フォトレジストの剥離液

この記事で分かること


なぜ剥離できるのか

アルカリがレジスト樹脂のカルボン酸と中和反応を起こし水溶性の塩に変化させて溶解します。また有機溶剤系はレジスト内部に浸透・膨潤させて基板との密着力を弱め、物理的に剥離します。

基材へのダメージとは何か

剥離液がレジスト以外の部分を攻撃することです。具体的にはアルミ等の金属配線の腐食・溶解、ナトリウムイオンなどの金属イオンが基板内部に侵入して電気特性を劣化させること、絶縁膜の侵食が挙げられます。


なぜアミンはダメージが少ないのか

アミンは弱アルカリのため水酸化物イオンの放出量が少なく、金属配線や絶縁膜への攻撃が穏やかです。またNaOHのような無機アルカリと異なり金属イオンを含まないため、基板内部への汚染も起こりません。

フォトレジストの剥離液

東京応化工業は、高純度化学薬品の品質向上および供給能力拡大を目的として、「阿蘇工場 阿蘇くまもとサイト」(熊本県菊池市)における新工場を竣工しました。

 約130億円を投じて建設された新工場は、九州エリアの半導体生産の拡大に対応することを目的としており、敷地面積は12万8,000平方メートルの規模を誇ります。

 新工場が設置された菊池市は、台湾の半導体大手TSMCが国内に設けた製造拠点のすぐ近くに位置します。種市順昭社長は「TSMCをはじめ西日本をカバーする拠点として、さらなる拡張工事も検討する」と述べており、同社はこの熊本拠点を西日本の半導体サプライチェーンにおける中核に位置づけています。

 前回は熊本での新工場設立理由やフォトレジストに関する記事でしたが、今回はフォトレジスト関連薬品の一つである剝離液に関する記事となります。


剥離液はなぜフォトレジストを剥離できるのか

 フォトレジストの剥離は、化学的・物理的なアプローチで行われます。

 フォトレジストは、シリコンウェハーに塗布して露光・現像し、エッチング処理で回路を形成した後、役目を終えた不要なフォトレジスト膜を除去する必要があります。この工程がレジスト剥離です。

剥離の方法

 レジスト剥離の方法は、有機溶剤を用いる「ウェットプロセス」と、プラズマやオゾンなどのガスを用いる「ドライプロセス」の2つに大別されます。

ウェットプロセス:化学反応で溶かす・膨潤させる

 ウェットプロセスは、アルカリ溶液やアミン系溶液などの有機溶剤系の剥離液を接触させることでレジストを除去する方法です。剥離速度が速く製造効率がよいことから、従来から多く活用されています。

 剥離液の種類によって、フォトレジストへの作用メカニズムが異なります。

 まず「アルカリ系・アミン系剥離液」の場合、有機アミンなどのアルカリ成分による化学的な分解作用でレジストを除去します。比較的穏やかな反応で剥離するため基板へのダメージが少なく、微細なパターンを持つデバイスの製造に適しています。

 「酸化剤系剥離液」は、過硫酸やオゾンなどの酸化剤によってレジストを分解・除去します。強力な酸化作用により、高度に架橋したレジストや難剥離性のレジストに対しても効果的で、処理速度が速く大量生産に向いています。

 「有機溶剤系剥離液」は、特殊な有機化合物によりレジストを膨潤させ、物理的に剥離する方式です。レジスト内部に浸透して膨潤させることで基板との密着力を弱め、効果的な除去を実現します。

ドライプロセス:熱・光・プラズマで気化させる

 ドライプロセスでは、真空環境でプラズマを発生させレジストを気化して除去する方法が一般的です。このほかにも紫外線などの光を照射してレジストの化学反応を促進させる方法や、レーザー光を照射して剥離する方法もあります。複雑で高額な機器が必要でコストはかかりますが、微細な処理が可能です。

剥離液の選定が重要

 剥離液にはさまざまな種類があり、転写方式の違い(ポジ型専用・ネガ/ポジ両用)や厚膜用などの用途によって適切な剥離液を選択する必要があります。

 また、フォトレジストは光に反応して硬化し回路パターンを形成するため、加工後の剥離が必要であり、高い除去能力と適切な安全性を持つ製品が求められます。

 近年は環境面の課題も意識されており、ウェットプロセスは有害な薬液の管理や廃液の環境負荷に関する配慮が必要なため、環境負荷を低減する剥離液の開発も進んでいます。


剥離液はアルカリ・アミン成分によるレジストの化学的分解、酸化剤による強力分解、有機溶剤によるレジスト膨潤と密着力低下という3つのメカニズムでフォトレジストを除去します。ドライプロセスではプラズマや紫外線で気化除去する方法もあります

なぜアルカリで分解するのか


フォトレジストの構造:露光前はアルカリに溶けない

 代表的なポジ型フォトレジストは、ベース樹脂にノボラック樹脂、感光剤・溶解抑制剤としてジアゾナフトキノン誘導体(DNQ)が用いられています。

 ノボラック樹脂とDNQの比率はおよそ70対30重量比であり、DNQの窒素とノボラック樹脂の水酸基(-OH)が水素結合しています。DNQは疎水性であるため、これと水素結合したノボラック樹脂はアルカリ現像液に対する溶解性が抑制されます。

 つまり露光前は、DNQがいわばふたの役割を果たし、ノボラック樹脂がアルカリに溶けないよう抑え込んでいます。

光を当てると化学構造が変わる

 光によってDNQからカルベンが発生し、ウルフ転位と続く求核攻撃によってインデンカルボン酸へと変化します。この変化によって露光部分がアルカリ可溶化されます。

 ノボラック樹脂のアルカリ溶解性は、DNQと混合することにより消失してアルカリ不溶となりますが、露光して生成したインデンカルボン酸とノボラック樹脂の混合物は、ノボラック樹脂単体以上のアルカリ溶解性を示します。

 DNQの溶解阻害効果がなくなり、アルカリ可溶性のカルボン酸に変成したためです。

なぜカルボン酸になるとアルカリに溶けるのか

 ここが化学的な核心です。カルボン酸(-COOH)はアルカリ(水酸化物イオン OH⁻)と中和反応を起こします。

 この反応でカルボン酸は水に溶けやすいカルボン酸塩(-COO⁻)に変化します。これは石鹸がアルカリで油脂(脂肪酸)を鹸化して水溶性にする原理と同じです。水酸化物イオンとエステルとの反応は「塩基で促進される加水分解」と呼ばれ、けん化とも呼ばれます。 

 一方、露光されていない部分はDNQが残ったままのためアルカリには溶けず、パターンとして残ります。

剥離液による最終除去

 現像で回路パターンを形成した後、エッチングが終わると今度はパターンとして残っていたレジスト膜も不要になります。

 この最終除去では有機アミンなどのアルカリ成分による化学的な分解作用でレジストが除去されます。比較的穏やかな反応で剥離するため基板へのダメージが少なく、微細なパターンを持つデバイスの製造に適しています。

 このようにポジ型フォトレジストとアルカリの関係は、「光を当てた部分だけカルボン酸に変化してアルカリに溶けるようになる」という精密な化学設計によって成り立っています。


ポジ型フォトレジストは露光前、感光剤DNQがアルカリへの溶解を抑制しています。光を当てるとDNQがカルボン酸(インデンカルボン酸)へ変化し、アルカリと中和反応を起こして水溶性の塩になります。これが「アルカリで溶ける・分解する」仕組みの本質で、石鹸の鹸化反応と同じ原理です。

基材へのダメージとは何か、なぜアミンはダメージが少ないのか

 半導体の製造工程では、シリコンウェハーの上にいくつもの層が積み重なっています。剥離液がフォトレジストだけを取り除けず、その下の材料まで攻撃してしまうことが「ダメージ」です。具体的には次の3種類が問題となります。

「金属配線の腐食」

 半導体の金属配線材料として代表的なのはアルミニウム(Al)で、酸化膜との密着性が高く加工性に優れています。

 しかしアルミニウムは強アルカリに対して非常に弱く、水酸化ナトリウム(NaOH)のような強アルカリに触れると溶解してしまいます。配線が溶けると回路が断線し、チップそのものが機能しなくなります。

「金属イオン汚染」

 重金属による汚染は、リーク電流の過剰誘因や酸化膜耐圧の劣化など半導体製品の性能に悪影響を与え、歩留まり低下を引き起こす恐れがあります。 

 NaOHのような無機アルカリには、ナトリウムイオン(Na⁺)が含まれます。これが半導体基板内部に侵入すると、わずかな量でもトランジスタの電気特性を狂わせてしまいます。

 さらに「絶縁膜・酸化膜の侵食」も起こりえます。低誘電率層間絶縁膜などの半導体材料は、強い薬品に対して侵食されやすいため、これを腐食することなく剥離できる方法が求められています。絶縁膜が傷つくと、本来電気を通さないはずの部分に電流が流れ、素子の特性が劣化します。

なぜアミン系剥離液はダメージが少ないのか

 アミン(有機アミン)は「弱アルカリ」に分類される化合物です。アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物が強塩基(強アルカリ)であるのに対して、アンモニアやアミンなどは弱塩基(弱アルカリ)に分類されます。

 強アルカリであるNaOHは水中でほぼ100%イオンに分解し、水酸化物イオン(OH⁻)を大量に放出します。

 これが金属やガラス質の絶縁膜を激しく攻撃します。一方、アミン系の剥離液はOH⁻の放出量が少なく穏やかに作用するため、レジストの樹脂骨格は分解しながらも金属配線や絶縁膜への攻撃は抑えられます。

 加えて、アミン系剥離液には金属イオン(Na⁺など)が含まれないという決定的な利点があります。アミン系剥離液は比較的穏やかな反応で剥離を行うため、基板へのダメージが少なく、微細なパターンを持つデバイスの製造に適しています。

 半導体製造での使用実績という観点でも、ウェットプロセスは、レジストを溶かす薬液がレジスト以外の部分に余計な悪影響を与える可能性があるという課題があり、この理由から現実の工場では微細な半導体回路の工程にプラズマアッシャを使い、比較的ラフな半導体回路の工程にはウェットステーションが使われる傾向があります。

 微細化が進む最先端の工程ほど、基材へのダメージを最小限に抑えることが求められます。


基材へのダメージとは、剥離液が金属配線を腐食・溶解させること、ナトリウムイオンなどの金属イオンが半導体内部に侵入して性能を劣化させること、絶縁膜を侵食することを指します。アミン系剥離液は弱アルカリで反応が穏やかなうえ、金属イオンを含まないため、これらのダメージを抑えられます。

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