この記事で分かること
Ag3Snで析出強化される理由
非常に硬いAg3Snの微細粒子が分散し、変形原因である原子のズレ(転位)の移動を強力に遮断(ピン留め)するからです。また、発熱による組織の粗大化を防ぐため、接合部の高い耐疲労性を維持できます。
スズが銅を溶かす理由
両者の化学的親和性が極めて高く、境界で金属間化合物を形成するプロセスにおいて、固体の銅表面から原子が引き抜かれるためです。さらに液体スズ中での銅の拡散速度が圧倒的に速く、溶解反応が継続するからです。
銅で喰われの抑制ができる理由
あらかじめはんだに銅を混ぜることで液体スズの溶解度を満たし、飽和状態に近づけるためです。電極との濃度差が縮まり溶解の駆動力が低下するほか、界面に金属間化合物の保護層が素早く形成され溶解を防ぎます。
パッケージ基板:Sn-Ag-Cuはんだでの析出強化、 銅喰われ抑制
パッケージ基板とは、半導体チップ(ダイ)を載せ、マザーボードなどのメイン基板に接続するための中継基板のことです。半導体チップは非常に微細な端子を持ち、そのまま一般的なプリント基板(PCB)に直接実装することは極めて困難です。
そこでチップとマザーボードの間に介在し、電気信号を橋渡しする役割を持つのがパッケージ基板です。
従来の半導体の微細化による性能向上が限界に近づく中、半導体の先端パッケージング技術じゃビルドアップ多層構造による高密度・微細配線が求められ、半導体性能向上の新たな競争軸となっています。
前回は実際に用いられるはんだにどのような種類があるのかに関する記事でしたが、今回はなぜ銀の混合によって析出強化が起きるのかや銅の役割に関する記事となります。
なぜAg3Snで析出強化されるのか
Ag3Sn(スズ-銀金属間化合物)によってはんだが強化されるのは、この微細な粒子が、金属が変形する原因である「転位(原子のズレ)の運動」を強力にブロックする障壁(ピン留め)として機能するからです。
1. 転位移動の阻止(ピン留め効果)
金属に力が加わって変形するとき、結晶の内部では「転位」と呼ばれる原子の配列のズレがドミノ倒しのように移動しています。
ベースとなるスズ(Sn)は非常に軟らかいため、通常はこの転位が簡単に動いてしまいます。
しかし、はんだ組織の中に非常に硬いAg3Snの微細な結晶粒子が散らばっていると、移動してきた転位がこの粒子にぶつかって引っかかり、それ以上進めなくなります。これを「ピン留め効果(Orowanのメカニズム)」と呼び、これにより材料全体が変形しにくく(=硬く、強く)なります。
2. 結晶粒の粗大化を抑制(組織の安定化)
半導体が動作して発熱と冷却を繰り返すと(熱サイクル)、はんだの母相であるスズの結晶は徐々に集まって大きく育とう(粗大化しよう)とします。
結晶が大きくなると、その境界(結晶粒界)が弱くなり、ひび割れ(クラック)の原因になります。
ここで、結晶の境界にAg3Sn 粒子が存在すると、スズの結晶が移動・巨大化するのを物理的に邪魔してくれます。結果として、熱がかかっても微細で頑丈な組織がキープされます。
3. 最適な分散状態(適度な冷却が鍵)
Ag3Snによる強化を最大限活かすには、粒子が「細かく均一に散らばっていること」が絶対条件です。
理想: リフロー後の冷却速度を適切に管理すると、針状や球状の微細なAg3Sn が網の目のように綺麗に分散し、高い耐疲労性を発揮します。
ただし、冷却が遅すぎたり、銀の濃度が高すぎたりするとAg3Snが巨大なプレート(板状)に成長してしまいます。こうなると、逆にそこが応力集中による「割れの起点」になってしまうため、製造プロセスでの緻密な温度管理(サーマルプロファイル)が重要になります。

非常に硬いAg3Snの微細粒子が分散し、変形原因である原子のズレ(転位)の移動を強力に遮断(ピン留め)するからです。また、発熱による組織の粗大化を防ぐため、接合部の高い耐疲労性を維持できます。
なぜスズは銅を溶かすのか
溶融したスズ(Sn)が固体の銅(Cu)を急速に溶かしてしまう現象(銅喰われ)は、主に「両者の化学的親和性が極めて高いこと」と、「原子の拡散スピードが非常に速いこと」という材料科学的な理由によって起こります。
1. 強力な「化学的親和性」(熱力学的な理由)
スズと銅は、原子レベルで非常に結びつきやすい(仲が良い)性質を持っています。
熱力学の法則により、物質はよりエネルギーが低く安定した状態に向かおうとします。液体スズ単体の状態よりも、「スズの中に銅の原子が溶け込んだ状態」の方がエネルギー的に圧倒的に安定するため、液体スズは接触している固体の銅を自らの中へ強烈に引き込もうとします。
2. 金属間化合物(IMC)の形成に伴う引き抜き
液体スズが銅に触れると、その境界で瞬時に化学反応が起こり、Cu6Sn5 や Cu3Snといった「金属間化合物(IMC)」が形成されます。
この新しい結晶構造が作られるプロセスにおいて、固体の銅の表面から銅原子が次々と引き抜かれ、液体のスズ側へと強制的に移動させられます。これが、物理的に「銅が削れて溶けていく」現象の正体です。
3. 液体中での圧倒的な「拡散速度」
固体の中を原子が移動するスピードに比べ、液体の中を原子が移動するスピード(拡散速度)はケタ違いに高速です。
境界でスズに引き抜かれた銅原子は、液体のスズの中を素早く遠くへ移動(拡散)していきます。
これにより、銅の表面には常に「まだ銅が溶け込んでいない新鮮な液体スズ」が供給され続ける構造になるため、はんだが固まるまでの間、溶解反応が止まることなく進行してしまいます。
はんだ付けにおいて、銅の表面にニッケルめっき(バリア層)を施すことがよくあります。ニッケルもスズと反応して金属間化合物を作りますが、スズに対するニッケルの溶解度や拡散速度は銅に比べて遥かに遅いため、スズに溶かされるのを防ぐ「防波堤」として機能します。

両者の化学的親和性が極めて高く、境界で金属間化合物を形成するプロセスにおいて、固体の銅表面から原子が引き抜かれるためです。さらに液体スズ中での銅の拡散速度が圧倒的に速く、溶解反応が継続するからです。
なぜ銅で喰われの抑制ができるのか
あらかじめはんだの中にわずかな銅(Cu)を混ぜておくことで「銅喰われ」が抑制できる理由は、化学の「飽和(ほうわ)の原理」で説明できます。
イメージとしては、「あらかじめ砂糖をたくさん溶かした水(砂糖水)には、それ以上砂糖が溶けにくくなる」のと同じ現象が、溶けた金属の間でも起きています。
具体的なメカニズムは以下の通りです。
1. 液体スズの「銅を溶かすキャパシティ」を先回りで満たす
溶けたスズ(Sn)が固体の銅を溶かすのは、液体スズがその温度において耐えられる「銅の限界量(飽和溶解度)」に達するまで溶解反応が進むからです。
- 銅が入っていないはんだ: 銅に対する「飢餓状態」なので、接触した電極の銅を猛烈に溶かします。
- あらかじめ銅(約0.5〜0.7%)を入れたはんだ: 液体スズのキャパシティをはじめから満たしている、あるいは満たす直前の状態(飽和に近い状態)になっています。そのため、接触した電極の銅を「これ以上溶かす必要(余力)がない」状態になり、溶解の駆動力が劇的に低下します。
2. 濃度差(濃度勾配)を小さくして、移動を抑える
物質が溶け出すスピードは、接している境界の「濃度の差」が大きければ大きいほど速くなります。
はんだ側に最初から銅が含まれていると、電極表面(銅100%)とはんだ内部(銅0.5%以上)の濃度差が縮まります。これにより、銅原子が電極から液体はんだ側へと拡散していくスピードそのものが遅くなります。
3. 界面の保護層(金属間化合物)を素早く形成する
はんだが電極に触れた瞬間、はんだ内の銅とスズが反応して、電極の表面に Cu6Sn5 という金属間化合物の薄い膜を瞬時に作ります。
この膜がいわば「防波堤(バリア層)」の役割を果たすため、液体のスズが電極の奥にある新鮮な固体銅に直接触れるのをブロックし、それ以上の喰われを防ぎます。
最先端のフリップチップ実装(特に細いCuピラーバンプ)では、電極の体積が非常に小さいため、わずかな銅喰われでも致命傷(断線や抵抗値の上昇)になります。
そのため、デファクトスタンダードである「Sn-Ag-Cu(SAC系)」はんだにおいて、この「わずか0.5〜0.7%の銅」が電極の寿命を保つための極めて重要な盾として機能しています。

あらかじめはんだに銅を混ぜることで液体スズの溶解度を満たし、飽和状態に近づけるためです。電極との濃度差が縮まり溶解の駆動力が低下するほか、界面に金属間化合物の保護層が素早く形成され溶解を防ぎます。


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