この記事で分かること

次世代ペロブスカイト太陽電池の封止、塗布技術
東芝、信越化学工業、新潟大学は3者連携により、耐久性能を先行品の1.5倍(世界最高水準)に引き上げた次世代ペロブスカイト太陽電池の開発成功を発表しています。
ペロブスカイト太陽電池の最大の課題であった「水分や光による物理的・化学的劣化の早さ」を大幅に克服し、耐久性能で世界最高水準に達しました。
今回の発表は大規模量産で先行する中国メーカーに対し、日本勢は「超長寿命・高信頼性」という品質面で対抗するという姿勢を示す一例となっています。実用化に向け、2030年代の市場投入を目指しています。
前回は開発された耐久性に優れたペロブスカイト太陽電池の概要に関する記事でしたが、今回は信越化学工業の封止技術、東芝の塗布技術に関する記事となります。
信越化学はどのように封止材の透湿性を低減したのか
信越化学工業が封止材の透湿性(水蒸気や酸素の通しやすさ)を大幅に低減し、耐湿性能を高めた技術的背景には、主に3つのアプローチがあります。
1. 低温硬化型の高バリア樹脂設計(熱劣化の回避)
従来のシリコン太陽電池で用いられる封止材(EVAなど)は、加工・熱圧着時に約150℃の加熱が必要ですが、ペロブスカイト層は約100℃以上の熱で分解が進んでしまいます。
新潟大学が知見を持つ「低温封止技術」に対応するため、信越化学は100℃以下の低い温度帯でも短時間で緻密に硬化・接着する独自の樹脂材料(変性シリコーンや特有の液状エポキシ系材料など)を適用・最適化しました。熱ダメージを与えずに高い気密性を実現しています。
2. 高密度架橋による分子隙間(フリーボイド)の極小化
水分子や酸素分子が樹脂内部を通り抜けて進入するのは、高分子の分子鎖の間にある微小な隙間(フリーボイド)が原因です。
信越化学が得意とする有機・無機ハイブリッド(シリコーン/エポキシ改質)技術により、分子間の網目構造(架橋密度)を極限まで高め、水分子が通過できる物理的な経路を遮断しました。
3. 低応力化技術による界面の完全密着
どれほど封止材自体の透湿性が低くても、昼夜の寒暖差で材料が伸縮し、ペロブスカイト層や保護フィルムとの界面に剥離や微細な割れ(マイクロクラック)が生じると、そこから湿気が侵入してしまいます。
信越化学独自のシリコーン変性による「低応力化技術」を投入することで、温度変化に伴う熱膨張ストレスを緩和し、長期間にわたって層と層の接着面を隙間なく密着させ続けています。
ペロブスカイト層へダメージを与えない「低温プロセス」と、水分子を通さない「高密度分子構造」、そして膨張・収縮に負けない「高密着・低応力性」を一体化させたことが、透湿性を極小化できた決定的な理由です。

分子間の架橋密度を高めて水分子の通り道を物理的に遮断し、さらに独自技術で低応力化し、寒暖差による剥離や隙間の発生を抑えました。熱に弱い発電層を痛めない低温硬化で各層と強固に密着させ、高い気密性を維持しています。
具体的な塗布プロセスの内容は
東芝が主導するペロブスカイト太陽電池の精密塗布プロセスは、主にメニスカス塗布法(スロットダイ塗布)と呼ばれる技術を軸に、以下の3つのステップで大面積・高品位な膜を形成しています。
1. メニスカス塗布(スロットダイ塗布)による均一成膜
スロットダイ(極小の隙間を持つ吐出ノズル)からペロブスカイト前駆体溶液を供給し、ノズルと基板の間に形成される液の盛り上がり(メニスカス)を維持しながら塗り広げます。
- ギャップ・スピードの微細制御: ノズルと基板の距離を数10マイクロメートル単位で正確に保ち、一定速度で塗工することで、サブミクロン(1ミクロン以下)レベルの極薄で均一な塗膜を作ります。
2. 乾燥・結晶化のインライン制御(ガス・クエンチング)
塗工直後の液体状態から溶媒を蒸発させ、ペロブスカイト結晶を形成させる重要なステップです。
- 溶媒の均一揮発: 塗布直後に不活性ガスや風を均一に吹き付ける(または急速加熱する)ことで、溶媒が揮発するタイミングを面全体で一致させます。
- 結晶欠陥(ピンホール)の排除: 徐々に乾かすと結晶の成長過程でムラや隙間(ピンホール)が生じますが、風量や温度を精密制御することで、大きく均一な結晶粒(グレイン)を隙間なく敷き詰めた高品質な発電層を形成します。
3. 塗布液(インク)の物性最適化
大面積のフィルム基板やガラス基板に対して塗布液が弾かれずに馴染む(濡れ性が高い)よう、塗布液の組成を独自に調整しています。
- 溶媒の粘度や表面張力を最適化することで、塗布開始位置から終了位置まで一定の膜厚を維持し、大面積モジュールでも発電特性のバラつきを抑えます。
これらの塗布プロセスにより、欠陥の少ない高密度なペロブスカイト結晶層を素早く連続形成できるため、製造コストの低減と長寿命化・高効率化を同時に実現しています。

東芝はスロットダイノズルで塗工液を一定速度・厚みで均一に塗り広げるメニスカス塗布法を採用しています。塗布直後の乾燥工程で風量や温度を精密制御して溶媒を均一揮発させ、ピンホールのない高品質な結晶膜を連続形成します。
新潟大学の持つ低温封止技術とは何か
新潟大学(増田淳教授らの研究グループ)が開発する「低温封止技術」とは、熱に弱く壊れやすいペロブスカイト太陽電池に対し、熱ダメージを与えずに水や酸素から完全に保護・密閉(封止)するモジュール製造・構造化技術です。
技術の背景と内容
- 従来の封止(150℃)との相違点
- 従来のシリコン太陽電池の製造では、樹脂シート(EVAなど)を約150℃で加熱して密閉するプロセスが標準的です。しかし、ペロブスカイト層は100℃以上の熱がかかると分解・劣化してしまいます。新潟大学の技術は、100℃未満の低温環境で確実に接合・密閉を完結させます。
- 「面」と「端部」を分けた機密構造設計
- 有機ELディスプレイの密閉思想を応用し、上下をガラス基板で塞いで「面」からの水蒸気侵入を防止(水蒸気透過率ゼロ)しつつ、側面(端部)からのわずかな湿気侵入を信越化学のシリコーン系封止材や乾燥剤入り樹脂を用いて強固に防ぐ構造設計を確立しました。
- 熱応力の発生を回避
- 熱膨張率の異なる複数の層(ペロブスカイト層やシリコン層など)を接合する際、高温をかけると冷えたときに接合部へ無理な力(熱応力)がかかり、ひび割れや剥離を起こします。低温プロセスに抑えることで、層間の接着面を損傷させることなく長期間の密着性を維持できます。
材料メーカー(信越化学)が作る高機能封止材を「どのような構造・条件で組み上げれば太陽電池が壊れず長持ちするか」という設計・プロセスの解を提示している点が、新潟大学の「封止技術」の核となっています。

熱に弱い発電層の分解を防ぐため、100℃未満の低温でモジュールを密閉する技術です。熱応力によるひび割れや剥離を回避しつつ、ガラス基板と封止材で水蒸気や酸素の侵入を側面・面から徹底遮断して長期保護しています。


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