トヨタの主要部品企業の研究開発費の増大

この記事で分かること

1. なぜ研究開発費が多いのか

自動車が「走るスマホ(SDV)」へ転換し、部品のソフト・電子化に巨額の費用がかかるためです。既存車とEVの「二正面開発」の負担や、自動車メーカーからの開発責任の移管、世界的な生き残り競争も背景にあります。

2. 主要6社はそれぞれどんな部品を扱っているのか

  • デンソー: 電装・半導体
  • アイシン: 変速機やeAxle
  • 豊田自動織機: 電動コンプレッサー
  • トヨタ紡織: シート・内装
  • ジェイテクト: ステアリング・軸受
  • 豊田合成: エアバッグ・樹脂ゴム各社で車の「脳・心臓・骨格・皮膚」を分担しています。

3. eAxle(イーアクスル)とは何か

EVの駆動源である「モーター」、電流を制御する「インバーター」、回転を調節する「減速機」の3基幹部品を1つに合体させた電動駆動システムです。ガソリン車でいう「エンジン」に相当する中核部品です。

トヨタの主要部品企業の研究開発費の増大

 自動車が「走るハードウェア」から「ソフトウェア定義の移動体(SDV)」へと進化する自動車業界の変化に備え、トヨタ自動車単体でも年間1.3兆〜1.5兆円規模の研究開発費を投じています。

 トヨタだけでなく、そのサプライチェーンを支える主要部品各社(デンソー、アイシン、豊田自動織機、トヨタ紡織、ジェイテクト、豊田合成など)も、合計で1兆円を超える巨額の投資を継続しています。 

 部品メーカーの役割は従来の機械加工から先端エレクトロニクスや化学・材料科学へと完全にシフトしており、各社このシフトへ適応するための投資を続けています。

なぜ多額の研究開発が必要なのか

 自動車部品サプライヤー(特にトヨタ系のTier 1と呼ばれる中核各社)が、単なる「下請けの製造業」という枠を超え、メーカー単体で数千億円、グループ合計で1兆円を超えるような巨額の研究開発費を投じなければならない理由は、自動車という製品の構造とビジネスモデルが根本変化しているためです。

1. 「ハードウェア(機械)」から「ソフトウェア(IT)」への転換

 これまでの自動車開発は、エンジンやトランスミッション、サスペンションといった「機械(メカニズム)」の精度を上げることが中心でした。しかし現在の自動車は、「走る巨大なスマートフォン(SDV:Software Defined Vehicle)」へと進化しています。

  • 開発対象の激変部品メーカーが開発する対象が、金属の塊から「半導体」や「制御用ソフトウェア」へとシフトしています。
  • IT人材の確保と莫大なコード量高度な自動運転(ADAS)や車内のインフォテインメントシステムを動かすには、数千万〜億行を超えるプログラムが必要です。優秀なIT・ソフトウェアエンジニアを世界中で大量に雇い、開発環境を整えるだけで天文学的なコストがかかります。

2. 「二重投資(二正面作戦)」を強いられる過渡期

 現在、自動車業界は「ガソリン車・ハイブリッド車(HEV)」が依然として世界中で売れ、利益を稼ぎ出している一方で、「電気自動車(BEV)」や「燃料電池車(FCEV)」へのシフトを急速に進めなければならない過渡期にあります。

領域求められる開発内容
既存領域(ICE/HEV)さらなる燃費向上、排ガス規制(Euro 7など)への対応、コスト削減
次世代領域(BEV/FCEV)eAxle(モーター・インバーター・減速機の一体化)、次世代バッテリー、水素タンク、熱マネジメントシステム

 つまり、「現在の稼ぎ頭を維持・進化させるための開発費」と「未来の生き残りをかけたEV向けの開発費」の両方を同時に満額拠出せざるを得ないため、研究開発費が膨れ上がっています。

3. 自動車メーカーから部品メーカーへの「開発責任の移管」

 かつては、自動車メーカー(OEM)が車の全体像を設計し、部品メーカーに「この図面通りに部品を作ってくれ(図面支給)」と発注するスタイルが主流でした。

 しかし、技術が高度化しすぎた現在、自動車メーカー側だけではすべての部品を詳細に設計することが不可能です。

  • システム(モジュール)単位での丸投げ:例えば、自動車メーカーから「自動ブレーキシステムを一式作ってほしい」とか「EVの駆動・熱管理システムを最適化して納品してほしい」という発注のされ方に変わっています。
  • リスクとコストの肩代わり:部品メーカー側が自ら巨額の資金を投じて、基礎研究からテスト、シミュレーション、安全性の実証までを完結させる必要があり、上流工程(開発フェーズ)の負担がそっくり部品メーカー側にシフトしています。

4. グローバルな「系列外」への外販・生き残り競争

 トヨタ系部品メーカーといえど、トヨタの仕事だけをしていれば安泰という時代は終わりました。中国のBYDやテスラを筆頭に、新興のEVメーカーが台頭し、既存の自動車メーカーを脅かしています。

  • 他社に売れる「世界一の技術」を持つ必要性世界中の自動車メーカー(BMW、ステランティス、欧米・中国の新興EV勢)を顧客にするためには、競合であるボッシュ(ドイツ)やコンチネンタル、あるいは中国の巨大サプライヤー(CATLなど)を凌駕する圧倒的な技術力(知的財産)を自前で持っていなければなりません。
  • 「技術がない部品メーカー」の淘汰EV化が進むと、エンジン関連の部品(数万点)が不要になります。既存の金属加工中心の部品メーカーが、電動化に対応した新しい高付加価値部品を生み出せなければ、会社そのものが消滅する危機感があります。

 トヨタ系部品6社が投じる1兆円超の資金は、「新製品を開発して売上を伸ばすためのポジティブな投資」であると同時に、「いま投資を止めたら、5年後・10年後に自動車産業のサプライチェーンから完全に脱落する」という、生き残りをかけた防衛費としての側面を強く持っています。

自動車産業が「走るスマートフォン(SDV)」やEVへ転換する中、部品の電子化・ソフト化に巨額の費用がかかるためです。既存車と次世代車の「二正面開発」の負担や、自動車メーカーからの開発責任の移管、グローバルな生き残り競争激化も背景にあります。

主要6社はそれぞれどんな部品を扱っているのか

 トヨタ系主要部品6社は、それぞれが世界トップクラスのシェアを持つ専門領域を担っており、車の「走る・曲がる・止まる」から「内装・外装」までを役割分担しています。

 各社の主な取扱部品と、EV・次世代領域での注目製品は以下の通りです。

1. デンソー(DENSO)

【領域:電装・電子制御・半導体(グループの頭脳)】

  • 主要部品: エアコンシステム、ECU(電子制御ユニット)、インジェクター(燃料噴射装置)、各種センサー、ミリ波レーダー。
  • 次世代・EV領域: 車載用パワー半導体(SiCなど)、インバーター、自動運転(ADAS)用ソフトウェア。

2. アイシン(AISIN)

【領域:駆動系・パワートレイン(グループの足回り)】

  • 主要部品: オートマチックトランスミッション(AT、世界シェアトップクラス)、ブレーキシステム、サンルーフ、パワースライドドア。
  • 次世代・EV領域: モーター・インバーター・減速機を一体化した駆動ユニット「eAxle(イーアクスル)」、回生ブレーキ。

3. 豊田自動織機(TOYOTA INDUSTRIES)

【領域:電動コンプレッサー・フォークリフト】

  • 主要部品: カーエアコン用コンプレッサー(世界シェア首位)、フォークリフト(産業車両で世界首位)、エンジン。
  • 次世代・EV領域: EVの電力を効率よく制御する「高電圧充放電器」や「DC-DCコンバーター」、EV用電動コンプレッサー。

4. トヨタ紡織(TOYOTA BOSHOKU)

【領域:内装空間・シート】

  • 主要部品: 自動車用シート(座席)、ドアトリム(内張り)、天井、エアクリーナー。
  • 次世代・EV領域: 自動運転やシェアリングを見据え、シートレイアウトが自在に変わる「次世代車室空間(MXシリーズなど)」、軽量化植物由来素材。

5. ジェイテクト(JTEKT)

【領域:ステアリング・駆動部品・軸受】

  • 主要部品: 電動パワーステアリング(EPS、世界シェアトップクラス)、ベアリング(軸受)、駆動系ジョイント、工作機械。
  • 次世代・EV領域: ハンドルとタイヤを電気信号で結ぶ「ステア・バイ・ワイヤ」、EVの高速回転モーターに対応する超低フリクション軸受。

6. 豊田合成(TOYODA GOSEI)

【領域:ゴム・樹脂・安全システム】

  • 主要部品: エアバッグシステム、ハンドル、フロントグリル、ウェザストリップ(ドアの防水・遮音ゴム)。
  • 次世代・EV領域: EVの顔となる「LED発光フロントグリル」、燃料電池車(FCEV)向けの「高圧水素タンク」、軽量化樹脂部品。
  • デンソー: 電装・半導体・自動運転ソフト
  • アイシン: 変速機やEV駆動用の「eAxle」
  • 豊田自動織機: 電動コンプレッサーや電子機器
  • トヨタ紡織: シートなどの内装
  • ジェイテクト: ステアリングや軸受
  • 豊田合成: エアバッグやゴム・樹脂部品

各社が強みを持ち、車の「脳・心臓・骨格・皮膚」を分担しています。

eAxleとは何か

 eAxle(イーアクスル)とは、電気自動車(BEV)やハイブリッド車(HEV)の「心臓部」にあたる、主要な駆動部品をコンパクトに一体化した電動駆動システムのことです。

 ガソリン車でいう「エンジン」と「トランスミッション」の役割を同時に果たします。具体的には、以下の3つの基幹部品を1つの箱(ハウジング)に詰め込んでいます。

  1. モーター: 電気で回転して車を動かす動力源。
  2. インバーター: バッテリーの直流電流を、モーター用の交流電流に変換・制御する頭脳。
  3. 減速機(ギヤ): モーターの高回転を適切な回転数・トルクに調節してタイヤに伝える変速機。

なぜ今、eAxleが主流なのか?(メリット)

  • 車内が広くなる(小型・軽量化)別々だった部品を一体化して配線などを減らすことで、システム全体が劇的に小さくなります。その分、車内空間を広くしたり、バッテリーを多く積んだりできます。
  • 低コスト・高効率部品点数が減るため製造コストが下がり、電力の伝達ロスも減るため、航続距離の向上につながります。
  • 自動車メーカーが使いやすい(モジュール化)自動車メーカー側は、この「eAxle」をプラットフォーム(車台)にはめ込むだけで簡単にEVを作れるようになります。

 先ほどのトヨタ系部品メーカーでは、主にアイシンデンソーがこのeAxleの開発・生産に巨額の投資を行い、世界中でのシェア獲得を競っています。

eAxle(イーアクスル)とは、EV等の駆動源である「モーター」、電流を制御する「インバーター」、回転数を調節する「減速機」の3部品を一体化したシステムです。ガソリン車のエンジンにあたる心臓部です。

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