この記事で分かること
GDPプラスの理由:雇用改善と賃金上昇に支えられた力強い家計消費に加え、企業の設備投資が成長を牽引しました。
設備投資が好調な業界:再エネ、デジタル、観光分野の投資が好調です。具体的には、太陽光・風力発電やグリーン水素の施設建設、AI導入やデータセンター等のDX投資、さらに過去最多の客数を背景としたホテル改装や物流網への投資が増加しています。
スペインGDP前期比+0.6%
スペイン国立統計局(INE)から発表された2025年第3四半期(7〜9月)の実質国内総生産(GDP)改定値は、前期比+0.6%となり、速報値(10月発表)から据え置かれました。この結果は市場の予想とも一致しています。
https://jp.reuters.com/markets/japan/2NWGRWU7XVIGBEOXZ2XVFDYYHA-2025-12-23/
スペイン経済は観光業の好調に加え、インフレの沈静化による実質所得の回復が追い風となっているようです。この堅調な内需が今後も続くかどうかが、2026年に向けた注目点になりそうです。
成長の理由は
スペインの第3四半期における+0.6%という成長は、外需の落ち込みを、力強い内需がはね返したという構図になっています。
欧州の他国(特にドイツ)が製造業の不振に苦しむ中で、スペインがなぜこれほど堅調なのか、その具体的な理由は以下の3つの柱に集約されます。
1. 「消費」と「投資」のダブルエンジン(内需の強さ)
第3四半期の成長の最大の立役者は国内需要です。
- 家計消費の拡大(前期比+1.2%): 雇用が非常に安定しており、失業率が2008年以来の低水準(約10.5%)まで改善しています。これに加えてインフレが落ち着き、賃金が上昇したことで、市民の購買力が回復しました。
- 企業の設備投資(前期比+1.7%): 企業が将来の成長に向けて積極的に投資を行っています。これは単なる景気循環だけでなく、後述するEU基金の活用も背景にあります。
2. 多角化する「サービス業」と「観光」
スペインといえば観光業ですが、最近の成長はそれだけではありません。
- 観光業の「質」の向上: 観光客数が過去最高を記録しているだけでなく、高付加価値なサービスへのシフトが進んでいます。
- 非観光サービス輸出の急増: IT、金融、ビジネスコンサルティングといった専門的なサービス輸出が伸びており、経済の構造がより強靭(レジリエント)になっています。
3. 国家戦略と外部要因
- EU復興基金の効率的な活用: EUから提供されている「次世代EU」基金を、デジタルトランスフォーメーションや再生可能エネルギー(グリーンエネルギー)への投資にうまく振り向けており、これが公的投資としてGDPを押し上げています。
- 移民による労働力の補完: 中南米やモロッコなどからの移民流入が、労働力不足を補うとともに、新たな消費需要を生み出し、経済を「若返らせる」効果を発揮しています。
まとめ
ドイツなどの北欧諸国が中国経済の減速やエネルギー価格の高騰に直面し、輸出主導のモデルが足踏みしているのに対し、スペインは「強い雇用に支えられた個人消費」と「エネルギーの自給率向上(再エネ)」という、外部環境の変化に強い体質へと変化していることが大きな理由となり、一人勝ちとなっています。

雇用改善と賃金上昇に支えられた力強い家計消費に加え、企業の設備投資が成長を牽引しました。ドイツ等の他国が輸出不振に苦しむ一方、スペインはEU基金の活用や観光・IT等のサービス業の好調で内需が拡大しています。
失業率低下とインフレが落ち着いた理由は何か
スペインの失業率が歴史的な低水準まで低下し、インフレが落ち着きを見せている背景には、複数の構造的・一時的な要因が組み合わさっています。
1. 失業率低下(2008年以来の低水準)の理由
スペインの失業率は2025年に入り10%台前半(2025年第3四半期は10.45%)まで改善しました。主な理由は以下の通りです。
- 労働市場改革(2021年〜)の効果: 以前のスペインは「使い捨て」の有期雇用(契約社員)が非常に多かったのですが、政府が有期契約を厳しく制限し、無期雇用(正社員)への転換を促しました。これにより雇用が安定し、企業も長期的な視点で人を雇うようになりました。
- 多角的な雇用創出: 好調な観光業だけでなく、IT・プロフェッショナルサービス・教育といった高付加価値な分野での雇用が急増しています。
- 労働力の拡大と移民の受け入れ: 労働需要の高まりに対し、中南米などからの移民流入が労働力を補い、経済全体の規模(生産と消費)を押し広げました。
2. インフレが落ち着いた理由
2025年のスペインのインフレ率は3%前後で推移しており、一時の激しい上昇から沈静化しています。
- 再生可能エネルギーの普及: スペインは欧州内でも太陽光や風力発電の導入が非常に進んでいます。2025年には雨量や風に恵まれた時期もあり、再エネによる発電コストの低下が電気料金の引き下げに大きく寄与しました。
- 政府の支援策: 公共交通機関の割引や、特定の食品に対する付加価値税(VAT)の減税措置を継続したことで、家計の負担が直接的に抑えられました。
- 欧州中央銀行(ECB)の利下げ転換: 物価上昇の勢いが弱まったことを受け、ECBが金利を引き下げ始めたことで、企業のコストや住宅ローンの圧力が緩和に向かいました。
まとめ
「失業率が下がると賃金が上がり、インフレが加速する」というのが経済の通説ですが、スペインの場合は「エネルギー価格の低下」と「労働改革による雇用の質向上」が同時に起きたため、物価を過度に押し上げることなく、安定した成長(=内需の拡大)を実現できているのが特徴です。

失業率は、2021年の労働改革で無期雇用が定着したことや、観光・IT部門の雇用拡大により歴史的低水準となりました。インフレは、先行して導入した再生可能エネルギーによる電気代の抑制と、食品減税等の政府支援が功を奏し、他国より早く沈静化しました。
どんな企業の設備投資が好調だったのか
スペインの第3四半期における設備投資(総固定資本形成)は、前期比で+1.7%と非常に力強い伸びを見せました。
好調だったのは、主に以下の3つの分野に関連する企業です。
1. 再生可能エネルギー・脱炭素分野
スペインは「欧州のグリーンエネルギー拠点」を目指しており、この分野への投資が突出しています。
- 太陽光・風力発電: 発電施設の建設や蓄電池(ストレージ)への投資。
- グリーン水素: 将来の輸出を見据えた製造プラントへの巨額投資。
- 企業の省エネ設備: 製造業などがエネルギーコスト削減のために導入する自家発電設備など。
2. デジタルトランスフォーメーション (DX) 分野
EUの復興基金(次世代EU)の恩恵を最も受けている分野です。
- IT・ソフトウェア: 業務効率化のためのシステム投資やAI(人工知能)の導入。
- データセンター: クラウド需要の拡大に伴い、マドリードなどを中心に建設投資が活発です。
3. 不動産・観光・物流インフラ
- ホテル・レジャー: 観光客の過去最多更新を受け、高級ホテルへの改装や新規建設投資が急増(2025年1〜9月でホテル投資は前年比大幅増)。
- 物流施設: eコマースの拡大と、生産拠点を近隣国に移す「ニアショアリング」の動きに対応した倉庫・物流センターの建設。
- 専門サービス: 企業のコンサルティングやバイオテクノロジー、ヘルスケア関連の設備投資。
企業の財務状況が健全であることに加え、EU復興基金という潤沢な公的資金が呼び水となり、民間企業が「今が投資のタイミングだ」と判断したことが、他国(ドイツ等)には見られない強気な投資姿勢につながりました。

再エネ、デジタル、観光分野の投資が好調です。具体的には、太陽光・風力発電やグリーン水素の施設建設、AI導入やデータセンター等のDX投資、さらに過去最多の客数を背景としたホテル改装や物流網への投資が、EU復興基金の活用を追い風に活発化しています。

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