リコーのペロブスカイト太陽電池量産化技術

ペロブスカイト太陽電池のイメージ画像 脱炭素

この記事で分かること

リコーのペロブスカイト太陽電池量産化技術

 経済産業省は次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」の国産化・量産化に向けた国ぐるみの支援を行うことを発表しています。

 ペロブスカイト太陽電池は日本発の技術であり、従来のシリコン製太陽電池と比べて「薄い・軽い・曲げられる」という大きな特長があります。ビルの壁面や耐荷重の低い屋根など、これまで設置が難しかった場所への導入が可能となります。

 グリーンイノベーション(GI)基金などを通じて、リコー・長州産業に約1,000億円規模の予算枠を確保し、日本の主要メーカーへ段階的に補助金を交付して量産化技術の確立を後押ししています。

 前回はペロブスカイト太陽電池の概要や政府が支援を行う理由に関する記事でしたが、今回はリコーのペロブスカイト太陽電池事業に関する記事となります。

リコーのペロブスカイト太陽電池事業の内容は何か

 リコーのペロブスカイト太陽電池事業は、同社が長年オフィス向け複写機やプリンター開発で培った「有機材料技術」と「高精度インクジェット塗布(印刷)技術」を全面的に活用した次世代エネルギー事業です。

1. 事業の主な特徴(開発する製品)

  • フィルム型ペロブスカイト太陽電池
    • プラスチックフィルム上に発電層を成膜することで、「薄い・軽い・曲げられる」太陽電池を開発しています。
    • 重さに耐えられない築古工場の屋根、ビルの曲面外壁、窓ガラス、さらにはインフラ設備(電柱・基地局)や公園の庭園灯など、従来のシリコンパネルが設置できない場所への展開を目指しています。

2. リコー独自の技術的強み(競合との差別化)

 一般的にペロブスカイト太陽電池を製造する際は、塗布後の不要な部分を削り取るレーザー加工や真空蒸着装置が必要です。しかし、リコーは独自アプローチを採っています。

  1. 全層インクジェット印刷による一括製法
    • 発電に必要な複数の機能層(電子輸送層、ペロブスカイト層、正孔輸送層、電極など)をすべてインクジェットで直接パターン印刷する技術を開発しています。
    • 高価な真空蒸着装置やレーザー加工プロセスを不要にすることで、大幅な製造コスト削減と高生産性(高速ロール・ツー・ロール生産)を実現します。
  2. デザインやサイズのカスタマイズ性
    • インクジェット印刷の強みを活かし、設置場所の形状や用途に合わせたサイズ変更や、高い意匠性(模様・デザイン)の付加が可能です。
  3. 複写機技術の応用
    • 複写機のドラム(有機感光体)開発で培った有機半導体技術や封止技術を活用し、水分・熱に弱いペロブスカイトの耐久性向上と高変換効率化を図っています。

3. 社会実装と実証実験の展開

  • NEDO(GI基金)採択事業
    • 大和ハウス工業やNTTアノードエナジーらとコンソーシアムを組み、建材一体型や都市インフラへの導入に向けた技術開発・量産化実証を進めています。
  • 屋外・インフラ実証の推進
    • 東京都内の施設(東京体育館)での庭園灯実証や、通信基地局ポールへの巻きつけ利用、自治体・インフラ企業との連携による屋外耐久データの取得を精力的に行っています。

 複合機ビジネスで培った「印刷するように太陽電池を作る」技術により、低コストな量産体制を確立し、2030年に向けた社会実装を目指しています。

リコーは複合機等の技術を応用し、全層をインクジェットで直接印刷成膜する独自製法でフィルム型ペロブスカイト太陽電池を開発しています。真空装置が不要な低コスト量産技術を強みに、壁面等への設置を目指します。

なぜインクジェット印刷で製造できるのか

 ペロブスカイト太陽電池をインクジェット印刷で製造できるのは、「材料が液体(インク)に溶ける性質を持つこと」と「高温・真空の設備が不要な低温プロセスでフィルム化できること」という2つの大きな理由によります。

インクジェット印刷で製造できる3つの理由

  • 材料を「インク(溶液)」にできる
    • ペロブスカイトの主原料(鉛化合物や有機塩など)や、電気を流すための周辺の機能層(電子・正孔輸送層)は、特定の有機溶媒に溶かして液体インクとして安定化させることができます。
  • 「塗って乾かす」だけで結晶化する
    • 従来のシリコン太陽電池は、数千度の高温でシリコンを溶かしてインゴットを作り、真空中で削り出すといった大規模な設備が必要です。一方、ペロブスカイトはインクを基板に吹き付け、比較的低い温度(100〜150度程度)で乾燥させるだけで、自動的に結晶が成長して発電層が形成されます。
  • ピコリットル単位の液滴制御が可能
    • インクジェットプリンターの技術を応用し、微小なノズルから数ピコリットル単位の液滴を正確に吐出・配置することで、無駄なく必要な場所だけに均一な膜を作ることができます。

リコーの技術的アプローチ

 リコーは、家庭やオフィス向けのインクジェットプリンターで培った「インクの粘度調整技術」や「微小な液滴を狙った通りに着弾させる高精度な制御技術」をそのまま応用しています。

 これにより、高価な真空装置を使わず、大面積のフィルム上にマルチレイヤー(多層構造)を綺麗に印刷・積層する製造システムを実現しています。

ペロブスカイトの主原料を溶媒に溶かして「インク化」できることや、低温で乾燥させるだけで結晶化する特性を持つためです。リコーはプリンター技術を応用し、微小な液滴を正確に吐出して多層構造を直接印刷・製造しています。

インクジェット印刷の課題はなにか

 インクジェット印刷によるペロブスカイト太陽電池の製造は、低コスト化や形状の自由度に優れる一方、実用化に向けては「塗布膜のムラ」や「着弾速度・解像度」など、材料・物理現象に起因する明確な技術的課題が存在します。

 リコーは複合機・産業用印刷ヘッドの開発で培ったコア技術を応用し、これらの課題を以下のように克服しています。

インクジェット印刷の主な課題とリコーの対応策

課題(技術的ハードル)発生する問題リコーの対応策(技術的アプローチ)
1. コーヒーリング効果

(液滴の不均一な乾燥)
吐出したインクの縁(フチ)だけが分厚く乾き、膜厚が不均一になって発電効率が低下する。インクの表面張力・溶媒組成の精密制御

複写機インクの開発ノウハウを活かし、乾燥時の対流や揮発速度を制御して均一な薄膜を形成。
2. ノズルの目詰まり・液滴曲がりペロブスカイト結晶の沈殿や溶媒揮発により吐出孔が詰まり、印刷が乱れる。産業用高精度ヘッドとメニスカス制御

自社開発の産業用インクジェットヘッドを用い、圧電素子(ピエゾ)駆動と流体解析で安定吐出を維持。
3. 大面積化での描画スピード点(液滴)の集合で塗るため、ダイコーター(面塗布)と比べて生産速度が低下しやすい。マルチノズル化と描画プロセスの高速化

千個以上のノズルを高密度配置したラインヘッドを活用し、高速ロール・ツー・ロール生産に対応。
4. 微細パターニングと非発電部電極分離(セル直列化)時の精度が低いと、発電に使われない無駄な面積が増える。ダイレクト着弾制御技術

高精度な着弾位置制御により、レーザー加工なしで微細な分離パターンを一括で高密度印刷。

 リコーは「インクの物性制御(化学)」と「ヘッド・描画技術(機械・制御)」の両面からアプローチすることで、インクジェット特有の「膜の不均一性」という最大の弱点を克服し、真空プロセス不要な一括印刷システムを確立しています。

課題はインク乾燥時の不均一化(コーヒーリング効果)やノズル詰まり、描画速度の低下です。リコーはインク組成・揮発の精密制御、自社製高精度ヘッド、高密度ノズル配置により均一薄膜の高速印刷を実現しています。

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