半導体パッケージ基板:エポキシ樹脂の低CTE化

半導体パッケージ基板のイメージ画像 半導体パッケージ基板

この記事で分かること

低CTE化(熱膨張抑制)技術とは

基板の熱膨張係数(CTE)をシリコンの膨張率に近づけ、加熱時の熱歪みや反りを防ぐ技術です。超低熱膨張のシリカフィラーの高充填、低CTEガラスクロスの採用、樹脂自体の分子骨格の剛直化等で実現します。

シリカフィラー増加のデメリット

樹脂の流動性が落ちボイド等の成形不良が生じやすくなるほか、硬いシリカによりドリル摩耗やレーザー加工性の低下を招きます。また、樹脂が脆くなりクラックが入りやすくなることや、剥離リスクの増大も難点です。

ガラスのCTEを低くする仕組み

網目構造を切断するアルカリ成分を徹底削減し、主成分シリカの比率を高めるとともにアルミナ等で結合を補強します。3次元の強固な網目構造を保つことで、加熱時の分子運動による熱膨張を物理的に抑え込みます。

半導体パッケージ基板:エポキシ樹脂の低CTE化

パッケージ基板とは、半導体チップ(ダイ)を載せ、マザーボードなどのメイン基板に接続するための中継基板のことです。半導体チップは非常に微細な端子を持ち、そのまま一般的なプリント基板(PCB)に直接実装することは極めて困難です。

 そこでチップとマザーボードの間に介在し、電気信号を橋渡しする役割を持つのがパッケージ基板です。

 従来の半導体の微細化による性能向上が限界に近づく中、半導体の先端パッケージング技術であるビルドアップ多層構造による高密度・微細配線が求められ、半導体性能向上の新たな競争軸となっています。

 前回はコア層の絶縁材料として使用される高Tgエポキシ樹脂に関する記事でしたが、今回は高Tgエポキシ樹脂における熱膨張抑制に関する記事となります。

低CTE化(熱膨張抑制)技術とは何か

 高Tgエポキシ基板の「低CTE化(熱膨張抑制)技術」とは、加熱・冷却時に基板が伸び縮みする割合(熱膨張係数:CTE = Coefficient of Thermal Expansion)を極限まで小さくし、シリコンチップ(CTE: 約3 ppm/K)の熱伸縮に近づける技術です。

 シリコンチップと基板のCTE差が大きいと、リフロー工程(約260℃)や稼働時の熱ストレスで基板が弓なりに反り、はんだボールの破断やチップの亀裂を引き起こします。これを防ぐため、材料面から主に以下の3つのアプローチで低CTE化を実現しています。

1. シリカフィラー(無機充填剤)の超高充填技術

 最も効果的かつ主要な技術です。樹脂自体は熱で大きく膨張(CTE: 50〜70 ppm/K程度)するため、熱膨張率が極めて低い球状シリカ(CTE: 約0.5 ppm/K)などの無機微粒子を樹脂中に限界まで敷き詰めます。

  • 高充填化(70〜80 wt%以上): 樹脂の割合を減らし、シリカで埋め尽くすことで基板全体の膨張を物理的に抑え込みます。
  • 粒径制御と表面処理: 粗い粒子とナノ粒子を組み合わせて隙間なく充填(最密充填)し、シランカップリング剤で樹脂と強固に密着させることで、流動性と機械強度を両立させています。

2. 低CTEガラスクロスの採用

 コア層の芯材となる「ガラス繊維の布(ガラスクロス)」を、より熱膨張率の低いガラス材質へ置き換えます。

  • Eガラスから低CTEガラスへ: 汎用のEガラス(CTE: 約5.5 ppm/K)に対し、NEガラス(約3.3 ppm/K)Sガラス / Tガラス(約2.5〜3.0 ppm/K)といった低膨張ガラス糸を採用します。
  • フラットファイバー化: ガラス繊維の断面を楕円や平角にして高密度に織り込むことで、面方向(X-Y方向)の反りを強力に抑えます。

3. 樹脂骨格自体の剛直化(分子設計)

 エポキシ樹脂や硬化剤の分子骨格に、熱を加えても変形しにくいナフタレン骨格ビフェニル骨格などの堅牢な環状構造を導入します。これにより、樹脂そのものの面方向・厚み方向(Z方向)への熱膨張を分子レベルから引き下げます。

低CTE化がもたらす効果

 これらの技術を組み合わせることで、コア層(CCL)のX-Y方向のCTEを汎用基板の15〜18 ppm/Kから、3〜7 ppm/K程度まで大幅に低減できます。

 その結果、大型のAIプロセッサやChiplet構造などの超精密・多ピンなFC-BGAパッケージにおいても、リフロー時の反りを最小限に抑え、高い接合信頼性を確保することが可能になっています。

基板の熱膨張係数(CTE)をシリコンの膨張率に近づけ、加熱時の熱歪みや反りを防ぐ技術です。超低熱膨張のシリカフィラーの高充填、低CTEガラスクロスの採用、樹脂自体の分子骨格の剛直化等で実現します。

シリカフィラーの割合を増やすデメリットは何か

 シリカフィラー(無機充填剤)の割合を増やす(高充填化する)ことは、低CTE化や基板の剛性向上に極めて有効な反面、「加工性」「成形性」「機械的物性」の面で以下のようなデメリット(トレードオフ)が生じます。

1. ドリル・レーザー加工性の著しい低下

  • ドリル工具の激しい摩耗: シリカはガラスと同等以上に硬い(モース硬度約7)ため、基板の貫通スルーホールを開けるメカニカルドリルの刃先が急速に摩耗し、工具寿命が短くなります。
  • レーザー穿孔(ビア形成)の阻害: レーザー加工(CO2/UVレーザー)において、樹脂とシリカでは分解・蒸発する温度やメカニズムが異なります。シリカが多すぎるとレーザーで飛散しきれず、ビア底に残渣(スミア)が残ったり、孔の壁面が歪(いびつ)になる原因となります。

2. 樹脂の流動性低下と成形不良(ボイド発生)

  • 溶融粘度の上昇: 加熱時の液体成分(エポキシ樹脂)の割合が減り、固体のシリカ粒子が詰まるため、ワニスや樹脂の溶融粘度が大幅に上昇します。
  • 充填不足・ボイド: 粘度が高すぎることで、ガラスクロス内部への樹脂の浸透が不十分になったり、微細な配線凹凸の隙間に樹脂が行き渡らず、気泡(ボイド)が発生して絶縁破壊を起こすリスクが高まります。

3. 樹脂の脆化(クラック耐性・粘り強さの低下)

  • 靭性(Joughness)の損失: 樹脂本来の柔軟性が失われ、硬く脆い(ガラスに近い)物性へ変化します。そのため、温度サイクル(ヒートショック)や機械的な曲げ衝撃を受けた際に、基板内部や配線界面にクラック(ひび割れ)が入りやすくなります。

4. 界面剥離(デラミネーション)リスクの増大

  • 接着・密着強度の低下: 樹脂とシリカ粒子、あるいは銅箔とシリカ粒子の「異種材料の接合面(界面)」が激増します。フィラー表面のカップリング処理が不十分だと、熱ストレスや湿気の浸入によって界面からミクロな剥離(デラミネーション)が発生しやすくなります。

樹脂の流動性が落ちボイド等の成形不良が生じやすくなるほか、硬いシリカによりドリル摩耗やレーザー加工性の低下を招きます。また、樹脂が脆くなりクラックが入りやすくなることや、剥離リスクの増大も難点です。

どのようにガラスクロスのCTEを低くしているのか

 ガラスクロス(ガラス繊維)の熱膨張係数(CTE)を小さくする根本的なメカニズムは、ガラスの主成分であるシリカ(SiO2)の強固な3次元網目構造を極力壊さず、より強固に結合させる組成設計にあります。

 一般的に使われるガラス(Eガラスなど)から低CTEガラス(NEガラスやS/Tガラスなど)へ進化させる際、主に以下の3つの化学組成コントロールを行っています。

1. アルカリ成分の徹底削減

  • 原理: ガラスの中にナトリウム(Na)やカリウム(K)などのアルカリ金属が入ると、SiO2の強い網目結合が切断され(切断部分を非架橋酸素と呼ぶ)、熱を加えた時に分子が熱振動して大きく広がりやすくなります(=CTE増大)。
  • 対策: アルカリ成分をほぼゼロに近づける(無アルカリ化・低アルカリ化)ことで、SiO2 同士の固い結合を化学的に維持します。

2. シリカ(SiO2)比率の高め込み

  • 原理: 純粋な石英ガラス(シリカ100%)は、CTEが約0.5 ppm/Kと極めて熱膨張しにくい物質です。しかし、融点が非常に高いため加工(溶融・紡糸)が困難になります。
  • 対策: 一般ガラス(Eガラス:SiO2 約55%)に比べ、低CTEガラスではシリカの含有量を60〜65%以上、最先端品(クォーツガラス等)ではさらに高濃度に引き上げ、石英に近い物性へ近づけています。

3. 網目補強成分(Al2O3、B2O3、MgO)の最適調合

  • アルミナ(Al2O3)の増加: アルミニウムイオンはシリカの網目構造に組み込まれ、結合の架橋を補強して熱運動を抑えるはたらきをします。
  • マグネシア(MgO)の採用: カルシウム(CaO)等に比べて結合エネルギー(Ionic Field Strength)が高いマグネシウムを配合することで、ガラスネットワーク全体の結合力を高めます。

ガラス繊維の種類とCTEの比較

ガラス種主な特徴組成の傾向面方向CTE
Eガラス一般汎用基板用SiO2 55%、アルカリ含む約 5.5 ppm/K
NEガラスパッケージ基板向け定番低アルカリ、B2O3・SiO2 最適化約 3.0〜3.3 ppm/K
Sガラス / Tガラス超低膨張・高強度SiO2Al2O3・MgO 高配合約 2.5〜2.8 ppm/K
石英(Quartz)極限の低膨張ほぼ純 SiO2約 0.5 ppm/K

低CTEガラスの技術的トレードオフ(課題)

 ガラスのCTEを下げる(=シリカやアルミナを増やす)と、ガラスの溶融温度が1,500℃以上へ上昇します。これにより、以下の生産課題が生じます。

  • プラチナ製ノズルの摩耗・損傷: 融液が高温化するため、糸を引く(紡糸する)ノズル炉の損耗が激しくなる。
  • 糸切れ・歩留まり低下: 溶融粘度のコントロールが難しくなり、極細繊維(数µm)に引き伸ばす際の切れが発生しやすい。

 このため、低CTEガラスクロス(日東紡などが世界市場を牽引)は汎用ガラスに比べて高価格になりますが、先端パッケージ基板の反り対策には不可欠となっています。

網目構造を切断するアルカリ成分を徹底削減し、主成分シリカの比率を高めるとともにアルミナ等で結合を補強します。3次元の強固な網目構造を保つことで、加熱時の分子運動による熱膨張を物理的に抑え込みます。

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