この記事で分かること

半導体パッケージ基板:CO2レーザーのメカニズム
パッケージ基板とは、半導体チップ(ダイ)を載せ、マザーボードなどのメイン基板に接続するための中継基板のことです。半導体チップは非常に微細な端子を持ち、そのまま一般的なプリント基板(PCB)に直接実装することは極めて困難です。
そこでチップとマザーボードの間に介在し、電気信号を橋渡しする役割を持つのがパッケージ基板です。
従来の半導体の微細化による性能向上が限界に近づく中、半導体の先端パッケージング技術であるビルドアップ多層構造による高密度・微細配線が求められ、半導体性能向上の新たな競争軸となっています。
前回はCO2(炭酸ガス)レーザーに関する記事でしたが、今回はCO2レーザーのメカニズムに関する記事となります。
なぜCO2レーザーで穴を開けることができるのか
CO2レーザーで穴をあけることができるのは、「光のエネルギーを一瞬で超高温の熱に変え、材料を爆発的に気化(蒸発)させて吹き飛ばしているから」です。
この加工メカニズムは「光熱的加工(熱的アブレーション)」と呼ばれ、以下の3つのステップがわずか数マイクロ秒〜ナノ秒(100万分の1〜10億分の1秒)という極めて短い時間で起きています。
CO2レーザーで穴が開く3段階のプロセス
光エネルギーの吸収(熱への変換)
CO2レーザーの赤外線光は、基板を構成する樹脂(エポキシ等)やシリカの分子結合と共鳴します。照射された光エネルギーはほぼ100%吸収され、一瞬で分子の劇的な振動(=熱)に変わります。
瞬時の加熱と熱分解
極小のスポットに超高エネルギーが集中するため、照射部の温度は一瞬で1,000℃以上に跳ね上がります。この熱によって樹脂の化学結合が断ち切られ、高分子が小さな分子へと熱分解されます。
気化と爆発的噴出(穴の形成)
分解された材料は液体を飛び越えて瞬時に気体(ガス)へと変わります。気化する際に体積が数百〜数千倍へ爆発的に膨張するため、溶けた樹脂や蒸気が強い内部圧力によって外へ一気に吹き飛びます。この材料が吹き飛んでなくなった跡が「穴(ビアホール)」となります。
なぜ周りが焦げずにきれいな穴になるのか?
ダラダラと加熱すると周囲の樹脂まで溶けて焦げてしまいます(熱損傷)。
CO2レーザービア加工機では、「周囲の材料に熱が伝わるスピードよりもはるかに速い時間(超短パルス)」で一気にエネルギーを叩き込みます。熱が周囲へ逃げる間を与えずに照射部だけを蒸発・飛散させるため、周囲の熱影響を最小限に抑えた綺麗なビア穴が完成します。

樹脂等の材料がCO2レーザーの光エネルギーを吸収して瞬間的に超高温となり、熱分解・気化します。体積の爆発的な膨張圧力で材料が外へ吹き飛ぶ(光熱的アブレーション)ことで、綺麗な穴が形成されます。
レーザーを照射する前にどんな処理をするのか
CO2レーザーを使用する場合、レーザーの光特性(銅に反射されやすい)や品質安定化のため、目的に応じた前処理が不可欠です。主な前処理には以下の種類があります。
主な前処理と目的
- 1. 銅箔の黒化処理(ブラウニング / マイクロエッチング)
- 目的: CO2レーザーの光吸収率を上げる(ダイレクト加工時)
- 内容: 表層の銅箔は赤外線(CO2レーザー)を反射してしまうため、薬液で銅箔表面を微細に粗化・酸化させて黒色化(または茶色化)します。これによりレーザー光の反射を抑え、熱を効率よく吸収させて銅箔ごと貫通できるようにします。
- 2. ウインドウ(マスク)形成エッチング
- 目的: 穴をあける位置の銅箔をあらかじめ除去する(コンフォーマル加工時)
- 内容: 銅ダイレクト加工を行わない場合、あらかじめフォトリソグラフィと化学エッチングによって、レーザーを照射したい場所の表層銅箔だけに穴(ウインドウ)を開けておき、露出した樹脂部分にCO2レーザーを照射します。
- 3. プリベイク(加熱乾燥処理)
- 目的: 樹脂の膨れ・層間剥離(デラミネーション)を防ぐ
- 内容: 樹脂内部に水分が含まれていると、レーザーの急激な加熱(1,000℃以上)で水分が瞬時に水蒸気化して爆発し、基板内部が破損します。これを防ぐため、事前にオーブンで加熱して完全に水分を飛ばします。
- 4. 保護コーティング(水溶性樹脂などの塗布)
- 目的: 加工時の飛散物(デブリ)付着防止
- 内容: レーザーで飛散した樹脂や金属の粉塵(デブリ)が基板表面に固着するのを防ぐため、事前に水溶性の保護膜を塗り、穴あけ後に水洗いでデブリごと洗い流す場合があります。

目的や加工方式に応じて前処理を行います。CO2レーザーの反射を防ぐ銅箔の黒化処理やエッチング(ウインドウ形成)、急加熱による破裂を防ぐプリベイク(乾燥)、飛散物付着を防ぐ水溶性膜塗布などが代表的です。
なぜ薬液で黒色化できるのか
薬液(アルカリ性の酸化処理液)によって銅(Cu)の表面が化学反応を起こし、黒色の酸化第二銅(CuO)などの微細な針状結晶が形成されるためです。
黒く見える理由は化学的・物理的な2つの要因によるものです。
- 化学的要因(黒色物質の形成)強酸化剤とアルカリを含む薬液が金属銅(Cu)と反応し、物質自体が黒色である酸化第二銅(CuO)へ変化します。
- 物理的要因(光のトラップ効果)表面にびっしりと生えた微細な針状結晶の隙間に光が入ると、内部で何度も多重反射を起こして閉じ込められます。光が外へ反射して出てこなくなるため、目には真っ黒に見え、CO2レーザー光の吸収率も飛躍的に高まります。

薬液で銅を酸化させ、黒色の酸化第二銅(CuO)の微細な針状結晶を形成します。生成物自体の黒色に加え、結晶の微細な隙間で光が多重反射して閉じ込められる(トラップ効果)ことで表面が黒色化します。
なぜCO2レーザーは黒色化すると反射しないのか
通常、裸の金属銅(Cu)は自由電子を豊富に持つため、CO2レーザーのような遠赤外線(電磁波)を鏡のように95%以上反射してしまいます。
黒色化処理(酸化処理)を行うと、以下の「物性的要因」と「構造的要因」の相乗効果によって反射率が劇的に下がり、レーザーエネルギーを吸収できるようになります。
1. 物性的要因:金属(導体)から酸化物(誘電体)への変化
- 自由電子による反射の抑制
- 金属銅の表面が酸化第二銅(CuO)に変わることで、表面から自由電子が減少し、光を跳ね返す性質が弱まります。
- 赤外線による格子振動(熱変換)
- 酸化物であるCuOは、CO2レーザーの波長(約10.6μm)のエネルギーを結晶格子の振動(フォノン吸収)として受け取る性質を持っています。これにより、光のエネルギーが即座に熱へと変換されます。
2. 構造的要因:微細構造による「光トラップ(多重反射)」
- 多重反射による光の閉じ込め
- 黒色化された表面には、サブミクロン(1万分の1mm)単位の微細な針状・複雑な凹凸結晶がびっしりと形成されています。
- エネルギーの減衰
- この微細な隙間にレーザー光が入射すると、凹凸の壁面にあたるたびに反射と吸収を何十回・何百回と繰り返します(多重反射)。1回ごとの反射で光エネルギーが熱として奪われるため、最終的に光が外へ飛び出せなくなり、ほぼ100%吸収されます。

金属銅は自由電子によりCO2レーザーを弾きますが、黒色化された酸化第二銅(CuO)は赤外線を熱に変換しやすい性質を持ちます。さらに表面の微細な凹凸が光を多重反射させ内部に閉じ込めるため反射しなくなります。


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