この記事で分かること

レアアースの代替技術:固体酸化物形燃料電池の電解質でのスカンジウム
2026年上半期(1〜6月)における日本のレアアース(希土類)輸入量は、中国による対日輸出規制導入前(2024年同期)の約2割にまで大きく落ち込んでいることが判明しました。
EV(電気自動車)の駆動用モーターや半導体製造装置・材料に不可欠なレアアースの調達急減に対し、ベトナムや米国など中国以外からの代替調達や内製化が進んでおらず、サプライチェーンへの強い懸念が広まっています。
第三国ルートの本格化など調達先の多角化を進めてるとともに、代替技術の実用化が強く望まれています。
前回は高周波圧電材料でのスカンジウムフリー化に関する記事でしたが、今回は固体酸化物形燃料電池(SOFC)の電解質でのスカンジウムの利用に関する記事となります。
固体酸化物形燃料電池とは何か
固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell: SOFC)とは、電解質にセラミックス(固体酸化物)を用い、酸素イオンが電解質内部を移動することで燃料の化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する高効率な発電装置です。
発電の仕組みと化学反応
SOFCは「空気極(カソード)」「電解質」「燃料極(アノード)」の3層を基本構造としており、主に700〜1000℃(または中低温型の600〜800℃)の高温で作動します。
- 空気極(カソード)での反応空気中の酸素を受け取り、電子を取り込んで酸素イオン(O2-)を生成します。
O2 + 2e– →O2- - 電解質での移動生成した酸素イオン(O2-)だけが、安定化ジルコニアなどのセラミックス電解質内部の「酸素空孔」を移動して燃料極側へ通過します。
- 燃料極(アノード)での反応通過してきた酸素イオンが、供給された燃料(水素など)と反応して水と電子を生成します。このとき放出された電子が外部回路を流れることで電気(直流電流)が得られます。
H2+O2- → H2O + 2e–
SOFCの主な特徴
| 項目 | 特徴 | 詳細 |
| 発電効率 | 極めて高い | 燃料電池の中で最も高いエネルギー変換効率(単体で50〜60%以上、排熱利用で80%以上)を誇ります。 |
| 燃料の柔軟性 | 多様な燃料が使用可能 | 高温で作動するため、水素だけでなく都市ガス(メタン)、一酸化炭素、バイオガス、アンモニアなども内部改質してそのまま燃料に使えます。 |
| 貴金属フリー | 低コストな触媒 | 高温による高い反応性があるため、他の燃料電池(PEFCなど)のように白金(プラチナ)などの高価な貴金属触媒を必要としません。 |
| 課題・留意点 | 高温・材料負荷 | 作動温度が高いため、起動に時間がかかるほか、熱応力に耐えうる高耐久性・高耐熱性部材が必要となります。 |
主な用途
- 家庭用コージェネレーション(エネファーム Type S):都市ガスから高効率で電気とお湯を作り出す家庭用発電システム。
- 産業・事業用発電:工場やビル向けの自家発電設備、データセンターのバックアップ電源。
- 複合発電(GTCC/SOFC):SOFCの高温排熱でガスタービンや蒸気タービンを回す超高効率メガワット級発電プラント。

セラミックス(固体酸化物)を電解質に用いる燃料電池です。高温で作動し、電解質中を酸素イオンが移動して燃料と反応することで発電します。白金触媒が不要で、数ある燃料電池の中で最も高い発電効率を誇ります。
固体酸化物形燃料電池の電解質でのスカンジウムの役割は何か
固体酸化物形燃料電池(SOFC)の電解質において、スカンジウム(Scandium、元素記号: Sc)は、二酸化ジルコニウム(ジルコニア、ZrO2)に添加される安定化剤(ドーパント)として極めて重要な役割を果たしています。
スカンジウムを添加した電解質材料はスカンジウム安定化ジルコニア(Scandia-Stabilized Zirconia: ScSZ)と呼ばれます。
スンジウムの主な4つの役割
1. 酸素空孔(イオンの通り道)の生成
4価のジルコニウムイオン(Zr4+)が作る結晶格子の中に、3価のスカンジウムイオン(Sc3+)が取って代わることで、全体として電荷のアンバランスが生じます。
電気的中性を保つために、結晶構造内から酸素(O2–)が1つ抜け出した「酸素空孔(Oxygen Vacancy)」が形成されます。この空孔を酸素イオンが順に跳び移っていくことで、電解質内部を酸素イオンが移動(イオン伝導)できるようになります。
2. 結晶構造の安定化(立方晶の維持)
純粋なジルコニア(ZrO2)は、加熱や冷却に伴って相転移(単斜晶↔正方晶↔立方晶)を起こし、体積変化によって割れてしまいます。
酸化スカンジウム(Sc2O3)を添加することで、最も酸素イオンを導きやすい「立方晶(Cubic phase)」構造を室温から高温の作動温度まで安定して維持できます。
3. 最適なイオン半径による高いイオン伝導度
スカンジウムイオン(Sc3+)のイオン半径(約87 pm)は、ジルコニウムイオン(Zr4+: 約84 pm)の大きさに非常に近く設計されています。
格子歪みが最小限に抑えられるため、酸素イオン移動の抵抗が小さくなり、ジルコニア系電解質の中でトップクラスの酸素イオン伝導性を実現します。
4. SOFCの作動温度低下(中低温化)
スカンジウムを添加して高いイオン伝導性を得られるため、従来の電解質(800〜1000℃)よりも低い作動温度(600〜800℃)でも十分な発電能力を発揮します。
作動温度が下がることで、燃料電池周辺の周辺部材の耐久性が向上し、製造コストの低減につながります。
従来のイットリウム(YSZ)との比較
現在広く使われているイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)で用いられるイットリウムイオン(Y3+)はイオン半径が約102 pmと大きめです。
一方、スカンジウム(Sc3+)はジルコニウムとのサイズ差が小さいため、酸素イオンとドーパントイオン間の静電的ひっかかり(トラッピング現象)が起きにくく、YSZの約2〜3倍高いイオン伝導性を発揮します。

スカンジウムはジルコニア電解質の安定化剤(ドーパント)です。ジルコニウムとの置換により酸素空孔を生成して高い酸素イオン伝導性を付与するとともに、結晶構造を安定化させ、電池の作動温度低下に貢献します。
なぜスカンジウムが酸素空孔の生成に適しているのか
スカンジウムが酸素空孔の生成およびその活用に極めて適している理由は、「価数差による電荷補償(空孔の生成メカニズム)」と「ジルコニウムとほぼ同等のイオン半径(空孔の動きやすさ)」の2つが理想的なバランスで揃っているためです。
1. 価数差による電荷補償(空孔が生成する直接的理由)
母体材料である二酸化ジルコニウムの結晶格子において、中心となるジルコニウムイオンは4価(Zr4+)です。ここに3価のスカンジウムイオン(Sc3+)を置換・ドープすると、結晶内のプラス電荷が不足します。
全体としての電気的中性を保つため、正の電荷補償として酸素イオン(O2–)が格子から外へ排出され、化学的に必然として酸素空孔が生成されます。
2. 他の3価元素に対する最大のアドバンテージ:イオン半径の近さ
「酸素空孔を作る」だけであれば、イットリウムやガドリニウムなどの他の3価イオンでも可能です。しかし、スカンジウムが最も適している理由は、Zr4+とのイオン半径の差が著しく小さいためです。
- Zr4+ のイオン半径:約 84 pm
- Sc3+ のイオン半径:約 87 pm (非常に近い)
- Y3+ のイオン半径:約 102 pm (大きめ)
イオン半径の差が大きい元素をドープすると、結晶格子に大きな局所的歪みが生じます。この歪みや電荷のアンバランスにより、せっかく生じた酸素空孔がドーパントイオンの近傍に強く引き寄せられ、動けなくなってしまいます(欠陥対のトラッピング現象)。
スカンジウムはZr4+とサイズがほぼ同じであるため、格子歪みが最小限に抑えられ、生成した酸素空孔が捕獲されずに低い活性化エネルギーで結晶内を高速移動できる状態を作り出せます。
3. 高密度な空孔の均一導入
サイズが近いため、ジルコニアの結晶構造を破壊することなく、比較的多量(8〜11 mol%程度)のスカンジウムを均一に溶かし込む(固溶させる)ことができます。
これにより、材料全体へ高密度かつ安定的に酸素空孔を導入することが可能になります。

3価のスカンジウム(Sc3+)は4価のジルコニウム(Zr4+)と置換して電荷補償により酸素空孔を生成します。Sc3+とZr4+のイオン半径が非常に近いため格子歪みが小さく、空孔の拘束を防いで高速移動を可能にします


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