ニアフィールド・インスツルメンツ、巨額資金調達

この記事で分かること

1. どんな計測・検査装置を扱っているのか

独自の超高速3D原子間力顕微鏡技術で半導体を非破壊・インライン計測する装置です。表面形状を測る『QUADRA』と、超音波で3D ICの内部を透視する『AUDIRA』の2機種を展開しています。

2. AFMとは何か

原子間力顕微鏡(AFM)とは、ナノレベルに尖った針で物質の表面をなぞり、原子間に働く微弱な力を検知して3D画像化する顕微鏡です。光や電子線を使わないため対象を傷つけず、高精度に立体計測できます。

3. 遅さをどのように克服したのか

ヘッドを複数並列で動かすマルチプローブ化や、毎秒100万画素の高速スキャン技術を確立。ブレを相殺する制振機構や針の自動交換を融合し、量産ラインに耐える劇的な高速化を達成しました。

ニアフィールド・インスツルメンツ、巨額資金調達

 オランダの半導体3D計測・検査装置のスタートアップである Nearfield Instruments(ニアフィールド・インスツルメンツ) が、3億8,000万ドル(約610億円)という巨額の資金調達を完了したと発表しています。

 この調達により同社の企業価値は16億ドル(約2,600億円)に達し、ディープテック分野におけるオランダ史上最大の単一調達額を記録しています。

 半導体プロセスが3nm以下のGAA(Gate-All-Around)High-NA EUV、さらにはCFETや3D積層(HBM4など)へ移行するにつれ、製造ラインにおける「計測(メトロロジー)」が極めて深刻なボトルネックになっているなかで同社の持つ3D計測システム『QUADRA』やサブサーフェス計測システム『AUDIRA』が大きな注目を集めています。

どんな計測、検査装置を扱っているのか

 Nearfield Instruments(ニアフィールド・インスツルメンツ:以下NFI)が提供しているのは、従来の光学式や電子線(SEM)の限界を突破する「高速・非破壊の3次元ナノ計測・検査装置(メトロロジーシステム)」です。

 同社は、物理的な探針で表面をなぞるAFM(原子間力顕微鏡)をベースに、独自のメカトロニクスと音響技術を融合させ、量産(HVM)ラインに耐えうるスループットを実現しました。主要製品は『QUADRA』『AUDIRA』の2つのプラットフォームに集約されます。

1. QUADRA(クアドラ): 超高速インライン3D-AFMシステム

 「AFMは原子レベルの解像度を持つが、遅すぎて量産ラインには使えない」という半導体業界の常識を覆したフラッグシップ装置です。

 3nm以下のGAA(Gate-All-Around)ロジック、High-NA EUVプロセス、3D NANDなどの「目に見えない垂直構造」をターゲットにしています。

  • マルチプローブ × Lightning Mode™(超高速化)小型化したAFMヘッドを複数並列で同時に走査させる独自アーキテクチャを採用。さらに最新の「Lightning Mode™」により、従来の単一ヘッドAFMに対して160倍以上の画像取得スピードを達成し、ファブのインライン(量産ライン内)運用を可能にしました。
  • Sidewall Imaging Mode(最新の側壁計測技術)2026年に発表された独自の測定モード。特殊なカンチレバー設計とセンサーフュージョンにより、垂直方向だけでなく横(水平)方向の相互作用力も同時に検知します。これにより、GAAのナノシート側壁や、エッチングされた垂直なゲート構造の「側壁の傾斜角」「ラフネス(粗さ)」「均一性」を、ウエハを傷つけずに完全な3Dで再構築できます。
  • ウエハ反転クランプ構造ウエハを裏返し(逆さ)に真空ホールドし、下からプローブをアプローチさせる構造により、高アスペクト比の深いトレンチ(溝)の底やリセス(選択エッチング深さ)を、サブオングストローム(0.1ナノメートル以下)の解像度で正確に捉えます。

2. AUDIRA(オーディラ): 世界初のインライン非破壊「表面下(内部)」計測システム

 ウエハを物理的にカット(破壊)することなく、パッケージやチップの「内部に埋もれた構造や欠陥」をナノレベルで可視化・計測できる業界唯一の装置です。

 主にHBM4などの3D ICや先進パッケージング(チップレット)プロセスをターゲットとしています。

  • 音響(超音波)× AFMプローブの融合ウエハの多層構造に超音波を伝播させると、内部の異なる材料の界面や、ボイド(極小の空隙)に当たって音波が反射します。その結果生じるウエハ表面の微細なナノメートルレベルの振動を、表面に配置した超高感度AFMプローブが「聴き取る(Listen)」ことで、内部の状態を逆算して画像化します。
  • 「破壊検査(TEM)」からの脱却これまで、埋め込まれた配線や接合面を確認するには、ウエハを切断してTEM(透過型電子顕微鏡)で観察するしかなく、結果が出るまでに数日を要していました。AUDIRAは非破壊かつインライン(数分〜数十分)でこれを実現するため、開発から量産立ち上げまでの歩留まり改善サイクル(Time to Yield)を劇的に短縮します。
  • 主な用途次世代HBMや3D積層で使われる「ハイブリッドボンディング(Cu-Cu直接接合)」の接合面におけるボイド検出、位置ズレ(アライメント)測定、下層に埋もれた不透明な金属パターンの寸法計測。

従来技術とNFI装置の性能比較

評価指標光学式(OCDなど)CD-SEM(電子顕微鏡)従来のAFMNFI(QUADRA / AUDIRA)
解像度低〜中(モデル依存)高(水平方向のみ)極高(オングストローム級)極高(オングストローム級)
計測スピード極めて高速高速極めて遅い(研究室レベル)実用レベル(量産対応の高速化)
3D垂直構造(側壁など)複雑な形状は計算困難垂直な深い溝の壁は見えない探針の形状限界ありSidewall Imagingで正確に可視化
不透明な層の内部(表面下)金属層の下は見えない表面しか見えない表面しか見えない音響AFM(AUDIRA)で非破壊測定
デバイスへのダメージなし電子線によるレジスト収縮リスクなしなし(完全非破壊)

 NFIの装置は、KLAなどが得意とする「光学式やSEMによる広範囲・超高速な平面検査」を置き換えるものではなく、「これまで切断するしかなかった最難関の3D構造や内部欠陥を、インライン・非破壊でピンポイント計測する」という、極めて戦略的なポジションを確立しています。

独自の超高速3D原子間力顕微鏡技術で半導体を非破壊・インライン計測する装置です。表面・側壁の微細形状を測る『QUADRA』と、超音波で3D ICの内部を透視する『AUDIRA』の2機種を展開しています。

AFMとは何か

 AFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)とは、光学顕微鏡や電子顕微鏡(SEM)とは全く異なる原理を持つ、超高解像度の「走査型プローブ顕微鏡」の一種です。

 「極限まで尖った『針』で物質の表面を優しくなぞり、その凹凸をナノメートル(10億分の1メートル)以下の精度で立体的に測定する技術」です。

1. AFMの基本的な仕組みと原理

 AFMは、レンズで光や電子を集めて拡大するのではなく、物理的な「触覚」を利用します。

  • カンチレバーと探針(プローブ)先端に半径数ナノメートルという、原子レベルで尖った針(探針)がついた微細な板ばね(カンチレバー)を使用します。
  • 原子間力の検知探針を試料の表面に限界まで近づけると、探針の先端の原子と、試料表面の原子との間に「原子間力」という非常に微弱な引き合う力(万有引力のようなもの)や反発する力が働きます。
  • 光レバー方式によるレーザー検出原子間力によってカンチレバーがわずかに「しなる」ため、その裏面にレーザー光を当て、反射した光の位置の変化をフォトダイオード(光センサー)で読み取ります。これにより、原子1個分に満たない極微小な変位をキャッチします。
  • 3D画像の構築ピエゾ素子(精密に動くアクチュエータ)を使ってウエハなどの試料を水平(XY方向)にスキャンし、カンチレバーの上下の動き(Z方向)を記録することで、表面の精密な3次元鳥瞰図を作り出します。

2. 他の顕微鏡(光学・SEM)との違い

特徴光学顕微鏡電子顕微鏡(SEM)原子間力顕微鏡(AFM)
見えるもの光の反射・透過電子線の反射(二次電子)原子同士の物理的な力
解像度数百ナノメートル(光の波長限界)数ナノメートルサブナノ〜オングストローム(原子レベル)
高さ(Z軸)の計測苦手(ほぼ2D)苦手(影から推測する程度)極めて得意(完全な3Dデータ)
試料の条件特になし導電性が必要(真空環境)絶縁体、レジスト、生体でもOK
ダメージなし電子線による損傷・帯電リスクなし(非破壊)

3. なぜ今、最先端半導体でAFMが必要なのか?

 これまで半導体の製造ラインでは、電子を当てて高速に測定する「CD-SEM」が主役でした。しかし、プロセスが3nm以下に微細化し、構造が立体化(GAAや3D積層)したことで、AFMでなければならない理由が生まれました。

  1. 「深さ・高さ」が死活問題になったため最先端半導体は、トランジスタのゲートが立体的なナノシート状(GAA構造)になっており、縦方向の寸法やエッチングされた溝の深さを「正確な数値(ナノメートル)」として測る必要があります。SEMでは上からの平面的な画像しか見えませんが、AFMなら針が底や側壁まで届くため、ダイレクトに深さを計測できます。
  2. 電子線(SEM)によるレジストの破壊を防ぐためEUV(極端紫外線)露光で使う最先端のフォトレジスト(感光材)は非常に薄く繊細です。ここにSEMの強力な電子線を当てると、レジストが縮んだり壊れたり(収縮現象)してしまいます。AFMは原子の力をそっと検知するだけなので、完全非破壊で計測できます。

原子間力顕微鏡(AFM)とは、ナノレベルに尖った針で物質の表面をなぞり、原子間に働く微弱な力を検知して3D画像化する顕微鏡です。光や電子線を使わないため対象を傷つけず、超高精度に立体計測できます。

遅さをどのように克服したのか

 Traditional AFM(原子間力顕微鏡)の「とにかく遅い」という致命的な弱点を、Nearfield Instruments(NFI)は顕微鏡の概念そのものを根本から再設計する5つのアプローチで克服しました。

1. マルチプローブ(並列化)による「数で攻める」構造

 従来のAFMは「1枚のウエハに対し、1本の針でシコシコなぞる」ため時間がかかっていました。

 NFIは、AFMの測定ヘッド(Mini-SPM)を極限までミニチュア化し、1台の装置内に複数(主に4基)搭載しました。これにより、ウエハ上の異なる4箇所を完全に独立して同時にスキャン(並列処理)させ、スループットを物理的に数倍に跳ね上げています。

2. 160倍の爆速化を誇る「Lightning Mode™」

 2024年に新たに投入された機能で、従来の自動化AFMとベンチマークを比較した際、画像の取得速度を160倍以上へと向上させました。

 画素の取り込み速度(ピクセルレート)を最大1 MPx/s(毎秒100万画素)にまで高めており、これにより「点」の計測ではなく、量産ラインで実用的な「面・3Dイメージ」の高速スキャンを可能にしています。

3. 共振を置き去りにする「53 kHz」の超高速Zスキャナー

 針を高速で上下させると、どうしても物理的な「ブレ(共振)」が発生し、データがガタガタになります。

 NFIは独自のメカトロニクス設計により、垂直方向(Z軸)のスキャナーで最高53 kHz(毎秒5万3,000回振動)まで寄生共振(余計なブレ)が全く発生しないフラットな周波数応答を確立しました。

 これにより、超高速で針を動かしてもノイズに埋もれず、サブオングストローム(0.1ナノメートル以下)の精度を維持できます。

4. 激しい動きをねじ伏せる「6自由度アクティブ制振」

 ヘッドやウエハステージを高速で加減速させると、その反動(反力)で装置全体が揺れてしまいます。

 これに対し、NFIは「6自由度(6-DOF)メトロフレーム&アクティブ制振システム」を開発。ステージの急加速によって生じる反力をリアルタイムで計測し、打ち消す力を発生させることで、ナノレベルの計測ヘッド周辺を「完全に無音・無振動の空間」に保っています。

5. わずか「6秒」の全自動プローブ交換

 AFMの針は消耗品であり、高速で使えば摩耗します。従来の装置は針の交換、光軸の調整、キャリブレーション(校正)を手動で行うため、長時間のライン停止(ダウンタイム)が発生していました。

 NFIはこれを完全に自動化し、針の交換から位置調整、校正までをわずか6秒以下で完了するシステムを構築。運用上のタイムロスを極限まで削ぎ落としました。

 「顕微鏡を小さくして4つ同時に動かし(マルチプローブ)、毎秒100万画素の超高速でなぞり(Lightning Mode)、その激しい動きで生じるブレを超高応答スキャナーと制振フレームで完全に殺し、消耗した針は6秒で自動交換する

 この力技と超精密メカトロニクスの融合により、従来のAFMでは考えられなかった「1時間に10〜100枚のウエハ処理(条件による)」というファブ基準のスループットを叩き出しています。

ヘッドを複数並列で動かすマルチプローブ化や、毎秒100万画素の高速スキャン技術を確立。ブレを相殺する制振機構や針の自動交換を融合し、量産ラインに耐える劇的な高速化を達成しました。

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