レアアースの代替技術:高周波圧電材料でのスカンジウムフリー化

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この記事で分かること

レアアースの代替技術:高周波圧電材料でのスカンジウムフリー化

 2026年上半期(1〜6月)における日本のレアアース(希土類)輸入量は、中国による対日輸出規制導入前(2024年同期)の約2割にまで大きく落ち込んでいることが判明しました。

 EV(電気自動車)の駆動用モーターや半導体製造装置・材料に不可欠なレアアースの調達急減に対し、ベトナムや米国など中国以外からの代替調達や内製化が進んでおらず、サプライチェーンへの強い懸念が広まっています。

 第三国ルートの本格化など調達先の多角化を進めてるとともに、代替技術の実用化が強く望まれています。

 前回はスカンジウムのアルミニウム合金での利用に関する記事でしたが、今回は高周波圧電材料でのスカンジウムフリー化に関する記事となります。

高周波圧電材料とは何か

 高周波圧電材料とは、GHz(ギガヘルツ)帯などの高い周波数領域において、「電気信号」と「高周波の機械的振動(弾性波)」を高速かつ低損失で相互変換できる材料のことです。

 主に5G/6GスマートフォンやWi-Fiなどの通信機器において、特定の周波数の電波だけを高速・高精度に抜き出すRF(高周波)フィルタデバイス(BAWやSAW)の素材として使われています。

1. なぜ「普通の圧電材料」と区別されるのか?

 超音波センサーやライターの点火素子などに使われる従来の圧電材料(PZT:チタン酸ジルコン酸鉛など)は、高い圧電性(変形の大きさ)を持ちます。しかし、以下のような理由から高周波帯(GHz帯)での動作には適していません。

  • 高周波での損失(発熱・減衰)が大きい: GHz帯で振動させるとエネルギー損失(誘電損失・機械損失)が大きくなり、信号が減衰したり発熱したりします。
  • 薄膜化・微細加工が難しい: 周波数が高くなるほど振動体の厚みをナノメートル〜マイクロメートル単位に薄くする必要がありますが、従来の材料は薄膜にすると結晶性が乱れ、圧電性能が落ちてしまいます。

2. 高周波圧電材料に求められる主な条件

 高周波圧電材料には、電気と振動を変換する能力だけでなく、高周波特有の次の性能が求められます。

  • 高い音速(Sound Velocity):音波が材料中を伝わるスピード(音速)が速いほど、極端に薄く加工しなくても高い共振周波数(GHz帯)を実現できます。
  • 低損失(High Q値):高周波で連続駆動してもエネルギーが熱として逃げず、高い精度で共振を維持できること。
  • 高い電気機械結合係数(K2):変換効率が高く、一度に通過させられる電波の帯域幅(通信容量)を広く確保できること。
  • 薄膜成膜性:シリコン基板などの上で、結晶の向きが綺麗に揃った高品質な薄膜(数10nm〜1µm程度)を再現性よく形成できること。

3. 代表的な高周波圧電材料

 現在、通信分野の第一線で使われている主な高周波圧電材料は以下の通りです。

材料名特徴・用途
AlN(窒化アルミニウム)音速が極めて速く、高周波・低損失性に優れる。5GのBAW/FBARフィルタの標準材料。
ScAlN(窒化スカンジウムアルミニウム)AlNにスカンジウムを添加し、高音速・低損失を保ったまま圧電性を劇的に高めた材料。現在の5G通信フィルタの主力。
LiNbO3 / LiTaO3(ニオブ酸・タンタル酸リチウム)変換効率(K2)が非常に高い単結晶材料。近年は超薄膜化して支持基板に貼り合わせた「POI基板」として高周波広帯域フィルタに使われる。

 高周波圧電材料は、単に「伸び縮みする金属・セラミックス」ではなく、「5G/6Gやミリ波通信の膨大な情報の中から、狙った電波だけを損失なく瞬時に拾い上げるためのナノスケール振動素子」として機能する先端電子材料です。

GHz帯などの高周波領域で、電気信号と機械的振動を低損失かつ高速に相互変換する材料です。5G/6Gスマホ等の通信機器において、特定の周波数を正確に分離・抽出する高周波フィルタの素材として使われます。

高周波圧電材料での窒化スカンジウムアルミニウムの役割は何か

 高周波圧電材料における窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)は、ベースとなる窒化アルミニウム(AlN)の「圧電特性(電気信号と機械振動を相互に変換する効率)」を劇的に向上させる役割を果たしています。

1. 圧電定数(d33)の飛躍的向上

 AlN結晶中のアルミニウム(Al)の一部をスカンジウム(Sc)で置き換えると、結晶構造内に歪みが生じ、分極(電界がかかったときの原子の位置のズレ)が非常に起きやすくなります(構造のフッ素化・「ソフト化」)。

  • 効果: スカンジウムを10〜30%程度添加することで、もともとのAlNに比べて圧電定数(電気と振動の変換効率)が数倍(最大で4〜5倍程度)に跳ね上がります。

2. 電気機械結合係数(K2)の増大と「広帯域化」

 高周波フィルタデバイス(BAW/SAW)では、電気機械結合係数(K2)が高いほどより広い周波数帯域の信号を一度に通過させられる(比帯域幅の拡大)という特徴があります。

  • 効果: 5G/6G通信で使われる「サブ6GHz」や「ミリ波」などの広大な帯域を扱う際、ScAlNを用いることで、信号損失を極限まで抑えた広帯域フィルタの作製が可能になります。

3. 高周波(GHz帯)での低損失動作と薄膜密着性の維持

 他の圧電材料(PZTやチタン酸バリウムなど)は高い圧電性を持つものの、高周波帯では機械的損失が大きかったり製造プロセスが難しかったりします。

  • 効果: ScAlNはAlNが持つ「高い音速」「優れた熱伝導性・耐熱性」「半導体プロセス(スパッタリング)との親和性」という特長をそのまま維持するため、GHz帯の高周波でも発熱や損失を低減しながら高性能に動作します。

 窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)は、従来のAlNの弱点であった「圧電応答の小ささ」をスカンジウムの添加によって劇的に改善し、5G/6Gスマートフォンなどの通信機器において「大容量・高速な高周波信号を正確に分離・処理する広帯域フィルタ」を実現するためのキー素材となっています。

窒化アルミニウムにScを添加して結晶構造を歪ませ、電気と振動を変換する圧電特性を劇的に高めます。AlNの高い音速特性を保ちつつ電気機械結合係数を増大させ、5G/6G通信用広帯域フィルタを実現します

スカンジウムフリー、低減化にはどのようなものがあるのか

 高周波圧電材料(主に5G/6G向けBAW/SAWフィルタ等)において、窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)は高い圧電特性を持ちますが、Scの高価格・供給リスクや「高濃度に添加すると結晶の膜質が劣化しやすくなる」という課題があります。

 そのため、「他元素によるScフリー化」や「共添加(コドープ)によるSc使用量の軽減化」、さらには「デバイス構造・他材料による代替」の研究・開発が進められています。

1. Scフリー化:他元素のドープ(添加)技術

 Scを使わずに窒化アルミニウム(AlN)の圧電特性を向上させる手法です。

  • Mg-Zr(マグネシウム・ジルコニウム)共添加AlN
    • メカニズム: 2価のMgと4価のZrを同時に添加することで、全体として電荷の平衡(電気的中性)を保ちながらAlNの結晶構造を歪ませ、圧電性を大幅に高めます。
    • 特徴: Scを使わずにScAlNに迫る高い圧電定数(d33)が得られ、原料コストを大幅に抑えられます。
  • Mg-Nb(マグネシウム・ニオブ)共添加AlN
    • Mgと5価のNbを組み合わせてAlNに添加する技術で、こちらも高い圧電向上効果を示します。
  • YAlN(窒化イットリウムアルミニウム)
    • Scと同じ第3族元素であり、資源量が豊富で格安なイットリウム(Y)に置き換える技術です。Scに比べると特性向上幅はやや控えめですが、低コスト化に寄与します。

2. Sc軽減化:共添加(コドープ)による「低Sc化」

 Scを完全に無くすのではなく、Scの添加量を大幅に減らしつつ同等以上のパフォーマンスを出すアプローチです。

  • Sc + Mg-Zr / Mg-Nb の複合添加(Sc-Mg-Zr-AlNなど)
    • 通常、高特性を得るにはScを20〜30%以上添加する必要がありますが、これにより成膜時の結晶性が悪化したりスパッタリングターゲット材が高額化する問題がありました。
    • Scの添加量を10%程度に抑え、残りをMg-Zrなどで補う(共添加する)ことで、Sc使用量を半減以下にしながら、高Sc濃度のScAlNと同等以上の電気機械結合係数(K2)と高い膜品質を両立させます。

3. 材料・基板構造の代替(単結晶薄膜基板の活用)

 スパッタリングによるScAlN薄膜を使わず、異種材料の単結晶薄膜を用いて高周波・広帯域フィルタを実現するアプローチです。

  • POI(Piezoelectric on Insulator)基板の利用
    • シリコンや支持基板の上に、圧倒的に高い圧電特性を持つニオブ酸リチウム(LiNbO3)やタンタル酸リチウム(LiTaO3)の超薄膜を貼り合わせた基板です。
    • メリット: ScAlN薄膜を成膜・プロセス開発することなく、非常に広い帯域と高周波特性を両立できるため、ScAlNフィルタの強力な競合・代替技術となっています。

 高周波圧電材料における Sc の課題に対しては、「Mg-Zr等を活用したScフリーAlN」や「共添加によるSc使用量の削減(低Sc化)」といった材料レベルでの改善に加え、「ニオブ酸リチウム等の単結晶薄膜(POI基板)」によるデバイスレベルでの代替が進められています。

Mg-ZrやMg-Nb等のAlNへの共添加によるScフリー化や、少量のScと複合添加して使用量を抑える低Sc化があります。またニオブ酸リチウム等を用いた単結晶薄膜基板(POI)による代替も有力です。

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