この記事で分かること

ラピダスコア:DNP、TOPPANホールディングス
2nm世代の先端半導体量産を目指すラピダス(Rapidus)は、半導体の設計から製造までを包括的に支援する協業パートナーシップの枠組み「Rapidus CORE(ラピダスコア)」の立ち上げを発表しました。
その第1弾として、国内外の設計・EDA(設計自動化ツール)・IP(設計資産)関連企業17社との連携体制を構築しています。
自社で専任の高度な半導体設計チームを持たない顧客企業(自動車、産業機器、AI・データセンター事業者など)にとって、設計の難しさが先端半導体採用への巨大な参入障壁となっています。
「設計からサポートできる体制」をあらかじめセットで提示(ワンストップ化)することで、顧客がラピダスの2nmプロセスの利用を開始しやすくし、製造受託(ファウンドリ案件)の早期獲得・製造ラインの稼働率確保へつなげる狙いがあります。
前回は設計支援・デザインハウスに関する記事でしたが、今回は連携企業である凸版印刷やDNPの役割に関する記事となります。
DNPやTOPPANホールディングスの役割は何か
DNP(大日本印刷)や凸版印刷(TOPPANホールディングス)は、半導体の回路設計データを実際の「物理的な製品」として製造可能にする「回路原版(フォトマスク)の供給」と「先端パッケージ基板・材料の供給」という極めて重要な役割を担っています。
主な役割は大きく3つに分けられます。
1. 超高精度な「EUVフォトマスク(回路原版)」の供給
半導体工場でウエハ上に回路を焼き付けるには、写真のネガフィルムにあたる「フォトマスク」が必要です。
- DNP: EUV(極端紫外線)露光向けの最先端フォトマスクの開発・量産で世界トップクラスの技術を持ち、ラピダスの2nmライン向けに原版を供給します。
- TOPPAN: 傘下のトッパンフォトマスクなどを通じて、同様にフォトマスクの製造・開発や関連技術の供給を担います。
2. 設計データと製造現場をつなぐ「最適化(DFM)」
どれほど優れた回路設計であっても、露光装置や物理現象の限界により「原版に描けない」「ウエハ上で正しく再現できない」ケースがあります。
- 印刷会社として培った超微細加工技術や光学ノウハウを生かし、設計ツール(EDA)や設計会社と早い段階から連携。
- 「製造しやすい設計(DFM: Design for Manufacturability)」のルールを共有し、試作のやり直し(リスピン)を防ぎます。
3. 次世代パッケージング(後工程・チップレット)向け基板の供給
2nm世代の半導体では、完成した複数のチップを高密度に繋ぐ「2.5D/3Dパッケージング」が不可欠です。
- TOPPAN: 超高多層なパッケージ基板(FC-BGA基板など)で世界的なシェアを持ち、チップを支える高密度基板を供給します。
- DNP: 次世代のガラスコア基板(TGV)など、シリコン同士を繋ぐ高度な部材・材料技術で貢献します。
両社は単なる部材ベンダーではなく、「設計データを物理的な原版(フォトマスク)へ正確に落とし込み、後工程のパッケージ基板までを物理的に成立させるキープレイヤー」として、ラピダスでの2nmチップ製造を根底から支えています。

両社の役割は、2nm製造に必須なEUVフォトマスク(回路原版)の供給と、設計と製造の適合(DFM)支援です。さらに高密度な先端パッケージ基板や材料を供給し、前工程から後工程まで物理的に支えます。
EUVフォトマスクとは何か
EUVフォトマスクとは、最先端の半導体を製造する「EUV(極端紫外線)露光工程」で用いられる、回路パターンが描かれた超高精度な「原版(ネガフィルムのようなもの)」です。
シリコンウエハ上に極小の回路を焼き付ける際、このマスクに光をあてて回路パターンを投影します。
従来のフォトマスクとの決定的な違い:「反射型」構造
従来の光(ArF液浸など)で使われるフォトマスクは、光を「透かす」透過型でした。
しかし、EUV(波長13.5nm)はあらゆる物質に吸収されてしまう性質があるため、EUVフォトマスクは光を「跳ね返す」反射型という特殊な構造をしています。
| 項目 | 従来のフォトマスク(ArF等) | EUVフォトマスク |
| 光の制御方式 | 透過型(光を透かして投影) | 反射型(光を反射させて投影) |
| 基板・構造 | 合成石英ガラス+クロム膜 | 低熱膨張ガラス+モリブデン/シリコン多層膜 |
| 主な課題 | レンズの微細化限界 | 光の吸収、熱膨張、欠陥防止、保護膜(ペリクル) |
EUVフォトマスクの主な構造
- 低熱膨張基板:光照射による熱で膨張・変形しない特殊なガラス基板。
- 反射多層膜(Mo/Si):モリブデン(Mo)とシリコン(Si)をナノ単位の厚みで交互に約40層重ねた鏡(Bragg反射鏡)。これでEUV光を約60〜70%反射させます。
- 吸収体(Absorber):多層膜の上に配置され、EUV光を吸収して「回路の影(パターン)」を作る薄膜。
なぜ製造難易度が極めて高いのか
- 原子レベルの「無欠陥(ゼロデフェクト)」要求:多層膜内部に原子数個分のゴミや凹凸があるだけで、反射光が歪んで回路の不良につながります。
- 熱と歪みの問題:光を反射する際に熱が発生するため、1ナノの歪みも許されない厳しい熱制御が必要です。
- 描画時間の増大:2nm/3nm世代の複雑な回路パターンを描くため、最先端の「マルチビーム電子線描画装置」を使っても1枚の描画に長い時間がかかります。
EUVフォトマスクは、単なる「回路の図面」ではなく、特殊なナノ材料技術と超精密加工技術が詰まった「高価格かつ最難関の光学デバイス」です。これを精度よく量産できる企業(DNPやTOPPANなど)が、最先端半導体の製造ラインを影で支えています。

EUVフォトマスクとは、最先端半導体のEUV露光で使われる回路の原版です。EUV光を「透かす」のではなく「反射させる」特殊な多層膜構造を持ち、ウエハ上にナノレベルの微細回路を精度高く焼き付けます。
なぜDNP、TPPAN両方と連携するのか
ラピダスがDNP(大日本印刷)とTOPPAN(TOPPANホールディングス)の競合2社を揃って「Rapidus CORE」に迎えた最大の理由は、2nmという極限の最先端プロセスにおいて、サプライチェーンの安定化と世界中からの受注獲得を確実にするためです。
1. サプライチェーンリスクの分散(マルチソース化)
2nm世代のEUVフォトマスク(回路原版)は製造難易度が極めて高く、歩留まりの維持や製造装置の不具合などが起きやすい領域です。
- もし1社だけに依存した場合、その企業のラインが止まるとラピダス全体の工場稼働が停止してしまいます。
- 2社体制(デュアルソーシング)にすることで、万が一の供給途絶リスクを回避し、安定して製造ラインを回せる体制を整えています。
2. フォトマスク生産キャパシティの確保
最先端フォトマスクの製造には、極めて高額なマルチビーム描画装置や膨大な製造時間が必要です。
- 今後、国内外の多くの顧客から2nmチップを受託した際、フォトマスクの製造能力(キャパシティ)がボトルネックになる恐れがあります。
- 世界トップクラスの製造能力を持つ両社と組むことで、大量の試作・量産に対応できる供給ラインを確保できます。
3. 顧客(ファブレス企業など)の利便性向上
世界中の半導体設計企業(ファブレスやAI企業など)は、すでにDNPまたはTOPPANのどちらかと長年の取引や設計ルール上の付き合いを持っているケースが多くあります。
- ラピダス側が両方に対応しておくことで、顧客は既存のパートナー関係や設計ノウハウを維持したまま、スムーズにラピダスのラインへ移管できます(顧客の参入障壁を下げる)。
4. 後工程・先端パッケージング技術の補完
両社は前工程のフォトマスクだけでなく、2.5D/3Dパッケージングに必要な先端基板技術(FC-BGAやガラスコア基板など)でも世界トップレベルの開発力を持っています。
- 微細化の限界を補う「チップレット技術」において、双方の優れた材料や基板技術を活かせる選択肢を持っておくことがラピダスにとって大きな強みとなります。
ライバル同士であっても両社と連携することは、ラピダスにとって「リスクの回避」「生産能力の確保」「世界中の顧客の取り込み」を同時に達成するために極めて合理的な戦略です。

EUVフォトマスクの供給リスクを分散(デュアルソーシング)し、生産能力を確保するためです。また、顧客が既存の取引先を維持したまま利用できるようにし、先端パッケージング技術の選択肢を広げる狙いもあります。


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