この記事で分かること
1. 主な参入企業
Vertivやシュナイダー等の総合インフラ大手、CoolIT等の液冷専業のほか、ダイキンや三菱重工が大型チラーで参入。日本勢はTDKの精密部材や出光・ENEOSの冷却液など、強みの素材・部品分野で挑んでいます。
2. 市場拡大の理由
AI半導体の超高発熱化で従来の空冷が物理限界を迎えたためです。省エネによる電力不足への対応(PUE改善)、高密度化による敷地コスト削減、環境規制の強化も重なり、液冷技術への移行が加速しています。
3. 単相式液浸冷却油とは何か
サーバー等の機器を直接漬けて冷却する、電気を通さない絶縁性液体です。熱を吸収しても沸騰(気化)させず液体のまま循環して熱を逃がします。安全性が高く、環境規制(PFAS)に適合する点も特徴です。
データセンター冷却市場の拡大
生成AIの爆発的普及に伴い、データセンター(DC)のボトルネックは「処理能力」から「排熱と電力」へと完全にシフトしています。
従来型のファンによる「空冷」では限界を迎えたことから、水冷(Direct-to-Chip)や、サーバーごと液体に浸す「液浸冷却(Immersion Cooling)」への移行が急ピッチで進んでいます。
このデータセンター冷却市場は、2030年代半ばに向けて8兆円規模(約800億ドル)へ急速に拡大すると予測されており、異業種の大手日本企業も相次いで本格参入を果たしています。
主な参入企業にはどんな企業があるのか
データセンター(DC)の冷却市場は、データセンター全体の構築を担う「総合インフラ大手」から、液冷に特化した「新興専業メーカー」、そして「冷却液・精密部品サプライヤー」まで、サプライチェーンの各層にまたがる多様な企業が参入しています。
1. 総合インフラ・熱管理の大手(グローバル巨頭)
冷却システム全体の設計・構築から運用管理ソフトまでを「フルスタック」で提供できるグローバル企業です。
- Vertiv(ヴァーティヴ/米国)
- 特徴: DC冷却市場で世界シェアトップクラスを誇る最大手。空冷から最新のダイレクト液冷(Direct-to-Chip)、CDU(冷却液分配装置)まで網羅し、NVIDIAの推奨冷却パートナーとしても深く食い込んでいます。
- Schneider Electric(シュナイダーエレクトリック/フランス)
- 特徴: エネルギー管理とDCインフラの世界的巨頭。モジュール型の液冷ユニットや、AIによる電力・排熱最適化ソフトウェア(EcoStruxure)を展開しています。
- Rittal(リタール/ドイツ) / STULZ(シュトゥルツ/ドイツ)
- 特徴: 産業用ラックやDC向け専用空調・水冷ラックで世界的に高いシェアを持つ老舗欧州メーカー。
2. ダイレクト液冷・液浸冷却の専業メガサプライヤー
サーバーの熱源(GPU/CPU)を直接冷やす「ダイレクト液冷」や、液体に沈める「液浸冷却」のコア技術を持つ技術先行企業です。
- CoolIT Systems(カナダ)
- 特徴: ダイレクト液冷(Direct-to-Chip)分野のパイオニア。GPUに密着させる高度な「コールドプレート」や超高密度CDUの製造で圧倒的な実績を持ちます。
- Submer(スペイン)
- 特徴: 単相式液浸冷却(Single-Phase Immersion)の先駆者。大手ハイパースケーラー(クラウド事業者)やIntel等との提携を進め、標準化を牽引しています。
- LiquidStack(米国) / GRC(Green Revolution Cooling/米国)
- 特徴: 沸騰と凝縮を利用する2相式液浸(LiquidStack)や、設置が容易なモジュール型液浸槽(GRC)を手掛ける液浸ベンダー。
3. 大型チラー・一次冷却プラント(HVAC・重工系)
データセンターから集められた熱を、建物の外へ逃がす大型の冷凍機(チラー)や冷却塔を供給するメーカーです。
- Trane Technologies / Johnson Controls / Carrier Global(米国)
- 特徴: 空調・ビル管理の大手3社。メガデータセンター向けの超大型水冷チラープラントで強みを発揮します。
- ダイキン工業 / 三菱重工(日本)
- 特徴: 高効率な産業用大型冷凍機やヒートポンプ技術を武器に、AIデータセンターの省エネ一次冷却システム市場へ注力しています。
4. 冷却液(フルード・オイル)メーカー
サーバーを直接冷やすための絶縁性液体(クーラント)を供給するケミカル・石油大手です。
- 出光興産 / ENEOS / コスモ石油(日本)
- 特徴: 炭化水素(合成油・鉱物油)ベースの単相式液浸冷却油を展開。高い安全基準(消防法適合の引火点)と低粘度・無臭性を強みに、国内DCやアジア市場を狙っています。
- Chemours(ケマーズ/米国) / Solvay(ソルベイ/ベルギー)
- 特徴: 沸点が低く冷却効率が極めて高いフッ素系液体(主に2相式液浸用)を提供。PFAS(有機フッ素化合物)規制の強まりに応じた環境配慮型代替液の開発を急いでいます。
5. コールドプレート・電子部材・システム統合
冷却システムの性能を裏から支える部材・サプライヤー群です。
- TDK(日本)
- Fabric8Labsの買収により、3Dプリント技術を用いた微細流路コールドプレートなどの液冷要素技術へ参入。
- 村田製作所 / ローム(日本)
- オイル(液浸)に浸されても劣化しない耐油性コンデンサや高精度センサ、液冷用電源ユニットを供給。
- 富士通 / Supermicro / Dell Technologies
- 冷却メーカーの技術を自社サーバーと統合し、「水冷対応AIサーバーラック」としてデータセンター事業者に提供するシステムインテグレーター。
現在の市場は、VertivやSchneiderなどのインフラ全体を握る巨大企業が中核となりつつ、コールドプレートや液浸槽を作る専業メーカー(CoolIT, Submer等)、そして日本の素材・電子部品メーカー(TDK, 出光等)がキーパーツや部材を供給するエコシステムで構成されています。

Vertivやシュナイダー等の総合インフラ大手、CoolIT等の液冷専業のほか、ダイキンや三菱重工が大型チラーで参入。日本勢はTDKの精密部材や出光・ENEOSの冷却液など、強みの素材・部品分野で挑んでいます。
なぜ市場が拡大しているのか
データセンター(DC)の冷却市場が急拡大している背景には、主に「技術的限界」「電力不足」「環境規制」という3つの決定的な構造変化があります。
1. AI半導体の超・高発熱化(空冷の物理的限界)
最大の要因は生成AIの普及です。NVIDIAの「Blackwell」などの最新GPUは、1ラックあたりの消費電力(発熱量)が100kWを超え始めています。
- 空冷の限界: 従来のファンで風を送る方式は約30kWが限界とされており、ファンをいくら強く回しても物理的に冷却が追いつかなくなりました。
- 液冷への不可避な移行: 水などの液体は空気の約20倍の熱伝導率を持つため、熱源を直接冷やす「液冷」へ移行せざるを得ない状況になっています。
2. 世界的な「電力不足」とPUE(電力効率)改善の焦り
データセンターが消費する全体の電力のうち、約4割が「冷却用」に使われています。
- 送電網の容量オーバーにより「これ以上新しい電力を引き込めない」という地域が世界中で増えています。
- 冷却にかかる無駄な電力を削り、1kWでも多くの電力を「計算処理(GPU)」に回すため、省エネ性能に優れた液冷への投資が急務となっています。
3. 高密度化による「土地・建設コスト」の削減
液冷や液浸冷却を導入すると、熱がこもらないためサーバー同士の隙間を詰めてぎっしり配置できるようになります。
- 同じ計算能力を確保するために必要なデータセンターの床面積(敷地)を大幅に縮小可能。
- 地価の高騰や資材高騰が続く中、「建物を小さく作れる」ことが強烈なコストメリットになっています。
4. ESG投資と各国の「環境規制」の強化
データセンターのエネルギー効率を示す指標であるPUE(1.0に近いほど高効率)に対し、欧州や日本、中国などで法的・行政的な規制が厳しくなっています。
- 従来の空冷(PUE 1.3〜1.5程度)から、液冷・液浸(PUE 1.05〜1.1程度)へ切り替えないと、新規建設許可が下りない・投資家から評価されないケースが増加しています。
従来の「巨大なエアコンで部屋全体を冷やす」やり方では「冷やしきれない・電力が足りない・建てる場所がない」という三重苦に直面したため、冷却インフラへの巨額投資が世界中で一気に始まっています。

AI半導体の超高発熱化で従来の空冷が物理限界を迎えたためです。省エネによる電力不足への対応(PUE改善)、高密度化による敷地コスト削減、環境規制の強化も重なり、液冷技術への移行が加速しています。
単相式液浸冷却油とは何か
単相式液浸冷却油(Single-Phase Immersion Cooling Oil)とは、サーバーなどのIT機器を電気を通さない液体(絶縁油)の中に直接丸ごと沈めて冷却する「単相式液浸システム」専用の冷却液です。
出光興産(IDEMITSU ICFシリーズ)やENEOSといった石油・化学メーカーが注力しているのは、この分野のオイルです。
1. なぜ「単相式」と呼ばれるのか
冷却液が熱を吸収したときの「物質の状態(相)」の変化によって分類されています。
- 単相式(Single-Phase): 液体がサーバーの熱を吸っても沸騰(気化)せず、液体の状態のまま循環して熱を逃がす方式。
- 2相式(Two-Phase): 低温で沸騰するフッ素系液体を使い、「液体 ⇔ 気体」の相変化(沸騰・気化熱)を利用して強力に冷やす方式。
仕組み: 単相式は「温まったオイルをポンプで外の熱交換器(CDU)へ送り、冷やしてタンクに戻す」という非常にシンプルで安全な循環構造をしています。
2. 単相式液浸冷却油に求められる5つの条件
電子回路が動いている状態のまま直接液体に漬けるため、非常に特殊な化学的・物理的性質が求められます。
- 完全な絶縁性(非導電性)電気を一切通さないため、通電中の基板や微細な配線がショートしません。
- 低粘度・高熱伝導性水のようにサラサラしているほど、ポンプの送液電力が少なくて済み、基板の微細な隙間までオイルが行き渡って効率よく熱を奪います。
- 高い安全性(高引火点・難燃性)発熱体(GPU)と直接触れるため、日本の消防法等の安全基準に適合する高い引火点(燃えにくさ)が必要です。
- 環境規制への適合(非PFAS)主に炭化水素系(合成油や高度精製鉱物油)が使われるため、世界的に規制が強まるPFAS(有機フッ素化合物)を含まない点が大きな強みです。
- 優れたメンテナンス性無色透明で無臭、かつ人体への刺激が少ないことで、作業者がサーバーを引き揚げて点検・交換する際の視認性と安全性を確保します。
3. 単相式が市場の「本命」と目される理由
2相式(フッ素系)は冷却能力が極めて高い反面、「液体の蒸発によるコスト高」「PFAS規制による供給途絶リスク」という大きな課題を抱えています。
これに対し、単相式は環境面・運用面でのリスクが低く、導入の現実的な本命視されています。
| 項目 | 単相式液浸(オイル系) | 2相式液浸(フッ素系) |
| 主成分 | 合成油・炭化水素系オイル | フッ素系液体 |
| 環境・規制 | PFASフリーで環境リスクが低い | PFAS規制強化の影響を受けやすい |
| 液体の蒸発 | ほぼ蒸発しない(密閉容器不要) | 蒸発しやすく補給コストが高い |
| 構造・運用 | シンプルで液漏れ・事故リスクが低い | 気化・凝縮を制御する高気密構造が必要 |
| PUE(電力効率) | 1.03〜1.08程度 | 1.02〜1.06程度 |
日本企業(出光・ENEOS等)が強い背景
石油・化学大手は、長年培った「自動車用エンジンオイル」「変圧器向け絶縁油」「モータースポーツ用潤滑油」の配合(コンパウンディング)技術を保有しています。
「粘度を下げつつ、いかに引火点を高く保つか」「機器のゴムや樹脂パーツを侵さないか(適合性)」というトレードオフの高度な制御が可能であるため、日本の素材技術が世界市場で優位性を発揮しています。

サーバー等の機器を直接漬けて冷却する、電気を通さない絶縁性液体です。熱を吸収しても沸騰(気化)させず液体のまま循環して熱を逃がします。安全性が高く、環境規制(PFAS)に適合する点も特徴です。


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