住友金属鉱山の新規正極材開発拠点完成 どのような開発を行うのか?全固体電池とリチウムイオン電池の正極材の違いは何か?

この記事で分かること

  • 行う開発の内容:主に全固体電池向け正極材と現在普及している車載用リチウムイオン電池のさらなる高性能化を狙った開発を行う予定です。
  • 全固体電池とリチウムイオン電池の正極材の違い:最大の違いは「固体電解質との接触面(界面)」の設計です。液体と異なり固体同士は密着しにくいため、正極材の表面に特殊なコーティングを施し、リチウムイオンの移動をスムーズにする高度な界面制御技術が不可欠となります。
  • コーティングに使用される物質:全固体電池では正極と固体電解質が反応し、電気を遮断する層ができやすいため、表面をニオブ酸リチウム等で薄く被覆します。これが保護壁となり、不要な反応を抑えつつリチウムイオンをスムーズに移動させます。

住友金属鉱山の新規正極材開発拠点完成

 住友金属鉱山が、車載用電池の主要材料である「正極材」の研究開発を強化するため、愛媛県新居浜市の電池研究所に「第2開発棟」を完成したことが報道されています。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC040N80U6A100C2000000/

 今回の新棟完成により、この「材料(川下)」の部分での開発スピードがさらに上がることが期待されています。特に、トヨタ自動車などの主要顧客が全固体電池の実用化を急ぐ中、その心臓部である正極材の供給能力と技術力で優位に立つ狙いがあります。

どんな正極材を開発するのか

 住友金属鉱山が電池研究所(愛媛県新居浜市)の新棟(第2開発棟)で開発を進める正極材の主な内容は、以下の通りです。

1. 次世代電池(全固体電池)向け正極材

 将来の本命とされる全固体電池に対応した新しい正極材の開発に注力します。全固体電池は、現在主流のリチウムイオン電池よりも安全性が高く、急速充電や長距離走行が可能になると期待されており、その性能を最大限に引き出すための材料開発を進めます。

2. 高性能リチウムイオン電池用正極材

 現在普及している車載用リチウムイオン電池のさらなる高性能化を目指します。

  • 高ニッケル化: 電池の容量を増やすために、ニッケルの比率を高めた正極材の開発を加速させます。
  • 低コバルト・コバルトフリー: 希少で価格変動の激しいコバルトの使用量を減らし、コスト低減とサプライチェーンの安定化を図ります。

3. 製造プロセスの革新

 材料そのものの研究だけでなく、高品質な正極材を効率的に量産するための「製造プロセス」の研究も行います。

  • 新棟には中規模のパイロット設備が導入されており、ラボレベルでの研究成果を実際の工場での大量生産にスムーズに移行(スケールアップ)させるための実証試験が行われます。

 この新棟の完成により、同社は資源調達から製錬、材料製造、リサイクルまでを一貫して手がける強みを活かし、EV市場の変化に迅速に対応できる体制を整えています。

主に全固体電池向け正極材と現在普及している車載用リチウムイオン電池のさらなる高性能化を狙った開発を行う予定です。新棟では、これらを商用化するための中規模パイロット設備による実証試験を行われます。

全固体電池向け正極材と従来の正極剤の違いは何か

 従来の液体リチウムイオン電池(LIB)向けと、全固体電池向けの正極材では、主に「界面(接触面)の設計」「化学的な安定性」の持続が大きな違いです。主な違いは以下の3点に集約されます。

  1. 電解質との接点(液体 vs 固体)
    • 従来: 液体(電解液)が正極材の隙間に入り込むため、接触面を確保しやすい。
    • 全固体: 固体同士を密着させる必要があるため、正極材の表面を特殊な材料でコーティングし、電気の通り道をスムーズにする「界面制御」技術が不可欠。
  2. 膨張・収縮への耐性
    • 充放電時に正極材は膨張・収縮しますが、全固体では液体のように柔軟に追従できないため、接触が外れて性能が落ちやすい。そのため、変形しても壊れにくい結晶構造や粒子設計が求められます。
  3. 動作電圧と高エネルギー密度
    • 全固体電池はより高い電圧での動作が可能になるため、それに応じた「高電位」でも劣化しにくい材料組成が必要となります。

 住友金属鉱山は、得意とするニッケル系の合成技術を活かし、これらの課題を解決する全固体電池専用の正極材を新棟で開発しています。

最大の違いは「固体電解質との接触面(界面)」の設計です。液体と異なり固体同士は密着しにくいため、正極材の表面に特殊なコーティングを施し、リチウムイオンの移動をスムーズにする高度な界面制御技術が不可欠となります。

特殊な材料とはどんな材料なのか

 全固体電池向け正極材に使われる「特殊な材料」とは、主にリチウム系酸化物(ニオブ酸リチウムなど)によるコーティング材を指します。

主な役割と特徴は以下の通りです。

  1. 高抵抗層(反応層)の抑制全固体電池(特に硫化物系)では、正極材と固体電解質が直接触れると化学反応が起き、電気を通しにくい「膜」ができてしまいます。これを防ぐため、ナノレベルの薄さでニオブ酸リチウム(LiNbO₃)などの酸化物で正極材の表面を覆います。
  2. リチウムイオンの「通り道」の確保このコーティング材は、絶縁体のように電気(電子)を遮断しつつ、リチウムイオンだけをスムーズに通す性質を持っています。これにより、固体同士の接触でも効率よく充放電ができるようになります。

 住友金属鉱山は、この非常に薄く均一な膜を正極材の粉末一つひとつに施す独自の粉体合成・表面処理技術を強みとしており、新棟ではこのプロセスの量産化研究が行われています。

ニッケルの比率を高めると容量が増えるのはなぜか

 ニッケルの比率を高めると電池の容量が増えるのは、主に「電子を出し入れする役割(酸化還元反応)」を担う主役がニッケルであるためです。

1. ニッケルは「電気を蓄える主役」

 正極材に使われる金属(ニッケル、コバルト、マンガンなど)の中で、実際にリチウムイオンの出入りに伴って電子を動かし、エネルギーを蓄える役割をメインで担っているのがニッケルです。

  • ニッケル: 酸化還元反応(電気を蓄える反応)に直接大きく寄与する。
  • コバルト・マンガン: 主に結晶構造を安定させる「骨組み」としての役割が強い。

 そのため、骨組み(コバルト等)を減らして主役(ニッケル)を増やすほど、1gあたりの正極材が蓄えられる電気の量(理論容量)が増えることになります。

2. リチウムイオンが動きやすくなる

 ニッケルの比率を高めると、リチウムイオンが層の間を移動しやすくなる性質があります。

 ニッケルを増やすことで、より多くのリチウムイオンを構造から引き出したり戻したりできるようになり、結果として一回の充電で使える電気の量(容量)が向上します。


課題:ニッケル増加によるデメリット

 ニッケルを増やすほど容量はアップしますが、一方で以下のような弱点も出てきます。

  • 安定性の低下: ニッケルが多いと構造が不安定になりやすく、寿命が短くなったり熱暴走しやすくなったりする。
  • 表面劣化: 空気中の水分と反応しやすく、加工が難しくなる。

 住友金属鉱山の新しい研究所では、「ニッケルを増やして容量を上げつつ、どうやって安定性を保つか」という高度なバランスを追求する研究が行われています。

正極材の中で、電子を出し入れしてエネルギーを蓄える役割(酸化還元)を主に担うのがニッケルです。骨組み役のコバルト等を減らし、反応の主役であるニッケルを増やすことで、蓄電できる電気の量(容量)が直接向上します。

コバルトが使用される理由と使用量を減らす方法は

 コバルトが正極材に使用される最大の理由は、「電池の骨組みを安定させ、寿命を延ばすため」です。

1. コバルトが使用される理由

 正極材は、リチウムイオンが出入りする際に結晶構造が膨らんだり縮んだりします。コバルトには以下の重要な役割があります。

  • 構造の安定化: リチウムが抜けても結晶構造が崩れないよう「柱」のように支え、繰り返し充放電しても壊れにくくします(長寿命化)。
  • 安全性の向上: 熱暴走を抑え、発火などのリスクを低減する熱安定性を高める効果があります。
  • 導電性の向上: 電気(電子)を流れやすくし、効率的な充放電を助けます。

2. 使用量を減らす方法

 コバルトは「紛争鉱物」としての懸念や価格高騰のリスクがあるため、世界中で削減(低コバルト・コバルトフリー化)が進められています。

手法内容
高ニッケル化反応の主役であるニッケルの比率を増やし、相対的にコバルトを減らす(NMC811など)。
異種金属のドープアルミニウム(Al)やマグネシウム(Mg)などの安価な金属を微量添加し、コバルトの代わりに構造を安定させる。
表面コーティング粒子の表面を酸化物などで薄く覆い、コバルトが少なくても電解液との副反応を抑える。
代替材料の採用そもそもコバルトを使わない「リン酸鉄リチウム(LFP)電池」などを採用する。

 住友金属鉱山は、コバルトを極限まで減らしつつ、ニッケルを増やして高い安定性を維持するための特殊な配合技術を、新設した電池研究所で磨いています。

コバルトは正極材の結晶構造を安定させ、「電池の長寿命化」と「安全性の確保」に不可欠です。削減には、反応の主役であるニッケルの比率を高める手法や、アルミニウム等の安価な金属で構造を代用する技術が用いられます。

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