レゾナックと関西大学のハンセン溶解度パラメータでの共同研究

  1. この記事で分かること
    1. 1. ハンセン溶解度パラメータ(HSP)とは何か
    2. 2. 共同研究拠点ではどんな研究開発を行うのか
    3. 3. 複合材料でHSPが重要な理由
  2. レゾナックと関西大学のハンセン溶解度パラメータでの共同研究
  3. ハンセン溶解度パラメータとは何か
    1. 1. HSPを構成する「3つの成分」
    2. 2. 「相性」を評価する仕組み:ハンセン空間と溶解球
    3. HSP距離(Ra)
    4. ハンセンの溶解球(Solubility Sphere)
    5. 3. なぜ今、HSPが重要視されているのか
  4. どんな研究開発を行うのか
    1. 1. 測定の「高速化・自動化」システムの開発
    2. 2. あらゆる材料を網羅する「同一評価プラットフォーム」の確立
    3. 3. 大量データ蓄積と「MI(マテリアル・インフォマティクス)」への応用
    4. 最終的な狙い:半導体材料などの開発サイクル劇的短縮
  5. 次世代半導体パッケージ材料での複合材料とは何か
    1. 複合材料を構成する2大要素
    2. なぜ次世代パッケージで「複合化」が不可欠なのか?
        1. 1. 熱膨張率(CTE)の一致による「反り(ワーページ)」の防止
        2. 2. 爆発的な発熱に対する「放熱性」の確保
        3. 3. 微細な隙間(ギャップ)への充填性と絶縁性
    3. レゾナックの共同研究(HSP)とのつながり
  6. なぜ複合材料でHSPが重要なのか
    1. 1. 「ナノレベルでの均一分散」と凝集防止
    2. 2. 表面処理剤(シランカップリング剤など)の精密設計
    3. 3. 「超高充填」と「優れた流動性(低粘度)」の両立
    4. 4. 剥離(デラミネーション)とボイドの排除による信頼性向上

この記事で分かること

1. ハンセン溶解度パラメータ(HSP)とは何か

物質同士の「混ざりやすさ(相性)」を、分散力・極性・水素結合の3つの化学的相互作用から3次元の数値として定量化した指標。従来の曖昧な経験則を科学的に予測可能にし、AIを用いた材料設計に活用されています。

2. 共同研究拠点ではどんな研究開発を行うのか

HSP測定の自動化・高速化と、気液固のあらゆる形態に対応する共通評価手法を確立します。大量データを蓄積してMI(マテリアル・インフォマティクス)へ応用し、次世代材料設計の劇的な高度化を図ります。

3. 複合材料でHSPが重要な理由

本来混ざらない有機樹脂と無機フィラーの「界面の相性」を数値化できるため。これにより、ナノレベルでの均一分散や超高充填、流動性や接着強度を両立した理想的な複合材料を、MIで高速設計可能になります。

レゾナックと関西大学のハンセン溶解度パラメータでの共同研究

 株式会社レゾナック関西大学は、「ハンセン溶解度パラメータ(HSP)」を用いた材料設計の高度化に向け、共同研究を本格化することを発表しました。

 関西大学イノベーション創生センター内に、共同研究拠点となるレゾナックの実験室が新たに開設されています。関西大学が持つ「HSPの高度な知見・応用技術」と、レゾナックが持つ「実用材料の豊富な開発ノウハウ」が直結することになります。

 材料の「相性」を瞬時に割り出す自動分析体制が整えば、次世代半導体材料などの開発スピードが大幅に向上すると期待されています。

ハンセン溶解度パラメータとは何か

 ハンセン溶解度パラメータ(Hansen Solubility Parameters: HSP)とは、ある物質が別の物質に「どれだけ溶けやすいか」「混ざりやすいか(相性が良いか)」を予測・定量化するための3次元の指標です。

 従来の「似たものは似たものを溶かす」という曖昧な経験則を、化学結合の性質に基づいて科学的・数値的に扱えるようにしたもので、現在の材料開発(マテリアル・インフォマティクスなど)に不可欠なツールとなっています。

1. HSPを構成する「3つの成分」

 HSPでは、物質の蒸発熱(凝集エネルギー密度)を以下の3つの相互作用(エネルギー)に分割し、それぞれを独自の単位( J1/2/cm3/2または MPa1/2 )で数値化します。

  • δd (Dispersion: 分散力項)
    • 分子間の「ロンドン分散力(非極性相互作用)」を表します。すべての分子に多かれ少なかれ存在する、誘起双極子による弱い引力です。
  • δp (Polarity: 極性力項)
    • 分子の「永久双極子間の静電相互作用(極性)」を表します。分子内の電荷の偏り(偏心)に起因します。
  • δh (Hydrogen bonding: 水素結合力項)
    • 分子間の「水素結合力(または酸・塩基相互作用)」を表します。水やアルコール、ポリマーのOH基など、特に強い局所的な引力に関係します。

 ある物質のHSPは、これらを座標とした [δd,δp,δh] という3次元のベクトルとして定義されます。

2. 「相性」を評価する仕組み:ハンセン空間と溶解球

 HSPの最大の特徴は、これら3つの成分を軸とした3次元の「ハンセン空間(Hansen Space)」に、あらゆる溶媒や溶質、ポリマー、さらには微粒子の表面性をプロットできる点にあります。

HSP距離(Ra)

 2つの物質(物質1と物質2)の相性の良さは、3次元空間上の「距離(Ra)」で計算します。距離が近い(値が小さい)ほど互いのエネルギー的性質が似ており、「よく混ざる(溶ける)」と判断します。

※なぜ δd の差を4倍するのか?

プロットをハンセン空間に配置した際、評価用の「球体」が綺麗な球(正球)になるよう、経験的なフィッティングから導き出された係数です。

ハンセンの溶解球(Solubility Sphere)

 溶質(例:特定のポリマー)を溶かす溶媒(○)と、溶かさない溶媒(×)をハンセン空間にプロットしていくと、溶かす溶媒(○)だけを包み込む「球(溶解球)」を描くことができます。

  • この球の中心座標が、その溶質のHSP値となります。
  • 球の半径(相互作用半径:R0)よりも内側(Ra < R0)にある溶媒は「溶かす」、外側にある溶媒は「溶かさない」と予測できます。

3. なぜ今、HSPが重要視されているのか

 かつては「液体の溶媒がポリマーを溶かすか」の判定に使われていましたが、現在はその応用範囲が劇的に広がっています。

  • 固体・微粒子の評価(ナノテクノロジー)
    • カーボンナノチューブ、シリカ、各種顔料などの「固体微粒子」の表面性をHSPで測定できます。これにより、溶媒や樹脂の中に「ダマにならずに綺麗に分散させる(凝集を防ぐ)」ための最適な組み合わせをピンポイントで設計できます。
  • 環境対応(代替溶媒の選定)
    • トルエンやTH(テトラヒドロフラン)など、毒性の高い有害溶媒を規制等で使えなくなった際、「同じHSP距離を持ち、かつ環境負荷の低い、全く別の単一・混合溶媒」をシミュレーションで瞬時に見つけ出せます。
  • マテリアル・インフォマティクス(MI)との親和性
    • 「相性の良さ」という定性的な概念が「3次元の数値データ」に置き換わるため、AIや機械学習アルゴリズムにそのまま投入できます。実験を何万回も繰り返すことなく、コンピューター上で次世代材料の配合を最適化することが可能になりました。

物質同士の「混ざりやすさ(相性)」を、分散力・極性・水素結合の3つの化学的相互作用から3次元の数値として定量化した指標。従来の曖昧な経験則を科学的に予測可能にし、AIを用いた材料設計に活用されています。

どんな研究開発を行うのか

 関西大学イノベーション創生センター内に設置された共同研究拠点(レゾナックの実験室)では、「ハンセン溶解度パラメータ(HSP)の新しい分析手法の確立」と、それを活用した「データ駆動型(MI/AI)の材料設計の高度化」を軸に、主に以下の3つの研究開発を行います。

 これまで手作業に頼り、適用できる材料にも限界があったHSP測定を、一気に「実用的な超高速インフラ」へと引き上げるための研究が展開されます。

1. 測定の「高速化・自動化」システムの開発

 従来のHSP測定は、手作業による試行錯誤の工程が多く、1つの材料のHSPを特定するまでに膨大な時間と労力がかかっていました。

  • 自動化プロセスの構築: 溶液の調製、混合、相状態の判定といった一連のプロセスを自動化・システム化します。
  • 再現性の向上: 人手によるブレを排除し、「誰が測定しても同じ、再現性の高い高精度なデータ」を瞬時に弾き出せる環境を整えます。

2. あらゆる材料を網羅する「同一評価プラットフォーム」の確立

 これまでのHSPは主に「液体(溶媒)に液体やポリマーが溶けるか」という評価が中心で、測定できる材料の形態に制約がありました。この拠点では、その限界を打ち破る手法を研究します。

  • 気・液・固、無機・有機をすべて同じ基準で:液体や樹脂(有機材料)だけでなく、半導体材料に欠かせないフィラーなどの無機微粒子や気体にいたるまで、あらゆる形態の材料を「同じプラットフォーム(共通の基準)」で測定・評価できる新規分析手法を確立します。
  • 技術の進捗: この革新的な新規分析技術については、両者ですでに特許出願を完了しており、現在は実用化に向けたブラッシュアップが進められています。

3. 大量データ蓄積と「MI(マテリアル・インフォマティクス)」への応用

 自動化によって測定スピードが劇的に向上すると、次に可能になるのが「データの大量蓄積」です。

  • HSPデータベースの構築: さまざまな材料の正確なHSP値をハイスピードで測定し、膨大なデータベースを構築します。
  • AIによるピンポイント探索: 蓄積したデータをAIやMI(マテリアル・インフォマティクス)に投入し、実験室で実際に混ぜ合わせる前に、コンピューター上で「樹脂とフィラーの最適な組み合わせ」を予測。これにより、新材料の探索や配合比の最適化をピンポイントかつ高速に行うシステムを完成させます。

最終的な狙い:半導体材料などの開発サイクル劇的短縮

 レゾナックが特にこの拠点で強化を狙うのが、次世代半導体パッケージ材料などの複合材料(コンポジット材料)の開発です。

 最先端の半導体材料は、極めて細かい無機粒子(フィラー)を樹脂の中に「いかにダマなく、均一に分散させるか」が性能の鍵を握ります。

 この拠点での研究開発により、素材同士の「相性」をデータに基づいて瞬時に割り出せるようになれば、これまで数年かかっていた開発サイクルを劇的に短縮することが可能になります。

HSP(ハンセン溶解度パラメータ)測定の自動化・高速化と、気液固のあらゆる形態に対応する共通評価手法を確立。大量データを蓄積してMI(マテリアル・インフォマティクス)へ応用し材料設計の高度化を図ります。

次世代半導体パッケージ材料での複合材料とは何か

 次世代半導体パッケージにおける「複合材料(コンポジット材料)」とは、主に「有機樹脂(マトリックス)」「無機粒子(フィラー)」をナノ〜マイクロレベルで均一にブレンドし、単一の素材では不可能な特性を実現した高機能材料のことです。

 半導体チップを外部の衝撃や水分から守る封止材(EMC:エポキシ・モールディング・コンパウンド)や、チップと基板の隙間を埋めるアンダーフィル、基板材料(ABFなど)がその代表例です。

複合材料を構成する2大要素

  • 有機樹脂(ベースマトリックス)
    • エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、マレイミド樹脂などが使われます。優れた接着性、電気絶縁性、成形性をパッケージ全体に与える「土台」の役割を果たします。
  • 無機フィラー(機能性粒子)
    • シリカ(二酸化ケイ素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、窒化ホウ素などの微粒子です。目的に応じて、材料全体の70〜90 wt%という極めて高い割合で樹脂の中に充填されます。

なぜ次世代パッケージで「複合化」が不可欠なのか?

 チップレット技術や3D積層(HBM4など)、2.5Dパッケージの登場により、従来の単一樹脂では次のような物理的限界を迎えているためです。

1. 熱膨張率(CTE)の一致による「反り(ワーページ)」の防止
  • シリコンチップは熱をかけてもほとんど膨らみません(約3 ppm/℃)。しかし、純粋な有機樹脂は熱で大きく膨張します(数十 ppm/℃)。
  • この熱膨張差(CTEミスマッチ)があると、製造時や稼働時の熱によってパッケージが激しく反り、微細な接合部(バンプ)が引きちぎれてしまいます。
  • 熱で膨らみにくいシリカフィラーを限界まで大量に混ぜ込むことで、複合材料全体の熱膨張率をシリコンや基板の数値に極限まで制御(チューニング)しています。
2. 爆発的な発熱に対する「放熱性」の確保
  • AI半導体などの高性能チップは、高集積化に伴い熱密度が劇的に上昇しています。
  • 樹脂自体は熱を伝えにくい(断熱材に近い)性質を持っていますが、熱伝導率が極めて高いアルミナや窒化ホウ素のフィラーを樹脂内に数珠つなぎに配置(複合化)させることで、チップの熱を効率よく外部へ逃がす経路を形成します。
3. 微細な隙間(ギャップ)への充填性と絶縁性
  • 3D積層ではチップ間の隙間が数マイクロメートル単位まで狭まります。
  • この極小の隙間に材料をスムーズに流し込み、かつ内部で絶対にショートを起こさないよう、ナノサイズのフィラーを高密度かつ均一に分散させた複合構造が必要になります。

レゾナックの共同研究(HSP)とのつながり

 有機物(樹脂)と無機物(フィラー)は、本来「水と油」のように極めてなじみにくい関係です。相性が悪いとフィラー同士がダマ(凝集)になって固まり、流動性が落ちたり、局所的な断線や絶縁破壊を引き起こしたりします。

 だからこそ、レゾナックと関西大学はハンセン溶解度パラメータ(HSP)を用いて「樹脂とフィラーの相性」を3次元で数値化しています。

 相性を完璧にコントロールできれば、フィラーが樹脂の中にきれいにバラバラに分散した「理想的な次世代複合材料」を、MI(マテリアル・インフォマティクス)を用いて超高速に開発できるようになります。

次世代半導体パッケージにおける複合材料とは、有機樹脂に無機フィラーを高密度に配合した素材です。単一素材では不可能な、チップの熱膨張に合わせた「反り防止」や「高放熱性」などの優れた特性を実現します。

なぜ複合材料でHSPが重要なのか

 複合材料(コンポジット材料)の開発において、HSP(ハンセン溶解度パラメータ)が極めて重要視される理由は、一言で言えば「本来まじり合わない異物質(有機物と無機物)の『界面』を完璧にコントロールするため」です。

 次世代半導体パッケージ材料のように、樹脂の中に80wt%以上もの無機フィラーを詰め込む超高充填材料では、HSPによる定量化が以下の4つの決定的なメリットをもたらします。

1. 「ナノレベルでの均一分散」と凝集防止

 有機樹脂(有機物)と無機フィラー(無機物)は、根本的に分子構造が異なるため、そのまま混ぜると「水と油」のように反発し合います。フィラー同士が引き付け合ってダマ(凝集)になると、材料の特性にムラができてしまいます。

  • HSPによる解決: 樹脂のHSPと、フィラー表面のHSPをシミュレーションや測定で極限まで近づける(HSP距離 Ra を小さくする)ことで、フィラーが樹脂に自発的になじみ、ナノレベルでバラバラに均一分散させることが可能になります。

2. 表面処理剤(シランカップリング剤など)の精密設計

 フィラーを樹脂になじませるため、通常はフィラーの表面に「シランカップリング剤」などの表面処理剤を修飾(コーティング)します。 

 しかし、どの処理剤が最適かは、樹脂の種類(エポキシ、ポリイミドなど)によって毎回異なります。

  • HSPによる解決:
    1. ターゲットとなる「樹脂のHSP」を測定する。
    2. 数ある表面処理剤の中から、その樹脂のHSPに最も近い特性をフィラー表面に付与できる処理剤をHSPデータに基づいてピンポイントで選定・設計できます。これにより、従来の「片っ端から試す」実験が不要になります。

3. 「超高充填」と「優れた流動性(低粘度)」の両立

 次世代パッケージでは、熱膨張を抑えるためにフィラーを限界まで大量に詰め込む(超高充填)必要があります。しかし、樹脂とフィラーの相性が悪いと、摩擦や反発で材料がドロドロのボテボテになり、微細な隙間に流れ込まなくなります。

  • HSPによる解決: 両者のHSPが最適化されていると、フィラーの表面が樹脂で綺麗に濡れ(潤滑され)、フィラーを大量に含んでいるにもかかわらず、サラサラと低粘度で流動性の高い材料を実現できます。

4. 剥離(デラミネーション)とボイドの排除による信頼性向上

 半導体の製造工程や実稼働時には、激しい熱サイクル(マイナス数十℃〜加熱)がかかります。樹脂とフィラーの界面の親和性が低いと、熱膨張の差によって界面からペリペリと剥がれて隙間(ボイド)ができ、そこから水分が侵入してショートや爆発(ポップコーン現象)を起こします。

  • HSPによる解決: HSPを一致させて界面の熱力学的な安定性を高めることで、接着強度(界面強度)が劇的に向上します。過酷な熱ストレスがかかっても剥離せず、半導体の長寿命化と高信頼性を担保できます。

 複合材料は「樹脂の種類」「フィラーの種類・粒径」「表面処理剤」「配合比」など、組み合わせが無限に存在します。

 HSPは、この複雑な「界面の相性」を共通の3次元数値(ベクトル)に変換できるため、AIや機械学習(MI)に組み込むための最強の共通言語となります。

 だからこそ、レゾナックのような先端材料メーカーはHSPの自動測定とデータベース化に巨額の投資を行っています。

本来混ざらない有機樹脂と無機フィラーの「界面の相性」を数値化できるため。これにより、ナノレベルでの均一分散や超高充填、流動性や接着強度を両立した理想的な複合材料を、MIで高速設計可能になります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました