この記事で分かること
マスバランス方式とは
リサイクル等の原料を通常原料と混合して製造する際、投入量に応じた「環境価値」を一部の製品に100%割り当てる管理手法です。専用設備を新設することなく、効率よくエコ製品を市場に流通させられます。
都市鉱山とは
廃棄されたスマホや家電等の電子機器を金属資源の山とみなす概念です。内部の基板等には金や銅、レアメタルが豊富に含まれており、天然の鉱山から採掘するよりも効率よく貴重な資源を回収・再資源化できます。
どのように銅として再利用するのか
回収した基板等を粉砕・選別後、高温の炉で溶かして不純物を取り除き「粗銅」にします。これをさらに電解槽で電気分解(電解精錬)することにより、純度99.99%以上のピュアな「電気銅」へと再生します。
三井金属のマスバランス方式によるリサイクル銅
三井金属が、グループ会社である日比共同製錬(岡山県)で生産される電気銅について、国際規格に準拠した「マスバランス方式」による都市鉱山からの100%リサイクル電気銅の供給をスタートしたことを発表しています。
製造業ではサプライチェーン全体での脱炭素(Scope 3対応)や資源循環が強く求められているため、最先端の電子材料や自動車向けなど、環境価値を重視する顧客にとって非常に魅力的な選択肢になると思われます。
マスバランス方式とは何か
マスバランス方式(物質収支方式)とは、「製造工程では他の原料と混ぜて作っちゃうけれど、帳簿(計算)上で『エコな価値』を特定の製品に100%割り当てる」というサプライチェーンの管理手法です。
特性の異なる原料が混ざってしまうプラスチックや金属、化学品などの業界で、脱炭素やリサイクルを急速に進めるための「大人の現実的な解決策」として今、世界中で導入が進んでいます。
どんな仕組みなのか
例えば、リサイクル原料を30%、通常の天然原料を70%混ぜて、100トンの製品を作るとします。
- 物理的な中身: 出来上がった100トンの製品は、どれを切り取っても「リサイクル成分30%」の均一な製品になります。
- マスバランス方式の適用: ここで「30%ぶんの価値」を1箇所にガチャンと集約します。
- 販売される製品: 「100%リサイクル品」として30トン販売する
- 残りの70トンは「普通の製品(リサイクル0%)」として販売する
物理的には30%しか入っていない製品でも、計算上「100%リサイクル品」と見なして売ってよい、という国際ルール(ISO規格など)に基づいた仕組みです。
なぜ、必要なのか
最大の理由は、「サステナブル社会への移行スピードを劇的に早めるため」です。
物理的に100%リサイクルされた製品だけを作ろうとすると、既存の巨大な製錬所や化学プラントとは別に、「リサイクル専用の新しい工場やパイプライン」を巨額の費用をかけて建て直さなければなりません。これではコストが高すぎて、環境に良い製品がいつまでも普及しません。
既存の設備をそのまま使いつつ、預かったエコ原料の分だけ「環境価値」を証明して流通させられるマスバランス方式は、非常に効率的でクレバーな手段です。
もちろん、不正が起きないよう、ISCC PLUSなどの厳格な国際的な第三者認証機関が厳しく監査する仕組みになっています。

マスバランス方式とは、リサイクル等の原料を通常原料と混合して製造する際、投入量に応じた「環境価値」を一部の製品に100%割り当てる管理手法です。専用設備を作らずに、効率よくエコ製品を流通させられます。
都市鉱山とは何か
都市鉱山(アーバンマイニング)とは、街の中でゴミとして廃棄されたり、使われずに眠ったりしているスマートフォンやパソコン、家電製品を「巨大な金属資源の山」と見なす概念のことです。1980年代に日本の研究者によって提唱されました。
電子機器の内部にある基板や部品には、金、銀、銅のほか、リチウムやコバルトといった貴重なレアメタル(希少金属)が豊富に使われています。これらを回収して再資源化する取り組みが、今まさに世界中で活発化しています。
なぜこれほど注目されているのか
大きく以下の2つの理由があります。
1. 天然の鉱山よりも「圧倒的に濃い」
一般的な金鉱山の場合、掘り起こした鉱石1トンから採れる金はわずか3〜5グラム程度です。
一方、使用済みの携帯電話やスマホを1トン集めると、なんと200〜300グラムもの金が採取できます。天然の鉱山を切り開くよりも、都市鉱山から回収するほうが圧倒的に効率が良いのです。
2. 日本は世界有数の「資源大国」になれる
日本は鉱物資源のほとんどを輸入に頼っていますが、実は都市鉱山としての埋蔵量は世界トップクラスです。物質・材料研究機構(NIMS)の試算によると、日本国内に眠る都市鉱山の規模は以下のように莫大です。
- 金: 約6,800トン(世界全体の現有埋蔵量の約16% / 世界3位に匹敵)
- 銀: 約60,000トン(世界全体の現有埋蔵量の約22% / 世界1位を凌駕)
課題は「回収」と「リサイクルコスト」
これほどポテンシャルがあるにもかかわらず、十分に活用しきれていない背景にはいくつかのハードルがあります。
- 回収率の低さ: 「昔のスマホが机の引き出しに眠ったまま」というケースが非常に多く、資源がリサイクルのルートに乗ってきません。
- 分別の難しさ: 電子機器はさまざまなプラスチックや金属が複雑に組み合わさっているため、手作業や高度な機械で細かく分別・粉砕するコストがかかります。
三井金属の「100%リサイクル銅」のような試みは、こうした都市鉱山からいかに効率よく、かつ高い品質で金属を取り戻せるかという、日本の資源循環を支える重要な技術なのです。

都市鉱山とは、廃棄されたスマホや家電等の電子機器を金属資源の山とみなす概念です。内部の基板等には金や銅、レアメタルが豊富に含まれており、天然鉱山より効率よく貴重な資源を回収・再資源化できます。
どのように、銅として再利用するのか
都市鉱山(使用済みの電子基板やスクラップ)から銅を最高純度の「電気銅」として再利用するまでには、主に「前処理」「乾式製錬(溶かす)」「電解精錬(電気で純化する)」という3つの主要なプロセスを経ます。
日本の製錬所が得意とする、具体的な技術フローは以下の通りです。
1. 前処理(回収・粉砕・選別)
集められたスマートフォンやパソコンの電子基板、家庭用エアコンの配管などは、そのままでは様々な物質が混ざりすぎていて処理できません。
- 破砕と選別: 巨大なシュレッダーで細かく粉砕し、磁力や風力、比重の差を利用して、鉄、アルミニウム、プラスチック、そして「銅や貴金属を多く含む濃縮物」に選別します。
2. 乾式製錬(炉で溶かして不純物を分離)
選別された銅濃縮物を、天然の銅鉱石と一緒に巨大な融解炉(自溶炉など)に投入し、1200℃以上の高温でドロドロに溶かします。
- 不純物の除去(スラグ化): 鉄やケイ素などの不要な金属は、酸素やフラックス(造渣剤)と反応して「スラグ」と呼ばれる軽い物質になり、表面に浮き上がってくるため分離・除去できます。
- プラスチックの有効利用: 基板に残っていたプラスチック成分は、炉の中で燃焼して自変動作の「燃料」や「還元剤」として機能するため、エネルギー効率を高める役に立ちます。
- 粗銅(そどう)の製造: 炉から取り出された銅は、さらに転炉と呼ばれる設備で精錬され、純度約99%の「粗銅」になり、板状(アノード)に鋳造されます。
3. 電解精錬(電気の力で純度99.99%へ)
ここが最終かつ最も重要なプロセスです。純度99%の粗銅を、さらに極限まで高純度化します。
- 電気分解: 硫酸銅の水溶液を満たした電解槽に、先ほどの粗銅(アノード=陽極)と、薄い純銅の板(カソード=陰極)を交互に並べて電流を流します。
- 純銅の析出: すると、陽極の粗銅から銅だけがイオンとなって溶け出し、陰極(カソード)側に吸い寄せられてピュアな銅としてギッシリと析出(付着)します。
- 電気銅の完成: これを削ぎ落として洗浄することで、純度99.99%以上の「電気銅(製品)」が完成します。
都市鉱山ならではの「最大の強み」
この電解精錬のプロセスにおいて、粗銅に含まれていた金、銀、プラチナ、パラジウムなどの貴金属やレアメタルは、酸に溶けずに電解槽の底にポロポロと沈殿します(これを陽極泥:アノードスライムと呼びます)。
銅をリサイクルする過程で、この底に溜まった泥から大量の金や銀を別ルートで高純度に回収できるため、銅の製錬プラントは「都市鉱山リサイクルの心臓部」として極めて重要な役割を果たしています。

回収した基板等を粉砕・選別後、高温の炉で溶かして不純物を取り除き「粗銅」にします。これをさらに電解槽で電気分解(電解精錬)することにより、純度99.99%以上のピュアな「電気銅」へと再生します。

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