この記事で分かること
1. SAF(持続可能な航空燃料)とは何か
廃食油やバイオマス、CO2などを原料とする代替ジェット燃料です。既存の航空機や給油インフラを改修せずそのまま活用でき、原料調達から使用までのライフサイクル全体でCO2排出量を最大約80%削減できます。
2. なぜe-SAFが本命とされるのか
水やCO2、再エネ水素を合成して作るため原料の調達限界がないからです。廃食油などの原料不足や食料競合の課題を克服し、理論上無限に生産可能で、100%再エネを使えば実質CO2ゼロを達成できるためです。
3. e-SAFのコスト削減方法
製造コストの多くを占める再エネ電力の安価な地域(海外)での調達、水素を作る水電解装置の量産・高効率化、原料CO2を回収するDAC技術の低コスト化、プラント大型化によるスケールメリットが鍵となります。
ジェット燃料へのSAF混合義務化
2030年からのジェット燃料へのSAF(持続可能な航空燃料)混合義務化は、航空分野の脱炭素化に向けた日本政府の主要な政策方針です。
SAF(Sustainable Aviation Fuel)は廃食用油、植物油脂、都市ゴミ、木質バイオマスなどを原料とする代替航空燃料で、従来の原油由来ジェット燃料と比較して、製造から消費までのライフサイクルCO2排出量を最大約8割削減できます。
国際線での排出オフセット義務が年々厳格化されていくことへの対応策の一つとなっています。
SAFとは何か
SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)は、原油に頼らず廃食油、バイオマス(植物・木材)、都市ゴミ、あるいは回収したCO2などを原料として作られる代替ジェット燃料です。
飛行機が飛ぶ時に排出するCO2と、原料となる植物などが成長過程で吸収するCO2が相殺されるため、原料調達から製造・消費までのライフサイクル全体でCO2排出量を最大約80%削減できます。
1. 機体や給油設備を「そのまま」使える(ドロップイン燃料)
最大のメリットは、既存のジェットエンジンや空港の給油インフラを改修せずにそのまま使える点です。
化学構造が従来の原油由来ジェット燃料とほぼ同じになるよう精製されているため、安全性を保ったまま混ぜて使用(ドロップイン)できます。※現在は安全基準上、従来燃料と最大50%まで混ぜて給油する規格になっています。
2. 「電動化できない航空分野」の救世主
車のように電気自動車(EV)化すれば良いと思われがちですが、長距離を飛ぶ大型旅客機をバッテリーで動かそうとすると、バッテリー自体が重すぎて離陸できません。
エネルギー密度の高い「液体燃料」である必要があり、現時点で航空分野を脱炭素化する現実解はSAFしかありません。
3. 多様な製造プロセス(原料のルート)
SAFの作り方にはいくつかのアプローチがあります。
- HEFA方式(現在主流): 外食チェーンや家庭から出る「廃食油」や動物性油脂を精製。
- e-SAF / PtL方式(本命とされる次世代技術): 再生可能エネルギー由来の水素と、大気中や工場から回収したCO2を合成して作る人工燃料。
- AtJ方式 / FT合成: 廃棄物(都市ゴミ)、木質バイオマス、あるいはアルコールを発酵・変換して製造。
「飛行機の性能やインフラは一切変えずに、中身だけを地球に優しいカーボンニュートラルな液体燃料に置き換える仕組み」、がSAFの大きな特徴です。

SAF(持続可能な航空燃料)は、廃食油やバイオマス、CO2などを原料とする代替ジェット燃料です。既存の機体や給油インフラをそのまま活用でき、製造から消費までのCO2排出量を最大約80%削減できます。
なぜe-SAFが本命とされるのか
e-SAFがSAFの「本命」とされる最大の理由は、「原料の供給限界がなく、理論上いくらでも作れるから」です。
現在使われているSAF(廃食油などを原料とするHEFA方式)は、世界中で原料の争奪戦が起きており、将来的な需要量を全く賄えないことが分かっています。この「原料のボトルネック」を根本から解決できる唯一の選択肢がe-SAFです。
主流のSAF(HEFA)と「e-SAF」の比較
| 比較項目 | 現在の主流:HEFA方式(バイオSAF) | 将来の本命:e-SAF(合成燃料) |
| 主な原料 | 廃食油、動物性油脂、植物油 | 再エネ由来の水素 + 回収したCO2 |
| 原料の調達量 | 限界あり(世界の廃食油を集めても需要の数%) | ほぼ無限(水と大気中のCO2から作れる) |
| 環境・社会課題 | 植物油を使うと食料問題や森林伐採と競合リスク | 食料や土地利用と一切バッティングしない |
| CO2削減効果 | 最大約80%削減 | 製造電力を100%再エネにすればほぼ100%削減 |
| 現在のコスト | 従来の2〜3倍 | 従来の4〜6倍以上(現状は非常に高価) |
e-SAFが「大本命」と呼ばれる3つの決定的な理由
1. 「廃食油の奪い合い」から脱却できる
ラーメン店や家庭から出る廃食油を集めて作るHEFA方式は、低コストで優れた技術ですが、量に限界があります。
世界の航空燃料消費量をカバーするには廃食油が圧倒的に足りず、競合するバイオ燃料(トラック用など)との奪い合いが激化しています。e-SAFは水とCO2から作るため、この原料不足に悩まされることがありません。
2. 再エネが豊富な地域で「大量生産」が可能
e-SAFの製造に必要なのは「潤沢な再生可能エネルギー(太陽光や風力)」と「水」、そして「CO2」です。
オーストラリアや中東、南米などの発電コストが極めて安い地域に大規模なプラントを建てることで、将来的に大量かつ安定した供給網を構築できます。
3. 完全なカーボンリサイクルが成立する
工場排ガスや大気中から直接回収したCO2(DAC技術)と、再エネ電力で水を電気分解して作られた「グリーン水素」を合成して作ります。
燃料として燃やしても「回収したCO2を元に戻すだけ」なので、ライフサイクル全体での排出量は実質ゼロ(100%削減)に近づけることができます。
現状の課題:なぜ今すぐ使えないのか?
理由は単純で、「製造コストがまだ非常に高いから」です。安価な再エネ電力の確保と、大気からCO2を回収する技術(DAC)の低コスト化が必要なため、本格的な商用化・普及は2030年代半ば〜2040年代になると見込まれています。
2030年の「10%義務化」は廃食油などのバイオSAFでしのぎ、2040年以降の「完全脱炭素化」はe-SAFで達成する、というのが世界共通のロードマップです。

e-SAFが本命とされる最大の理由は、水やCO2、再エネ水素を原料とし、供給に限界がないからです。廃食油の原料不足や食料競合といった課題を克服し、理論上いくらでも生産でき実質CO2ゼロを達成できるためです。
どのようにコスト削減を行うのか
e-SAFの製造コストは、現状で従来のジェット燃料の4〜6倍(バイオSAFと比べても約2倍)と非常に高価です。
コスト削減を実現するためのキーテクノロジーとアプローチは、主に5つのステップに集約されます。
1. 安価な再エネ電力の確保(最大のインパクト)
e-SAFの製造コストの50%以上は、水素製造や合成プロセスに必要な「再生可能エネルギー電力(太陽光・風力)」が占めています。
- 対策: 太陽光や風力発電の単価が世界最安レベルである地域(中東、オーストラリア、南米など)に製造プラントを建設し、極めて安価な再エネ電力を調達する。
2. 水電解装置(水電解槽)の量産化と高効率化
水から「グリーン水素」を作る水電解装置は、現在まだ設備投資額(CAPEX)が高い状態です。
- 対策: 水電解装置(PEM型など)の標準化と世界的な量産体制の構築。また、排熱を利用して少ない電力で水素を作れる高効率なSOEC(固体酸化物形水電解)などの次世代技術を実用化する。
3. CO2回収技術(DAC)のコスト低下
原料となるCO2の調達コストも大きな負担です。
- 対策: 初期段階では、製鉄所やセメント工場など「高濃度でCO2が含まれる産業排ガス」から安価に回収する。長期的には、大気中から直接回収するDAC(Direct Air Capture)技術の効率を上げ、回収単価を現在の数分の一まで落とす。
4. プラントの超大型化(スケールメリット)
現在のe-SAF製造は実証・パイロットプラント(小型)が中心で、1リットルあたりの固定費が高くついています。
- 対策: ギガワット級の大規模商用プラントへと拡張し、建設費や運用費の単位当たりコストを大幅に引き下げる。
5. 合成プロセスの転換(MtJなどの新製法)
CO2と水素を反応させて液体燃料を作るプロセス自体のエネルギー効率を高めます。
- 対策: 従来のFT(フィッシャー・トロプシュ)合成に加え、一度合成メタノールを経由してジェット燃料に変えるMtJ(Methanol-to-Jet)など、転換効率が高く副産物の収益性も高い製法を採用する。
水電解装置の量産化と再エネの低価格化が進むことで、2030年代半ば以降、e-SAFのコストは現在の1/2〜1/3程度まで低下し、バイオSAF(廃食油由来)と同等水準へ近づいていくと予測されています。

e-SAFのコスト削減には、①中東など海外での安価な再エネ電力の確保、②水電解装置の量産化・高効率化、③CO2回収(DAC)技術の低コスト化、④プラント大型化によるスケールメリットの追求が不可欠です。

コメント