この記事で分かること
- コネクタへのめっきとは:コネクタ端子のめっきは、導電性の確保、耐食性の向上、耐摩耗性、はんだ付け性の向上などのために行われるものです。
- 錫めっきが使われる理由:安価で性能バランスに優れた導電・保護めっき材であるため、特に自動車の端子・コネクタにおいて最も広く採用されています。
- PICめっきの特徴:車載コネクタに求められる「軽挿抜」「小型」「信頼性」を満たす最先端めっき技術であり、電動化・自動運転化が進む自動車業界にとって極めて重要な技術の1つです。
三菱マテリアルのPICめっき コネクタへのめっきとは何か?PICめっきの特徴は何か?
三菱マテリアル株式会社は、自動車コネクタ端子の挿入時における摩擦抵抗を低減するPICめっき(PIC:Precise Interface Control)の体制を構築したことを発表しています。
https://www.mmc.co.jp/corporate/ja/news/press/2025/25-0507.html
PICめっきは自動車のコネクタ端子における摩擦抵抗の低減と電気的な接続信頼性の両立を実現する先進的なめっき技術です。
コネクタ端子のめっきにはどのようなものがあるか
コネクタ端子のめっきは非常に重要な技術で、主な役割は以下のようになります。
■ コネクタ端子めっきの目的
- 導電性の確保
電気接点として必要な低い接触抵抗を維持する。 - 耐食性の向上
環境(湿気、塩分、腐食性ガスなど)による基材(銅、黄銅など)の腐食を防ぐ。 - 耐摩耗性の向上
繰り返しの抜き差しや振動でも摩耗・損傷しにくくする。 - はんだ付け性の向上
端子部分がはんだ付けされる場合、濡れ性や拡散性を良くする。
■ よく使われるめっき材料
- 錫(Sn)めっき
安価で耐食性・はんだ付け性が良好。ただし、フレッティング摩耗やスズウィスカの問題がある。 - 金(Au)めっき
高価だが接触信頼性が高く、特に微小電流・微小信号用途に使われる。 - 銀(Ag)めっき
導電性が良いが、硫化物による変色の問題あり。 - パラジウム(Pd)、パラジウムニッケル(Pd-Ni)めっき
金より安価で耐摩耗性が高い、近年採用が増加。 - ニッケル(Ni)めっき(下地)
拡散防止や密着性向上のため、AuやSnの下に敷かれる。
■ 最近の技術トレンド
- 小型・多極化 → 摩擦低減技術(例:PICめっき®)が求められる。
- 環境規制対応 → 鉛フリー、RoHS対応のはんだめっきが必須。
- 高信頼性 → 自動車・医療分野で金やPd系めっきが重視される。
■ 自動車部品のコネクタ
自動車の コネクタ端子 は、車内の電子機器や電気系統(ECU、センサー、モーター、ライト、エアバッグ、カーナビ、ADAS など)を電気的に接続するための金属製のパーツです。
ハウジング(樹脂の外枠) に収まることでオス(ピン端子)とメス(ソケット端子) が接続され、電流や信号を伝える橋渡し役を果たします。
ワイヤーハーネス、ECU、ランプ・ライトなどでコネクタが利用されています。

コネクタ端子のめっきは、導電性の確保、耐食性の向上、耐摩耗性、はんだ付け性の向上などのために行われるものです。
PICめっきとは
PICめっきは、三菱マテリアル株式会社が開発した「Precise Interface Control(PIC)」の略称で、自動車用コネクタ端子向けに最適化された先進的な錫(Sn)めっき技術です。
PICめっきとは
PICめっき®は、銅合金の表面に錫めっきを施す際に、銅と錫の合金(Cu-Sn合金)を柱状に精密制御して形成することで、従来の錫めっきでは難しかった「低摩擦」と「高い電気接触信頼性」の両立を実現する技術です。
構造的特徴
通常、錫めっきを銅合金に施すと、リフロー(熱処理)後に銅と錫が反応してランダムな合金層ができます。しかし、PICめっきでは:
- 銅錫合金を「柱状(縦長)」に、かつ「規則的」に成長させるように制御
- 錫層の中に合金が点在することで、表面の均一性と摩擦特性が改善
- 合金と合金の隙間に純錫が多く残り、導電性も確保
主な利点
- 摩擦抵抗の低減(最大30%程度減少)
→ 小型・低接圧端子の挿抜力を軽減し、作業性や機械耐久性が向上 - 接触信頼性の向上
→ 純錫の残存により、低接触抵抗を長期間維持 - 既存の生産設備にも対応可能
→ 特別なライン変更なしでPICめっきを導入可能(製造コスト面でも有利)
用途・適用例
- 自動車の車載コネクタ端子(ECU、センサー、ライト系統など)
- 高密度化・小型化が進むワイヤーハーネスの端子
- 三菱マテリアル製の高性能銅合金(MSP®、MNEX®など)と組み合わせて使用される
実用化状況
- 2017年より量産が開始され、既に車載端子などで採用実績あり
📌 まとめ
PICめっきは、次世代の車載コネクタに求められる「軽挿抜」「小型」「信頼性」を満たす最先端めっき技術であり、電動化・自動運転化が進む自動車業界にとって極めて重要な技術の1つです。

PICめっきは、次世代の車載コネクタに求められる「軽挿抜」「小型」「信頼性」を満たす最先端めっき技術であり、電動化・自動運転化が進む自動車業界にとって極めて重要な技術の1つです。
なぜ摩擦抵抗が減少するのか
摩擦抵抗が減少する理由は、めっき層内部の 銅錫合金(Cu-Sn合金)の柱状構造 にあります。
通常、銅合金基材に錫(Sn)めっきを施すと、熱処理後に界面でCu-Sn合金層がランダムに成長しますが、PICめっき®ではこの合金層を 柱状・均一・数µm間隔で配置 するように制御しています。この柱状構造が表面の変形をうまく分散させ、
- 摩擦面における接触面積の増加を抑える
- 接触時の局所的なせん断応力を低減する
という効果を発揮します。
結果として、端子同士が接触・摺動するときの 動摩擦係数が従来比で最大30%低減 されるのです。また、純錫部分を多く残す設計になっているため、電気的接触抵抗は悪化せず、むしろ信頼性が維持されます。

めっき層内部の 銅錫合金(Cu-Sn合金)の柱状構造が表面の変形を分散させることで、摩擦面における接触面積の増加を抑え、応力を緩和するため摩擦抵抗が減少します。
錫めっきが使われる理由
錫(すず)めっきがコネクタ端子や電子部品に広く使われる理由は、以下のような性能バランスに優れているためです。
錫めっきが使われる主な理由
- 導電性が高い
錫は電気抵抗が低いため、電気を効率よく伝えられます。接触抵抗も比較的低く、コネクタ端子に適しています。 - 耐食性に優れる
空気中で酸化皮膜(SnO₂)を自然に形成し、内部を保護します。これにより錆びにくく、耐環境性が良好です。 - はんだ付け性が良い
錫ははんだ(特にSn-Ag系、Sn-Cu系など)の主成分でもあるため、濡れ性・合金形成性が高く、部品のはんだ付けがしやすいです。 - コストが安い(金やパラジウムと比べて)
金属材料としては安価で、量産性が高いため、大量生産される自動車部品に適しています。 - 環境規制対応(鉛フリー)
現在は鉛フリー化が進んでおり、錫はRoHSなどの環境規制に適合する素材として重宝されています。
錫めっきの課題と対策
ただし、錫には以下のような注意点もあります:
- スズウィスカ(微細な金属結晶の突起)によるショートリスク
- 繰返し挿抜による摩耗やフレッティング腐食
これらの問題に対処するために、
- ニッケル(Ni)下地を使って拡散やウィスカを抑制する
- PICめっき®のように構造を工夫して摩擦や摩耗を抑える
といった技術が使われています。

め錫めっきは、「安価で性能バランスに優れた導電・保護めっき材」として、特に自動車の端子・コネクタにおいて最も広く採用されています。
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