半導体後工程:モールド モールドとは何か?なぜエポキシ樹脂が使われるのか?

この記事で分かること

  • モールドとは:半導体チップやワイヤーを、外部の衝撃や水分から守るために樹脂で覆い固める工程です。この工程により、チップは信頼性が高く、取り扱いやすいパッケージとなります。
  • エポキシ樹脂が使われる理由:高い絶縁性、優れた接着性、外部の衝撃や水分からチップを保護する高い機械的強度、そして熱膨張率を制御できる特性を持つためです。
  • 実際の工程:主に熱で溶かした樹脂を金型に流し込み、硬化させてチップを覆い固めることで行われています。代表的な方法として、樹脂を圧入するトランスファーモールドと、ワイヤーへのストレスが少ないコンプレッションモールドがあります。

モールド工程

 チップの微細化による性能向上の限界が見え始めていることから、半導体製造において前工程から後工程へと性能向上開発の主戦場が移り始めています。

 複数のチップを効率的に組み合わせて性能を引き出す「後工程」の重要性が増しています。

 前回はワイヤーボンディングに関する記事でしたが、今回はモールドに関する記事となります。

モールドとは何か

 半半導体におけるモールドとは、半導体チップを外部の衝撃や水分、ほこりなどから保護するために、樹脂で覆い固める工程とその材料、またはそれによって作られる成形品そのものを指します。


モールドの役割

 モールドは、半導体チップの信頼性と耐久性を確保するために不可欠な工程です。具体的には、以下の役割を果たします。

  • 外部環境からの保護: チップやワイヤーボンディングといった繊細な部分を、湿気、熱、物理的な衝撃、化学物質などから守ります。
  • 電気的絶縁: チップや配線を電気的に絶縁し、隣接する回路との短絡を防ぎます。
  • 熱放散: チップで発生した熱を外部に効率よく逃がすための経路となります。
  • 取り扱いやすさの向上: 脆弱なチップをパッケージ化することで、その後の組み立てや輸送、製品への組み込みを容易にします。

モールドに使われる材料と方法

1. 材料

 モールド材には、主にエポキシ樹脂が使われます。この樹脂に、熱膨張を抑えたり、放熱性を高めたりするためにシリカ(二酸化ケイ素)などの無機フィラーが混ぜられています。

2. 方法

モールドにはいくつかの方法がありますが、現在主流なのは金型モールド法です。

  • トランスファーモールド: 加熱して溶融させた樹脂を、金型に圧力をかけて流し込み、硬化させて成形する方法です。
  • コンプレッションモールド: あらかじめ金型内に配置された樹脂を、加熱・加圧しながらチップに浸透させて硬化させる方法です。ワイヤーボンディングへのストレスが少ないという特長があります。

 これらの工程を経て、半導体チップは私たちが目にするおなじみの黒いパッケージの姿になります。

半導体におけるモールドとは、半導体チップやワイヤーを、外部の衝撃や水分から守るために樹脂で覆い固める工程です。この工程により、チップは信頼性が高く、取り扱いやすいパッケージとなり、製品の長寿命化に貢献します。

エポキシ樹脂が使用される理由は何か

 エポキシ樹脂が半導体後工程のモールド(封止)やマウンティング(接着)に広く使用されるのは、その優れた特性が半導体デバイスに求められる厳しい要件を満たしているからです。

1. 優れた電気的特性

  • 高い絶縁性: エポキシ樹脂は電気を通しにくいため、半導体チップやワイヤーが外部の導電体と接触して短絡するのを防ぎます。これにより、デバイスの安定した動作を保証します。
  • 低誘電率・低誘電正接: 高速信号を扱う半導体において、信号の遅延や損失を抑えるために、これらの特性が優れていることが重要です。

2. 物理的・化学的安定性

  • 高い機械的強度: 硬化すると非常に強固になり、外部からの物理的な衝撃や振動からチップを守ります。
  • 優れた接着性: チップやリードフレーム、基板といった様々な素材に強力に密着します。特に半導体は異種材料の組み合わせが多いため、高い接着性は重要です。
  • 耐湿性・耐薬品性: 外部の水分や化学物質がチップに浸入するのを防ぎ、腐食や劣化を抑制します。
  • 熱膨張率の制御: 無機フィラー(シリカなど)を混合することで、エポキシ樹脂の熱膨張率をシリコンチップや金属に近づけることができます。これにより、温度変化による応力(ストレス)の発生を抑え、チップの破損を防ぎます。
  • 熱硬化性: 一度熱で硬化させると、再度加熱しても溶融しないため、リフロー半田付けなどの後工程にも耐えられます。

3. 加工性の良さ

  • 優れた流動性: 溶融した際に細い隙間にも流れ込むため、複雑な形状の半導体パッケージでも、隅々まで均一に充填することができます。これにより、気泡の混入を防ぎ、信頼性を向上させます。
  • 硬化時間の制御: 硬化剤の組み合わせにより、硬化速度を調整できるため、製造プロセスに合わせた最適な条件で成形が可能です。

 これらの特性をバランス良く備えているため、エポキシ樹脂は半導体製造において不可欠な材料となっています。

エポキシ樹脂が使用される理由は、高い絶縁性、優れた接着性、外部の衝撃や水分からチップを保護する高い機械的強度、そして熱膨張率を制御できる特性を持つためです。これらが半導体デバイスの信頼性を高めます。

シリカで熱膨張を抑えたり、放熱性を高めることができるのはなぜか

 シリカをエポキシ樹脂に混ぜることで、熱膨張を抑え、放熱性を高めることができます。この現象は、シリカの材料特性複合材料としての相互作用によるものです。

熱膨張を抑える理由

 エポキシ樹脂は、シリコンや金属に比べて熱膨張率が非常に高い材料です。一方、シリカ(二酸化ケイ素、SiO2​)は熱膨張率が極めて低い材料です。

 半導体パッケージは、シリコンチップ、エポキシ樹脂、金属のリードフレームなど、熱膨張率が異なる複数の材料で構成されています。

 温度変化が起こると、それぞれの材料が異なる量で膨張・収縮するため、その境界面に熱応力が発生し、最悪の場合、チップのひび割れや配線の断線につながります。

 エポキシ樹脂にシリカの微粉末(フィラー)を混ぜることで、全体としての熱膨張率を下げ、シリコンチップの熱膨張率に近づけることができます。これにより、熱応力を大幅に低減し、製品の信頼性を向上させます。


放熱性を高める理由

 一般的に、熱伝導率は固体>液体>気体の順に高くなります。エポキシ樹脂は熱伝導率が低い(熱を伝えにくい)材料です。シリカ(SiO2​)の熱伝導率は、エポキシ樹脂よりも高いです。

 エポキシ樹脂に熱伝導性の高いシリカを混ぜることで、複合材料としての熱伝導率が向上し、チップから発生した熱を効率よく外部に逃がすことができます。特に、高密度・高性能な半導体チップは発熱量が大きいため、この放熱性の向上が不可欠となります。

熱膨張を抑える理由は、エポキシ樹脂に比べてシリカの熱膨張率が非常に低いため、混合することで全体としての膨張率が下がり、チップとの熱応力を緩和できまるためです。

放熱性を高める理由はエポキシ樹脂よりもシリカの熱伝導率が高いため、混合することで熱の逃げ道を作り、チップからの熱を効率よく放散できるためです。

モールドにはどのような工程があるのか

 半導体のモールドは、主に金型モールド法で行われます。この方法は、チップをセットした金型に樹脂を流し込んで固めるもので、トランスファーモールドコンプレッションモールドの二つの主要な工程があります。


1. トランスファーモールド

 現在の主流となっている方法で、以下の手順で進められます。

  1. 材料の準備: 樹脂をペレット(錠剤)状にしたものを準備し、金型に設置します。
  2. リードフレームのセット: チップが固定され、ワイヤーボンディングが完了したリードフレームを金型のキャビティ(成形部分)にセットします。
  3. 樹脂の充填: 加熱・加圧された樹脂が溶けて液状になり、プランジャー(押し出し棒)で金型内に押し込まれます。このとき、樹脂はランナー(流路)を通ってキャビティの隅々まで行き渡ります。
  4. 樹脂の硬化: キャビティに充填された樹脂を、熱と圧力で一定時間保持し、硬化させます。
  5. 取り出しと分離: 金型を開いて成形されたパッケージを取り出し、余分な樹脂(ランナーやバリ)を切除して個々の製品に分離します。

 この方式は、高速で大量生産が可能ですが、樹脂が流動する際に細いワイヤーに圧力がかかり、変形する可能性があるという課題があります。

2. コンプレッションモールド

 ワイヤーボンディングへのストレスを抑えるために考案された方法です。

  1. 材料とリードフレームのセット: ペレット状の樹脂とリードフレームを、あらかじめ金型のキャビティ内にセットします。
  2. 加熱・加圧: 上下の金型を締め、加熱・加圧することで樹脂を溶融させながら、同時にチップを覆い固めます。
  3. 樹脂の硬化: 溶融した樹脂を保持し、硬化させます。
  4. 取り出しと分離: 金型を開き、製品を取り出して余分な部分を切り離します。

 トランスファーモールドのように樹脂を流し込む工程がないため、樹脂の流れによるワイヤーへのダメージが少ないのが特長です。このため、より微細な配線を持つ高性能な半導体や、特に繊細な部品のモールドに適しています。

半導体のモールドは、主に金型モールド法で行われます。熱で溶かした樹脂を金型に流し込み、硬化させてチップを覆い固めます。代表的な方法として、樹脂を圧入するトランスファーモールドと、ワイヤーへのストレスが少ないコンプレッションモールドがあります。

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