住友電工のイギリスでの海底ケーブルの製造

海底ケーブルのイメージ画像 脱炭素

この記事で分かること

住友電工のイギリスでの海底ケーブルの製造

 住友電工は、スコットランドハイランド地方のナイッグ(Nigg)港に、総額約3.5億ポンド(約700億円規模)を投じて高電圧海底ケーブルの製造・販売拠点を新設しています

  欧州(特に英国・スコットランド周辺)では、北海などを中心とした大規模な洋上風力発電の導入や、各国を結ぶ国際連系線の計画が急ピッチで進んでいます。これに伴い、発電した電力を陸上や他国へ送るための「海底ケーブル」の需要が拡大に対応するための対応となります。

住友電工の海底ケーブル事業の特徴は何か

 住友電気工業(住友電工)の海底ケーブル事業は、単に「ケーブルを製造して納入する」にとどまらず、独自材料の開発から敷設・保守・周辺ソリューションまでを自社で一貫して手掛ける高度な総合技術力に大きな特徴があります。

1. 直流(HVDC)XLPEケーブルにおける世界最高水準の材料技術

 長距離・大容量送電(洋上風力発電や国際連系線)の主流となっている高圧直流(HVDC)送電において、住友電工は業界をリードする技術を持っています。

  • 独自開発の直流絶縁材料(交差ポリエチレン:XLPE): 直流送電では絶縁体内部に電荷(空間電荷)が蓄積して絶縁破壊を起こしやすいという課題があります。住友電工は独自のナノ配合技術等によりこれを克服した「直流XLPEケーブル」を世界に先駆けて実用化しました。
  • 高機能・高耐熱性: 従来の油浸紙絶縁(MIケーブル)に比べて軽量かつ許容温度が高く(90℃運用可能)、環境負荷も低いため、長距離海底送電のコストと施工性を大幅に改善しています。業界最高クラスとなる±525kV級などの超高電圧直流XLPEケーブルの型式試験にも成功しています。

2. 独自の海底ケーブル敷設船とトレンチング(埋設)技術

 同社はケーブルの製造だけでなく、自社で最新鋭の高精度ケーブル敷設船(「Subsea 7」等との協業や自社船「作業船」の導入)や埋設用機器(トレンチングマシン)を保有・運用しています。

  • 一気通貫のEPCI体制: 設計(Engineering)、調達(Procurement)、建設(Construction)、設置(Installation)までをグループ内で完結できる「EPCIモデル」を提供可能です。
  • 過酷な海域での施工ノウハウ: 潮流の激しい海域や複雑な海底地形、既存の他社海底ケーブルや配管と立体交差させるような難度の高い埋設工事(海底3m以上の掘削など)を完工できる高い土木・施工技術を持っています。

3. 光ファイバ・センシングの融合(スマートケーブル化)

 送電用海底ケーブルの内部に同社が得意とする高信頼性光ファイバを複合させる技術(光複合海底ケーブル)に強みがあります。

  • リアルタイム監視(DAS/DTS): 送電と同時に、光ファイバを用いた分布型温度センシング(DTS)や音響・振動センシング(DAS)を行うことで、ケーブルの異常熱発生や外部船舶のアンカー接触リスクをリアルタイムで検知・監視する運用保守(O&M)ソリューションを提供しています。
  • 接続(スプライス)技術: 光ファイバ海底ケーブルの接続領域においても、水水深5,000mの極限環境に耐えうる超高精度な融着接続機(TYPE-201+など)を開発・提供しており、世界的な標準として認められています。

4. アジア拠点(日本)と欧州拠点(英国)のグローバル2拠点体制

 世界の洋上風力需要を牽引する欧州市場と、今後の急成長が見込まれる日本・アジア市場の双方に大型製造拠点を持っています。

  • 茨城製作所(みなと工場): 日本・アジア環太平洋エリアの洋上風力や国内長距離DC連系線プロジェクト(北海道〜本州間など)の供給基地。
  • 英国ナイッグ(Nigg)工場: 欧州の爆発的な洋上風力・国際連系線需要(北海など)を取り込むための新拠点。地産地消(ローカルコンテンツ)需要に応えつつ、欧州大手(Prysmian、Nexans、NKT等)と対等に競合・連携できる体制を整えています。

 住友電工の海底ケーブル事業は、「超高圧直流XLPEという世界最高レベルの材料技術」と「敷設船・監視システムまで含めたトータルソリューション能力」を武器に、グローバルな脱炭素化(送電網の強化)を支える中核事業として位置づけられています。

独自開発のナノ配合技術による業界最高水準(±525kV)の直流XLPE絶縁技術と、設計から製造・敷設・保守までを自社で一貫して担う高い総合力(EPCI体制)を武器に、日欧でグローバルに事業展開する点です。

なぜ洋上風力発電向けの海底ケーブル需要が増加しているのか

 洋上風力発電向けの海底ケーブル需要が世界中で急増している背景には、政策的な脱炭素目標と送電インフラ特有の技術的・地理的課題が組み合わさった複数の要因があります。

1. 気候変動対策・脱炭素化に伴う洋上風力の爆発的拡大

 欧州(特に英国や北海沿岸国)や日本、米国などの主要国は、2050年のカーボンニュートラル達成に向けて洋上風力発電を再生可能エネルギーの「主力電源」と位置づけています。

  • 陸上風力よりも安定した風況: 海上は風を遮るものがなく、風車を大型化しやすいため大量かつ効率的な発電が可能です。
  • プロジェクトの急増: これに伴い、世界中で大規模な洋上風力発電所の新設計画が同時並行で増えており、ケーブル需要を引き上げています。

2. 「発電適地」と「電力の大需要地」の偏り(長距離送電の必要性)

 風力発電の適地は人里離れた海域(風が強い沖合)に集中しますが、電力を多く消費するのは都市部や工業地帯です。

  • 局所的な電力網の飽和: 例えば日本でも、風力の適地である北海道や東北、九州で発電した電力を、需要の大きい東京や関西圏へ送るための送電網(系統)の容量が不足しています。
  • 長距離海底直流送電(HVDC)の活用: 地上の送電線を新設するには用地買収や環境権などのハードルが高いため、海を経由して大量の電力を一気に需要地へ運ぶ長距離海底ケーブルの敷設が急務となっています。

3. 洋上風力発電所の「離岸化(より沖合へ)」と「大型化」

 技術の進歩により、従来よりも水深が深く、風条件が良い遠い沖合でのプロジェクト(浮体式洋上風力など)が増加しています。

  • 1プロジェクトあたりのケーブル長・本数の増加:
    1. アレイケーブル: 海上の風車同士を繋ぐ内部ネットワーク線。
    2. エクスポートケーブル: 洋上変電所から陸上へ電力を送る長距離メイン線。
  • 発電能力の大型化(1基あたり10MW〜15MW超)に伴い、高電圧・大容量(±525kV級など)に耐えられるより高性能なケーブルが大量に必要になっています。

4. 国際連系線(国同士を繋ぐ電力網)の推進

 欧州を中心に、国ごとの天候による発電量の偏りを相殺し合い、電力需給を安定化させるための「国際連系線(Interconnector)」の整備が進んでいます。これらも主に海を経由するため、海底ケーブル需要を後押ししています。


 「世界的な再エネシフト」と「遠い海でつくった巨大な電力を、陸上の都市へ無駄なく届けるためのインフラ構築」が重なった結果、海底ケーブルの製造・敷設能力が世界的なボトルネックになるほどの需要超過(供給不足)が発生しています。

脱炭素化に伴う洋上風力の爆発的増設に加え、風条件が良い遠い沖合(離岸化)から都市部へ巨大な電力を送るための長距離送電網整備や、国間を繋ぐ国際連系線の需要が世界規模で同時集中しているためです。

イギリスで生産する理由は何か

 住友電工が日本から遠く離れた英国(スコットランド)に海底ケーブル工場を設立した理由は、「欧州市場の圧倒的な需要」「現地生産の必然性」「現地政府の手厚い優遇策」の3点が大きく関係しています。

1. 英国・北海周辺が「世界最大の需要地」であるため

  • 洋上風力の聖地: 英国や北海沿岸国は世界最大級の洋上風力発電エリアであり、送電用海底ケーブルの需要が世界で最も集中しています。
  • 大型案件の直近需要: スコットランド周辺の洋上風力プロジェクトや、英独間・英アイルランド間などの国際連系線(Interconnector)計画が目白押しとなっています。

2. 重大・長大なケーブルを日本から運ぶコスト・リスクを避けるため

  • 極限の海上輸送リスク: 超高電圧海底ケーブルは重量が極めて重く、数万トン単位になります。これを日本から欧州へ長距離輸送する場合、莫大な海上輸送コストとCO2排出が発生し、輸送中の損傷リスクも高まります。
  • リードタイム短縮: 建設現場に近い港(ナイッグ港)に直結した工場を建てることで、製造したケーブルをそのまま敷設船へ積み込み、速やかにプロジェクトサイトへ供給できます。

3. 欧州の「地産地消(ローカルコンテンツ)」要件を満たすため

  • 地域雇用の重視: 欧州ではインフラ投資において現地での雇用創出や国内サプライチェーンの活用(国産化)を強く求められる傾向があります。現地に工場を持つことで、SSEN Transmissionなどの現地大手電力会社から優先的に大型案件を受注しやすくなります。

4. 英国・スコットランド政府の手厚い誘致・支援策

  • グリーン・フリーポート制度: 工場が建設されるナイッグ(Nigg)はスコットランド政府の「グリーン・フリーポート(税制優遇や規制緩和が受けられる特区)」に指定されています。
  • 政府公認の脱炭素パートナー: 英国およびスコットランド政府の「ネットゼロ(脱炭素)政策」の中核インフラ企業として位置づけられ、官民連携での手厚いバックアップを得られています。

 「世界最大の需要地に最も近い場所で作り、現地需要(ローカルコンテンツ)と優遇策をしっかりと取り込みながら、輸送リスクをゼロにする」という極めて合理的な地産地消型戦略が、英国生産を選んだ最大の理由です。

世界最大の需要地である北海沿岸に近接し、重量物の輸送コストや損壊リスクを回避できるためです。さらに現地の雇用創出や優遇策(グリーン・フリーポート)を活用し、欧州市場の案件受注を優位に進める狙いがあります。

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