この記事で分かること
1. どんな溶剤を回収するのか
半導体製造の露光や洗浄工程で大量消費される有機溶剤が対象です。具体的には、レジスト溶媒やリンス液となるPGMEA、乾燥用のIPA、塗膜剥離液のNMPなど、ナフサ由来の高価な溶剤を回収します。
2. どのように回収するのか
廃液に圧力をかけ、加熱せず特殊な「有機溶剤分離膜」に通す常温の物理ろ過で回収します。ナノサイズの膜孔により、溶剤分子だけを透過させてレジストなどの不純物を分離し、高品質なまま再利用可能にします。
3. なぜ溶媒の回収と再利用が重要なのか
原油高に伴う溶剤購入費や廃棄費のコスト削減と、廃液焼却によるCO₂排出を抑える脱炭素対応のためです。さらに、工場内で循環利用することで、外部からの材料調達リスクを低減できるためでもあります。
日東電工の有機溶剤の回収、再利用システム
日東電工は半導体の製造工程で使用される洗浄液などの「有機溶剤」を自社の分離膜(メンブレン)技術で回収し、再利用するシステムの本格展開・展開強化を進めています。
半導体のフォトリソグラフィ(露光)や洗浄工程では、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)やIPA(イソプロピルアルコール)、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)といった有機溶剤が大量に使われます。
これらは石油(ナフサ)を原料とするため、中東情勢や資源高の煽りを受けて価格が高止まりしており、半導体工場の大きなコスト圧迫要因となっており、環境負荷低減だけでなく、コスト面からも実用化が期待されています。
どんな溶剤を回収するのか
半導体製造工程で日東電工の膜技術が回収の対象とするのは、主にフォトリソグラフィ(露光・微細加工)や洗浄・剥離工程で大量に使われる高価な有機溶剤です。代表的なものは以下の3つです。
1. PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)
- 主な用途:フォトレジスト(感光材)の溶媒、リンス液(シンナー)、ウエハー端部の余分なレジストを除去する「EBR液」など。
- 回収の理由:露光・塗布工程で全工程中最も大量に消費される溶剤の一つです。ナフサ(石油)価格の高騰によるコスト打撃を最も直接受けるため、優先的に回収・再利用が進められています。
2. IPA(イソプロピルアルコール)
- 主な用途:ウエハー洗浄後の「乾燥工程(IPA乾燥)」や機器・部品の精密切削洗浄。
- 回収の理由:ウエハー表面に水滴跡(ウォータースポット)を残さず乾燥させるために超高純度なものが大量に使われます。使用量が多く、廃液処理費用・CO₂排出の両面で環境負荷が高いため回収ニーズが非常に高いです。
3. NMP(N-メチル-2-ピロリドン)
- 主な用途:不要になったレジスト膜を強力に溶かしてはがす「剥離液」、または絶縁膜(ポリイミドなど)の溶媒。
- 回収の理由:非常に溶解力が高い反面、単価が高く環境規制(VOC規制など)も厳しいため、従来から回収の動機が強い溶剤です。
そのほか回収対象となる主な溶剤
- シクロヘキサノン・アセトン:各種レジストの調整や治具・装置の洗浄液
- DMSO(ジメチルスルホキシド)/ MEA(モノエタノールアミン):先端パッケージング(後工程)や剥離液の複合溶剤

半導体製造の露光や洗浄工程で大量消費される有機溶剤が対象です。具体的には、レジスト溶媒やリンス液となるPGMEA、乾燥用のIPA、塗膜剥離液のNMPなど、ナフサ由来の高価な溶剤を回収します。
どのように回収するのか
日東電工の溶剤回収システムは、蒸留のように熱で沸騰させるのではなく、高圧力をかけて「有機溶剤分離膜(OSN:Organic Solvent Nanofiltration)」と呼ばれる特殊な膜に廃液を通す、常温の物理ろ過で行われます。
ポンプで高圧力をかけた廃液(Feed)から、小さな溶剤分子(緑)だけを膜のナノサイズの隙間にくぐり抜けさせて清浄な溶剤(Permeate:透過液)として回収します。
一方、溶け込んでいるレジスト樹脂や高分子不純物(赤:Solute)は膜を通過できず、濃縮液(Concentrate)として分離されます。
回収プロセスの具体的な流れ
1.工場廃液の集約と一次ろ過:粗ろ過工程。
露光機(レジスト塗布部)や洗浄槽から排出された使用済み溶剤を集めます。まずは目に見えるレベルの大きな浮遊物や固形粒子をプリフィルターで除去し、分離膜の目詰まりを防ぎます。
2.OSN膜モジュールへの加圧供給:加圧・導入。
高圧ポンプを使用し、数メガパスカル(MPa)の圧力をかけて廃液を有機溶剤分離膜モジュール(耐溶剤性を高めた架橋高分子膜やポリアミド膜など)へ流し込みます。
3.ナノレベルでの分子ふるい分離:常温分離。
膜表面にある1〜2ナノメートル程度の微細な孔(あな)を通し、分子量の小さい有機溶剤(PGMEAやIPAなど)のみを透過させます。
溶け込んでいるレジストポリマーや微細粒子は膜の手前でカットされます。
4.品質検証とインライン循環(再利用):ライン復帰。
抽出された透過液の水分率や純度をセンサーでリアルタイム計測します。半導体製造に必要な超高純度基準をクリアしていることを確認し、そのまま洗浄用や希釈用として製造ラインへ循環供給します。
従来の「蒸留法」との比較
| 項目 | 従来の蒸留加熱法 | 日東電工の膜分離法(OSN) |
| 分離原理 | 沸点の違い(加熱・蒸発・凝縮) | 分子サイズの差(常温・加圧ろ過) |
| エネルギー消費 | 非常に大きい(潜熱・沸騰熱が必要) | 最大80〜90%削減(ポンプ動力のみ) |
| 溶剤への影響 | 高熱により溶剤成分が熱分解・劣化するリスク | 常温処理のため成分の熱劣化がない |
| 設備スペース | 大型蒸留塔や蒸気ボイラーが必要 | コンパクトなモジュールで省スペース設置 |
最大のメリットは「液体を沸騰させないこと」です。相変化(液体→気体→液体)に伴う膨大なエネルギーが不要になるため、CO₂排出量と電気・ガス代を劇的に削減しながら、純正に近い品質で溶剤をラインに戻すことができます。

廃液に圧力をかけ、加熱せず特殊な「有機溶剤分離膜」に通す常温の物理ろ過で回収します。ナノサイズの膜孔により、溶剤分子だけを透過させてレジストなどの不純物を分離し、高品質なまま再利用可能にします。
なぜ溶媒の回収と再利用が重要なのか
半導体製造をはじめとする産業界で溶媒(有機溶剤)の回収・再利用が極めて重要視されているのは、「経済(コスト)」「環境(脱炭素)」「サプライチェーン(調達)」という3つの大きな課題を同時に解決できるからです。
1. コスト削減(OpExの二重削減)
- 購入コストの抑制:PGMEAやIPAなどの有機溶剤はナフサ(原油)由来であり、資源高や為替変動の影響を大きく受けます。回収して再利用することで、高価な「新液」の買い増しを減らせます。
- 廃棄費用の削減:使い終わった廃液は専門業者に引き取らせて焼却・処分するため、多額の処理費用がかかります。再利用すれば「購入費」と「廃棄費」の二重のコストを同時にカットできます。
2. 脱炭素・環境対応(Scope 1〜3の削減)
- 焼却時のCO₂カット(Scope 1 / Scope 3):廃液の多くは焼却処理(助燃材として燃やす)されるため、大量のCO₂が発生します。リサイクルすることで焼却量を減らし、排出量を直接抑えられます。
- 製造・精製時の省エネ(Scope 2):膜分離などの常温技術で回収する場合、従来の加熱蒸留に比べて圧倒的に少ない電力で精製できるため、工場全体の省エネ・脱炭素につながります。
3. サプライチェーンの安定化(調達リスク回避)
- 地政学リスク(中東情勢など)や物流の滞りによって石油製品の供給網が途絶した場合でも、工場内で溶剤を循環(地産地消・クローズド化)させていれば、外部依存度を下げて操業停止リスクを大幅に軽減できます。
4. 厳格化する環境規制・立地制約への対応
- 世界的に化学物質の排出規制(VOC規制など)や排水・廃棄物規制が厳しくなっています。廃棄物を極限まで減らす「ゼロエミッション」の取り組みは、新しい工場の建設や生産ライン拡大(増産)の認可を得るための必須条件となりつつあります。
これまでは「使い捨てて燃やす」のが当たり前だった高価な溶剤を、「工場内で無限に近い形で循環させる」構造へ切り替えることが、企業の利益率向上と環境責任(ESG経営)の双方に不可欠となっているためです。

原油高に伴う溶剤購入費や廃棄費のコスト削減と、廃液焼却によるCO2排出を抑える脱炭素対応のためです。さらに、工場内で循環利用することで、外部からの材料調達リスクを低減できるためでもあります。(


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