この記事で分かること

レゾナック、半導体製造高純度溶剤の水平リサイクル
半導体製造は多大な電力や化学物質を消費するため、サプライチェーン全体(特にScope 3)での温室効果ガス排出量削減が大きな課題となっています。
そこで、レゾナックは、半導体前工程で使用した高純度溶剤を回収し、高度な蒸留・精製を経て同じ用途へ戻す水平リサイクルを、キオクシアと2012年から継続して行っています。
回収・再生されたリサイクル溶剤は、新規に製造されるバージン溶剤と比較して、カーボンフットプリント(CFP)を約70%削減する効果を持っています。
半導体向け高純度溶剤とは何か
半導体向け高純度溶剤とは、シリコンウェハーの前工程(回路形成・成膜・微細加工・洗浄など)において、回路パターンの描画、ウェハーの洗浄・乾燥、不要な膜の剥離などに用いられる、極限まで不純物を排除した高機能な有機化学液体です。
一般的な工業用溶剤とは異なり、ナノレベルの微細化が進む半導体デバイスの歩留まりと信頼性を担保するため、桁違いの品質基準が課されています。
主な用途と代表的な化学品
半導体製造の各プロセスに応じて、用途に特化した様々な溶剤が使用されます。
- フォトリソグラフィー工程(塗布・溶解)
- PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)やPGMEなど: ウェハー上に均一な回路を描くためのフォトレジスト(感光性樹脂)を溶かす溶剤、またはウェハー外周部の不要なレジストを溶解除去するエッジビードリムーバー(EBR)として使用されます。
- 洗浄・乾燥工程
- IPA(イソプロピルアルコール): ウェハーのウェット洗浄後、表面の水滴を迅速に置換・乾燥させるために不可欠な溶剤です。乾燥時にウォーターマーク(水滴跡やそれに伴う汚染)を残さない高い揮発性が求められます。
- 剥離・レジスト残渣除去工程
- NMP(N-Methyl-2-pyrrolidone)や特殊配合溶剤: イオン注入やエッチングを経た硬いフォトレジスト膜や、側壁に残るポリマー残渣(サイドウォールポリマー)を強力に溶解・除去する剥離液として使われます。
一般工業用溶剤との違い
半導体向け高純度溶剤が特殊とされる理由は、許容される不純物の限界値にあります。
- 金属不純物の極限的低減(ppt〜ppbレベル)
- ナトリウム(Na)、カリウム(K)、鉄(Fe)、銅(Cu)などの金属元素がわずかでもウェハー上に残ると、トランジスタの絶縁破壊や電気特性の異常(リーク電流の増加など)を引き起こします。そのため、これらの含有量が10億分の1(ppb)から1兆分の1(ppt)のオーダーで管理されています。
- 微粒子(パーティクル)と水分の厳格な管理
- サブミクロンサイズの異物が溶剤中に存在すると、そのままパターン欠陥につながります。また、水分含有量が厳密にコントロールされていないと、レジストの化学反応に狂いが生じるため、製造・充填・輸送の全工程で特殊なクリーン技術が適用されます。
レゾナックとキオクシアの取り組みに見られるような水平リサイクルでは、高真空蒸留、精密分留、吸着精製技術などを高度に組み合わせることで、使用済み液から不純物を完全に除去し、新品(バージン溶剤)と同等の品質にまで復元しています。これが、厳格な品質を維持しながらカーボンフットプリント(CFP)の大幅削減を可能にしている背景にあります。

半導体製造の回路形成や洗浄・剥離に用いる高機能有機溶剤です。ナノレベルの微細加工で不純物による不良を防ぐため、金属や水分をppt〜ppbレベルまで極限まで排除した超高純度が求められます。
どのように水平リサイクルを行っているのか
レゾナックとキオクシアが実施している高純度溶剤の水平リサイクルは、使用済みの化学品を品質の低い別用途へ回す(ダウングレード)のではなく、再び同じ半導体前工程の用途へと戻すクローズド・ループ型の仕組みです。
水平リサイクルの具体的なプロセス
- 1. 回収(Collection)
- キオクシアの半導体製造工場(前工程)で使用・排出された高純度溶剤の廃液を、成分や品質ごとに分別して回収します。
- 2. 精密蒸留・微量分析(Distillation & Analysis)
- 回収された溶剤には微量の不純物や性状の変動が含まれるため、レゾナックが長年培ってきた高精度な蒸留・精製技術と、極微量な異物を検知する微量分析技術を組み合わせて徹底的に浄化します。
- 3. 品質・組成の調整(Adjustment)
- 精製された再生液に対し、必要に応じて一部のバージン(新品)溶剤をブレンド・調整し、半導体製造で求められる厳格な化学組成や品質基準を完全に満たしているかを確認します。
- 4. 再納入・再利用(Reuse)
- 新品と同等レベルの品質に復元された「高純度リサイクル溶剤」として再びキオクシアへ納入され、再び先端の半導体製造ラインへと投入されます。

工場で排出された使用済み溶剤を精密分別して回収し、高度な蒸留・精製技術と微量分析により不純物を極限まで除去します。必要に応じて品質調整を行い、新品同等の超高純度溶剤として再び同じ工程へ循環供給します。
カーボンフットプリントをどれくらい削減できるのか
カーボンフットプリント(Carbon Footprint:CFP)とは、製品やサービスの「原材料調達」から「製造、流通、使用、廃棄・リサイクル」に至るまでのライフサイクル全体で排出される温室効果ガスの量を、すべてCO2(二酸化炭素)の量に換算して分かりやすく可視化する指標です。
製品が地球環境にどれだけの負荷を与えているかを数値で把握できるため、脱炭素社会に向けたサプライチェーン全体の排出量削減(Scope 3対策など)において重要な基準となっています。
レゾナックの再生化による削減効果
レゾナックがキオクシアと行っている高純度溶剤の水平リサイクルでは、ライフサイクル全体での温室効果ガス排出量を約70%削減できると試算されています。
具体的な数値の比較は以下の通りです。
- バージン溶剤(新品): 製品1kgあたり 11.3kg-CO2e
- 高純度リサイクル溶剤:製品1kgあたり 3.3 kg-CO2e
- 削減効果:製品1kgあたり 8.0 kg-CO2eの削減(約70%減)
なぜこれほど削減できるのか?
新規に石油由来の原料から化学品を合成・精製する大規模なエネルギー消費や、使用済み廃液を焼却処分するプロセスを大幅にカットできるため、環境負荷を劇的に抑えることが可能になります。

レゾナックの再生化(水平リサイクル)により、製品1kgあたりのカーボンフットプリント(CFP)をバージン溶剤の11.3 kg-CO2eから3.3 kg-CO2eへと、約70%(8.0 kg-CO2e)削減できます。


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