この記事で分かること
BTレジンとは何か
高耐熱性・低熱膨張性・優れた耐湿性を併せ持つ熱硬化性樹脂です。熱歪みや信号損失を防ぐ特性から、半導体パッケージ基板のコア材(芯材)における世界標準材料として幅広く採用されています。
優れた特性を持つ理由
剛直なトリアジン環と芳香族構造をもち、副生成物のない加成反応で高密度な三次元網目構造を形成するためです。分子運動が強く抑制され、極性基も残らないため高耐熱・低熱膨張・高耐湿・低誘電特性を発揮します。
低吸湿でマイグレーションが防げる理由
マイグレーションは水が電解液やイオンの移動路として機能するため発生します。樹脂の低吸湿化により配線表面への水膜形成と内部の水路形成を防ぎ、金属のイオン化と電極間移動を根本から遮断できるからです。
半導体パッケージ基板:BTレジン
パッケージ基板とは、半導体チップ(ダイ)を載せ、マザーボードなどのメイン基板に接続するための中継基板のことです。半導体チップは非常に微細な端子を持ち、そのまま一般的なプリント基板(PCB)に直接実装することは極めて困難です。
そこでチップとマザーボードの間に介在し、電気信号を橋渡しする役割を持つのがパッケージ基板です。
従来の半導体の微細化による性能向上が限界に近づく中、半導体の先端パッケージング技術であるビルドアップ多層構造による高密度・微細配線が求められ、半導体性能向上の新たな競争軸となっています。
前回は、エポキシ樹脂の低CTE化に関する記事でしたが、今回はコア層の絶縁材料に使用されるBTレジンに関する記事となります。
BTレジンとは何か
BTレジン(ビスマレイミド・トリアジン樹脂)は、三菱ガス化学(MGC)が開発した高機能な熱硬化性樹脂です。ビスマレイミドとシアン酸エステル(トリアジン)を共重合させた材料で、半導体パッケージ基板(ICパッケージ基板)のコア材(芯材)における世界標準材料として広く使用されています。
コア材として採用される主な理由
一般的な電子回路基板(FR-4など)と比較して、半導体チップを直接搭載するパッケージ基板に求められる過酷な条件を満たす優れた物理特性を備えています。
- 高耐熱性(高いガラス転移温度: Tg): Tgが170〜230℃以上と非常に高く、リフロー(はんだ付け)時や半導体動作時の熱負荷に耐え、樹脂の軟化や歪みを防ぎます。
- 低熱膨張性(低CTE): シリコンチップ(熱膨張率:約3 ppm/℃)とメイン基板(FR-4:約15 ppm/℃)の中間的な熱膨張率を持ち、熱ストレスによる基板の反り(Warping)や接続部の破断を強力に抑制します。
- 高い耐マイグレーション性・耐湿性: 高温多湿な環境下でも銅配線が移動してショートする「耐イオンマイグレーション性」に優れ、配線の微細化(狭ピッチ化)に対応できます。
- 優れた高周波特性: 誘電率(Dk)および誘電正接(Df)が低く、5G通信や高速演算処理における電気信号の伝送損失を抑えます。
主な用途
ガラス繊維にBTレジンを浸み込ませた「BT積層板」として成形され、以下のような半導体パッケージのコア層として利用されています。
- メモリ用パッケージ: DRAMやNANDフラッシュメモリ(PBGA、eMMC等)
- 車載用・産業用IC: 高熱・高信頼性が求められるECU向けパッケージ基板
- ロジック・通信用IC基板: スマートフォンやPCのAP/CPU用BGA、CSP基板

BTレジン(ビスマレイミド・トリアジン樹脂)は、高耐熱性・低熱膨張性・優れた耐湿性を併せ持つ熱硬化性樹脂です。熱歪みや信号損失を防ぐ特性から、半導体パッケージ基板のコア材(芯材)として幅広く標準採用されています。
なぜビスマレイミドとトリアジンの重合物が優れた特性を持つのか
ビスマレイミド・トリアジン樹脂(BTレジン)が優れた特性を持つ最大の理由は、強固で対称性の高い芳香族・複素環構造と、副生成物(ガス)を出さずに形成される高密度な三次元網目(架橋)構造にあります。
高密度な三次元網目構造(高耐熱・低熱膨張)
ビスマレイミドとシアン酸エステル(トリアジン前駆体)が加成反応を起こし、気体を発生させずに極めて緻密な立体網目構造を形成します。
分子鎖の運動が著しく制限されるため、200℃を超える高いガラス転移温度(Tg)と、熱で膨張しにくい特性(低CTE)が生まれます。
トリアジン環と芳香族環の化学的安定性(耐熱性・熱分解耐性)
分子骨格に剛直なベンゼン環と、化学的に極めて安定で対称性の高い「トリアジン環(窒素と炭素の6員環)」が組み合わさっています。結合エネルギーが高く熱分解の起点となる構造的な弱点が少ないため、高温下でも劣化を起こしません。
低極性・非親水性の骨格(低誘電・高耐湿・耐マイグレーション)
一般的なエポキシ樹脂などと異なり、硬化時に極性基(OH基など)がほとんど発生しない反応機構を持ちます。極性基が極めて少ないため、吸水率が低く抑えられ、高温多湿環境での配線短絡(銅のイオンマイグレーション)を防止するとともに、高周波信号の伝送損失(誘電損失)を最小限に抑えます。
「構造的な剛直さ」と「極性基を残さない綺麗な架橋反応」が組み合わさっていることが、優れた信頼性を引き出している理由です。

剛直なトリアジン環と芳香族構造をもち、副生成物のない加成反応で高密度な三次元網目構造を形成するためです。分子運動が強く抑制され、極性基も残らないため、優れた高耐熱・低熱膨張・高耐湿・低誘電特性を発揮します。
イオンマイグレーションとは何か
イオンマイグレーション(エレクトロケミカルマイグレーション)とは、電界(直流電圧)と水分が存在する環境下で、基板上の金属配線がイオン化して移動し、異極間で再析出して回路の短絡(ショート)を引き起こす電解腐食現象です。
発生のメカニズム
- 金属の溶出(陽極): 配線表面に水膜(結露や湿気)が存在する状態で電圧が加わると、陽極(プラス側)の金属(銅や銀など)がイオン化して水膜中に溶け出します。
- イオンの移動: 溶け出した金属イオン(正イオン)が、電界に引かれて陰極(マイナス側)へ移動します。
- 金属の再析出(陰極): 陰極に達した金属イオンが電子を受け取り、再び金属として析出します。このとき、枝状の結晶(デンドライト)として成長します。
- 短絡(ショート): 成長したデンドライトが対向する陽極まで達すると、配線同士がつながり絶縁破壊を起こします。
発生する3大要因
- 金属: 銅(Cu)、銀(Ag)、スズ(Sn)などのイオン化しやすい配線・はんだ材料
- 水分: 高湿度環境、結露、または絶縁樹脂の吸水
- 電界: 微細化された狭ピッチ配線間にかかる直流電圧
対策
配線間隔が狭い半導体パッケージ基板では、吸水率が低くイオンをトラップしにくい樹脂(BTレジンなど)を採用することや、基板表面への防湿保護膜(ソルダーレジスト)の塗布が効果的な対策となります。

湿気や結露が存在する環境下で電圧が加わった際、金属配線がイオン化して移動・再析出し、異極間で結晶(デンドライト)となって回路の短絡(ショート)を引き起こす電解腐食現象のことです。
なぜ低吸湿でマイグレーションが防げるのか
イオンマイグレーションは「水」が電解液(イオンの伝導体)として機能することで発生するため、低吸湿化によって反応に必要なプロセスを根本から遮断できるからです。
1. 金属のイオン化(溶出)を防止
金属配線が陽極で電子を放出して金属イオン(Cu2+など)になるには、配線表面に溶媒となる液相の水が存在する必要があります。吸湿量が少なければ水膜が形成されず、イオン化反応自体が進行しません。
2. イオンの移動チャネル(伝導路)を遮断
樹脂が水分を吸うと、ポリマー内部の微細な隙間(フリーボイド)に水分子がつながり、配線間に連続した「水のトンネル」が形成されます。
低吸湿材料はこの水路の形成を防ぐため、イオンが対向する電極へ移動(拡散)する経路を無くします。
3. 水の電気分解による絶縁劣化の抑制
水分が存在すると電圧によって水の電気分解(H+ や OH– の発生)が起き、局所的なpHの変化や電界の歪みを引き起こして絶縁劣化を加速させます。水分を排除することで、こうした二次的な腐食・劣化プロセスも防ぎます。
低吸湿化はマイグレーションの発生要件(金属・電界・水分)から「水分」という媒体を取り除くことで、電解反応そのものを成立させなくする役割を果たしています。

マイグレーションは水が電解液やイオンの移動路として機能するため発生します。樹脂の低吸湿化により配線表面への水膜形成と内部の水路形成を防ぐことで、金属のイオン化と電極間移動を根本から遮断できるからです。


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