人工石灰石を用いた複合化ポリプロピレン(PP)樹脂の開発のニュースについて

この本や記事で分かること

・複合化ポリプロピレンとなにか、どのような場面で使用されているのか

・新しく開発された素材の利点は何か

複合化ポリプロピレンの新開発

 住友大阪セメントと日泉ポリテックは、CO₂を再資源化して得られる人工石灰石を用いた複合化ポリプロピレン(PP)樹脂の開発に成功したことがニュースとなっています。

 この新素材は、環境負荷の低減に寄与することが期待されています。engineer.fabcross.jp

複合化ポリプロピレンとは何か

 複合化ポリプロピレン(複合PP)とは、ポリプロピレン(PP)に他の材料を混ぜて、特性を向上させたプラスチック材料のことです。一般的に、強度・剛性・耐熱性・耐摩耗性などを向上させる目的で、無機フィラー(ガラス繊維・炭酸カルシウム・タルクなど)やエラストマー(ゴム系材料)を添加したもののことを指します。

 今回の新素材では、無機フィラーを二酸化炭素から作り出すことで、環境負荷低減を可能にしたことでニュースとなっています。

複合化ポリプロピレン(複合PP)とは、ポリプロピレン(PP)に他の材料を混ぜて、特性を向上させたプラスチック材料のことです。

複合化ポリプロピレンはどのようなものに利用されているのか

 複合化ポリプロピレンは、フィラーの種類や配合量を変えることで、特定の用途に合わせた性能を最適化できるため、以下のようなさまざまな産業で広く使用されています。

1. 自動車産業

  • 車体部品(バンパー、インパネ、ドアパネルなど)
  • 軽量化と強度向上が求められる部品で、特にガラス繊維強化PPが多く使用されます。

2. 家電製品

  • 洗濯機のカバー、冷蔵庫、エアコンの外装
  • 強度、耐熱性、耐衝撃性が求められるため、複合PPが好まれます。

3. 包装材料

  • 食品包装、日用品のパッケージ
  • 環境に配慮した軽量化コスト削減の目的で使用されることが多いです。

4. 建材・建築

  • 床材、壁材、断熱材
  • 耐摩耗性、耐候性、耐久性が重要な建材用途において、タルクや炭酸カルシウムが充填されることが多いです。

5. 消費財

  • おもちゃ、家具部品、スポーツ用品
  • 耐衝撃性やデザイン性が重要な消費財に使用されます。

複合化ポリプロピレンは、フィラーの種類や配合量を変えることで、特定の用途に合わせた性能を最適化できるため、以下のようなさまざまな産業で広く使用されています。

複合化ポリプロピレンはどのように合成されるのか

 複合化ポリプロピレン(複合PP)は、基本的に 溶融混練(コンパウンディング) という方法で合成されます。これは、ポリプロピレン(PP)にフィラー(無機材料)や添加剤を均一に混ぜるプロセスです。

① 原料の準備

  • ポリプロピレン(PP)(主成分)
  • フィラー(補強材・充填材)
    • 無機フィラー(ガラス繊維、タルク、炭酸カルシウム、人工石灰石 など)
    • 有機フィラー(炭素繊維、セルロース繊維 など)
  • 添加剤(性能向上のため)
    • 可塑剤(柔軟性を向上)
    • 酸化防止剤(耐熱性・耐劣化性を向上)
    • 分散剤(フィラーを均一に分散)

② 押出機で溶融混練(コンパウンディング)

  • 二軸押出機(ツインスクリューエクストルーダー)を使用
  • 高温(約200~250℃)でPPを溶融
  • フィラーや添加剤を均一に分散させながら混ぜる(コンパウンド化)
  • 押し出し成形してペレット状(粒状)にする

③ 成形加工

ペレットを射出成形、押出成形、ブロー成形などの方法で、最終製品(自動車部品、家電筐体、包装材料など)に加工

複合化ポリプロピレンは、ポリプロピレンの溶融とフィラー、添加剤との混合、成形という手順で行われます。

人口石灰石と標準的な石灰石の違いは何か

 無機フィラーには、ガラス繊維・炭酸カルシウム・タルクなどが用いられていますが、今回の開発では炭酸カルシウム=石灰石を二酸化炭素由来の人口石灰石に変えることで環境負荷の低減を行っています。

 1. 普通の石灰石(天然石灰石)

  • 主成分:炭酸カルシウム(CaCO₃)
  • 由来:海洋生物(貝殻やサンゴ)の堆積によって形成された天然資源
  • 採取方法:鉱山から採掘
  • 環境負荷:採掘に伴うCO₂排出や土地改変の影響がある

2. 人工石灰石

環境負荷大気中や工場排ガスのCO₂を再利用できるため、カーボンニュートラルに貢献

・主成分:炭酸カルシウム(CaCO₃)

・由来工業的にCO₂を利用して合成

・生成方法:工場で二酸化炭素(CO₂)と石灰(Ca(OH)₂)を反応させることで生成

 大気中の二酸化炭素や工場の排ガスを利用して、炭酸カルシウムを作り出すことができれば、二酸化炭素排出量削減や二酸化炭素の固定化につなげることが可能となります。

 一方で、石灰(Ca(OH))を製造する際には、石灰石(CaCO)を高温(約900~1000℃)で焼成(熱分解)して生石灰(CaO)合成しています。

石灰石の焼成(キルン処理)(強熱分解)

 CaCO3→CaO+CO2

生石灰(CaO)に水を加えて消石灰(Ca(OH)₂)にする CaO+H2O→Ca(OH)2

 石灰石の焼成時には二酸化炭素が発生します。また、強熱による分解時に化石燃料由来の二酸化炭素の発生も考えられます。

 廃棄物由来のCa(OH)₂の使用、分解時に発生する二酸化炭素の再利用、再生可能エネルギーの使用などで環境負荷低減、二酸化炭素の固定化技術として利用

二酸化炭素から炭酸カルシウムを作り出すことで、二酸化炭素の排出削減、固定化に貢献が期待される技術です。

まとめ

 今回の開発では、二酸化炭素から炭酸カルシウムを作り出し、それをポリプロピレンにフィラーとして添加することで、複合化ポリプロピレンとして使用することを可能とした技術です。

 石灰石の焼成時にの二酸化炭素が発生や強熱による分解時に化石燃料由来の二酸化炭素の発生も考えられますが、製造工程内での二酸化炭素の排出を少なくすることができれば、二酸化炭素の固定化技術としても有望と考えられます。

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