この記事で分かること

日本酸素の韓国新製造拠点
日本酸素ホールディングス(NSHD)は、韓国現地法人のNippon Sanso Matheson Korea Co., Ltd.(NSMK)を通じて忠清南道牙山市の仁州(Inju)地区に新たな半導体材料ガス製造拠点を新設しています。
AIや先端デバイスを中心とした半導体需要の拡大に伴い、韓国現地での半導体材料ガスおよび電子材料製品の供給能力増強と安定供給体制の強化を図る目的があるものと思われます。
どんなガスを製造するのか
新工場で製造・供給される主なガスとその役割は以下の通りです。
主な製造・供給ガス
1. ジボラン(Diborane / B₂H₆)
- 主な用途: P型不純物ドーピング(P-type Doping)、CVD(化学気相成長)プロセス
- 役割と特徴:シリコン半導体にホウ素(ボロン)を添加し、P型半導体としての電気的特性を与えるための重要ガスです。AI向け半導体や高密度メモリ(DRAM・NAND)などの先端デバイス製造において需要が急増しています。
2. N型ドーピング用ガス(ホスフィン / Phosphine / PH₃、アルシン / Arsine / AsH₃ 等)
- 主な用途: N型不純物ドーピング(N-type Doping)
- 役割と特徴:ジボランとは逆に、リンやヒ素を添加してN型半導体を形成するための電子材料ガスです。
3. 高純度電子材料ガス・精製ガス(Electronic Special Gases / ESG)
- 主な用途: 薄膜形成、エッチング、キャリヤー(搬送)用
- 役割と特徴:高純度の水素(Hydrogen / H₂)や窒素(Nitrogen / N₂)、アルゴン(Argon / Ar)など、極限まで不純物を取り除いたガス群です。微細化が進む半導体製造ラインの歩留まり向上に欠かせません。

新工場では、P型ドーピング用のジボラン(B₂H₆)やN型用のホスフィン(PH₃)をはじめとする高純度半導体材料ガス、ならびに水素(H₂)や窒素(N₂)などの先端半導体製造に不可欠な電子材料ガスを製造します。
ドーピング用のガスはどのように製造するのか
半導体用のドーピングガス(ジボランやホスフィンなど)は、主に「化学合成」「超高純度精製」「希釈・濃度調整」「充填・品質管理」の4つのステップを経て製造されます。
1. 化学合成(Synthesis)
まず、目的の元素(ホウ素、リン、ヒ素など)を含む原料化合物同士を化学反応させてガスを生成します。
- ジボランの場合:溶媒中で水素化ホウ素ナトリウムと三塩化ホウ素や三フッ化ホウ素などのホウ素ハロゲン化物を反応させて生成します。
- ホスフィンの場合:黄リンと水酸化ナトリウムの反応や、金属リン化物(リン化カルシウムなど)の加水分解により生成します。
2. 超高純度精製(Purification)
合成直後のガスには、副生成物や水分、金属不純物、酸素などが含まれています。
半導体製造では不純物が ppb(10億分の1)や ppt(1兆分の1)レベルまで制限されるため、以下の高度な精製技術を組み合わせて純度を 99.9999%(6N)以上まで高めます。
- 低温蒸留(Cryogenic Distillation): ガスの沸点の違いを利用して分離。
- 化学・物理吸着(Adsorption): 特殊な吸着剤を通して微量な水分や特定の不純物を除去。
- 膜分離: 特定の分子サイズのみを透過させて精製。
3. 希釈・濃度調整(Dilution)
ドーピングガスは極めて毒性や自燃性が高く、また半導体基板へ微量かつ精確に添加する必要があるため、100%の純ガスとしてそのまま使うことが少ないのも特徴です。
- 超高純度の水素、アルゴン、ヘリウムなどのキャリアガスで、指定の濃度(数%からppmレベル)に正確に希釈混合されます。
4. 特殊シリンダーへの充填・品質管理(Filling & QA)
- 専用容器の準備: ガスが容器の内壁と反応したり金属不純物が溶け出したりしないよう、特殊な内面研磨処理や不活性化処理を施したシリンダー(ボンベ)を使用します。
- 品質分析: ガスクロマトグラフィーや質量分析計などの精密機器で、水分や異物ガスが極限まで含まれていないか検査した上で充填し、出荷されます。

原料化合物の化学反応による合成後、低温蒸留や吸着で不純物をppbレベルまで超高純度精製します。その後、水素等で指定濃度に希釈・調整し、内面処理を施した専用シリンダーへ厳重に充填・出荷されます。
なぜ韓国に新工場を建設するのか
日本酸素ホールディングスが韓国に新工場を建設した背景には、主に以下の 3つの理由 があります。
1. 世界最大級の半導体巨大顧客(サムスン・SK等)への近接・安定供給
韓国はサムスン電子やSKハイニックスなど、世界トップクラスの半導体メーカーが巨大な製造拠点(ファブ)を構えるエリアです。
現地でガスを製造・供給する「地産地消」の体制を強化することで、顧客の増全・技術変更ラインへ迅速かつ安定的にガスを供給できます。
2. AI向け半導体・先端メモリ需要の急増対応
AI(人工知能)技術の急速な発展に伴い、高性能なGPUや次世代メモリ(HBM、高密度DRAM、3D NAND)の製造需要が高まっています。
これら先端デバイスの製造プロセスでは、微細化や多層化のためにジボランをはじめとする高純度なドーピングガスや特殊ガスの使用量が飛躍的に増加しているためです。
3. 生産能力の拡大とBCP(事業継続計画)の強化
韓国子会社(NSMK)はすでに牙山市陰峰(ウムボン)地区にプラントを所有していますが、今後の需要拡大に対して既存拠点だけでは供給能力が逼迫する見通しでした。
同じ牙山市内の仁州(インジュ)地区に第2製造拠点を新設することで、全体的な生産能力を増強すると同時に、災害や供給障害リスクに対するサプライチェーンの安定性(BCP)を高めています。

サムスンやSK等の大手顧客へ地産地消で迅速・安定供給するためです。AI普及に伴う先端半導体用ガスの需要急増に対応するとともに、現地での生産能力拡大と供給リスク分散(BCP)の強化を図ります。


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