スタートアップの資金調達:Sakana AI

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この記事で分かること

1. Sakana AIの特徴

既存のAIモデル同士を掛け合わせて新モデルを自動生成する「進化的モデルマージ」が最大の特徴です。巨額の計算資源に頼らず、複数のAIを連携・進化させることで、低コストかつ高効率に高度なAIを開発します。

2. 多額の資金獲得ができた理由

Transformer著者のトップ研究者陣と、開発コストを大幅削減する独自技術が高く評価されたためです。加えてNVIDIAなど巨頭との提携や、日本のソブリンAI需要の追い風を受け多額の資金を獲得しました。

3. モデルの組み合わせ方法

既存モデルのパラメータ混合や層の接ぎ木で合体させ、テスト・選択・交配を繰り返す「進化アルゴリズム」を活用。試行錯誤を自動で高速回転させ、最も高精度になる最適な組み合わせを導き出します。

スタートアップの資金調達:Sakana AI

 2026年上半期のスタートアップの資金調達ランキングが発表されています。国内スタートアップ資金調達総額は約5,033億円(速報値・前年同期比約4%増)と堅調を維持しました。一方で、資金調達を実施した社数は1,061社(同35%減)へと大幅に減少しています。

 投資家による企業の選別と集中投資がより顕著になり、二極化が進んでいます。

 最も多くの資金調達は日本発の注目AIスタートアップである、Sakana AI、2位は次世代植物工場(アグリテック)のOishii Farmとなっています。

Sakana AIの特徴は何か

 Sakana AI(サカナAI)は、元Google Brainのトップ研究者や「Transformer」論文の共著者らが2023年に東京で設立した、日本発の注目AIスタートアップです。

 巨大IT企業(GAFA等)が進める「巨額の資金と巨大な計算資源(GPU)で単一の大型モデルをゼロから学習させる」という従来の開発スタイルに対し、まったく異なるアプローチで挑んでいる点に最大の特徴があります。

1. 独自技術「進化的モデルマージ(Evolutionary Model Merge)」

 ゼロから数百億円をかけてモデルを学習させるのではなく、既存の優秀なオープンソースモデル同士を「交配・変異」させて新しいモデルを自動生成する技術です。

  • 仕組み(進化論の応用): 「日本語が得意なモデル」と「数学が得意なモデル」などのレシピ(掛け合わせの比率)をランダムに作り、テスト結果(生存競争)が良いレシピを残して次世代へ継承させます。
  • メリット: 人間では思いつかないような斬新な組み合わせが自動発見され、数分〜数週間・わずかなコストで超高精度な新モデル(例:日本語と視覚情報を高度に扱えるモデルなど)を作り出すことができます。

2. 科学研究を完全自動化する「The AI Scientist」

 Sakana AIは、AIがアイデア出しから論文執筆、査読までを自律して行うシステムを開発・発表しています。

  • アイデアの創出 $\rightarrow$ 文献調査 $\rightarrow$ 実験コードの実装と実行 $\rightarrow$ グラフ作成 $\rightarrow$ 論文執筆 $\rightarrow$ 自動査読までの一連のプロセスを人間がほぼ介在せずに実行します。
  • 1論文あたりわずか数十ドル程度の計算コストで制作可能であり、AIが自ら新たな技術・知見を生み出す「再帰的自己改善」の先駆的な例として世界中から大きな注目を集めました。

3. 「魚の群れ(Swarm Intelligence)」から着想を得た分散・省エネ思考

 社名の「Sakana(サカナ)」は、「一匹一匹は小さくても、群れを成すことで巨大な生き物のように振る舞う魚の群れ」に由来しています。

  • 1つの巨大で重いAIを作るのではなく、「軽量で尖った能力を持つ複数のAIが連携・進化するエコシステム」を目指しています。
  • 電力消費や巨大GPUサーバーへの依存を劇的に抑えられるため、エネルギー問題や環境負荷への解決策としても期待されています。

4. 日本を拠点とした「ソブリンAI」と強力なグローバル連携

 GAFAのお膝元であるシリコンバレーではなく「東京」に拠点を置いていることも大きな戦略的特徴です。

  • 日本政府が進める「ソブリンAI(自国で主体的に開発・運用するAI基盤)」の潮流に合致しており、日本のデータや文化・産業領域に特化したモデル開発を得意としています。
  • NVIDIA、Google、NTT、KDDIなど、国内外のテックジャイアントや大手インフラ企業と矢継ぎ早に資本・業務提携を結び、日本最速級でユニコーン企業(評価額1,000億円超)へと急成長を遂げました。

 Sakana AIは、「自然界の進化や群れの知恵を応用し、巨額のコストをかけずに賢いAIを自動で生み出す」という、世界でも類を見ないユニークなアプローチでAI業界のルールを変えようとしている集団です。

既存のAIモデル同士を掛け合わせて新モデルを自動生成する「進化的モデルマージ」が最大の特徴です。巨額の計算資源に頼らず、複数のAIを連携・進化させることで、低コストかつ高効率に高度なAIを開発します。

なぜ多額の資金獲得が出来たのか

 Sakana AIが設立から短期間で多額の資金調達(数百億円規模、評価額数千億円のユニコーン化)を実現できた背景には、主に5つの大きな要因があります。

1. 世界トップレベルの創業者・研究者チーム

 「誰が作っているか」というチームの質の高さです。

  • 実績: AIの歴史的転換点となった論文『Attention Is All You Need(Transformer)』の著者の一人であるライオン・ジョーンズ氏や、元Google Brain、元Stability AI等のトップ研究者が創業。
  • 信頼性: 世界的に最先端のAI研究を牽引してきた超一流人材が集結したことで、グローバルVCから「成功確率が高い」と圧倒的な信頼を獲得しました。

2. 巨額コストを打破する「独自アプローチ」への期待

 従来のAI開発(OpenAIやGoogle等)は「数千億円の資金と膨大な電気・GPUを消費してゼロから学習させる」という資金力勝負でした。

  • Sakana AIは「既存モデルを合体・進化させて低コストで高度なAIを作る」という真逆の戦略(進化的モデルマージ等)を提示。
  • 「これまでの莫大なAI開発コストを大幅に削減できる革新技術」として、投資家から極めて高い投資対効果(ROI)が期待されました。

3. NVIDIAをはじめとするグローバルテック巨頭との戦略的提携

  • NVIDIAからの大型出資: AI半導体王者であるNVIDIAのジェンスン・フアンCEOが同社のアプローチを高く評価し、主要投資家として出資。
  • リソース確保: 単なる資金だけでなく、世界的に逼迫する最新GPUの優先利用権や研究協力といった強固なインフラ基盤を提示できたことが、他の投資家を呼ぶ大きな呼び水となりました。

4. 日本における「ソブリンAI(国産AI)」需要と大手企業の集中投資

  • 地政学的・産業的背景: 日本政府や産業界において「経済安全保障の観点から、海外巨大IT企業に依存しない自国主体のAI(ソブリンAI)を育成したい」という強いニーズが存在しました。
  • 国内大手の参画: NTT、KDDIなどの通信大手やメガバンク、総合商社、さらには米Googleなどのグローバル企業までが、日本発の最有力AI基盤としての将来性を見込み、次々と大型出資・提携に動きました。

5. 「The AI Scientist」など期待を裏切らない成果発表スピード

 資金調達の過程において、AIが自律して科学研究を行う「The AI Scientist」をはじめ、アイデアを単なるコンセプトで終わらせず世界を驚かせる最先端の研究成果をタイムリーに発表し続けたことで、市場の評価と期待値をさらに跳ね上げました。


トップクラスの人材」が「低コストで勝てる革新技術」を持ち、「NVIDIAや日本大手の強力な後押し」を得たことで、世界中の投資家からトッププライオリティの投資先として資金が集まりました。

Transformer著者のトップ研究者陣と、開発コストを大幅削減する独自技術が高く評価されたためです。加えてNVIDIAなど巨頭との提携や、日本のソブリンAI需要の追い風を受け多額の資金を獲得しました。

どのように、AIモデル同士の組み合わせを行うのか

 Sakana AIが実践している「進化的モデルマージ」は、大きく2つの軸でモデルを組み合わせ、その組み合わせ方を進化アルゴリズムで自動最適化しています。

1. 2つの「組み合わせ方」

 モデルの組み合わせ(合体)には、主に以下の2通りのアプローチがあります。

① パラメータ(重み)のブレンド

 2つ以上のモデルのパラメータ(重み)を、レイヤー(層)ごとに異なる比率で混ぜ合わせます。

  • 例: 「1層目はモデルAを70%+モデルBを30%」「10層目はモデルAを10%+モデルBを90%」のように、層ごとに細かく配合比率を調節します。
② レイヤー(構造)の接ぎ木

 モデルの「層(レイヤー)」そのものを抜き差しし、ブロックのように順番を組み替えて1つの新しいモデルに繋ぎ合わせます。

  • 例: 「モデルAの1〜10層」の直後に「モデルBの5〜20層」を繋ぎ、最後に「モデルAの25〜30層」をくっつける、といった配線替えを行います。

2. どうやって「最適な組み合わせ」を探すのか?

 パラメータの配合比率やレイヤーの繋ぎ方のパターンは無数に存在するため、人間が手作業で試すのは不可能です。ここで進化計算(CMA-ESなどのアルゴリズム)を使います。

1.合体レシピの大量生成(初期化・変異):第1世代。

 配合比率やレイヤーの並べ替えパターンをランダムに設定した「合体レシピ(遺伝子)」を何百パターンも自動生成します。

2.試作モデルのテスト(評価):適応度の測定。

 生成されたレシピ通りにモデルを合体させ、「日本語の読解力」「数学の解答力」「画像認識」などのテスト問題を解かせてスコア(成績)をつけます。

3.優れたレシピの生き残り(淘汰・選択):

 成績が良かった上位数%の優秀なレシピだけを残し、成績の悪かったレシピは破棄します。

4.レシピ同士の掛け合わせ(交配・次世代へ):第2世代以降。

 生き残った優秀なレシピ同士を掛け合わせ、さらに少しだけランダムな変化(変異)を加えて新しいレシピ群を作成します。

 この「生成→ テスト → 淘汰 → 交配」のサイクルをコンピューター上で数百世代にわたって高速で回すことで、「人間では絶対に思いつかないような、最も賢くなる組み合わせレシピ」を自動で発見します。

既存モデルのパラメータ混合や層の接ぎ木で合体させ、テスト・選択・交配を繰り返す「進化アルゴリズム」を活用。試行錯誤を自動で高速回転させ、最も高精度になる最適な組み合わせを導き出します。

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