この記事で分かること
合成ゴムの製造
石油ナフサ由来の原料(ブタジエンやスチレン)を溶媒中で触媒と反応させ、分子を鎖状に結合させる「重合工程」を行います。その後、凝固・乾燥を経てベール状に成形し、タイヤ工場で補強材等と混練して完成します。
ナフサからの原料合成
ナフサを高温で熱分解して分解ガスを得ます。ブタジエンはそこに含まれるC4留分から抽出蒸留で分離し、スチレンはエチレンとベンゼンから合成したエチルベンゼンを、さらに脱水素反応させることで製造されます。
日本ゼオンの合成ゴム製品値上げ
日本ゼオンが、自動車タイヤ向けの合成ゴムを含む製品価格の改定(値上げ)を発表しています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2140E0R20C26A4000000/
ホルムズ海峡の封鎖リスクやそれに伴う物流・原材料コストの高騰は、化学業界全体にとって非常に深刻な状況となっています。
自動車タイヤ向けの合成ゴムはどのように製造するのか
自動車タイヤに使われる合成ゴム(主にスチレン・ブタジエンゴム:SBR)は、石油から精製された原料を化学反応させて作られます。
製造プロセスは大きく分けて、化学的にゴム分子を作る「重合工程」と、それを製品にする「後処理工程」、そしてタイヤメーカーで行われる「配合・加工工程」に分かれます。
1. 合成ゴムの製造プロセス(化学工場)
合成ゴムメーカーで行われる製造工程は、主に溶液重合法という手法がとられます。
- 原料調整: 石油ナフサを分解して得られる「ブタジエン」と「スチレン」というモノマー(単量体)を、溶媒(ヘキサンやシクロヘキサンなど)と混ぜ合わせます。
- 重合: 触媒(有機リチウム化合物など)を加え、反応器内でモノマーを連鎖的に結合させ、長い分子鎖(ポリマー)を作ります。このプロセスにより、タイヤに求められる特定の分子構造や分子量を作り分けます。
- 凝固・分離: 重合が終わった溶液から溶媒を分離し、ポリマーを水中で凝固させます。
- 乾燥・梱包: 水分を除去し、乾燥させてから、扱いやすい大きさ(ベール)に成形して出荷します。
2. タイヤへの加工工程(タイヤ工場)
工場から出荷された合成ゴムベールは、タイヤメーカーで以下の工程を経て製品になります。
- 混練(こんれん): 合成ゴムに、カーボンブラック(補強材)、硫黄(架橋剤)、オイル、老化防止剤などを専用のミキサーで混ぜ合わせます。「コンパウンド」と呼ばれるこの工程が、タイヤの性能(グリップ力や摩耗性)を決定づけます。
- 押出・成型: 練り上げたゴムをタイヤの形状(トレッドなど)に押し出し、各パーツを作ります。
- 加硫(かりゅう): 成型したタイヤを金型に入れ、熱と圧力をかけます。この時、硫黄がゴム分子間を橋渡しする(架橋)ことで、ゴムが弾力性を持ち、製品として完成します。
タイヤの性能は、重合工程で「分子の構造をどう制御するか」、そして混練工程で「いかに配合剤を均一に分散させるか」という技術の積み重ねによって決まっています。

石油ナフサ由来のブタジエンやスチレンを原料とし、溶媒中で触媒を加え化学反応させる「重合工程」で分子を鎖状に結合させます。凝固・乾燥を経てベール状に成形され、タイヤ工場で補強材等と混練し製造されます。
値上げの理由は何か
今回の値上げの主な理由は、原材料価格の急騰と物流・エネルギーコストの上昇の2点に集約されます。
1. 原材料(ナフサ)価格の連動
合成ゴムの主原料であるブタジエンやスチレンは、石油製品である「ナフサ」から作られます。ホルムズ海峡の封鎖リスクなどの地政学的緊張により原油価格が跳ね上がったことで、ナフサの仕入れ価格が大幅に上昇し、メーカー側の自助努力で吸収できる限界を超えています。
2. 物流・エネルギーコストの増大
- 物流: 中東情勢の不安定化により、海上輸送ルートの迂回や船舶保険料の高騰、コンテナ不足が発生し、輸送コストが急増しています。
- エネルギー: 合成ゴムの製造(重合や乾燥工程)には多大な熱エネルギーが必要です。燃料価格の上昇がそのまま製造原価を押し上げています。
このように、原料安・円安・地政学リスクが重なったことで、製品価格への転嫁が避けられない状況となっています。

ホルムズ海峡の封鎖リスクに伴う原油・ナフサ価格の高騰が主因です。原料費に加え、製造工程でのエネルギー価格上昇、物流の迂回や停滞による輸送コスト増が重なり、自助努力での吸収が困難なため値上げが実施されます。
ナフサからブタジエンやスチレンはどう合成されるのか
ナフサからブタジエンやスチレンを作るプロセスは、大きく分けて「熱分解(スチームクラッキング)」と、そこから目的の物質を取り出す「分離・合成工程」の2段階で行われます。
1. ナフサの熱分解(スチームクラッキング)
まず、原料のナフサに水蒸気(スチーム)を混ぜ、分解炉の中で800℃〜850℃の高温で加熱します。
これにより、ナフサに含まれる長い炭化水素の鎖がプツプツと切断され、さまざまな基礎化学品が混ざった「分解ガス」が生成されます。
2. 各物質の抽出・合成
分解ガスには多くの物質が含まれており、ここからブタジエンやスチレンの素を取り出します。
- ブタジエンの製造(抽出):熱分解で生成された「C4留分(炭素が4つの混合物)」から抽出されます。ブタジエンは他の成分と沸点が近いため、単なる蒸留ではなく、溶媒を用いた抽出蒸留という手法で純度の高いブタジエンとして取り出されます。
- スチレンの製造(合成):スチレンは熱分解で直接たくさん取れるわけではなく、別の工程で合成するのが一般的です。
- 熱分解で得られたエチレンとベンゼンを反応させ、「エチルベンゼン」を作ります。
- このエチルベンゼンから水素を抜く(脱水素反応)ことで、スチレンモノマーが完成します。
製造フロー
- ナフサ + スチーム + 高温(800℃超)
- → 熱分解ガス(エチレン、プロピレン、C4留分、分解ガソリンなど)
- → C4留分から抽出 = ブタジエン
- → エチレン + ベンゼン = スチレン
このように、石油を「壊す(分解)」ことで得られるパーツを、「分ける」または「つなぎ合わせる」ことでタイヤの原料が作られています。

ナフサを800℃以上の高温で熱分解し、エチレンやC4留分等を含む分解ガスを得ます。ブタジエンはC4留分から抽出蒸留で分離し、スチレンはエチレンとベンゼンを反応させて得たエチルベンゼンを脱水素して合成します。
日本ゼオンの合成ゴムの特徴は何か
日本ゼオンの合成ゴム、特に自動車タイヤ向けを中心とした主な特徴は、「高度な分子設計技術」と「環境対応力」、そして「特殊ゴム分野での圧倒的シェア」の3点に集約されます。
1. タイヤの相反する性能を両立(S-SBR技術)
タイヤ向け主力製品であるS-SBR(ソリューション重合スチレン・ブタジエンゴム)において、独自の「変性技術」を持っています。
- 低燃費性とグリップ力の両立: 本来、転がり抵抗を下げて燃費を良くすることと、濡れた路面で止まる(ウェットグリップ)性能はトレードオフの関係にあります。ゼオンは、ゴム分子の末端をシリカ(補強材)と結びつきやすく加工する技術により、この両立を高いレベルで実現しています。
- Nipol®ブランド: 60年以上の歴史を持つ「Nipol(ニポール)」ブランドは世界中で信頼されており、超高性能タイヤ(UHPタイヤ)からエコタイヤまで幅広く採用されています。
2. 環境・サステナブルへの注力
2026年現在、脱炭素社会に向けた材料開発を加速させています。
- バイオ原料の活用: 植物由来のバイオナフサを原料としたブタジエンを使用し、ISCC PLUS認証を受けたサステナブルな合成ゴムの供給体制を整えています。
- 質量バランス方式(マスバランス方式): 既存の製造設備を活かしながら、バイオ原料を割り当てた製品を供給することで、品質を維持したまま環境負荷を低減しています。
3. 特殊ゴム分野での世界的な強さ
タイヤ以外にも、過酷な環境で使用される「特殊ゴム」に非常に強いのが特徴です。
- HNBR(水素化ニトリルゴム): 製品名「Zetpol®」で知られ、耐熱性・耐油性が極めて高いため、エンジンルーム内のベルトやホースに不可欠です。この分野では世界トップクラスのシェアを誇ります。
- C5留分の総合利用: ナフサから抽出されるC5留分(イソプレンなど)を高度に活用する独自技術を持っており、これが高付加価値な製品群の源泉となっています。
「燃費と安全性を両立させる分子レベルの設計力」に優れ、さらに「バイオ原料への転換」という時代の要請にもいち早く対応している点が、ゼオンが選ばれる大きな理由です。

独自の分子設計技術により、低燃費性とグリップ力という相反する性能を両立したS-SBRに強みを持ちます。また、耐熱・耐油性に優れた特殊ゴムでも世界高シェアを誇り、近年はバイオ原料の採用など環境対応も加速しています。

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