大日本印刷のフォトマスク事業

半導体前工程のイメージ画像 半導体

この記事で分かること

好調だった半導体関連材料

生成AIやデータセンター向けの需要急増に伴い、先端プロセスを中心とした半導体製造用フォトマスクの外注需要が好調でした。高付加価値品を中心に需要を取り込んだことで利益率が向上し、業績を強力に牽引しました。

フォトマスクとは何か

半導体チップの回路パターンを描き込んだ「写真のネガ」にあたる高精度なガラス原版です。露光装置で光を照射し、シリコンウェハ上に極小の電子回路パターンを焼き付ける(転写する)ために不可欠な製造材料です。

DNPのフォトマスクの特徴

外販市場で世界トップクラスのシェアを誇り、最先端の2nm・EUVからレガシーまで幅広く網羅する供給体制が特長です。長年培った超微細加工技術により、ナノインプリント用原版などの次世代展開も推進しています。

大日本印刷のフォトマスク事業

大日本印刷(DNP)が発表した2026年4〜6月期(2027年3月期 第1四半期)の決算において、本業の収益性を示す営業利益および経常利益が大幅な増益を達成しました。

 主因は、エレクトロニクス事業の旺盛な需要となっています。

どんな半導体関連材料が好調だったのか

 「半導体関連(特に製造用のフォトマスク)」が非常に好調で、業績を強力に牽引しました。

一方で、エレクトロニクス部門に属するすべての材料が一律に伸びたわけではなく、分野によって明暗が見られます。

1. フォトマスク(半導体関連)が牽引した主な理由

  • 先端半導体向けの需要旺盛: 生成AI向けGPUやカスタムAIチップ(ASIC)、データセンター向けアクセラレータなどの開発競争に伴い、微細プロセス向けの超高精度なフォトマスクの需要が急増しました。
  • 外注化(アウトソーシング)の拡大: 半導体ファウンドリ(受託製造企業)やAIファブレス企業において、マスク製造の社内内製だけでは対応しきれず、DNPなどの専業メーカーへの外注比率が高まっています。
  • レガシー/ボリュームゾーンも底堅い: 車載向けや産業機器向けの半導体(レガシープロセス)向け製品も堅調に推移し、全体として高操業を維持しました。

2. その他のエレクトロニクス関連材料の動向

 エレクトロニクス部門全体としては増収増益となりましたが、半導体以外の製品カテゴリでは以下のような状況です。

  • ディスプレイ関連材料(光補償フィルム・光学フィルム等): スマートフォンやPC市場の本格回復が緩やかであることや、一部パネルメーカーの生産調整の影響を受け、やや横ばい~伸び悩みの傾向が見られます。
  • 次世代実装・ packaging 材料: 2.5D/3Dパッケージング向けのガラスコア基板やインターポーザ関連など、中長期の成長に向けた開発・先行投資領域は半導体AI特需に伴い強い引き合いが続いています。

 このように、エレクトロニクス分野のなかでも「生成AIや高性能計算(HPC)の波に乗る半導体フォトマスク」が突き抜けて好調であったことが、全体の営業利益・経常利益を押し上げた最大の要因です。

生成AIやデータセンター向けの需要増加に伴い、先端プロセスを中心とした半導体用フォトマスクの外注需要が急増しました。高付加価値品を中心に需要を取り込んだことで利益率が向上し、大幅な増益を牽引しました。

フォトマスクとは何か

 フォトマスクとは、半導体の回路パターンを描き込んだ「写真のネガフィルム」のような高精度な原版(ガラス基板)のことです。

仕組みと役割

  1. 原版の構造: 高純度な合成石英ガラスの表面に、クロムなどの遮光膜で微細な回路パターンを描画したものです。
  2. 露光プロセス: 露光装置(ステッパー/スキャナ)の中でフォトマスクに強い光(EUVやArFレーザーなど)を照射し、レンズを通してパターンを縮小投影することで、シリコンウェハ上に電子回路を焼き付けます。

なぜ重要なのか

  • 設計変更・開発ごとに必要: 新しい半導体チップを設計・生産する際や、チップのデザインを変更(テープアウト)するたびに、層ごとに対応する新しいフォトマスクセットが必要になります。
  • 高精度の極限: 先端半導体ではナノメートル単位の微細加工が求められるため、フォトマスク自体にも極めて高い平面度や欠陥ゼロの精度が要求され、製造難易度と付加価値が非常に高い製品です。

 大日本印刷(DNP)や凸版印刷(TOPPANホールディングス)などの外注専業メーカーは、自社でマスク製造を行わないファブレス企業や半導体ファウンドリ向けにこれらを供給しています。

半導体チップの回路パターンを描き込んだ「写真のネガ」にあたる高精度なガラス原版です。露光装置で光をあて、シリコンウェハ上に極小の電子回路を焼き付ける(転写する)ために不可欠な製造材料です。

なぜ合成石英ガラスが使われるのか

 フォトマスクの基板に合成石英ガラス(Synthetic Quartz Glass)が使われる理由は、光の透過性、熱安定性、不純物の少なさが極限レベルで要求されるためです。

  • 短波長光の優れた透過性半導体の微細化に伴い、露光には波長の短い光(ArFレーザーの193nmなど)が使われます。一般的なソーダガラスや天然石英は紫外線を吸収してしまいますが、超高純度な合成石英は深紫外線(DUV)まで非常に高い透過率を誇ります。
  • 極めて低い熱膨張率強力な露光光(レーザー)が当たるとガラスは加熱されます。ガラスがわずかでも熱で伸縮するとナノ単位の回路パターンの位置がズレて不良品になります。合成石英は熱膨張係数が一般的なガラスの約10分の1以下(約0.5 × 10-6 /k)と極めて小さく、位置精度を維持できます。
  • 高純度・高面振れ耐性(平坦性)化学反応(四塩化ケイ素の蒸留合成など)によって人工的に作るため、気泡や内部歪み、金属不純物がほぼゼロの均質・超高純度なガラスが得られます。また、原子レベルで極めて平坦に研磨加工できます。
  • 高い耐光性(劣化しにくい)強力な高エネルギーレーザーを何十万回照射されても、ガラス内部の結合が破壊されにくく、着色(ソーラリゼーション)や膨張などの変質を起こしにくい耐性を持っています。

露光で使う紫外線を高く透過し、レーザー加熱でも熱膨張によるパターンの位置ズレを起こさないためです。不純物や気泡がほぼゼロで超平坦に研磨でき、強光に晒されても劣化しない耐久性を備えるからです。

遮光膜にはどんな物質が使用されているのか

 フォトマスクの遮光膜(遮光パターン)には、露光装置の光(波長)や用途に応じて、主に金属クロム(Cr)化合物ケイ化モリブデン(MoSi)系材料などが使用されています。


1. 主な遮光膜材料

クロム(Cr)およびクロム化合物
  • 特徴: 伝統的かつ最も標準的な遮光膜材料です。
  • 詳細: 単一の金属クロムだけでなく、薄膜の表面での反射を抑えるために酸素や窒素を添加した酸化クロム(CrxOy)や窒化クロム(CrxNy)などを層状に重ねた複合膜(Cr系多層膜)が用いられます。
  • 用途: KrF(248nm)やArF(193nm)露光用などのバイナリマスク(通常タイプ)の遮光パターン。
ケイ化モリブデン(MoSi)系材料
  • 特徴: モリブデンとケイ素の化合物で、光の透過率や位相(波長のズレ)を精密に制御できる材料です。
  • 詳細: 酸素や窒素を添加したMoSiON(モリブデン・シリコン・オキシナイトライド)などの多層膜が用いられます。
  • 用途: 主にハーフトーン型位相シフトマスク(PSM)に使用されます。光を完全に遮断するのではなく、わずかに光を透過(6〜20%程度)させつつ光の位相を180度反転させることで、パターン境界の解像度を大幅に引き上げます。
タンタル(Ta)系化合物(EUV露光用)
  • 特徴: 最先端のEUV露光(13.5nm波長)マスクで用いられる吸収体(Absorber)材料です。
  • 詳細: 窒化タンタル(TaN)ホウ化窒化タンタル(TaBN)、酸化窒化タンタル(TaON)などのタンタル系化合物が主流です。
  • 用途: EUV光を透過させず「吸収」するための薄膜としてパターンを形成します。(※EUV露光では、反射ミラー層の上にこのタンタル系吸収体が積層されます)

2. 要求される特性

遮光膜材料には、ただ光を遮るだけでなく以下の厳しい条件が求められます。

  • 加工性(微細加工適性): ドライエッチングなどでナノメートル単位の微細かつ垂直なパターンを精密に形成できること。
  • 耐光性・化学的安定性: 強力なエキシマレーザー(ArF等)やEUV光を何十万回照射されても劣化せず、洗浄薬品に対しても耐久性があること。
  • 低ストレス(膜ストレスの制御): 膜自体の応力によって、ガラス基板がナノ単位で歪まないこと。

主にクロム(Cr)化合物(酸化/窒化クロム)が標準的に用いられます。また解像度を高める位相シフトマスクにはケイ化モリブデン(MoSi)系、最先端EUV露光用にはタンタル(Ta)系化合物が使用されます。

DNPのフォトマスクの特徴は何か

 大日本印刷(DNP)のフォトマスク事業における主な特徴・強みは以下の点です。

1. 外販(商用)フォトマスク市場における高い世界シェア

 半導体メーカーにはフォトマスクを自社生産する「内製」と、専門メーカーに委託する「外販」があります。

 DNPはTOPPANホールディングスと並び、外販フォトマスク市場で世界トップクラスのシェアを誇ります。自社でマスク製造設備を持たないファブレス企業(NVIDIAなど)やファウンドリ(TSMCなど)にとって不可欠な存在です。

2. 2nm・High-NA EUVなどの最先端プロセスへの対応力

 DNPは最先端ロジック半導体向けのEUV(極端紫外線)露光用フォトマスクで高い技術力を保持しています。

  • 2nm世代への対応:2nmプロセス向けEUVフォトマスクの開発に成功しており、Rapidus(ラピダス)向けなどの量産供給(2027年目途)に向けた開発を推進しています。
  • High-NA EUV・1nm見据え: 次世代の「High-NA EUV」露光装置向けマスクの評価や、ベルギーの研究機関imecとの連携による1nm世代を見据えた開発も展開しています。

3. 最先端からレガシーまで「全方位」をカバーする供給体制

 先端分野(EUV等)だけでなく、車載や産業機器向けなどのミドル/レガシー領域(ArF/KrF露光等)のボリュームゾーン向けフォトマスクも広く供給しています。

 自社設備を最先端開発に集中させたい大手半導体メーカーが、成熟プロセスのマスクをDNPへ外部委託する動きも捉えています。

4. 長年培養された印刷技術の超微細応用

 元々の写真版画や高精度印刷で培った「描画技術」「エッチング技術」「重ね合わせの位置精度制御(見当合わせ)」のノウハウが基盤となっています。

 これをナノメートル領域に応用することで、極めて欠陥の少ない安定した加工・検査プロセスを確立しています。

5. ナノインプリント(NIL)用テンプレートなどの多様なソリューション

 EUV露光による微細化だけでなく、キヤノン等と共同開発を行うナノインプリント(回路パターンを直接スタンプのように押し当てる技術)用テンプレート(原版)の提供など、次世代の低コスト回路形成技術にも注力しています。

外販市場で世界トップクラスのシェアを誇り、最先端の2nm・EUVからレガシーまで幅広く網羅する供給体制が特長です。長年培った超微細加工技術により、ナノインプリント用原版などの次世代展開も推進しています。

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