この記事で分かること

半導体パッケージ基板:デスミア
パッケージ基板とは、半導体チップ(ダイ)を載せ、マザーボードなどのメイン基板に接続するための中継基板のことです。半導体チップは非常に微細な端子を持ち、そのまま一般的なプリント基板(PCB)に直接実装することは極めて困難です。半導体パッケージ基板:ABFの特性
そこでチップとマザーボードの間に介在し、電気信号を橋渡しする役割を持つのがパッケージ基板です。
従来の半導体の微細化による性能向上が限界に近づく中、半導体の先端パッケージング技術であるビルドアップ多層構造による高密度・微細配線が求められ、半導体性能向上の新たな競争軸となっています。
前回は絶縁体である樹脂に導電性を付与するシード層形成に関する記事でしたが、今回は無電解銅めっきの工程の一つであるデスミアに関する記事となります。
デスミア処理とは何か
デスミア処理(Desmear Process)とは、基板にブラインドビアやスルーホールをレーザーやドリルで穴あけ加工する際に、熱によって生じた「樹脂の溶融残渣(スミア:Smear)」を化学薬品やプラズマで除去・清浄化する工程です。
半導体パッケージ基板やプリント配線板の製造において、信頼性とめっきの密着性を担保するための重要な前処理の一つです。
デスミア処理の2大目的
1. ビア底の導通不良を防ぐ(信頼性の確保)
レーザーで穴を開ける際、熱で溶けたビルドアップ樹脂(絶縁体)がビアの底にある銅箔の上に薄く焼き付いて残留します(スミア)。
これを放置したまま銅めっきを行うと、層間の電気的接続が遮断されたり、接触抵抗が高くなって断線・動作不良を引き起こすため、デスミア処理でスミアを完全に除去します。
2. めっきの密着力を高める(アンカー効果の形成)
めっきを施す樹脂の表面はツルツルしているため、そのままではめっき膜が簡単に剥がれてしまいます。
デスミア処理の薬品で樹脂表面を適度に微細エッチング(粗化)して数100nm程度の微細な凹凸を作ることで、後工程の無電解銅めっきがしっかり引っかかるアンカー効果(錨効果)を生み出します。
主なデスミア処理手法
現在、基板の製造現場では主に以下の2つの方式が用いられています。
① 湿式デスミア(化学薬品処理)※最も標準的
薬品の液槽に基板を浸漬させて化学反応で樹脂を溶かす方法です。一般的に以下の3ステップで進行します。
- 膨潤(Sweller): アルカリ液などで樹脂表面をあらかじめ柔らかくし、薬品が浸透しやすくする。
- エッチング・過マンガン酸処理(Permanganate): 強酸化剤である過マンガン酸塩で樹脂(スミア)を酸化分解・粗化する。
- 還元・中和(Neutralizer): 基板表面に残ったマンガンの残渣を酸性還元液で洗浄除去する。
② 乾式デスミア(プラズマ処理)
真空装置内で酸素やフッ素系ガス(をプラズマ化させ、化学反応と物理的な衝突(スパッタリング)で樹脂残渣をガス化させて除去する方法です。
- 特徴: 薬液が入りにくい極小径ビア(超微細ビア)や、化学薬品に強い難エッチング性樹脂(PTFEやフッ素樹脂系など)、樹脂の粗化を抑えたい超微細配線(SAP工法)などで用いられます。

デスミア処理とは、ビア加工時の熱で発生した樹脂残渣(スミア)を除去し、めっきの密着性と接続信頼性を高める工程です。スミア除去による導通不良防止と、樹脂表面の微細な粗化によるアンカー効果の形成を担います。
なぜアルカリ液などで樹脂が柔らかくなるのか
デスミア処理でアルカリ性の膨潤液(Sweller)によって樹脂が柔らかくなる(膨潤する)のは、「化学反応による極性基の発生」と「電気的な反発・溶媒の浸透」が同時に起こるためです。
1. アルカリ(OH–)による樹脂成分の化学攻撃
ビルドアップ基板に使われるエポキシ樹脂やその硬化剤(エステル結合やアミド結合などを持つ高分子)に、膨潤液中の水酸化物イオン(OH–)が作用します。
化学的な結合の一部が加水分解されたり、樹脂の表面近傍にマイナスの電荷を帯びた「親水性基(イオン基)」が生成されます。
2. 静電反発による分子鎖の「隙間」の拡大
樹脂の中にマイナスの電荷(イオン基)が多数発生すると、マイナス同士が互いに反発し合います(静電反発)。
この反発力によって、これまで固く絡み合っていた樹脂の高分子鎖同士が押し広げられ、分子の間に大きな「隙間」が生まれます。
3. 水分や溶媒の浸透(スポンジ化)
広がった隙間に、膨潤液に含まれる水分子や有機溶媒(グリコールエーテル系など)が大量に入り込みます。
水や溶媒が分子鎖の間に入り込んで「潤滑油」のような働きをすることで、高分子の拘束が解け、乾燥したスポンジが水を吸って柔らかく膨らむように樹脂全体が軟化します。
デスミア処理でのメリット
こうして樹脂をあらかじめ柔らかく・隙間だらけにしておくことで、次の工程で使う過マンガン酸(強酸化剤)が樹脂内部まで速やかに浸透できるようになり、ビア底の残渣(スミア)の完全分解や、均一な粗化(アンカー形成)が短時間で行えるようになります。

アルカリ(OH⁻)や溶媒が樹脂の一部を加水分解し親水基を形成します。同電荷の静電反発で高分子鎖の隙間が広がり、そこへ液が大量に浸透・保持されることで、スポンジのように膨潤して樹脂が可塑化・軟化します。
なぜ過マンガン酸塩が、使われるのか
デスミア処理のエッチング・粗化剤として過マンガン酸塩(過マンガン酸ナトリウムや過マンガン酸カリウムのアルカリ溶液)が用いられるのは、「強固な高分子樹脂を分解できる強力な酸化力」と「めっきの密着に必要な微細な凹凸(アンカー)を均一に作る制御性」を兼ね備えているためです。
主な理由は以下の3点です。
1. 熱変性した難溶性樹脂(スミア)を酸化分解できる
レーザー加工時の熱で焦げたり再硬化した樹脂(スミア)は非常に難溶性で、通常の酸やアルカリ液では溶けません。
しかし、アルカリ環境下における過マンガン酸イオン(MnO4–)は非常に強い酸化力を発揮します。エポキシ樹脂などの主鎖(C–C結合やC–O結合)を化学的に切断し、水溶性のカルボン酸などに分解してキレイに削り落とすことができます。
2. 理想的な微細凹凸(アンカー)をナノレベルで形成できる
過マンガン酸塩は、直前の「膨潤工程」で柔らかくなった樹脂の特定の相(ソフト成分や非結晶部)を選択的に優先攻撃します。
これにより、樹脂表面全体をただ平らに削るのではなく、数100nmレベルの微細で複雑な窪み(アンカー構造)を均一に作ることができます。この窪みに無電解銅めっきが入り込むことで、強固な物理的密着力が生まれます。
3. 環境対応(有害物質の代替)と工業的な液再生技術
歴史的には、より強力な「クロム酸(六価クロム)」が用いられていましたが、強い毒性と環境規制(RoHS等)により全面的に使用が禁止されました。
過マンガン酸塩はクロム酸に代わる環境負荷の低い代替薬品であり、さらに使用中に還元されて生じたマンガン(6価)を電気酸化処理によって元の過マンガン酸(7価)へ自動リフレッシュ(液再生)できるため、工業的・経済的にも非常に優れています。

過マンガン酸塩は強力な酸化力を持ち、熱変性した難溶性樹脂(スミア)を分解できます。また、膨潤した樹脂を微細にエッチングしてナノレベルのアンカーを均一形成し、めっき密着性を高める効果もあるため使われます。





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