この記事で分かること
コア層の高Tgエポキシ樹脂とは
耐熱指標であるガラス転移温度(Tg)を170〜200℃以上に高めたエポキシ樹脂です。半導体実装時の高温(約260℃)や稼働時の発熱による基板の反りを抑え、スルーホール等の断線故障を防ぐコア層材料です。
ガラス転移温度を上げる仕組み
樹脂の分子構造にベンゼン環などの硬い芳香環骨格を導入して熱運動を抑えるとともに、多官能エポキシや硬化剤を用いて架橋密度(網目構造の密度)を高めることで、分子鎖が動き出す温度(Tg)を引き上げています。
有力メーカーと市場傾向
有力メーカーはレゾナック、三菱ガス化学、パナソニックや台湾EMC、韓国Doosan等です。汎用基板は中国・台湾勢が過半を占めますが、ICパッケージ用高Tg材は日台韓の主要数社が市場を分け合っています。
半導体パッケージ基板:高Tgエポキシ樹脂
パッケージ基板とは、半導体チップ(ダイ)を載せ、マザーボードなどのメイン基板に接続するための中継基板のことです。半導体チップは非常に微細な端子を持ち、そのまま一般的なプリント基板(PCB)に直接実装することは極めて困難です。
そこでチップとマザーボードの間に介在し、電気信号を橋渡しする役割を持つのがパッケージ基板です。
従来の半導体の微細化による性能向上が限界に近づく中、半導体の先端パッケージング技術であるビルドアップ多層構造による高密度・微細配線が求められ、半導体性能向上の新たな競争軸となっています。
前回は半導体パッケージ基板のコア層に関する記事でしたが、今回はコア層の絶縁材料として使用される高Tgエポキシ樹脂に関する記事となります。
コア層の高Tgエポキシ樹脂とは何か
高Tgエポキシ樹脂とは、耐熱性の指標である「ガラス転移温度(Tg:Glass Transition Temperature)」を高く設計したエポキシ樹脂のことです。
半導体パッケージ基板(主にBGA基板など)のコア層(土台)として用いられる、非常に重要な耐熱・高信頼性材料です。
1. 「Tg(ガラス転移温度)」とは何か
樹脂などの高分子材料は、温度が上がると「固くカチカチな状態(ガラス状態)」から「柔らかく変形しやすい状態(ゴム状態)」へ急激に性質が変わります。この切り替わる境界の温度をTgと呼びます。
- Tgを超えるとどうなるか?
- 樹脂が軟化するだけでなく、熱膨張率(CTE)が急激に(約3〜5倍)増大します。
2. なぜ「高Tg」である必要があるのか
汎用の基板材料(FR-4など)のTgが130〜150℃程度であるのに対し、パッケージ基板用の高Tgエポキシ樹脂は170〜200℃以上の耐熱性を持っており、以下のような利点となります。
① リフロー工程(約260℃)やチップ発熱時の「反り」を抑える
半導体を基板にはんだ付けする際、リフロー炉で約260℃の高温に晒されます。
Tgが高い樹脂を使うことで、加熱時でも樹脂が柔らかくなりにくく、熱膨張による基板の激しい反り(Warpage)を防ぐことができます。
② スルーホール(貫通穴)の破断を防ぐ
基板の厚み方向(Z方向)に貫通している導通穴(スルーホール)は、熱で樹脂がZ方向に膨張すると、内壁の銅めっきが引っ張られてちぎれてしまう(スルーホールクラック)リスクがあります。
高Tg樹脂はZ方向の膨張を抑え、電気的接続の信頼性を大幅に向上させます。
③ 高温下での長期信頼性(絶縁性)の保持
サーバーや車載半導体など、稼働時に常時高温になる環境でも、樹脂が熱劣化せず高い電気絶縁性を維持できます。
3. 通常のFR-4と高Tgエポキシ樹脂の比較
| 項目 | 汎用エポキシ(一般FR-4) | 高Tgエポキシ樹脂 |
| ガラス転移温度(Tg) | 130 ℃ 〜 150 ℃ | 170 ℃ 〜 200 ℃ 以上 |
| 主な用途 | 家電・PCのメイン基板(マザーボード) | BGAパッケージ基板、車載・産業用基板 |
| 熱膨張(CTE)の安定性 | 高温で膨張しやすい | 高温でも寸法変化が少ない |
| コスト | 安価 | やや高価 |

高Tgエポキシ樹脂とは、「高温下でも柔らかくならず、熱膨張しにくいよう骨格を強化したエポキシ樹脂」です。BGAなどのパッケージ基板において、はんだ付け時の高温やチップ自体の激しい発熱に耐え、「基板の反り」や「内部配線の断線」を防ぐための必須材料となっています。
どのようにガラス転移温度を上げているのか
エポキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)を上げる根本的なメカニズムは、「熱エネルギーによる分子鎖の運動(うねり運動)をいかに抑え込むか」にあります。
主に以下の4つのアプローチを組み合わせてTgを引き上げています。
1. 架橋密度(網目構造の密度)を高める
樹脂が固まる(硬化する)際、分子同士を結びつける「つなぎ目」の数を増やす手法です。
- 多官能エポキシ樹脂の使用
一般的なエポキシ樹脂(ビスフェノールA型)は1分子中に反応基が2つ(2官能)ですが、これを3つや4つ以上持つ「ノボラック型エポキシ樹脂」などに変更します。 - 効果
つなぎ目が増えて網目構造が非常に密になるため、高温になっても分子鎖が動ける隙間(自由体積)がなくなり、Tgが大幅に上昇します。
2. 分子骨格(主鎖)を「剛直(硬く)」にする
分子そのものの構造を、回転しにくい硬い骨格に置き換える手法です。
- 芳香環・多重環構造の導入
曲がりやすい柔らかい直鎖状(脂肪族)の構造を減らし、ベンゼン環、ナフタレン骨格(2重環)、ビフェニル骨格、ジシクロペンタジエン構造などの固い環状構造を分子内に組み込みます。 - 効果
分子の「関節」に当たる部分が化学的に固定されるため、熱を加えても分子自体が変形しにくくなり、Tgが高くなります。
3. 高Tgを与える「硬化剤」を選定する
エポキシ樹脂は単体では固まらず、硬化剤と反応して巨大な網目構造を作ります。そのため、硬化剤側の構造も極めて重要です。
- フェノールノボラック硬化剤や酸無水物
パッケージ基板用途では、耐湿性と高Tgを両立できるフェノールノボラック系硬化剤が一般的です。硬化剤自体にも多官能かつ芳香環を持つ構造を選ぶことで、硬化後の全体の剛性を高めます。
4. ナノフィラー(無機充填剤)による運動拘束
樹脂の化学構造だけでなく、物理的なコンポジット(複合化)技術も使われます。
- ナノシリカ等の高充填
樹脂内部に極小の無機フィラー(シリカなど)を敷き詰めます。樹脂分子とフィラー表面が強力に相互作用することで、フィラー周辺の樹脂分子の熱運動が物理的に拘束され、結果として全体のTgが向上します。
高Tg化における技術的トレードオフ(課題)
単にTgを上げるだけなら架橋密度を極限まで高めればよいのですが、ここには大きなトレードオフが存在します。
- 脆化(脆くなる): 網目が密になりすぎると、ガラスのように硬く脆くなり、衝撃やストレスでクラック(ひび割れ)が入りやすくなります。
- 吸水率の増加: 反応基が増えすぎると極性基が残りやすくなり、湿気を吸いやすくなって電気絶縁性が落ちる場合があります。
そのため、現在のパッケージ基板用高Tgエポキシ樹脂では、「ナフタレン骨格などで分子を硬くしつつ、靭性(粘り強さ)を保つエラストマー成分を微量添加する」といった高度な分子設計が行われています。

樹脂の分子構造にベンゼン環などの硬い芳香環骨格を導入して熱運動を抑えるとともに、多官能エポキシや硬化剤を用いて架橋密度(網目構造の密度)を高めることで、分子鎖が動き出す温度(Tg)を引き上げています。
コア層の高Tgエポキシ樹脂の有力メーカーはどこか
半導体パッケージ基板のコア層に使われる「高Tgエポキシ樹脂(高Tg銅張積層板:CCL)」は、高度な材料調合技術と低熱膨張化(低CTE)が求められるため、日系・台湾系・韓国系の大手材料メーカーが市場をほぼ占有しています。
日本メーカー(ハイエンド・パッケージ基板で圧倒的信頼)
- レゾナック(Resonac / 旧日立化成・昭和電工マテリアルズ)
- 特徴: パッケージ基板用高TgエポキシCCL(「MCL-E-700G」シリーズなど)における世界的大手。低反り(低CTE)・高耐熱特性に優れ、BGA基板のコア材として高いシェアを維持しています。
- 三菱ガス化学(MGC)
- 特徴: 自社開発の「BTレジン」で非常に有名ですが、改性高Tgエポキシや複合樹脂材料でも世界トップクラス。パッケージ基板材料市場でレゾナックとともに業界の価格改定や仕様標準をリードする立場にあります。
- パナソニック インダストリー
- 特徴:超低伝送損失材料「MEGTRON(メグトロン)」シリーズを展開。高Tgエポキシや変性PPE樹脂を用いた高周波・高速通信向けコア材で強い存在感を持ちます。
台湾メーカー(AIサーバー・高速伝送向けで急成長)
- EMC(Elite Material / 台光電子)
- 特徴:高速伝送用・高Tg CCL市場において世界シェアトップクラス(約18〜19%)を誇る最大手の一社。
- ITEQ(聯茂電子)/ TUC(台燿科技)
- 特徴:環境対応(ハロゲンフリー)の高Tgエポキシ材料やハイエンドPCB/パッケージ用CCLで高い世界シェアを持ちます。
韓国メーカー
- Doosan Corporation(斗山)
- 特徴:電子材料事業部がICパッケージ用およびAI半導体基板用CCLに注力。NVIDIAをはじめとするAIプロセッサ向け基板材料の主要サプライヤーとして近年大きくシェアを拡大しています。
2. 市場シェア
銅張積層板(CCL)全体の市場と、パッケージ基板向けハイエンド市場ではシェア構造が大きく異なります。
【汎用基板向け CCL】 中国・台湾メーカーが過半(Kingboard, Shengyi等)
【ICパッケージ用 高Tg CCL】 日・台・韓の主要数社による少数精鋭市場
- 全体市場(汎用FR-4含む)
- 中国のKingboard(建滔積層板)やShengyi Technology(生益科技)が量産効果でトップシェア(各14%前後)を握ります。
- ICパッケージ基板用(ハイエンド高Tg)
- 日系勢(レゾナック、三菱ガス化学、パナソニック等)が強固な技術障壁を背景に高付加価値領域で高いシェアを占めます。
- 近年ではAI半導体・高周波通信の急速な拡大に伴い、EMC(台湾)やDoosan(韓国)が急台頭し、高Tg・低損失CCL分野で日系勢と激しくシェアを競い合っています。

有力メーカーはレゾナック、三菱ガス化学、パナソニック、台湾EMC、韓国Doosan等です。汎用基板は中国・台湾勢が過半を占めますが、ICパッケージ用高Tg材などの高付加価値領域は日台韓の主要数社が市場を分け合っています。


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