この記事で分かること

ゼオンケミカルズの設立
日本ゼオンは、グループ会社である株式会社トウペのアクリルゴム(特殊ゴム)事業を承継・統合するため、岡山県倉敷市に100%出資の新会社「ゼオンケミカルズ倉敷株式会社」を設立しました。
グループ会社のトウペが展開していた事業のうち、塗料事業はナトコ株式会社へ譲渡される一方、アクリルゴム事業は日本ゼオン本体のエラストマー事業との強固なシナジーが見込まれることから、新会社へ承継させる決定がなされました。
どんなゴムを製造するのか
新会社「ゼオンケミカルズ倉敷」で製造されるのは、高い耐熱性と耐油性を兼ね備えた合成ゴムの一種であるアクリルゴム(ACM / AEM)です。
高温のエンジンオイルや駆動用フルードに常時曝される自動車のエンジンルーム内などで、流体漏れを防ぐガスケットやホース、オイルシールなどの成形品原材料として活用されます。
アクリルゴム(ACM)の主な特性
- 優れた耐熱性:約150℃〜175℃の高温下でも長時間の連続使用に耐えられます。
- 高い耐油性:エンジンオイル、ATF(自動変速機油)、CVTフルード、ギヤオイルなどの各種油脂類に対して膨潤や劣化を起こしにくい性質を持ちます。
- 優秀な耐候性・耐オゾン性:ポリマーの主鎖構造に二重結合を含まない「飽和構造」を持つため、屋外の紫外線やオゾンによる亀裂・老化が発生しにくくなっています。
主な用途
| 分野 | 具体的製品例 |
| 自動車駆動系 | オイルシール、トランスミッション用シール、Oリング |
| 吸排気・配管系 | ターボチャージャーホース、インタークーラーホース、オイルクーラーホース |
| エンジン周辺 | ヘッドカバーガスケット、オイルパンパッキン |
| 産業機械 | 高温オイル環境下で使用される各種シール材・ダイアフラム |
ゴム素材の中での位置づけ
一般的に使われる耐油ゴム(NBR:ニトリルゴム)よりも高温耐久性に優れ、フッ素ゴム(FKM)やシリコーンゴム(VMQ)といった高価格帯の特殊ゴムよりもコストパフォーマンスに優れるため、自動車の高性能化や高密度化に伴うエンジンルーム内の高温化に対応する実用的な「耐熱耐油特殊ゴム」として世界的に需要が高まっています。

製造するのは優れた耐熱性と耐油性を併せ持つ「アクリルゴム(ACM)」です。高温のオイルや熱に強い特性を活かし、自動車のエンジンルーム内で使われるターボホースやオイルシール、パッキン等に採用されます。
なぜニトリルゴムよりも耐熱性に優れるのか
主鎖(高分子の骨格部分)に二重結合(C=C)を持たない「飽和構造」をしているためです。
- ニトリルゴム(NBR): 原料のブタジエンに由来する二重結合(C=C)を主鎖に多く含みます。二重結合は熱や酸素の攻撃を受けやすく、100〜120℃を超える環境では酸化・架橋(過度な硬化)や分子鎖の切断が進み、ゴムとしての弾性を失ってしまいます。
- アクリルゴム(ACM): アクリル酸エステルを主体としており、主鎖が単結合C-C)のみで構成されています。熱劣化の起点となる二重結合が骨格に存在しないため、150〜175℃の高温下に長時間曝されても化学構造が壊れにくく、優れた耐熱性を発揮します。
「熱や酸素の攻撃を受けやすい化学的弱点(二重結合)が分子の骨格にあるかないか」が、両者の耐熱性の決定的な差です。

ニトリルゴムは熱で分解しやすい二重結合を主鎖に含むのに対し、アクリルゴムは主鎖に二重結合を持たない「飽和構造」であるためです。熱や酸化の起点となる化学的弱点がないため、高温環境下でも劣化しにくくなります。
エラストマー事業とのシナジー効果にはどのようなものがあるのか
日本ゼオン本体の「エラストマー事業」と、新会社「ゼオンケミカルズ倉敷(旧トウペのアクリルゴム事業)」との連携・シナジーの具体的内容は、主に以下の4点です。
1. 研究開発(R&D)の統合と技術シナジー
- 分子設計・配合技術の融合:日本ゼオンが長年培ってきた合成ゴム(エラストマー)のポリマー合成技術・分子設計技術と、トウペが独自に持っていたアクリルゴムの製造・改質ノウハウを融合させます。
- 次世代製品の開発加速:自動車の電動化や高出力化に伴い、より過酷な温度環境や薬品に耐える高機能特殊ゴムの研究開発を一本化し、開発スピードを高めます。
2. グローバルな販売・営業ネットワークの活用
- 海外販路の拡大:日本ゼオンのエラストマー事業部は、世界中の自動車メーカーや一次サプライヤー(Tier 1)に対して強固な営業網を持っています。
- ワンストップ提案:トウペ系のアクリルゴム製品をゼオンのグローバル販売チャネルに乗せることで、国内外の顧客に対してゼオンブランドの製品と合わせた一括提案・市場開拓を行います。
3. 原料調達・生産ノウハウ・サプライチェーンの最適化
- 調達コストの削減:日本ゼオン全体のスケールメリットを活かし、アクリルゴムの主原料(アクリル酸エステルや各種モノマー)を効率的にグローバル調達します。
- 生産効率と品質管理の向上:ゼオン本体のプラント運営ノウハウや品質管理基準を倉敷の生産拠点(旧トウペ工場)に導入し、生産効率向上と安定品質を追及します。
4. 製品ポートフォリオの拡充と最適化
- 多様なニーズへの対応:日本ゼオン主力のアクリルゴム(「Nipol® AR」シリーズ等)とトウペ製品を補完的に再編・体系化することで、耐熱性・耐寒性・耐油性など顧客の用途に応じた幅広いラインナップを提供可能にします。
トウペの「塗料事業」は他社(ナトコ)へ譲渡されましたが、「アクリルゴム事業」は日本ゼオン主力のエラストマー(特殊ゴム)領域と事業親和性が非常に高いため、グループ内に留めて一体運用を図る判断がなされました。

ゼオンの技術力・グローバル販売網・原料調達力を旧トウペの事業と統合します。技術開発の加速、海外販路の拡大、生産・調達の効率化、製品ラインナップ拡充を図り、特殊ゴム事業の競争力を強化します。

コメント