この記事で分かること
1. なぜ一体で製造するのか
現地で水素とMgを結合し、常温・常圧で安全に運べる「水素化マグネシウム」へ即時変換するためです。輸送・貯蔵コストを大幅に抑えるだけでなく、需要地で水と反応させ2倍の水素を取り出せる強みがあります。
2. グリーンマグネシウムとは何か
再エネ電力による精錬やリサイクルで、製造時のCO2排出量を大幅に削減した環境配慮型マグネシウムです。実用金属で最も軽く、EVの部品軽量化や、水素の安全な貯蔵・輸送媒体として活用されます。
3. 一体製造でのトクヤマの強みは何か
食塩電解で培った高度な電解・ガス制御や粉体反応技術です。SOEC水電解の排熱をMg精錬に活かす「熱統合」や、使用後の残渣回収から再精錬までを含めた効率的な循環プラントの設計ノウハウを有します。
トクヤマのグリーン水素・Mg供給網整備
トクヤマは、北海道が持つ豊富な再生可能エネルギーを活用し、「グリーン水素」と「国産グリーンマグネシウム(Mg)」を一体的に製造・供給する循環型サプライチェーンの構築を進めています。
水素は気体のままでは密度が低く、高圧圧縮や超低温液化(-253℃)が必要で輸送・貯蔵コストが課題となります。トクヤマはマグネシウムに水素を結合させた「水素化マグネシウム(MgH2)」技術を活用し、効率的な輸送・貯蔵を可能にすることを目指しています。
なぜ一体で製造するのか
グリーン水素とグリーンマグネシウム(Mg)を同じ拠点で一体的に製造・精錬する最大の理由は、「水素を単体のまま運ぶコストとリスクを解消し、マグネシウムを水素の“運搬容器兼エネルギー倍増体”として最適化するため」です。
単に2つの製品を並行して作るのではなく、化学的・エネルギー的に強力なシナジー(相乗効果)が存在します。
1. 現地で即座に固体「MgH2」へ変換できる
- 従来の課題:水素(H2)は非常に軽いため、気体のまま遠くへ運ぶには700気圧の高圧圧縮や-253℃の超低温液化が必要で、運搬・保管に莫大なエネルギーと特殊設備がかかります。
- 一体化のメリット:水素製造施設(水電解)とMg還元施設を現地(稚内)に集約すれば、出来立てのグリーン水素とグリーンMgをその場で結合させ、常温・常圧で安全に運べる固体「水素化マグネシウム(MgH2)」に即時変換できます。
2. 余剰再エネの「大容量・一括固定」
- 水電解による水素製造も、マグネシウムの精錬(還元)も、ともに大量の電気を必要とします。
- 北海道北部(稚内など)は風力などの豊かな再エネ資源を持ちながら、本州や大都市への送電網(送電容量)に制約があり、電力を使い切れずに捨てる(出力制御する)問題があります。両方の製造ラインを現地に固めることで、使い切れない膨大な再エネをまとめて「固体の化学エネルギー」へ変換できます。
3. 需要地で「水素が2倍に増える」化学的利点
MgH2は、需要地(札幌など)へ届けてから水と反応(加水分解)させるだけで水素を取り出せるという極めて優れた特徴を持っています。
MgH2 + 2H2O →2H2 + Mg(OH)2
この反応は、MgH2自身が抱えていた水素(H2 1分子分)だけでなく、反応相手の)からも水素を引き抜いて気体化させる点です。
結果として運んできた量の「2倍の水素」を現地で発生させられるため、輸送効率が劇的に跳ね上がります。
4. マテリアルとエネルギーの完全循環(クローズドループ)
- 水素を取り出した後に残る残渣(水酸化マグネシウム:Mg(OH)2)は回収し、再び稚内の工場へ戻せば、北海道の再エネ電力を使って何度も「グリーンMg」へ再還元できます。
- これにより、海外依存度の高い金属マグネシウムの国産化・脱炭素化を達成しながら、エネルギーキャリアとしてのMgも循環させ続けるループが完成します。
北海道の豊富な再エネでMgとH₂を同時に作り、固めて運び、街で水と混ぜて2倍の水素を取り出し、残った素材はまた回収して再生するという一体設計によって、エネルギー効率・コスト・安全性のすべてを成り立たせています。

現地で水素とMgを即時結合し、常温・常圧で安全に運べる「水素化マグネシウム」に変換するためです。輸送・貯蔵コストを大幅に抑えつつ、需要地で水と反応させて2倍の水素を取り出せる相乗効果があります。
グリーンマグネシウムとは何か
グリーンマグネシウムとは、再生可能エネルギーの活用や高効率なリサイクル技術により、製造から精錬・再生に至るプロセスでのCO2排出量を極限まで抑えた環境配慮型の金属マグネシウムを指します。
なぜ今「グリーン化」が求められているのか
マグネシウムは「実用金属の中で最も軽い(鉄の約1/4、アルミニウムの約2/3)」という非常に優れた特性を持ち、電気自動車(EV)の軽量化や電子機器の素材として世界的に需要が高まっています。
しかし、従来の製造プロセスには大きな環境課題がありました。
| 項目 | 従来のマグネシウム | グリーンマグネシウム |
| 主な製法 | 石炭火力依存の熱還元法(中国等のピジョン法) | 再エネ電力(風力・水力等)による精錬、または高効率リサイクル |
| CO2排出量 | 金属1kgあたり約20〜30kgと極めて多い | バージン材の再エネ精錬で大幅削減、リサイクル材なら最大90〜99%削減 |
| 供給網 | 海外(特定国)からの輸入依存度が高い | 国内の再エネ拠点での精錬や地域循環型モデルが構築可能 |
2つの大きな役割
グリーンマグネシウムは、脱炭素社会において「軽量構造材」と「エネルギーキャリア」という2つの異なる側面で注目されています。
- 超軽量な構造材料(パーツの脱炭素化)
- 用途: EVの車体やバッテリーケース、自動車ハンドル、精密機器、スポーツ用品など。
- 効果: 素材自体の製造時CO2を抑えるだけでなく、製品を軽量化することで走行・使用時の消費エネルギーも減らします。
- 水素の貯蔵・輸送媒体(エネルギーキャリア)
- 用途: 水素と結合させた「水素化マグネシウム(MgH2)」としての利用。
- 効果: 爆発しやすい水素を常温・常圧の安全な固体として持ち運び、需要地で水と反応させて取り出す安全な媒体になります。
日本では、北海道などの再エネ豊富な地域で新しく精錬を行う「国産グリーンマグネシウム」の構想(トクヤマ等)や、使用済みの自動車部品等から再生する「リサイクル型グリーンマグネシウム」の社会実装(平林金属やシマノ等)が同時に進められています。

再生可能エネルギーを用いた精錬やリサイクルにより、製造時のCO2排出量を大幅に削減した環境配慮型マグネシウムです。実用金属で最も軽く、EVの部品軽量化や水素の貯蔵・輸送媒体として活用されます。
どのようにグリーンマグネシウムを製造するのか
グリーンマグネシウムの製造(精錬)は、「原料の調達」と「エネルギー源の再エネ化(脱炭素化)」の組み合わせによって行われます。
主な製造アプローチは大きく分けて 3つの方式 があります。
1. 溶融塩電解法(再エネ電力による電気分解)
海水や鉱石、塩湖から抽出した塩化マグネシウム(MgCl2)を高温で溶かし、再生可能エネルギー(風力・太陽光など)による電力で電気分解する方法です。
- 特長:電解プロセス自体で CO2 が発生せず、トクヤマをはじめとする化学メーカーが長年培った食塩電解技術などを応用・発展させやすい方式です。副生する塩素(Cl2)も工業原料として有効活用されます。
2. グリーン熱還元法(ピジョン法の加熱電化)
世界の主流である「ピジョン法(ドロマイト鉱石を約1,200℃で加熱還元する手法)」は、従来石炭燃料を使用するため大量のCO2を排出していました。この加熱源を再エネ電力による高周波誘導加熱や電熱に置き換える技術開発が進んでいます。
- 特長:鉱石からダイレクトに製造できる利点があり、加熱を脱炭素化することで「グリーン・ピジョン法」として精錬時の CO2 を極限まで抑えます。
3. 残渣からの「再還元循環(リサイクル精錬)」
北海道構想のような水素キャリア利用の場合、需要地で水素を取り出した後に残る水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)を精錬拠点へ回収し、再び再エネで脱水・還元して金属マグネシウムへ戻します。
- 特長:海外から新たな鉱石を輸入することなく、国内のエネルギー循環ループの中でMgを何度も再生利用(アップサイクル)できます。
製造の最大の課題・ポイント
精錬にはいずれの手法でも膨大な熱や電気エネルギーが必要です。そのため、北海道の稚内のように「余剰な再エネ電力が安価かつ豊富に得られる地域」に精錬プラントを設置することが、コスト面・環境面の両方で成功の絶対条件となります。

海水や鉱石から得た塩化マグネシウムなどを、再生可能エネルギーの電力を用いて電気分解(溶融塩電解)したり、熱還元工程を電化して精錬します。また、水素利用後の残渣を再エネで再精錬し循環製造も行います。
一体製造でのトクヤマの強みは何か
トクヤマが「グリーン水素」と「グリーンマグネシウム(Mg)」の一体製造で発揮する強みは、同社が苛性ソーダや多結晶シリコンなどの製造で培ってきた「電解技術」「無機・金属化学」「複合プラントのエネルギー統合ノウハウ」にあります。
単に2つの製品を並べるのではなく、化学メーカーならではの高度な統合プロセスを構築できる点が最大の強みです。
1. 大規模な「電解技術」と「高純度ガス制御」のノウハウ
トクヤマは長年、食塩水を電気分解して苛性ソーダと塩素、副生水素を作る「食塩電解事業」を中核としてきました。
- 電解プラントの最適運用:変動する再エネ電力(風力・太陽光)に合わせて電解槽の稼働を制御する技術を持ちます。
- Mg溶融塩電解への応用:水電解だけでなく、Mg精錬プロセス(塩化マグネシウムの溶融塩電解)においても、自社の電解・塩素制御技術をダイレクトに応用可能です。
2. SOEC水電解とMg精錬の「熱・マテリアル統合」
一体製造プラントでは、装置間の熱・副産物の相互利用による劇的な効率化が可能です。
- 熱効率の最大化:高温で動作する「SOEC(固体酸化物形水電解)」から出る排熱を、Mgの乾燥・還元・水素化反応の熱源として流用し、系全体のエネルギーロスを最小化します。
- 副産物の相互活用:Mg精錬で生じる副生ガスや塩素成分を、化学プロセス内でリサイクル・無害化する閉鎖系(クローズド)の流体制御技術を有しています。
3. 「水素化マグネシウム(MgH2)」の精密合成・反応制御
気体の水素と固体のMgを反応させて高密度なMgH2(水素化マグネシウム)を作るには、気固反応の精密な制御が必要です。
- トクヤマは半導体用多結晶シリコンや高純度シリカの製造で、「気体と固体を均一かつ安全に反応・高純度化させる粉体制御技術」の知見を豊富に持っており、これをMgH2の大量安定製造に直結させています。
4. 周南コンビナートで培った「完全循環型エコシステム」の構築力
トクヤマの主力拠点である周南事業所(山口県)は、副生成物や廃棄物を他プラントの原料・エネルギーとして徹底的に使い切る「高度循環型コンビナート」として知られています。
稚内・札幌を中心とする北海道構想においても、「製造(稚内)→利用(札幌)→残渣回収→再精錬(稚内)」という地域完結型の循環ループをプラント設計レベルから全体最適化できる設計力が強みとなります。

食塩電解で培った高度な電解・ガス制御技術や粉体反応技術が強みです。SOEC水電解の排熱をMg精錬に活かす熱統合や、需要地からの残渣回収・再精錬まで含めた効率的な循環プラント設計ノウハウを誇ります。

コメント