旭化成のセルロースマイクロファイバー

この記事で分かること

セルロースマイクロファイバーとは何か

植物由来のセルロースをマイクロメートル単位まで微細化した高機能素材。軽くて強く、液体中で自発的に網目構造を作って均一な膜を形成し、優れた海洋生分解性も持つ次世代のサステナブル素材です。

なぜチキソトロピー性を持つのか

静止時は繊維が水素結合で網目構造を組み水分を閉じ込めますが、力を加えると結合が切れて繊維が流れの方向に一列に整列し、摩擦が激減してサラサラになるため。力を抜くと瞬時に元の網目構造へ戻ります。

なぜ化粧品に使用するのか

肌の凹凸に均一な網目状の極薄膜を張り、美容成分や水分をムラなく長時間定着できるからです。塗る時は滑らかに伸びてピタッと密着する優れた使用感や、脱プラスチックにも貢献する環境性の高さが理由です。

旭化成のセルロースマイクロファイバー

 旭化成はキュプラ繊維「ベンベルグ®」の紡糸技術をベースに、平均繊維径1µm(マイクロメートル)という植物由来のセルロースマイクロファイバーを開発したことを発表しています。

 これを化粧品(スキンケア製剤)に配合することで、「肌の上に均一な極薄の膜を張り、成分をムラなく定着させる」ことが可能になります。すでに大手化学・化粧品メーカーの花王との共同開発が進んでいます。

セルロースマイクロファイバーとは何か

 セルロースマイクロファイバー(CMF:Cellulose Microfiber)とは、植物の細胞壁の主成分である「セルロース」を、共通の化学的・機械的処理によってマイクロメートル(μm:1mmの1000分の1)単位の太さにまで微細に解きほぐした(解繊した)高機能バイオマス素材のことです。

 地球上に潤沢に存在する植物由来の天然素材でありながら、従来の木材繊維(パルプ)にはないユニークな物理的・化学的特性を持つため、次世代のグリーンマテリアルとして幅広い産業から注目されています。

1. 驚異的な「ネットワーク(網目)構造」の形成力

 極細の繊維が非常に高いアスペクト比(縦横比)を持つため、液体に分散させると繊維同士が自発的に絡み合い、強固な三次元の網目構造(ネットワーク)を作ります。

 これが、液体の分離を防いだり、均一な薄膜を形成したりする原動力になります。

2. 特異な粘性(チキソトロピー性)

 CMFを混ぜた液体は、「静止しているときはドロッとして高粘度だが、力を加えるとサラサラになって流動する」という性質(チキソトロピー性)を持ちます。

  • 応用例: スプレーで吹き付けるときは霧状になり、肌や壁に付着した瞬間にピタッと留まって液だれしない、といったコントロールが可能になります。

3. 軽くて強い(補強効果)

 鋼鉄の5分の1の軽さでありながら、5倍以上の強度を持つというセルロース本来の結晶構造を維持しています。

 プラスチックなどの樹脂に混ぜることで、製品の軽量化と高強度化を両立する補強材として機能します。

4. 優れた環境親和性(サステナブル)

 植物(木材パルプ、綿、あるいは旭化成の例のような再生セルロースなど)が原料のため、カーボンニュートラルであり、自然界に排出されても微生物によって完全に分解される海洋生分解性を持っています。

主な応用分野

 CMFはその多機能性から、化粧品以外にも非常に幅広い分野で実用化・研究が進んでいます。

  • 自動車・家電(構造資材): プラスチック(ポリプロピレンなど)にCMFを練り込むことで、強度を保ったままパーツを薄肉・軽量化し、EVの航続距離向上やCO2削減に貢献します。
  • 塗料・インク・コーティング剤: 壁面塗装の「液だれ防止」や、ボールペンインクの「滑らかな書き心地(書くときだけサラサラになる)」を実現します。
  • 食品・医薬品: 天然由来の増粘剤、乳化安定剤(油と水を分離させない)として、ドレッシングやクリーム、医薬品の錠剤の成形などに利用されます。
  • 環境フィルター: 微細な網目を利用して、PM2.5や微細な不純物をキャッチする高性能フィルターの素材としても期待されています。

セルロースマイクロファイバーとは、植物由来のセルロースをマイクロメートル単位まで微細化した高機能素材。軽くて強く、液体中で自発的に網目構造を作って均一な膜を形成し、優れた海洋生分解性も持つ次世代素材です。

なぜチキソトロピー性を持つのか

 セルロースマイクロファイバー(CMF)がチキソトロピー性(力を加えるとサラサラになり、止めるとドロッとする性質)を持つ理由は、「微細な繊維同士のゆるい結合」「力が加わったときの繊維の整列」にあります。

チキソトロピー性が生まれる3ステップ

1. 静止時:ジャングルジム構造で水分を閉じ込める

 何も力を加えていない状態では、非常に細長くアスペクト比(縦横比)の高いCMF同士が、ランダムに絡み合っています。

 さらに、セルロースの表面には「水酸基(-OH)」という、お互いに引き付け合う(水素結合を作る)手の手がたくさん出ています。これにより、繊維同士がゆるく結合し、3次元のジャングルジムのような網目構造を作ります。

 この網目の隙間に水や美容成分がガッチリ閉じ込められて動けなくなるため、全体として「ドロッとした(粘度が高い)」状態になります。

2. 力を加えた時:繊維が「前へならえ」をして受け流す

 肌に塗る、あるいはボトルを振るといった「せん断力(ずらす力)」が加わると、繊維同士のゆるい結合(水素結合)がプチプチと簡単に切れてしまいます。

 結合が切れた繊維たちは、加えられた力の方向に沿ってキレイに一列に整列(配向)します。

 ジャングルジムがバラバラになって、すべての丸太が流れの向きにきれいに並ぶイメージです。これにより、液体全体の摩擦抵抗が激減するため、粘度が急激に下がって「サラサラ」になります。

3. 力を抜いた時:一瞬で元のスクラムに戻る

 手を離して力を加えるのをやめると、整列していた繊維たちは、セルロース本来の「引き付け合う力(水素結合)」と熱運動によって、再びランダムに絡み合い始めます。

 一瞬にして元のジャングルジム構造(網目)が復活するため、再び水分を閉じ込め、元の「ドロッとした」状態に戻ります。

 この「力をかけた時だけ形を変える」という柔軟な構造特性は、化粧品の塗り心地だけでなく、建築用塗料の液だれ防止や、ボールペンのなめらかな書き味などにも応用されています。

静止時は繊維が水素結合で網目構造を組み水分を閉じ込めますが、力を加えると結合が切れて繊維が流れの方向に一列に整列し、摩擦が激減してサラサラになるため。力を抜くと瞬時に元の網目構造へ戻ります。

なぜ化粧品に使用するのか

 化粧品にセルロースマイクロファイバー(CMF)を使用する理由は、「肌のうえに、美容成分をたっぷり抱え込んだ『第二の皮膚』のような理想的な極薄膜を作れるため」です。

 従来の化粧品では難しかった肌へのアプローチを可能にする、具体的なメリットは以下の3点です。

1. 美容成分をムラなく、ピタッと定着させる

 人間の肌には細かいシワや毛穴などの凹凸があり、一般的な化粧品は時間が経つとヨレたり、凸凹の低い部分に成分が溜まったりしてムラができがちです。

 CMFを配合すると、液体が乾燥していく過程で繊維同士が自発的に結びつき、肌の凹凸に沿ってキレイな網目状の膜を形成します。

 網目の隙間に美容成分や水分をしっかりキャッチして閉じ込めるため、成分が肌表面に均一に残り続け、効果を最大限に発揮できます。

2. 圧倒的な保水力で乾燥を防ぐ

 植物由来のセルロースはもともと水となじみやすい(親水性が高い)性質を持っています。

 その極細繊維が作った網目のなかに水分を大量に抱え込むことができるため、肌からの水分の蒸発を長時間にわたってブロックし、高い保湿効果をキープします。

3. 「よく伸びるのに液だれしない」絶妙な使い心地

 CMFには、力を加えるとサラサラになり、静止するとドロッとする特殊な粘性(チキソトロピー性)があります。

 これがお肌に塗る際、非常に大きなメリットになります。

  • 塗るとき: 手で伸ばす力が加わるため、サラッと滑らかに気持ちよく広がります。
  • 塗った後: 手を離した瞬間に元の組織に戻るため、肌にピタッと密着し、汗をかいてもヨレたり流れたりしません。

 これまで化粧品の「とろみ」や「密着感」を出すためには、プラスチック由来の合成ポリマーが多く使われてきました。

 しかし現在、環境規制によってこれらを廃止する動きが世界中で強まっています。CMFは、天然由来(100%植物)でありながら合成ポリマー以上の高機能を持つため、次世代のクリーンビューティ素材として今まさに求められています。

肌の凹凸に均一な網目状の極薄膜を張り、美容成分や水分をムラなく長時間定着できるからです。塗る時は滑らかに伸びてピタッと密着する優れた使用感や、脱プラスチックにも貢献する環境性の高さが理由です。

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