然のミラーとして機能します。光はこの「合わせ鏡」の間に閉じ込められます。
2. 誘導放出による光のコピー(増幅)
鏡の間を往復する光が、エネルギーを蓄えた電子を刺激すると、「全く同じ波長・位相・方向」を持つ光が新たに放出されます(誘導放出)。これにより、往復するたびに光が雪だるま式に増幅されます。
3. 位相の「整列」と定在波
光は「波」の性質を持っています。鏡の間の距離が波長の整数倍になっていると、往復する光の波同士がぴったり重なり合い、打ち消し合わずに強め合います。この、波が整列して安定して存在する状態が「共振」です。
4. 発振への到達
光が往復中に増幅される量(利得)が、鏡から漏れ出したり吸収されたりする損失を上回ったとき、光は一気に強くなり、鋭い「レーザー光」として片側の鏡から放出されます。

半導体の両端にある鏡のような反射面(へき開面)の間で、光を何度も往復させることで発生します。往復の過程で「誘導放出」が繰り返されて光が増幅され、特定の波長で波が重なり合う(共振)ことで強力な光となります。
窒化ガリウム基板でなぜ青や緑になるのか
窒化ガリウム(GaN)で青や緑の光が作れる理由は、その材料が持つ「バンドギャップ」というエネルギーの差が、青や緑の光のエネルギー量とちょうど一致しているからです。
1. バンドギャップと光の色の関係
半導体の中で電子が動くとき、エネルギーの高い場所(伝導帯)から低い場所(価電子帯)へ落ちる際に、その「落差(バンドギャップ)」に応じたエネルギーを光として放出します。
- 落差が大きいほど、エネルギーの強い「青に近い色」になります。
- 落差が小さいほど、エネルギーの弱い「赤に近い色」になります。
2. GaNが持つ「大きな落差」
窒化ガリウム(GaN)は「ワイドバンドギャップ半導体」と呼ばれ、もともと非常に大きなエネルギーの落差を持っています。
- GaN単体: そのままでは紫外に近い強いエネルギー(青よりもさらに短い波長)を放ちます。
- 色の調整: ここにインジウム(In)という別の元素を混ぜることで、落差を少しずつ小さく調整し、狙い通りの「青」や「緑」の光を作り出しています。
3. 他の材料では無理だった理由
以前からあった赤色レーザーの材料(ガリウムヒ素など)は、エネルギーの落差が小さいため、どうしても「赤」や「赤外線」の光しか出せませんでした。
GaNという「大きな落差を持つ材料」を、高品質な結晶として作れるようになった(赤﨑勇氏、天野浩氏、中村修二氏らによるノーベル賞級の功績)ことで、ようやく青や緑が実現したのです。

光の色は半導体内の電子が落ちるエネルギーの「落差(バンドギャップ)」で決まります。窒化ガリウムは元々この落差が大きく、青や緑の強いエネルギーを放つのに適しています。インジウムを混ぜる比率で、青から緑まで細かく色を調整しています。
窒化ガリウム基板で青と緑はどのように調整するのか
窒化ガリウム(GaN)をベースに青から緑まで色を変える鍵は、「インジウム(In)」を混ぜる割合(混晶比)にあります。
発光層である窒化インジウムガリウム(InGaN)の組成を調整することで色をコントロールします。
1. インジウムの量で「落差」を変える
青色や緑色の光は、電子がエネルギーの高い場所から低い場所へ飛び移る際の「エネルギーの落差(バンドギャップ)」によって決まります。
- 青色: インジウムの割合を少なくします。落差が大きいため、エネルギーの強い青色の光になります。
- 緑色: インジウムの割合を多くします。インジウムを増やすほど落差が小さくなり、エネルギーの弱い緑色(青より波長が長い光)へと変化します。
2. 成長温度による制御
インジウムをどれだけ取り込めるかは、半導体の結晶を成長させる際の「温度」に左右されます。
- 緑色を作るためにインジウムの比率を高めようとすると、結晶が不安定になりやすく、高度な温度管理技術が求められます。これが「青よりも緑を作る方が難しい」と言われる理由の一つです。
3. 多重量子井戸(MQW)構造
実際には、数ナノメートルという極めて薄いInGaN層をサンドイッチ状に重ねた構造(多重量子井戸構造)の中で、この組成調整が行われています。

窒化ガリウムにインジウム(In)を混ぜ、その割合を変えることで色を調整します。インジウムが少ないとエネルギーが高く「青」になり、多く混ぜるとエネルギーが下がり「緑」になります。この絶妙な混ぜ加減と結晶の品質管理が、色の精度を決定します。
インジウムの混合で赤色にできないのはなぜか
窒化ガリウム(GaN)にインジウム(In)を混ぜて「赤色」にするのが難しい理由は、主に「結晶の限界(ひずみ)」と「発光効率の低下」という2つの大きな壁があるからです。
理屈上はインジウムを増やせば赤色に近づきますが、現実には以下の問題が発生します。
1. 結晶が「ボロボロ」になってしまう(格子不整合)
GaNの結晶の中にインジウムを混ぜる際、インジウムの原子はガリウムよりもサイズが大きいため、混ぜるほど結晶に無理な力(ひずみ)がかかります。
- 青・緑: インジウムの割合が比較的少ないため、ひずみに耐えられます。
- 赤: 赤色を出すには大量のインジウムを混ぜる必要がありますが、あまりにひずみが大きくなりすぎて、結晶にヒビ(欠陥)が入ったり、きれいに混ざらず分離してしまったりします。
2. 電気エネルギーが「熱」に逃げてしまう
インジウムを増やしてエネルギーの落差(バンドギャップ)を小さくしすぎると、電子が光を放つ前に、結晶のひずみや欠陥によって生じた熱として逃げやすくなります。
結果として、赤色の光を出そうとしても、非常に暗いか、あるいは全く光らないという状態になってしまいます。
3. だから「材料」を使い分ける
この物理的な限界があるため、現在の技術では「無理にGaNで赤を作る」よりも、「もともと赤が得意な材料(ガリウムヒ素など)」を使う方が、圧倒的に高品質で効率の良いレーザーが作れます。

赤色を出すには大量のインジウムが必要ですが、混ぜるほど結晶に大きなひずみ(欠陥)が生じ、発光効率が激減してしまいます。そのため、青・緑は窒化ガリウム、赤はガリウムヒ素と、材料自体を使い分けるのが現在の最適解です。

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