この記事で分かること
搭載する専用AI半導体
TSMCの5nmプロセスで製造した自社設計ASICです。1,000 TOPS超の演算力を備え、カメラ13台やLiDARなどの大容量センサーデータの前処理やAI推論をリアルタイムかつ低遅延で処理します。
センサーフュージョンに必要な性能
異種センサーから届く毎秒数十GBのデータを遅延なく取り込む「超高帯域幅」と、ミリ秒単位で3D空間へ統合・推論する「超低遅延・高並列演算力」が必要です。省電力性と高い安全性・冗長性も求められます。
自社開発を進める理由
量産化に向けた車両コストの削減と、センサー・ソフト・ハードの垂直統合による低遅延・省電力化が目的です。汎用GPUへの依存を下げて調達を安定させ、無人運転に必要な独自の安全機能を強化する狙いもあります。
ウェイモ、ASICの自社開発
Alphabet傘下の自動運転企業ウェイモ(Waymo)は2、自社開発した5ナノメートルプロセスの専用AI半導体(ASIC)を自社のロボタクシーに搭載・量産化していることを明らかにしました。1
ロボタクシーの車両原価で大きな割合を占める計算用ハードウェアコストを、専用ASIC化によって大幅低減することや外部チップの需給逼迫や高価格化に対する依存度を下げ、自社主導の調達体制を構築することが目的と思われます。
どんな専用AI半導体を搭載しているのか
Waymoがロボタクシー(第6世代Waymo Driver)に搭載する専用AI半導体は、自動運転のリアルタイム推論とセンサー融合処理(センサーフュージョン)に特化したカスタムASIC(特定用途向け集積回路)です。
主要スペックとアーキテクチャの特徴
- 製造プロセスと演算性能: TSMCの5nm(ナノメートル)プロセスを採用し、単体で1,000 TOPS(毎秒1000兆回演算)以上の処理能力を備えます。これはNVIDIAの車載向け最先端プラットフォームと同等の演算密度です。
- センサーデータの前処理・統合(センサーフュージョン): 車載された高解像度カメラ(1,700万画素イメージャー等)、LiDAR(点群データ)、高精度レーダーから届く膨大な生のマルチモーダルデータを、極めて低いレイテンシで前処理・融合します。
- ニューラルネットワークの最適化: 3億キロを超える実走行データから得られた自社独自のAIアルゴリズム(認識・予測モデル)を高速かつ省電力で動かすため、汎用GPUにはない専用パイプラインを組み込んでいます。
信頼性と安全性の設計(車載仕様)
| 項目 | 特徴・設計仕様 |
| 冗長化(二重化)構成 | 万が一のシステム障害やチップ不具合に備え、車載コンピューター自体が独立した2系統のエンジン構成となっており、即座に制御を引き継げる冗長性を確保。 |
| 厳しい環境耐久性 | 車載グレード(自動車規格)に準拠し、走行中の高レベルな振動、衝撃、急激な温度変化(熱歪み)に耐える物理設計。 |
| 処理の効率化 | ハードウェアコンポーネントを集約することで、消費電力とシステムコストを従来世代から大幅に削減。 |
汎用のNVIDIA GPUで行っていた広汎な計算処理から、自動運転の「エッジ推論」と「高負荷センサー統合」に必要な機能だけを抽出・最適化したプロセッサです。

TSMCの5nmプロセスで製造された自社設計ASICです。合計1,000 TOPS超の演算力を備え、カメラ13台やLiDAR等のセンサーデータの前処理・融合やAI推論をリアルタイムかつ低遅延で処理します。
センサーフュージョンにはどんな性能が必要なのか
センサーフュージョンには、以下に示すように、カメラ・LiDAR・レーダーといった形式の異なる大容量データを遅延なく統合し、リアルタイムで周囲環境を正確に立体認識するための計算能力とデータ伝送能力が求められます。
| 要求性能 | 理由と具体的な技術要件 |
| 超低遅延(リアルタイム性) | 高速走行時の回避行動に直結するため、センサー入力から統合・認識までリ秒単位(数十ms以内)で処理しきる決定論的なリアルタイム処理能力。異種センサー間のマイクロ秒精度での時刻同期(タイムスタンプ合わせ)も不可欠。 |
| 超高帯域幅(大容量I/O) | 高解像度カメラの映像、LiDARの3D点群、レーダー情報など、車内から押し寄せる毎秒数十GBに及ぶデータ流を滞りなく取り込む広帯域インターフェース(PCIe Gen4/5、高速車載Ethernetなど)。 |
| 異種データ統合・並列計算力 | 2D(画像)、3D(点群)、1D/2D(電波・速度)といった構造の異なるデータを、共通の3D空間(鳥瞰図=BEVなど)へ即座に射影・融合するAI推論性能(数百〜1,000 TOPS以上)。 |
| 高い電力効率(TOPS/W) | 発熱を抑えつつEVの航続距離を損なわないため、少ない消費電力で最大限の演算パフォーマンスを引き出すワットパフォーマンス性能。 |
| 機能安全・冗長性 | ノイズや一部センサー・チップの障害時にもシステムを落とさない冗長設計と、自動車向け安全規格(ISO 26262 ASIL-Dなど)への対応。 |
汎用プロセッサでは「データ転送の遅延」や「処理のボトルネック」が生じやすいため、これらをハードウェアレベルで高速処理できる専用AI回路(ASIC/NPU)が必須となります。

異種センサーから届く毎秒数十GBのデータを遅延なく処理する「超高帯域幅」と、ミリ秒単位で3D空間へ即座に統合・推論する「超低遅延・高並列演算力」が必要です。省電力性と高い安全性・冗長性も求められます。
なぜ自社開発を進めているのか
WaymoがAI半導体の自社開発を進める最大の理由は、無人タクシー事業の本格的な量産・規模拡大に向けて、コスト・処理性能・サプライチェーンの主導権を自社で握るためです。
1. 車両原価と推論コストの大幅削減
- NVIDAなどの汎用GPUは非常に高価であり、量産展開時の車両コストを押し上げる大きな要因になります。
- 自動運転に必要な「センサーフュージョンとAI推論」に機能を絞り込んだ専用ASIC(特定用途向け半導体)にすることで、1台あたりの半導体コストを大きく引き下げられます。
2. センサー・ソフト・ハードの「垂直統合」による性能・省電力化
- 自社設計のセンサー、AIアルゴリズム、半導体を一体開発することで、データ転送の無駄を排除できます。
- 「センサー入力から車両制御まで」の遅延(レイテンシ)をミリ秒単位で削りつつ、消費電力を抑えてEVの航続距離やトランク容量(冷却・サイズ)への悪影響を防ぎます。
3. サプライチェーンの安定化と外部依存からの脱却
- 世界的なAIチップ需要の急増に伴う調達遅延や価格高騰から、自社ビジネスの成長スピードを守る狙いがあります。
- 完全に外部を排除するわけではありませんが、自社主導の調達手段(TSMC等への製造委託)を持つことで価格交渉力と調達の安定性を高めます。
4. Level 4自動運転に特化した安全性・冗長性の組み込み
- 人間のドライバーが搭乗しない完全無人タクシー(Level 4)では、チップ障害時に即座に予備へ切り替わる「物理的な二重化(冗長性)」回路が必須です。
- 2億マイル(約3.2億km)以上の走行実績データをもとに、過酷な車載環境(熱・振動)と独自の安全要件を回路レベルから直接設計に反映させています。

量産化に向けた車両コストの大幅削減と、センサー・ソフト・ハードの垂直統合による低遅延・省電力化が目的です。汎用GPU依存を下げ調達を安定化し、完全無人運転に必要な独自の安全機能を強化する狙いもあります。


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