小松マテーレとSpiberの次世代素材「Protein Skin」

この記事で分かること

1. Protein Skinの特徴

人工タンパク質を使用しバイオマス比率約80%を実現した次世代素材。型押しに頼らない自然な風合いと極上のなめらかさが特徴です。防風性や耐久性にも優れ、衣服から自動車内装まで幅広い展開が期待されています。

2. 人工タンパク質の作り方

目的の特性に応じた遺伝子を設計し、それを組み込んだ微生物に植物由来の糖を与えて精密発酵させます。その後、生成されたタンパク質を抽出・精製して粉末化し、用途に合わせて繊維やシート状に成形加工します。

3. 主な応用分野

アパレルでは高級衣料やアウトドアウエア、自動車ではシート等の内装材や衝撃吸収部品に採用。さらに生体親和性を活かした化粧品原料や人工毛髪、プラスチック代替の工業資材など、幅広い分野へ拡大しています。

小松マテーレとSpiberの次世代素材「Protein Skin」

 小松マテーレが、構造タンパク質(人工タンパク質)の開発で世界をリードするバイオベンチャー「Spiber(スパイバー)」社と共同開発した次世代素材、Protein Skin(プロテインスキン)」を発表しています。

 小松マテーレの強みである高度な染色・後加工技術と、Spiberの最先端バイオテクノロジーが融合した、アパレル・モビリティ業界からも熱い視線が注がれている注目の新素材です。

Protein Skinの特徴は何か

 「Protein Skin(プロテインスキン)」の最大の特徴は、単に「環境に優しい」というだけでなく、小松マテーレが持つ世界最高峰のファブリック加工技術によって、高級感のある風合いと実用的な機能性を極めて高いレベルで両立している点にあります。

1. 機械的な「型押し」に頼らない、素材本来の豊かな表情

 従来の合成皮革(PUレザーなど)は、平らなシートに機械でプレス(型押し)をして本革風のシワ(シボ感)を出すのが一般的でした。

 しかし、Protein Skinは機械的な加工に頼るのではなく、人工タンパク質が持つ独自の収縮特性などを小松マテーレの技術で引き出すことで、素材そのものが呼吸しているかのような、自然で深みのある表情と立体感を生み出しています。

2. バイオマス比率「約80%」という圧倒的な環境性能

 構造タンパク質「Brewed Protein™(ブリュード・プロテイン)」を縦横に駆使することで、成分の約8割が植物由来(微生物発酵)で構成されています。

 従来の「石油由来の合成皮革」や「畜産業による環境負荷が課題視される動物皮革」の双方に依存しない、次世代のクリーンな選択肢です。

3. 人工タンパク質ならではの「極上のなめらかさ」

 数ミクロン(1ミリの1000分の1)という超薄膜のコーティング技術(Brewed Protein™ Coating)により、人間の肌(スキン)にしっとりと馴染むような、上質でなめらかなタッチを実現しています。人工タンパク質だからこそ出せる、独特の心地よさです。

4. 自動車内装にも耐えうる「高い機能性と耐久性」

 ただ柔らかくて美しいだけでなく、アウトドアウエアに求められる「高い防風性」や、ダウンジャケットの「羽毛抜け防止性」といったタフな機能性を備えています。

 この優れた耐久性があるからこそ、衣服だけでなく、審査の極めて厳しい「自動車のシートや内装材」への展開が具体化しています。

 「環境には優しいけれど、質感や耐久性は本物に劣る」という従来のヴィーガンレザーの限界を、日本の最先端バイオ技術と職人技の掛け算で打ち破った素材です。

人工タンパク質を使用しバイオマス比率約80%を実現した次世代素材。型押しに頼らない自然な風合いと極上のなめらかさを持ち、防風性や耐久性にも優れるため、衣服から自動車内装まで幅広い展開が期待されています。

人工タンパク質は、どのように作られるのか

 人工タンパク質(Spiber社の「Brewed Protein™」など)は、主に「精密発酵(Precision Fermentation)」というバイオテクノロジーを用いて作られます。イメージとしては、ビールや味噌を醸造(ブレュー)するプロセスに非常に近いです。

具体的な製造工程は、大きく分けて以下の5つのステップで構成されています。

1. 遺伝子の設計(デザイン)

 まず、目指す素材の特性(クモの糸のような強靭さ、カシミアのような柔らかさ、レザーのような質感など)に合わせて、アミノ酸の配列をコンピュータ上で設計します。そして、その配列を構築するためのDNA(遺伝子)の設計図を作成します。

2. 微生物への組み込み

 設計したDNAを、酵母などの微生物に組み込みます。これにより、その微生物は「指定された人工タンパク質を生産する専用工場」に生まれ変わります。

3. 微生物の発酵(培養)

 巨大な発酵タンクの中に、遺伝子を組み換えた微生物と、エサとなる植物由来の糖類(サトウキビやトウモロコシなどから精製したグルコース)を投入します。

 微生物が効率よく糖を食べて増殖する環境を整えることで、タンク内で目的のタンパク質を大量に作り出させます。

4. 分離・精製(パウダー化)

発酵が終わったら、タンク内から微生物の死骸や不要な成分をろ過・遠心分離などで取り除き、目 的のタンパク質だけを純粋に抽出(精製)します。

 これを乾燥させると、サラサラとした「タンパク質の粉末(ポリマーパウダー)」が完成します。

5. 成形加工(素材化)

 できあがったタンパク質の粉末を溶かし、用途に合わせて最終的な形へと加工します。

  • 繊維にする場合: 小さな穴(ノズル)から押し出して紡糸し、糸(ファイバー)にします。
  • スキン素材にする場合: 樹脂状に成形してシート化したり、繊維の表面に薄膜コーティング(Brewed Protein™ Coating)を施します。

なぜ環境に優しいのか?

 従来の動物皮革やウールのように広大な牧草地や大量の水を必要とせず、ポリエステルなどの合成繊維のように化石資源(石油)に依存しません。

 「植物の糖」と「微生物の力」さえあれば、短期間で狙った通りの高機能素材を工業生産できる点が、この技術の最大の強みです。

目的の特性に応じた遺伝子を設計し、それを組み込んだ微生物に植物由来の糖を与えて発酵(精密発酵)させます。生成されたタンパク質を抽出・精製して粉末化し、用途に合わせて繊維やスキン素材へと成形加工します。

どんな応用があるのか

 人工タンパク質(Spiber社の「Brewed Protein™」など)は、糸やシート、樹脂、液体などあらゆる形態に加工できる汎用性の高さから、すでに世界中で40以上のブランド、200以上のアイテムに採用・応用されています。

 石油や動物に依存しない次世代素材として、以下のように幅広い産業へと応用が広がっています。

1. ファッション・アパレル

 高級天然繊維(カシミアやシルクなど)のような上質な風合いから、タフなアウトドア仕様まで自由に設計できるため、多くのトップブランドが採用しています。

  • アウトドアウエア: ゴールドウイン(THE NORTH FACEなど)との共同開発による、防風ジャケット「MOON PARKA」や高機能フーディー。
  • ラグジュアリー・コレクション: バーバリー(Burberry)がブランドとして初めて人工タンパク質を採用したスカーフを発売したほか、サカイ(sacai)やパリのオートクチュール(高級仕立服)の衣装にも使われています。
  • ライフスタイル: ロンハーマン(Ron Herman)のワンマイルウエア(スウェットやビーニー)など、日常着への導入も始まっています。

2. モビリティ・自動車:次世代の巨大市場

 強靭さと高い衝撃吸収性を活かし、環境負荷を下げつつ「車を軽量化・安全にする」ための応用が進んでいます。

  • 次世代シート(内装材): 先述の小松マテーレ「Protein Skin」に加え、過去にはトヨタ・ランドクルーザープラドのコンセプトカーでシートの一部に採用されました。
  • 構造部品(衝撃吸収材): 金属やプラスチックに代わる、車のバンパーなどの「エネルギー吸収部品」としての研究開発(プロトタイプ製造)が進んでいます。

3. ビューティ・ヘルスケア

 「もともとタンパク質である」という人間の体との親和性の高さを活かした、ユニークな応用です。

  • 化粧品原料(コスメ): 髪や肌を保護する成分(INCI名:sr-polypeptide-1)として、すでに一部のヘアケアやスキンケア製品に配合されています。
  • 人工毛髪: 石油由来の合成繊維に代わる、自然な質感の「かつら」やエクステンションとしての活用が期待されています。

4. 工業用マテリアル・資材

  • 脱マイクロプラスチック資材: 海洋で分解されやすい特性を活かし、従来のプラスチックや合成繊維が引き起こす環境汚染を解決するための産業用資材としての応用研究も行われています。

 最初は「クモの糸を再現したアパレル繊維」として注目されましたが、今や「プラスチック、レザー、ウール、さらには化粧品成分まで、あらゆる石油・動物由来マテリアルを置き換えるプラットフォーム技術」として応用が爆発的に広がっています。

アパレルでは高級衣料やアウトドアウエア、自動車ではシート等の内装材や衝撃吸収部品に採用。さらに親和性の高さを活かした化粧品原料や人工毛髪、プラスチック代替の工業資材など、幅広い分野に拡大しています。

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