政府によるペロブスカイト太陽電池量産化への支援

ペロブスカイト太陽電池のイメージ画像 脱炭素

この記事で分かること

政府によるペロブスカイト太陽電池量産化への支援

 経済産業省は次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」の国産化・量産化に向けた国ぐるみの支援を行うことを発表しています。

 ペロブスカイト太陽電池は日本発の技術であり、従来のシリコン製太陽電池と比べて「薄い・軽い・曲げられる」という大きな特長があります。ビルの壁面や耐荷重の低い屋根など、これまで設置が難しかった場所への導入が可能となります。

 グリーンイノベーション(GI)基金などを通じて、リコー・長州産業に約1,000億円規模の予算枠を確保し、日本の主要メーカーへ段階的に補助金を交付して量産化技術の確立を後押ししています。

ペロブスカイト太陽電池とは何か

 ペロブスカイト太陽電池(Perovskite Solar Cell:PSC)とは、光を電気に変える発電層に「ペロブスカイト構造」と呼ばれる特殊な結晶構造を持つ材料を用いた次世代の太陽電池です。

 2009年に桐蔭横浜大学の宮坂力教授らによって世界で初めて開発された、日本発の革新的な技術として知られています。

なぜ次世代の切り札と言われるのか(主な特長)

 従来の主流であるシリコン製太陽電池と比べ、以下のような圧倒的なメリットを備えています。

  • 「薄い・軽い・曲げられる」
    • フィルム基板上に塗布して製造できるため非常に軽量で、曲面やこれまで設置できなかったビルの壁面、耐荷重の低い屋根などに貼り付けて利用できます。
  • 製造コストとエネルギーの削減
    • シリコン太陽電池のように高温で高純度なシリコンを精製する必要がなく、溶液を「塗って乾かす」というプリンティングに近い製法で作れるため、製造コストの大幅な削減が期待できます。
  • 室内光や低照度でも高い発電効率
    • 直射日光だけでなく、室内灯(LEDや蛍光灯)のわずかな光でも効率よく発電できるため、室内のIoT機器の電源などへの応用も進んでいます。
  • 国内調達の優位性
    • 主原料の一つである「ヨウ素」は、日本が世界第2位の生産量を誇る資源国であり、サプライチェーンの国内自給率を高めやすいという経済安全保障上のメリットがあります。

克服すべき課題

 一方で、本格的な普及に向けては以下のような技術的課題の解決に向けた研究開発が続けられています。

  • 耐久性・耐候性:水分や熱に弱く、屋外の過酷な環境下で長期間(20年など)性能を維持するための封止技術や材料改良が必要。
  • 大面積化:小規模なセルでは高い変換効率を維持できても、大面積のフィルム化やガラス基板化を行った際に効率が落ちないようにする製造技術の確立。

ペロブスカイト太陽電池は、日本発の結晶材料を用いた次世代太陽電池です。「薄い・軽い・曲げられる」のが特長で、塗布型製法による安価な量産が可能。ビル壁面等に設置でき、主原料ヨウ素の国内調達性にも優れます。

なぜ政府が支援を行うのか

 政府がペロブスカイト太陽電池の量産化・社会実装に1,000億円規模の支援を行う理由は、単なる再エネ普及にとどまらず、「脱炭素」「エネルギー安全保障」「産業競争力の奪還」という3つの戦略的課題を同時に解決できる切り札と位置づけているためです。

1. 「日本の適地不足」を打破し脱炭素を進めるため

 日本は山地が多く平地が限られているため、従来型の重いシリコン製太陽光パネルを置ける場所(平地や頑丈な屋根)がすでに飽和しつつあります。

 「薄く・軽く・曲がる」ペロブスカイト太陽電池があれば、これまで設置できなかったビルの壁面、耐荷重の低い工場の屋根、窓ガラスなどに設置でき、再エネ導入の余地を飛躍的に広げることができます。

2. 中国依存からの脱却と「エネルギー安全保障」

 現在主流のシリコン型太陽光パネルは、サプライチェーンの8〜9割以上を中国企業が握っています。

 一方、ペロブスカイト太陽電池の主原料である「ヨウ素」は日本が世界シェア第2位の資源国(世界の約3割を生産)です。

 自国で原料を確保して国内で製造する仕組みをつくることで、地政学リスクや供給網の途絶に強いエネルギーインフラを構築する狙いがあります。

3. 次世代産業としての「グローバル競争力」の奪還

 かつて日本の太陽光パネル産業は世界トップシェアを誇っていましたが、海外メーカーとの価格競争に敗れた過去があります。

 ペロブスカイト太陽電池は日本発の技術(2009年に開発)であり、日本企業が特許や塗布・製造技術で世界的な強みを持っています。

 中韓などの海外勢が本格参入する前に、官民で大規模投資を行って一気に量産体制を確立し、世界市場でのシェアを先行して押さえる必要があります。

4. 初期投資リスクを国が分担して「市場立ち上げ」を加速するため

 新しい技術を基礎研究から工場での大量生産(GW=ギガワット級)へ移行させるには、数千億円規模の膨大な設備投資と技術開発リスクが伴います。

 国が「グリーンイノベーション(GI)基金」や「GX(グリーン・トランスフォーメーション)サプライチェーン構築支援事業」などを通じて初期投資のコストやリスクを直接支援することで、民間企業が決断しやすくし、2030年までの早期本格量産に向けたスピードを最大限に引き上げています。

 国は2040年までに国内で約20GW(原発20基分に相当)の導入目標を掲げており、官民が連携して世界に先駆けた市場創出を進めています。

日本が強みを持つ日本発技術であり、脱炭素化(適地不足の解消)、ヨウ素の国産によるエネルギー安全保障、次世代産業のグローバル競争力奪還の3つを同時に達成できる国家戦略上の切り札だからです。

なぜ大面積化すると効率が落ちるのか

 ペロブスカイト太陽電池(PSC)は、研究室レベルの小さなサイズ(数平方センチメートル)では高い発電効率を叩き出す一方で、実用サイズへ大面積化すると効率が低下する傾向があります。

 これには主に「結晶膜の不均一性」と「電気抵抗・構造上のロス」という物理的・技術的な壁が存在するためです。

主な3つの要因

  • 結晶膜の不均一性と欠陥(ピンホール)の増加
    • ペロブスカイト層は溶液を塗布して乾燥・結晶化させて作りますが、面積が広がるほど膜厚を均一に保つのが難しくなります。微小なムラやピンホール(穴)、結晶の乱れが生じやすく、そこが「欠陥」となって光で発生した電子と正孔(ホール)が途中で再結合して消滅(ロス)してしまいます。
  • 透明電極の抵抗と「デッドスペース」の発生
    • 大面積のパネルを1枚の大きなセルとして作ると、表面の透明導電膜(ITOなど)の電気抵抗が高くなり、電気が流れる際にエネルギーロス(ジュール熱)が発生します。そのため、実際の大面積モジュールでは細かくセルに分割して直列接続しますが、分割の際に発電しない隙間(デッドスペース)ができるため、パネル全体としての有効な発電効率が目減りします。
  • キャリアの移動距離の増大
    • 大面積化すると、光で発生した電荷が電極にたどり着くまでの距離が長くなります。ペロブスカイト材料の電荷が消えずに動ける距離(拡散長)には限界があるため、長距離を移動するうちに捕捉されて失われる割合が増えます。

克服に向けたアプローチ

 現在、リコーや積水化学工業などのトップランナー企業は、この課題をクリアするために以下のような技術革新を進めています。

  • 高精度な塗布技術(スロットダイコート等):厚みを均一にするフィルム製造技術の最適化
  • レーザーパターニング技術:デッドスペースを極限まで狭くし、直列抵抗を最小限に抑える微細加工

大面積化で効率が落ちる主な理由は、①塗布時の膜のムラや微小欠陥による電子ロス、②直列分割に伴う非発電領域(デッドスペース)の発生、③電気抵抗の上昇と電荷移動距離の長期化によるエネルギー損失が重なるためです。

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