日産化学のCCSへのシリカナノ粒子の利用

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この記事で分かること

1. CCSとは何か

発電所や工場などから出るCO2を回収し、地下深くの地層に封じ込めて長期間隔離する技術です。大気中への排出を防ぎ、地球温暖化を抑制する重要な脱炭素手段として期待されています。

2. シリカナノ粒子で貯留率が向上する理由

粒子が岩石表面に付着して地層を親水化し、CO2を隙間に強力に固定(トラップ)します。極小サイズで目詰まりせず奥まで浸透し、CO2の偏流を防いで地層全体を活用できるためです。

3. 「スノーテックス®」の技術的な強み

粒径・異形状の精密制御と高度な表面改質技術です。表面への化学修飾による「立体反発」効果により、過酷な高温・高塩分環境下でも粒子同士が凝集・ゲル化せず分散を維持できます

日産化学のCCSへのシリカナノ粒子の利用

 CCSの本格的な事業化が進む中、地下深くの岩石にどれだけ確実にCO2を閉じ込められるか(貯留率の向上と漏出リスクの低減)が大きな課題となっています。

 日産化学はこの課題に対して、得意とする微粒子表面処理技術を用いたシリカナノ粒子でアプローチしています。

 CCS向けシリカは、化学プラントやエネルギー分野で求められる耐熱性・耐塩分性・分散安定性を保持したまま、地層環境でも機能するように最適化されたものです。

 2026年以降、世界的にCCSの大型投資および事業化が本格化する中で、既存の注入設備を活用しながら貯留効率を引き上げられるソリューションとして注目を集めています。

CCSとは何か

 CCS(Carbon Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留)とは、発電所や大型プラントなどから排出されるCO2が大気に放出される前に回収し、地下深くの地層に封じ込めて長期間安定して隔離する技術です。

3つの基本プロセス

  1. 回収(Capture)火力発電所、製鉄所、化学プラントなどの排ガスから、化学吸収液(アミン系化合物など)や膜分離技術を用いてCO2だけを選別して回収します。
  2. 輸送(Transport)回収したCO2を圧縮して液化(または超臨界状態)させ、パイプラインや専用のCO2運搬船で貯留場所まで運ばれます。
  3. 貯留(Storage)地下1,000m以上の深部にある枯渇した油田・天然ガス田や、砂岩などの帯水層に注入されます。上部にある浸透性のない岩盤(キャップロック)が「フタ」の役割を果たし、地表への漏出を防ぎます。

なぜCCSが必要とされるのか

  • 脱炭素化が難しい産業(Hard-to-Abate分野)への解決策再エネ化や電動化だけでは、セメント製造の化学反応、製鉄、化学プラントなどから出るプロセス由来のCO2をゼロにするのは困難です。CCSはこれらの領域で大幅削減を果たす現実的な手段として期待されています。
  • 2050年ネットゼロ目標の達成IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書でも、世界の気温上昇を1.5℃以下に抑えるシナリオの多くで、大量のCCS導入が不可欠とされています。

関連用語(CCUSやDACとの違い)

用語仕組み違い
CCS回収 ➔ 地下貯留CO2を隔離して保管することに特化
CCUS回収 ➔ 利用 ➔ 地下貯留貯留だけでなく、燃料・化学原料・コンクリート等へ再利用(Utilization)する
DACCS大気から直接回収 ➔ 貯留排気筒ではなく、大気中の薄いCO2を直接回収して地下貯留する(大気中のCO2を純減させるネガティブエミッション技術)

CCS(二酸化炭素回収・貯留)とは、発電所や工場などから出るCO2を回収し、地下深くの地層に封じ込めて長期間隔離する技術です。大気中への排出を防ぎ、地球温暖化を抑える脱炭素手段として期待されています

なぜシリカナノ粒子で、貯蓄率が向上するのか

 シリカナノ粒子を注入すると貯留率が向上する理由は、一言で言えば「地層の隙間の性質を変えて、CO2を強力な磁石のようにミクロの穴に閉じ込められるようになるから」です。

 「シリカという素材」「ナノというサイズ」「表面の性質(濡れ性)」の3つにあります。

1. 岩石を「超・親水性」に変えてCO2を閉じ込める(毛管トラッピング)

 地下の岩石(砂岩など)の表面は、もともと油分や鉱物の性質によってCO2と馴染みやすい(水と馴染みにくい)状態になっていることがあります。この状態だと、注入された超臨界CO2は岩石の表面をすべるようにすり抜け、地上へ浮上して逃げやすくなります。

  • シリカナノ粒子が付着すると:シリカ(二酸化珪素:SiO2)の表面は水分子と強力に結びつく性質(親水性)を持っています。これが岩石の表面を隙間なく覆うと、岩石全体が「水を引きつけ、CO2を弾く性質」に一変します。
  • 閉じ込め(トラッピング)の発生:水が優先的に岩石表面に密着することで、押し出されたCO2は岩石の微小な隙間(ポア)の中に丸い小泡となって強力に挟み込まれます(キャピラリートラッピング)。これにより、CO2が自力で動けなくなり、貯留率が跳ね上がります。

2. なぜ「ナノサイズ」でなければならないのか

 地層の岩石の隙間(ポアネックス)は、ミクロン(1/1000mm)単位の極小世界です。

  • 普通の微粒子(ミクロンサイズ):大きすぎて地層の入り口で詰まってしまい(目詰まり・プラギング現象)、奥まで粒子が届かないばかりか、CO2の注入自体を止めてしまいます。
  • ナノ粒子(数nm〜数十nm):赤血球よりもはるかに小さいため、岩石の複雑な隙間を通り抜けて地層の奥深くまでスムーズに浸透します。注入流量を落とさずに、地層の広範囲の表面だけを効率よくコーティングできます。

3. なぜ「シリカ(SiO2)」なのか

  • 地層との親和性が高い貯留層となる砂岩などの主成分は石英(シリカ)です。同種の物質であるため地層に定着しやすく、変質もしにくい特性を持っています。
  • 過酷な環境に耐える地下深部は「高塩分・高温・高圧」という過酷な環境です。日産化学の化学合成技術により、塩分や熱でも粒子同士がくっついて固まらない(凝集しない)高い分散安定性が付与されています。

4. CO2の「通り道(通り抜け)」を防ぐ

 超臨界状態のCO2はサラサラしていて粘性が低いため、地層の中に1箇所でも通りやすい抜け道ができると、そこばかりを通ってしまい、地層全体の数%しか使えないという問題(チャネリング現象)が起きます。

 シリカナノ粒子を混ぜることでCO2と水の境界(界面)の流動性がコントロールされ、地層全体にまんべんなく行き渡るようになるため、実質的な貯留容量が増大します。

シリカナノ粒子が岩石表面に付着して地層を親水化させることで、CO2が微小な隙間に強力に固定(トラップ)されます。極小サイズのため目詰まりせず奥まで浸透し、CO2の偏流を防ぐのが貯留率向上の理由です。

スノーテックス」の技術的な強みは何か

 日産化学の「スノーテックス®(SNOWTEX®)」は、1951年の生産開始以来、長年にわたり進化を続けてきたコロイダルシリカ(水中で無水ケイ酸/SiO2の微粒子が均一に分散した液)の代名詞的ブランドです。

 半導体の研磨剤(CMPスラリー)から触媒担体、塗料のコーティング剤まで幅広く用いられておいます。

1. スノーテックス®の3つの技術的強み

① 粒子形状・サイズの精密制御技術(異形シリカ)

 従来の球状ナノ粒子(直径数nm〜100nm程度)だけでなく、日産化学独自の特殊な形状制御技術を持っています。

  • くびれ・細長い粒子(スノーテックス-UP): 粒子が伸びた形状をしており、膜を作る力や補強効果に優れる。
  • 真珠ネックレス状(スノーテックス-PS): 球状粒子が真珠の首飾りのように連結しており、複雑な多孔質構造を作るのに適する。
② 高純度と単分散性(粒径の揃いやすさ)

 粒子ごとのサイズムラ(分布)が極めて小さく、高濃度で配合しても粒子同士がダマ(凝集)にならず均一に浮遊し続けます。

 この品質再現性が、半導体製造のような極限の精度が求められる現場での高い信頼性に繋がっています。

③ 表面修飾・溶媒展開のノウハウ

 水中のpH(酸性〜アルカリ性)に応じた電荷制御や、水以外の有機溶媒に分散させる技術(「オルガノシリカゾル」)など、用途に合わせた表面改質バリエーションを豊富にラインナップしています。

2. なぜ耐熱・耐塩分性に優れているのか

 通常のコロイダルシリカは、水中で粒子表面のマイナス電荷による「静電反発(電気二重層)」によって互いに反発し合い、安定して浮遊しています。

 しかし、地下深く(CCS貯留層や油田)のような環境では以下の理由で固まって(ゲル化・塩析)しまいます。

  • 高塩分: ナトリウム(Na+)やカルシウム(Ca2+)などのイオンがマイナス電荷を打ち消し、反発力がなくなって縮み・結合する。
  • 高温: 熱運動が激しくなり、表面のシラノール基(-Si-OH)同士が脱水縮合(-Si-O-Si- 結合を形成)して網目状に固まる。

 日産化学がCCSや石油増進回収(EOR)向けなどに展開する耐塩・耐熱型コロイダルシリカは、この弱点を「化学修飾」によって克服しています。

メカニズム①:静電反発から「立体反発(Steric Repulsion)」への転換

 粒子表面に、シラン化合物やポリエチレングリコール(PEG)鎖などの親水性有機基を共有結合で導入(グラフト化)しています。

  塩分濃度が高く静電気的な反発力が機能しない環境下でも、粒子表面に生えた柔軟な有機分子鎖が物理的にバネのように反発(立体障害効果)するため、粒子同士が近接できず凝集を防ぎます。

メカニズム②:シラノール基の「キャップ化」による脱水縮合の抑止

 高温下で反応の原因となる表面の活性なシラノール基(-Si-OH)を修飾基で保護(キャップ)することで、100℃近い高温環境でも化学反応が起こらず、熱的安定性を保ちます。

メカニズム③:多価イオン(Ca2+, Mg2+)の架橋ブロック

 海水や地層水に多いカルシウムイオンなどは、複数のシリカ粒子を橋渡しして強力に凝集させます。強力な親水性保護膜で表面を覆うことで、多価イオンが直接粒子にアタックできないようにガードしています。

単に「小さいシリカを作る」ことではなく、化学合成によって「過酷な環境(塩・熱・酸・アルカリ)でも絶対に固まらない表面構造を作る技術」にあります。

スノーテックスの強みは、粒径・形状の精密制御と高度な表面改質技術です。粒子表面の化学修飾によって「立体反発」を生み出し、過酷な高温・高塩分下でも粒子同士が凝集・ゲル化するのを防ぐため耐性に優れています

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