この記事で分かること
1. メタ系アラミド絶縁紙とは何か
メタ系アラミド(全芳香族ポリアミド)を原料とするシート状の絶縁材料です。200℃以上の耐熱性・難燃性と高い電気絶縁性を持ち、高電圧・高温環境に晒されるEV用駆動モーターや変圧器などに使用されます。
2. なぜモーターの絶縁に利用されるのか
200℃以上の発熱に耐え溶融しない高耐熱性を持つためです。柔軟で引き裂きに強く狭い隙間へ加工しやすいほか、優れた電気絶縁性とワニス含浸性により、高電圧サージによるモーターのショートを防げるからです。
3. どのように製造されるのか
メタアラミドの短繊維と、結合材となる微細粒子(フィブリド)を水に混ぜて紙状に抄き伸ばします。乾燥後、高温・高圧の金属ロールに通す「熱カレンダー加工」により、繊維間を熱融着・高密度化して製造されます。
東レの耐熱絶縁紙事業
東レは韓国において、高い耐熱性を持つメタ系アラミド絶縁紙(耐熱絶縁紙)の事業化を2028年に目指す取り組みを進めています。
同社が強みを持つ合成繊維・高機能ポリアミド材料技術を、「EVの電動化推進」と「AIインフラの電力増強」という2大成長市場へ垂直立ち上げする戦略的投資と言えます。
メタ系アラミド絶縁紙とは何か
メタ系アラミド絶縁紙(Meta-Aramid Insulating Paper)は、耐熱性と電気絶縁性に極めて優れた高分子材料「メタ系全芳香族ポリアミド(メタ系アラミド)」を原料として作られるシート状(紙状)の絶縁材料です。
代表的な製品として米国デュポン社の「ノーメックス(Nomex®)」が知られるほか、各化学メーカーが次世代の電動化・高電圧化ニーズに向けて開発・生産しています。
1. 原材料と構造の仕組み
アラミド(全芳香族ポリアミド)には「メタ系」と「パラ系」の2種類があり、それぞれ特性が異なります。
- メタ系アラミド: 芳香族環(ベンゼン環)がメタ位(1,3位)で結合した曲がりくねった分子構造を持ちます。化学的・熱的に非常に安定しており、耐熱性・難燃性・製紙適性(柔軟性)に優れるため、絶縁紙の主原料となります。
- パラ系アラミド: パラ位(1,4位)で直線状に結合した構造で、防弾チョッキやタイヤコードなど引っ張り強度や耐衝撃性が重視される用途に使われます。
絶縁紙ができるプロセス
メタ系アラミド絶縁紙は、単に繊維を編むのではなく、以下の2つの材料を水中で混合して抄紙(紙すき)し、熱と圧力(熱カレンダー加工)をかけて高密度化することで製造されます。
- ショートファイバー(短繊維): 骨格となる強度を担う短繊維。
- フィブリド(バインダー): 非常に細かい膜状の微粒子で、繊維どうしを強く接着・密着させる結合材。
2. 主な特徴と物性
| 特性 | 詳細・メリット |
| 超耐熱性(220℃クラス) | 融点を持たず、300℃以上の高温でも燃え広がらず炭化します(耐熱クラスC種・JIS規格等に適合)。 |
| 高電気絶縁性 | 厚さ数百ミクロン(0.05〜0.8mm程度)の薄さで数千〜数万ボルトの電圧に耐える破壊強度を持ちます。 |
| 加工性・引き裂き強度 | 折り曲げや剪断(せんだん)に強く、モーターの狭い溝(スロット)に押し込んでも切れにくい柔軟性があります。 |
| 耐薬品性・耐油性 | 変圧器内部で浸す絶縁油(鉱油、合成油、植物油)や一般的な有機溶剤に対して劣化しにくい性質を持ちます。 |
3. どのような場所で使われるか
高い安全性と耐久性が求められる重電・電動化分野で不可欠な部品として採用されています。
- EV・HEV(電動車)用駆動モーター ステータ(固定子)の鉄心と銅線の隙間に挟む「スロット絶縁」や「相間絶縁」に使用。800V化など高電圧・高熱化が進むEVモーターの発火・短絡(ショート)を防ぎます。
- 変圧器(トランス) AIデータセンター、発電所、鉄道車両、再生可能エネルギー(風力・太陽光)用のトランス内部のコイル巻線間絶縁シートとして使用されます。
- 産業用発電機・大型モーター 製鉄所やプラントなどの過酷な環境で常時駆動する大型電動機の絶縁層。

メタ系アラミド(全芳香族ポリアミド)を原料とするシート状の絶縁材料です。200℃以上の耐熱性・難燃性と高い電気絶縁性を持ち、高電圧・高温環境に晒されるEV用駆動モーターや変圧器などに使用されます。
なぜモーターの絶縁に利用されるのか
メタ系アラミド絶縁紙がモーター(特にEV駆動モーターや産業用大型モーター)の絶縁材料として欠かせない理由は、「激しい発熱」「機械的な応力(曲げ・摩擦)」「高電圧サージ」という過酷な環境に耐えられる唯一無二の特性を備えているからです。
具 体的には、モーター内部のステータ(固定子鉄心)の溝(スロット)と銅線(巻線)の隙間に挟む「スロットライナー(スロット絶縁紙)」として主に使用されます。
1. 200℃を超えるジュール熱に耐える(耐熱・耐焼損性)
モーターに大電流が流れると、銅線から膨大な熱(150℃〜200℃以上)が発生します。
一般的で安価なポリエステル(PET)フィルムなどは過熱により融解・熱劣化し、絶縁が破壊されてショート(焼損)してしまいます。
一方、メタアラミド紙は220℃クラス(C種絶縁)の連続使用に耐え、融点を持たないため溶け落ちることがありません。
2. 「紙」ならではの柔軟性と引裂き強度(組み立て加工性)
モーターの製造過程では、固定子の狭い金属の溝に絶縁紙を折り曲げながら機械でスロットに叩き込みます。
- フィルム単体(ポリイミド等): 鉄心の鋭利なエッジ(角)で裂けたり、角で割れたりしやすい。
- メタアラミド絶縁紙: 繊維が絡み合った「紙」の構造を持つため、しなやかで折り曲げ(クリンプ)に強く、引き裂かれにくいバネ性・靭性(じんせい)を持っています。
3. 絶縁ワニス(含浸樹脂)の吸い込みが良い(含浸性)
モーター組み上げ後、放熱性と固定力を高めるために液体状の「絶縁ワニス(樹脂)」に浸します。
メタアラミド紙は不織布(紙)構造のためワニスをしっかり吸い込み、内部の空気の隙間(ボイド)を失くすことができます。
隙間に空気が残ると高電圧がかかった際に「コロナ放電(微小な火花)」が発生して劣化が進むため、この含浸性の高さが非常に重要となります。
4. インバータ駆動による高電圧サージ(ノイズ)に強い
近年のEVや産業用モーターは、インバータを用いて高速で電圧をON/OFF制御(PWM制御)しています。
この際に「インバータサージ」と呼ばれる一瞬の鋭い高電圧が発生します。メタアラミド紙は優れた電界耐性を持ち、このサージ電圧による絶縁破壊を防ぎます。
アラミド絶縁紙は高価な素材であるため、実際のモーター現場では「メタアラミド紙 + PETフィルム(またはポリイミドフィルム) + メタアラミド紙」のように多層構造で貼り合わせた複合シート(NMNフィルムなど)としても広く使われ、コストと性能のバランスが図られています

200℃以上の発熱に耐え溶融しない高耐熱性を持つためです。柔軟で引き裂きに強く狭い隙間へ加工しやすいほか、優れた電気絶縁性とワニス含浸性により、高電圧サージによるモーターのショートを防げるからです。
メタ系アラミド絶縁紙はどのように製造されるのか
メタ系アラミド絶縁紙は、化学接着剤(バインダー樹脂)を一切使わず、「2種類のメタアラミド原料」を水に混ぜて紙をすき、高温・高圧で熱圧着する(熱カレンダー加工)という特殊な製紙プロセスで製造されます。
1. 2つの原料
アラミド繊維は融点を持たず溶けないため、普通のプラスチックのように溶かしてシート化することができません。そのため、以下の2つの形態に加工した原料を組み合わせて作られます。
- フロック(Floc / 短繊維): 数ミリ程度にカットされた高強度のメタアラミド短繊維。紙の「骨格(強度)」の役割を果たします。
- フィブリド(Fibrid / 結合材): メタアラミド溶液を特殊なせん断力のもとで水中に析出させて作る、フィルム状の微細なパルプ状粒子。短繊維どうしを強力に密着させる「天然の接着剤」の役割を果たします。
2. 主な製造工程(プロセス)
製造は大きく分けて「湿式抄紙(紙すき)」と「熱カレンダー(熱圧着)」の2つのステップで行われます。
① 原料調成(調合・分散)
フロック(短繊維)とフィブリド(結合材)を最適な比率で水に投入し、大きなタンクの中で均一に攪拌(かくはん)して薄い液状の「スラリー(原料懸濁液)」を作ります。
② 湿式抄紙(抄き合わせ・脱水)
製紙機械(傾斜ワイヤー抄紙機など)の網の上にスラリーを流し込み、水を取り除きながら薄いシート状に成形します。この段階ではまだ水分を含んだ柔らかい「未焼成シート(グリーンペーパー)」の状態です。
③ 乾燥
熱風乾燥機などを通して水分を完全に蒸発させます。この段階の紙はまだ内部に空気を多く含み、密度が低くフワフワとしたスポンジ状(多孔質)です。
④ 熱カレンダー加工(高温高圧圧延)★最重要工程
乾燥させた紙を280℃〜350℃の高温・高圧の金属ロール(カレンダーロール)の間に通します。
- 高温と極度の圧力をかけることで、フィブリドが軟化・変形して短繊維と強力に熱融着します。
- 内部の空隙(エアポケット)が完全に押し潰され、高密度で強靭な、透明感のある薄い絶縁紙へと生まれ変わります。
⑤ 検査・スリット・巻き取り
厚みや電気絶縁破壊強度などの品質検査を行い、用途に応じた幅にスリット(切断)してロール状に巻き取ります。
なぜこの製造方法が必要なのか
一般の紙のように接着用樹脂(バインダー)を混ぜて作ると、高温下でその樹脂が熱劣化して絶縁破壊を起こしてしまいます。
メタアラミド100%の原料だけで「湿式抄紙 + 高圧熱融着」を行うことで、不純物が一切混ざらない超高耐熱・高密度の電気絶縁性能を実現しています。

メタアラミドの短繊維と、結合材となる微細粒子(フィブリド)を水に混ぜて紙状に抄き伸ばします。乾燥後、高温・高圧の金属ロールに通す「熱カレンダー加工」により、繊維間を熱融着・高密度化して製造されます。
なぜ東レが参入するのか
東レが韓国でメタ系アラミド絶縁紙市場に参入する主な理由は、「自社素材の強み」「EV・AI市場の急成長」「寡占市場でのサプライチェーン需要」の3つが合致したためです。
1. 原料から一貫生産できる強み(バリューチェーンの拡大)
東レの韓国子会社(TAK)は、メタ系アラミド繊維「アラウィン(Arawin)」の生産能力を年産5,400トン規模へ増設完了しています。
原糸(短繊維・フィブリド)の供給能力を自前で確保できたため、それを最終製品である「絶縁紙」へ加工・高付加価値化し、グループ全体の収益性を高める狙いがあります。
2. EV・AI普及に伴う「空前の需要急増」
- EV分野: 800V高電圧化や高出力化により、モーター用耐熱絶縁材の需要が爆発的に伸びています。
- AI・電力インフラ分野: AIデータセンター向け電力供給に用いられる「超高圧変圧器(トランス)」の需要が世界的に急増しています。
これらの高機能分野は高い利益率が見込めるため、東レにとって絶好の成長市場となります。
3. 寡占市場における「代替サプライヤー(デュアルソース)」需要
メタ系アラミド絶縁紙市場は、長年にわたり米デュポン社(Nomex®)が圧倒的なシェアを持つ実質的な寡占市場です。
近年の世界的な素材供給不足や地政学リスクを受け、自動車や重電の大手メーカー側が「単一メーカー依存からの脱却(複数調達・リスク分散)」を強く求めており、新規参入の追い風となっています。

自社(韓国子会社)でメタアラミド繊維の増設を終え、原料から一貫生産できる体制が整ったためです。EV高電圧化やAIデータセンター普及による需要増と、米デュポンによる寡占市場の調達分散ニーズを取り込みます。


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