この記事で分かること
1. なぜ折り曲げられるのか
ガラスをコピー用紙以下の薄さ(0.1mm以下)にすることで、曲げた際の引っ張られる力を劇的に低減。さらに、化学強化で表面に強い圧縮力を与えて傷の広がりを抑えることで、割れずにしなやかに曲がります。
2. どのようにイオン交換するのか
400℃以上に熱してドロドロに溶かした硝酸カリウムの液体に、極薄ガラスを数時間浸します。するとガラス表面の小さなナトリウムイオンが溶け出し、液中の大きなカリウムイオンと原子レベルで入れ替わります。
3. 日本電気硝子の極薄ガラスの強み
液晶用で培った独自製法により、削らずに「最初から傷のない完璧な薄さと均一さ」で成形できる点です。さらに化学強化と相性の良い特殊組成により、50万回の開閉や直径3mmの折り曲げに耐える強靭さを誇ります。
日本電気硝子の超薄型ガラス
Appleが折りたたみデバイス(仮称:iPhone FoldやiPhone Ultra)の市場投入へ向けて動いており、超薄型ガラス(UTG:Ultra Thin Glass)の供給枠を狙う日本電気硝子(NEG)の存在感が急速に高まっています。
液晶・有機ELディスプレイ用ガラスで長年培った独自の成形技術(オーバーフロー法など)により、表面の平滑性と板厚の均一性が極めて高いことです。これにより、Appleが要求する複雑な積層スタック構造や、応力を均一に分散させる高度なヒンジ(蝶番)設計への対応力で優位に立っています。
現在のiPhoneのカバーガラス(Ceramic Shieldなど)はCorningが独占的な地位を築いていますが、Appleは常に単一サプライヤーへの依存リスク(価格交渉権や供給途絶リスク)を避ける傾向がある点も日本電気硝子にとって、プラスに働いています。
なぜ折り曲げられるのか
日本電気硝子の「Dinorex UTG®」などが割れずに曲がる理由は、「極限の薄さ」と「化学強化」という2つの科学的アプローチの組み合わせによるものです。
1. 「極限の薄さ」が曲げストレスを激減させる
物質を曲げたとき、外側には「引っ張られる力(引張応力)」、内側には「縮む力(圧縮応力)」がかかります。ガラスは圧縮には非常に強いのですが、引っ張られる力(引張応力)に極めて弱いという致命的な弱点があります。
ここで重要になるのが「ガラスの厚み」です。ガラスが受ける引張応力は、ガラスの厚みに比例して大きくなります。
- 普通のガラス(厚い): 曲げたときに外側にかかる引っ張る力が大きすぎて、すぐに限界を迎えて割れてしまいます。
- 超薄型ガラス(UTG): 厚みを100マイクロメートル(0.1mm)以下、あるいは30マイクロメートル(コピー用紙の半分以下)にまで薄くすると、曲げたときに外側にかかる引っ張る力そのものが、ガラスが耐えられるレベルにまで劇的に小さくなります。
2. 「化学強化」で傷を封じ込める
ガラスが割れる最大の原因は、目に見えないほど微細な「傷(マイクロクラック)」です。ガラスを曲げて引っ張る力が加わると、その傷に力が集中して一気に引き裂かれてしまいます。
日本電気硝子をはじめとするガラスメーカーは、「イオン交換法」という化学強化技術を使って、ガラスの表面をあらかじめ強烈に圧縮しておきます。
- ガラスの成分である小さな「ナトリウムイオン」を、高温の液体の中で大きな「カリウムイオン」に入れ替えます。
- 狭いスペースに大きなイオンを無理やり詰め込むため、ガラスの表面に「お互いを押し付け合う力(圧縮応力層)」が生まれます。
- ガラスを曲げて外側に引っ張る力がかかっても、この「押し付け合う力」が相殺してくれるため、傷が広がらずに割れません。
なぜ3mmの隙間に折り曲げられるのか
日本電気硝子のDinorex UTG®が、曲げ半径R1.5(直径3mmの隙間)という驚異的な折り曲げに耐えられるのは、以下の2つが完璧に機能しているからです。
極限の薄さ(引張応力を最小化)× 化学強化(表面の傷を圧縮してガード)}
これにより、ガラス特有の「高い硬度」と「美しい透明感」を維持したまま、まるでフィルムのようにしなやかに曲がるディスプレイが実現しています。

ガラスをコピー用紙以下の薄さ(0.1mm以下)にすることで曲げた際の引っ張られる力を劇的に低減。さらに、化学強化で表面に強い圧縮力を与えて傷の広がりを抑えることで、割れずにしなやかに曲がります。
どのようにイオン交換するのか
ガラスの「化学強化(イオン交換法)」は、ガラスを溶かした塩のプールに浸し、原子レベルで押し合いへし合いを起こすことで実現します。
化学強化(イオン交換)の仕組み
ガラスの表面付近にある「小さなイオン(ナトリウムイオン:Na+)」を、外部から持ち込んだ「大きなイオン(カリウムイオン:K+)」と入れ替える(交換する)ことでガラスを強化します。
具体的な3つの工程
化学強化は、一般的に以下のようなステップで行われます。
1.硝酸カリウムの加熱融解:準備工程。
硝酸カリウム(KNO3)という塩(えん)を、専用の炉で約400℃〜450℃に加熱し、ドロドロの液体(溶融塩)にします。
2.ガラスの浸漬とイオン交換:本工程(数時間)。
成形・洗浄した超薄型ガラスをこの液体に浸します。高温下では原子が動きやすくなるため、ガラス表面のナトリウムイオンが液中に溶け出し、代わりに液中の大きなカリウムイオンがガラスの表層(数十微米の深さまで)に入り込みます。
3.冷却と洗浄:仕上げ工程。
ガラスをゆっくりと引き上げて冷却し、表面に付着した余分な塩を温水などで綺麗に洗い流します。
なぜこれで強くなるのか?(満員電車の原理)
もともと3人がけの席(ナトリウム)に、体格の大きな人3人(カリウム)が無理やり座ってきたような状態です。ガラス表面はギューギューに押し合う力(圧縮応力)で満たされるため、外から引っ張る力が加わっても、この押し合う力が突っ張り棒の役割を果たしてキズが広がるのを防ぎます。

400℃以上に熱してドロドロに溶かした硝酸カリウムの液体に、超薄型ガラスを数時間浸します。するとガラス表面の小さなナトリウムイオンが溶け出し、液中の大きなカリウムイオンと原子レベルで入れ替わります。
日本電気硝子の極薄ガラスの強みは何か
日本電気硝子(NEG)の極薄ガラス「Dinorex UTG®」が、世界の折りたたみスマホ市場(特にMotorola、Xiaomi、Honorなど)で急速に採用を広げている背景には、他社を圧倒する3つの技術的強みがあります。
1. 「磨かずにツルツル」にする独自の成形技術
ガラスを薄くする方法は主に2つあります。
- 他社の多く: 分厚いガラスを削って・磨いて薄くする(研磨法)
- 日本電気硝子: 液晶テレビ用ガラスで培った技術を応用し、最初から限界まで薄く平らに引き伸ばして固める(オーバーフロー成形法など)
削る工程を挟まないため、ガラスの表面に目に見えない微細な「削りキズ(欠陥)」が一切残りません。表面が完全に滑らか(高い表面平滑性)で、どこをとっても厚みが同じ(板厚分布の均一性)であるため、曲げたときに一箇所にストレスが集中せず、圧倒的に割れにくくなります。
2. 50万回の開閉にも耐える「圧倒的な耐久性」と「折り目レス」
折りたたみスマホに最も求められるのは、毎日何百回と開閉しても壊れない信頼性です。
同社のガラスは、他社の厳しい試験をクリアしています。
- 驚異の50万回クリア: Honor社の耐久性試験において、50万回開閉しても破断しない信頼性を実証。
- 折り目が残らない: Xiaomiの試験では、20万回折りたたんだ後でも「画面中央の折り目痕」が残りにくい新仕様の開発に成功しています。
3. 直径3mmまで曲がる「超高強度な化学強化特性」
同社の「Dinorex」シリーズは、そもそも化学強化(イオン交換)のために最適化された特殊なガラス組成を持っています。
イオン交換が短時間で、かつガラスのより深い層までしっかりと行き渡るため、表面の「押し合う力(圧縮応力)」が他社製ガラスよりも極めて強固になります。
これにより、1500メガパスカル(MPa)以上という超高圧の破壊応力を達成。直径わずか3mm(曲げ半径R1.5)という、ストローに巻き付けられるほどの超急角度で曲げても耐えられる強靭さを実現しています。
「最初から傷のない完璧な薄さで作り、さらにそれを最強レベルに化学強化している」からこそ、世界の一流スマホメーカー(そして参入が噂されるApple)から熱い視線を注がれています。

液晶用で培った独自製法により、削らずに「最初から傷のない完璧な薄さと均一さ」で成形できる点です。さらに化学強化との相性が良い特殊組成により、50万回の開閉や直径3mmの折り曲げに耐える強靭さを誇ります。
Corningの超薄板ガラスの特徴はなにか
モバイル向けカバーガラス市場の絶対王者であるCorning(コーニング:米国)も、折りたたみスマホ用ガラス(UTG:Ultra Thin Glass)市場に最先端の技術を投入しています。
Corningの折りたたみガラスの特徴と、日本電気硝子(NEG)との違いを比較して解説します。
Corningの超薄型・折りたたみガラスの特徴
Corningの折りたたみガラスにおける最大の強みは、液晶ガラスやGorilla Glassで培った独自の製造プロセスと、近年発表された「可変厚ガラス(UFG)」のような革新的アプローチにあります。
- 独自の「フュージョン(熔融)成形法」NEGのオーバーフロー法と同様に、空気中でガラスの表面を形成するため、最初から傷のない極めて平滑な極薄ガラスを作ることができます。
- 一気通貫(エンドツーエンド)の自社サプライチェーン2023年に世界初のUTG一気通貫サプライチェーンを構築。ガラスの成形、切断、化学強化、エッチング(削り加工)までをすべて自社グループ内で完結させることで、高い品質管理体制を敷いています。
- 「可変厚ガラス(Corning® VtG™)」の投入Corning独自の最新アプローチです。一枚のガラスでありながら、「ヒンジ(折り目)部分だけを薄く、左右の画面(ウィング)部分は厚く」加工する技術を開発。これにより、「軽い力でスムーズに曲がる」ことと「画面をペンや指で突いたときの耐衝撃性」を一枚のガラスで両立させています。
日本電気硝子(NEG)とCorningの比較
2社の技術や市場におけるアプローチの違いは、以下の通りです。
| 比較項目 | Corning(コーニング) | 日本電気硝子(NEG) |
| 主な成形法 | フュージョン(熔融)成形法 | オーバーフロー成形法 |
| 最大の特徴・強み | 可変厚構造(VtG)による折り曲げやすさと画面強度のハイブリッド。 | 特殊なガラス組成による、圧倒的な化学強化の深さと「50万回開閉」の極めて高い耐久性。 |
| 市場アプローチ | デバイス全体のカバーガラス(Gorilla Glassなど)の圧倒的シェアを背景にした、トータル提案。 | Androidのトップブランド(Xiaomi、Honor、Motorola等)への迅速なカスタム・最適化供給。 |
| 生産体制 | 自社で成形から最終加工(切断・強化)まで行う一気通貫。 | 国内およびアジアの拠点から、高精度な極薄マザーガラスをメーカーの要求に合わせて安定供給。 |
2社の違い
- Corningは「構造の魔術師」: ガラスの厚みを場所によって変える(VtG)など、独自の「形状・構造の工夫」で折り曲げと強度の難題を解決しようとしています。
- 日本電気硝子は「素材と耐久性の職人」: イオン交換が極限まで浸透する「ガラスそのものの組成(中身)」に磨きをかけ、50万回折っても型崩れしない圧倒的なタフさで勝負しています。
この両者の激しい技術競争があるからこそ、Appleが求める「折り目が完全に消える、割れない折りたたみスマホ」の実現が現実味を帯びてきています。

Corning(コーニング)の折りたたみスマホ用ガラスは、独自製法で表面に傷がない極薄ガラスを成形し、切断から化学強化まで自社で一貫生産する点が特徴です。さらに、折り目部分だけを薄くした「可変厚構造」により、滑らかな曲がりやすさと高い画面強度を両立しています。

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