この記事で分かること
TC-NCFとは何か
ダイ間に非導電性フィルム(NCF)を挟み加熱圧着するHBM積層技術です。微細な隙間を確実に樹脂封止し歪みを防ぎますが、12層や16層へと高層化するにつれ熱ストレスの蓄積や放熱性が課題となります。
非導電性フィルムに使用される物質
主成分のエポキシやアクリル樹脂に、熱膨張緩和や放熱性を与える無機フィラー(シリカやアルミナ)、バンプの酸化膜を除去する有機酸(フラックス材)、硬化剤や密着向上剤などを精密配合した複合材料です。
非導電性フィルムの主要メーカーの市場シェア
HBM向けNCF市場ではレゾナックが圧倒的な首位シェアを独占的に握ります。デクセリアルズはACF(異方性導電膜)で世界シェア約8割を保持し同技術でNCF領域へ進出。東レや信越化学等も追随しています。
半導体パッケージ基板:TC-NCF
パッケージ基板とは、半導体チップ(ダイ)を載せ、マザーボードなどのメイン基板に接続するための中継基板のことです。半導体チップは非常に微細な端子を持ち、そのまま一般的なプリント基板(PCB)に直接実装することは極めて困難です。
そこでチップとマザーボードの間に介在し、電気信号を橋渡しする役割を持つのがパッケージ基板です。
従来の半導体の微細化による性能向上が限界に近づく中、半導体の先端パッケージング技術であるビルドアップ多層構造による高密度・微細配線が求められ、半導体性能向上の新たな競争軸となっています。
前回はHBMの増加で大きく成長したHANMI Semiconductorに関する記事でしたが、今回は熱圧着の方法の一種であるTC-NCFや利用される非導電性フィルムに関する記事となります。
マイクロンやサムスンはHBMでどのTCB装置を使用しているのか
サムスン電子とマイクロン・テクノロジーがHBM(高帯域幅メモリ)の積層工程で使用している主なTCB(熱圧着)装置メーカーは以下の通りです。
サムスン電子(Samsung Electronics)
- SEMES(セメス): サムスンの装置子会社。自社の「TC-NCF」プロセス向けメインサプライヤーとして、最も多くのTCB装置を納入しています。
- 東レエンジニアリング(Toray): 日本の精密装置メーカー。
- 新川(Shinkawa / ヤマハロボティクス): 日本の老舗ボンダーメーカー。
マイクロン(Micron Technology)
- 新川(Shinkawa / ヤマハロボティクス): HBM3e量産における従来の主力サプライヤー。
- HANMI Semiconductor:HBM3eの急速な増産と高精度NCF圧着に対応するため、セカンドサプライヤーとして採用。
- ASMPT: 次世代規格(HBM4など)に向けた評価用デモ機の導入や共同開発を実施。
サムスンとマイクロンは、ダイ間にフィルムを挟んで熱圧着するTC-NCF(Non-Conductive Film)方式を採用しているため、高精度な熱・荷重制御ができる新川やSEMES、HANMIなどを組み合わせてマルチスourcing(調達先の分散)を行っています。
一方、競合のSKハイニックスはMR-MUF(液状樹脂充填)を主軸とするため、HANMI SemiconductorやASMPT、ハンファ精密機械から調達しています。
TC-NCFとは何か
TC-NCF(Thermal Compression with Non-Conductive Film)は、HBM(高帯域幅メモリ)などの半導体多層積層において、熱圧着(TCB)と絶縁フィルム(NCF)による保護・固定を同時におこなう技術です。
サムスン電子やマイクロン・テクノロジーなどがHBM製造の主力プロセスとして採用しています。
主な仕組みと手順
- NCF(非導電性フィルム)の配置: 薄化したDRAMダイの接合面に、あらかじめフィルム状の非導電性樹脂(NCF)を貼り付けます。
- 加熱加圧(TCB): TCB装置のヘッドでチップを押し当て、熱と荷重をかけてマイクロバンプ(Cu-Sn等)同士を接合します。
- 樹脂の溶融と固化: 加熱によってNCFが一時的に溶けてバンプ周囲の極小ギャップを埋め、冷却とともに固化してダイ同士を物理的・電気的に固定します。
主なメリット
- 極小ギャップへの均一な封止: 後から液状樹脂を流し込むのが困難な数〜数十μmの狭い隙間でも、気泡(ボイド)を残さず密着できます。
- 位置ズレ・歪みの緩和: フィルムがダイ全体を面で均一に支えるため、圧着時の加重むらや熱歪みを緩和します。
課題とMR-MUF(競合技術)との比較
SKハイニックスが主力とする「MR-MUF」(仮置き後に一括リフローし液状樹脂を流し込む方式)に対し、TC-NCFはダイを1層積層するごとに加熱圧着を繰り返します。そのため、12層や16層へと高層化するにつれて熱ストレスの蓄積や熱放散性(フィルムの熱抵抗)が課題となります。

TC-NCFは、ダイ間に非導電性フィルムを挟んで加熱圧着するHBM積層技術です。微細な隙間を確実に封止し歪みを抑える一方、16層など高層化に伴う熱ストレスの蓄積や放熱性が課題となります。
非導電性フィルムにはどんな物資が使用されるのか
非導電性フィルム(NCF)は、熱圧着(TCB)時の接着性、絶縁性、熱ストレス緩和、放熱性などを同時に満たすため、以下のような複数の機能性化学物質が精密に配合された高分子複合材料です。
1. ベース樹脂(ポリマーマトリックス)
- エポキシ樹脂(主成分): 高い電気絶縁性、耐熱性、接着力を持つ樹脂。熱で反応して硬化し、ダイを固定します。
- アクリル樹脂 / エラストマー(可塑剤): 液状樹脂ではなく「シート(フィルム)形状」に塗工成形するための柔軟性と適度な粘着性を与えます。
2. 無機フィラー(充填剤)
- シリカ粒子(二酸化ケイ素 / SiO2): 樹脂全体の熱膨張係数(CTE)をシリコンの物性に近づけ、加熱・冷却時の反りや割れを抑えます。
- 高熱伝導フィラー(アルミナ / Al2O3、窒化ホウ素 / BNなど): HBMの高層化(12層・16層)に伴う熱問題を克服するため、従来のシリカに加えて放熱性を高めるフィラーの配合率が向上しています。
3. フラックス機能材および硬化剤
- 有機酸成分(フラックス作用): 熱圧着時に、マイクロバンプ(Cu/Snはんだ)の表面酸化膜を化学的に除去・洗浄し、電気的な接合を確実にします。
- フェノール系・イミダゾール系硬化剤 / 触媒: TCB装置による急昇温(数秒間)の短時間で、効率よく樹脂を完全硬化させます。
4. 密着向上剤・添加剤
- シランカップリング剤: 樹脂(エポキシ)とシリコンウエハ、金属バンプ、および無機フィラーとの間の密着性を劇的に向上させます。

主成分のエポキシやアクリル樹脂に、熱膨張緩和や放熱性を与える無機フィラー(シリカやアルミナ)、バンプの酸化膜を除去する有機酸(フラックス材)、硬化剤や密着向上剤などを精密配合した複合材料です。
非導電性フィルムの有力メーカーはどこか
NCF(非導電性フィルム)および関連する先端接続フィルム市場における主要メーカーのシェアと開発動向は以下の通りです。
1. 主要メーカーの市場シェアと立ち位置
- レゾナック(Resonac)
- 市場シェア:HBM(高帯域幅メモリ)向けNCF市場で圧倒的トップシェア(ほぼ市場をリード)を握っています。
- 強み:旧昭和電工の「分子・素材設計力」と、旧日立化成が持つ「ダイボンディングフィルムの機能設計・評価技術」が融合した一貫開発体制が強みです。
- 設備投資:約150億円を投じ、NCFおよび放熱シート(TIM)の生産能力を従来の3.5〜5倍に引き上げる増強を進めています。
- デクセリアルズ(Dexerials)
- 市場シェア:主にディスプレイやカメラモジュール向けのACF(異方性導電膜)で約8割(79.4%)の圧倒的シェアを保持する世界首位です。
- 領域拡張:ACFで培った高度な微細接続技術を背景に、HBM/半導体パッケージングや光実装(CPO)などの半導体領域へNCFを含む先端フィルムを展開・拡張しています。
- その他主要メーカー
- 東レや信越化学工業、韓国のHansol Chemicalなどが、超薄型絶縁フィルムや耐熱・低誘電性に優れた有機材料の開発・供給を行っています。
2. 最新の開発状況と技術動向
- HBM4(16層等)に向けた超薄型化と高精度化
- HBMの高層化に伴い、NCFにはサブミクロン単位の厚み制御精度が求められます。レゾナックはフィルムの極薄化と同時に、TCB圧着時のバンプ貫通性を高める可塑性制御を推進しています。
- 高熱伝導フィラーの配合(放熱対策)
- NCFの最大の課題である「熱伝導率の低さ(放熱性)」を克服するため、シリコンと熱膨張率を合わせるシリカ粒子に加え、高熱伝導性フィラー(アルミナや窒化ホウ素等)を精密配合した次世代NCFの開発が進んでいます。
- 顧客と同等環境での「共創開発」(レゾナック)
- レゾナックは自社コンソーシアム(JOINT2)等を通じてTCB装置や後工程の実機評価ラインを保有しており、サムスンやマイクロンなどのメモリメーカーと同じ環境で評価・フィードバックを回すことで圧倒的な開発速度を実現しています。
- 粒子整列技術・微細化アプローチ(デクセリアルズ)
- 独自の「導電粒子配列技術」を活用し、超微細ピッチ接続でもショート(短絡)を起こさない精密接続フィルム技術を、次世代半導体・フォトニクスパッケージ向けに進化させています。

HBM向けNCF市場ではレゾナックが圧倒的な首位シェアを独占的に握ります。デクセリアルズはACF(異方性導電膜)で世界シェア約8割を誇り、同技術でNCF領域へ進出。東レや信越化学なども追随しています。
パッケージ基板の絶縁層との違いは何か
NCF(非導電性フィルム)とパッケージ基板の絶縁層(ABF:味の素ビルドアップフィルム等)の根本的な違いは、「適用される場所(ベアチップ間か基板内か)」と「接続プロセスにおける役割」にあります。
| 比較項目 | NCF(非導電性フィルム) | パッケージ基板の絶縁層(ABF等) |
| 適用場所 | チップ対チップ(HBMなどダイ同士の隙間) | 基板の配線層間(パッケージ基板の内部) |
| 主な役割 | マイクロバンプ接合面の保護・封止・固定 | 銅配線間の電気的絶縁・基板構造の保持 |
| フィルムの厚み | 数μm〜15μm(超極薄) | 15μm〜50μm以上 |
| 接合・機能 | フラックス機能あり(酸化膜を除去して接合) | なし(レーザー穿孔・めっき受容性重視) |
| フィラー設計 | バンプ挟み込みを防ぐナノ〜超微細フィラー | 基板の歪みを抑える低CTE・高充填フィラー |
1. バンプ接合を助ける「フラックス機能」の有無
NCFは単なる絶縁体ではなく、熱圧着(TCB)の加熱時に金属表面の酸化膜を還元・除去する有機酸(フラックス材)を含んでいます。
これにより、樹脂が充填されるのと同時にマイクロバンプ同士の健全なはんだ接合を可能にします。一方、基板絶縁層はすでに形成された回路間を絶縁する材料であり、接合補助機能はありません。
2. フィラーサイズと微細バンプへの対応
NCFは数μm〜十数μmという極小ピッチのバンプ間に挟まれるため、フィラー(シリカ等)の粒子径が非常に小さく設計されています。
フィラーが大きいとバンプ間に挟まり電気的ショートや不通を引き起こすためです。基板絶縁層は基板の平坦性と低熱膨張率(CTE)が最優先されるため、比較的大きなフィラーを高密度で配合できます。
3. 加工プロセスの違い(圧着一体型 vs めっき受容型)
NCFはTCB装置でチップを加圧・加熱する際、熱で溶けてバンプを露出させながら全周を封止します。
これに対し、基板絶縁層はフィルムをラミネートした後にレーザーでビア穴を開け、無電解・電解銅めっき(SAP法など)で配線を上に作り込んでいくためのベース(土台)として機能します。

NCFはチップ間(HBM等)に挟み、バンプ接合補助(フラックス機能)と保護封止を同時に行います。一方、基板絶縁層(ABF等)は基板内部の層間絶縁用で、レーザー穿孔やめっき配線形成の土台となる点が異なります。



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