この記事で分かること
1. 住友電工の海底ケーブル事業内容
洋上風力発電や国際間連系向けの「高圧直流(HVDC)」海底ケーブルの設計・製造から、洋上での敷設・保守までを一貫して提供するビジネスです。世界最高水準の絶縁技術(XLPE)を強みにグローバルに展開しています。
2. SSEN Transmissionの海底ケーブル事業の特徴
北海の洋上風力電力を送るため、大容量・低損失な「高圧直流(HVDC)」海底送電網を推進。資材確保に向け、住友電工などのメーカーと長期包括契約を結び、確実なインフラ構築を図る「発注・運用側」の戦略が特徴です。
3. 両者が提携する理由
住友電工は建設中の現地新工場の安定稼働を支える長期の大口注文を確保したい。SSENは世界的なケーブル不足の中で最先端の供給枠を早期に囲い込み、計画の遅延を防ぎたい。両者の利害が完全に一致したためです。
住友電工とSSENの連携
住友電気工業(住友電工)は、スコットランドの送電大手であるSSEN Transmission(SSEN)と、高圧直流(HVDC)ケーブルプロジェクトに関する長期的な戦略的パートナーシップ(フレームワーク契約)を締結したことを発表しました。
英国本土とシェットランド諸島を繋ぐ、525kVの高圧直流(HVDC)XLPE海底ケーブルを用いた送電網整備計画を進めるものと思われます。
住友電工の海底ケーブル事業内容は何か
住友電工の海底ケーブル事業は、主に洋上風力発電や国際間の電力融通(連系線)に使われる「高圧電力海底ケーブル」の設計・製造から、海上での敷設、接続、メンテナンスまでをトータル(ターンキー)で提供するビジネスです。
製品を作るだけでなく、海をまたぐ大規模な送電インフラの建設全体を請け負う点に特徴があります。
1. 世界最高水準のケーブル技術(製品・技術)
住友電工は、長距離・大容量の送電に不可欠な「高圧直流(HVDC)ケーブル」の分野で世界トップクラスの技術を持っています。
- XLPE(架橋ポリエチレン)絶縁技術: 従来のケーブルは内部に絶縁油(オイル)を使用していましたが、同社はプラスチックの一種であるXLPEを絶縁体に使った技術を世界に先駆けて実用化しました。油漏れによる海洋汚染のリスクがなく、熱に強いため、より多くの電気を安定して送ることができます。
- 世界最高電圧への対応: 現在、業界最高クラスである525kV(キロボルト)の直流XLPE海底ケーブルを開発・実用化しており、これが欧州の大規模プロジェクトで次々と採用されています。
2. 洋上風力と国際連系(主な用途)
主に次の2つの巨大市場に向けて事業を展開しています。
- 国際間・地域間連系線(インターコネクター): 国と国(例:英国と欧州本土)、または離島と本土の間を海底ケーブルで結び、電力を融通し合うネットワークを構築します。
- 洋上風力発電の送電: 海上に設置された大量の風力発電機が集めた電気を、陸上の変電所まで運ぶための「基幹送電線(輸出ケーブル)」として機能します。
3. 設計から敷設までの「一貫体制」(バリューチェーン)
ケーブルの製造だけでなく、プロジェクトの全工程を自社、または専門パートナーとのコンソーシアム(共同事業体)で完結させます。
- 設計・製造: 国内の主力拠点である大阪製作所で製造するほか、急増する欧州需要に対応するため、英国スコットランドにも新工場を建設しています。
- 敷設・工事: 巨大なドラムに巻いたケーブルを専用の「海底ケーブル敷設船」に積み込み、海底の泥を掘って埋設・固定していきます。この海上工事の手配や施工管理も事業の重要な一部です。
- 接続・試験・保守: 陸上ケーブルとの接続部(ジョイント)の施工や、敷設後の高電圧通電試験、長期のメンテナンスまでサポートします。
4. グローバル市場への進出(実績)
日本国内の離島連系や本州四国間の送電で培った技術をベースに、現在は再生可能エネルギー投資が活発な欧州(北海エリアなど)やアジア・北米市場へ積極的に進出しています。直近のスコットランド送電大手(SSEN)との提携も、このグローバル拡大戦略の一環です。

洋上風力発電や国際間連系向けの「高圧直流(HVDC)海底ケーブル」の設計・製造から、洋上での敷設・保守までを一貫して提供するビジネスです。世界最高水準の絶縁技術(XLPE)を強みにグローバルに展開しています。
Transmissionの海底ケーブル事業の特徴は何か
スコットランドの送電大手であるSSEN Transmission(SSEN トランスミッション)の海底ケーブル事業には、インフラの発注・運用側(送電事業者)としての明確な特徴が4つあります。
彼らは自社でケーブルを作るメーカーではなく、膨大な再生可能エネルギー(主に洋上風力)を都市部へ運ぶための「巨大な送電ネットワークを構築・運営するトップランナー」です。
1. 「洋上風力」に特化した巨額の脱炭素投資
英国・スコットランド政府が掲げるクリーンエネルギー目標(ネットゼロ)を達成するための主軸を担っています。
世界屈指の風力発電適地である北海エリアの洋上風力で発電された電力を、本土や南部の巨大消費地(イングランドなど)へ送るため、数十億ポンド規模の海底送電プロジェクト(「Beyond 2030」計画など)を次々と打ち出しています。
2. 「高圧直流(HVDC)」への全面的なシフト
海上で長距離かつ大容量の電力を送る際、従来の交流(AC)送電では電気のロスが大きくなってしまいます。
そのため、SSENは最先端の「525kV(キロボルト)高圧直流(HVDC)」技術をベースにした海底ケーブル網を標準化しています。これにより、200kmを超えるような海底ルートでも、電力を極めて効率よく運ぶことが可能になります。
3. 「長期パートナーシップ」による供給網の囲い込み
現在、世界中で海底ケーブルの製造能力や、敷設に必要な特殊船が不足(サプライチェーンのボトルネック)しています。
SSENはプロジェクトごとに単発で入札を行うのではなく、今回の住友電工コンソーシアムのように、信頼できるトップメーカーと数年単位の「長期包括契約(フレームワーク契約)」を結ぶ戦略をとっています。これにより、資材や技術者を確実に確保し、プロジェクトの遅延を防いでいます。
4. 離島や遠隔地を本土とつなぐ「系統連系」の推進
今回の「Shetland 2」のように、これまで本土の送電網から孤立していたシェットランド諸島やアウター・ヘブリディーズ諸島などの離島を、次々と海底ケーブルで本土へつないでいます。
これは離島の電力安定化だけでなく、離島周辺で開発されるクリーンエネルギーを英国全体の送電網へ流し込むための重要なパイプラインとなっています。

北海の洋上風力電力を送るため、大容量・低損失な「高圧直流(HVDC)」海底送電網を推進。資材確保に向け、住友電工などのメーカーと長期包括契約を結び、確実なインフラ構築を図る「発注・運用側」の戦略が特徴です。
それぞれが提携するのはなぜか
今回の提携は、「巨大な注文(需要)を確実なものにしたい住友電工」と、「世界的な品不足(供給難)の中で確実にモノを確保したいSSEN」という、両者の利害が完全に一致した(Win-Winの)結果です。
1. 住友電工(作る側)の理由
巨額の「地元投資」を確実に回収し、欧州での覇権を握るため
- 約700億円の新工場をフル稼働させたい: 住友電工はスコットランド(ニッグ港)に巨大な海底ケーブル工場を建設中です。この巨額投資を無駄にしないためには、完成後(2027年〜)すぐに高確率で稼働を続けられる「大口の長期顧客」が必要でした。
- 欧州市場での圧倒的な実績作り: 525kVという世界トップの超高圧ケーブル技術をSSENの大型プロジェクトで次々と採用してもらうことで、今後の欧州でのさらなる受注活動を有利に進められます。
2. SSEN Transmission(使う側)の理由
世界的な「ケーブル争奪戦」に勝ち、計画を絶対に遅らせないため
- 深刻なサプライチェーンのボトルネック対策: 現在、世界的な脱炭素シフトにより、高圧海底ケーブルの製造能力と敷設船は世界中で激しい争奪戦(奪い合い)になっています。単発の入札では「モノが手に入らずプロジェクトが何年も遅れる」リスクがあるため、長期契約で住友電工を早期に囲い込みました。
- 「地産地消」によるリスク低減と政治的メリット: 住友電工がスコットランド国内でケーブルを作ってくれるため、長距離輸送による納期遅延やコスト上昇のリスクを抑えられます。さらに、地元に多くの雇用を生むため、スコットランド政府や規制当局からのプロジェクト承認(認可)が得やすくなるという大きなメリットもあります。
SSENは「数年先のプロジェクトに必要な最先端ケーブルの枠」を確保でき、住友電工は「新工場の操業を支える巨大な売上」を確保できた、という関係性です。

住友電工は建設中の現地新工場の安定稼働を支える長期の大口注文を確保したい。SSENは世界的なケーブル不足の中で最先端の供給枠を早期に囲い込み、計画の遅延を防ぎたい。両者の利害が完全に一致したためです
高圧直流海底ケーブルの設計・製造の有力メーカーはどこか
高圧直流(HVDC)海底ケーブルの設計・製造市場は、世界的な洋上風力発電の爆発的な普及に伴い、少数のトップメーカーによる「寡占状態」が続いています。
主な有力メーカーは、欧州の「ビッグ3」を筆頭に、日韓の技術系大手、そして急速に台頭する中国勢に分類されます。
1. 欧州の「ビッグ3」(世界市場の絶対的リーダー)
洋上風力や国際連系線の需要が最も先行した欧州で、莫大な実績と市場シェアを持つ3社です。
- Prysmian(プリズミアン / イタリア)
- 特徴: 世界シェア首位の絶対的絶対王者。圧倒的な資金力と買収戦略で規模を拡大しており、深海敷設や超長距離プロジェクトの多くを牽引しています。
- Nexans(ネクサンズ / フランス)
- 特徴: プリズミアンに次ぐ世界大手。最新鋭の自社ケーブル敷設船(Nexans Electra号など)を保有し、製造から洋上工事まで高い垂直統合力を持っています。
- NKT(エヌ・ケー・ティー / デンマーク・スウェーデン)
- 特徴: 高圧・超高圧分野に特化したテック集団。業界最高電圧クラス(640kVなど)の技術開発をリードし、北海周辺の大型プロジェクトを数多く受注しています。
2. 日韓の有力プレイヤー(高い技術力で欧米に食い込む)
欧州勢に引けを取らない最高水準の「XLPE絶縁技術」を武器に、グローバル市場で大型受注を連発している企業です。
- 住友電気工業(日本)
- 特徴: 525kVの直流XLPEケーブルで世界トップクラスの信頼性を誇ります。今回のスコットランドでのSSENとの包括契約や現地工場建設により、欧州市場での存在感を一気に高めています。
- LS Cable & System(LSケーブル / 韓国)
- 特徴: アジア最大の電線メーカー。韓国内の製造拠点を大幅に増強し、コスト競争力と技術力のバランスを強みに欧州や北米市場へ急速に進出しています。
- 古河電気工業(日本)
- 特徴: 100年以上の歴史を持ち、超高圧ケーブルの技術蓄積があります。HVDC分野への設備投資を強化し、国内外のGX(グリーン・トランスフォーメーション)需要を狙っています。
3. 中国勢(圧倒的な価格競争力と巨大な内需)
中国国内の爆発的な洋上風力需要を背景に、技術力を高めて海外市場(主に新興国)を狙うプレイヤーです。
- Hengtong(亨通集団) / ZTT(中天科技) / Orient Cable(東方電纜)
- 特徴: 中国の三大巨大メーカー。地政学的な影響から欧米の主要プロジェクトには参入しづらいものの、圧倒的な生産能力と低価格を武器に世界シェアの数字を伸ばしています。
世界的なケーブル不足(供給難)のため、現在は買い手(送電事業者)がこれらの有力メーカーの製造ライン(枠)を数年先まで奪い合う「売り手市場」となっています。

世界首位のプリズミアン(伊)やネクサンズ(仏)、NKTの欧州3強が市場をリード。これに優れた技術力を持つ日本の住友電工や韓国のLSケーブル、圧倒的な生産力を誇る中国勢が続く寡占市場です。


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