この記事で分かること

住友鉱山のパワー半導体向けナノ銅粉
住友鉱山はパワー半導体向けナノ銅粉の量産を開始したことを発表しています。
再生可能エネルギー向けインバーターなどで需要が急増するパワー半導体は、高出力化に伴い、従来のハンダに代わる高耐熱・高信頼な接合材料(焼結銅など)が求められています。銀が主流だった接合材料において、コストパフォーマンスに優れ、導電・熱伝導特性も高い「銅」への置き換えが加速しています。
銅は微細化(ナノ化)すると表面エネルギーの関係で融点が下がり、低温での焼結が可能になるため、耐熱性の低い半導体素子へのダメージを抑えつつ強固な接合を実現できることから注目されています。
パワー半導体向けナノ銅粉とは何か
パワー半導体向けナノ銅粉とは、粒子のサイズが数ナノ〜数十ナノメートル(nm)の極微細な銅粉末であり、次世代パワー半導体のダイアタッチ(チップ接合)材料や導電性ペーストの主原料として使用される最先端の機能性材料です。
EV(電気自動車)や再生可能エネルギー向けのSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)といったパワー半導体は、高出力・高効率化に伴い発熱量が非常に大きく、従来のハンダでは耐熱性や熱疲労の面で対応が難しくなっています。この課題を解決するのがナノ銅粉です。
主な特徴と技術的メリット
- 低温焼結性(ナノサイズの特性)
- 銅の本来の融点は 1083℃ ですが、粒子をナノメートルサイズまで微細化すると表面エネルギーが劇的に高まり、200〜300℃前後の低温環境でも粒子同士が融合(焼結)する現象が起きます。これにより、耐熱性の低い半導体チップや基板に熱ダメージを与えずに強固な金属接合を実現できます。
- 高耐熱・高熱伝導性
- 焼結によって形成された銅の接合層は、バルク銅と同等の高い融点と優れた熱伝導性・電気伝導性を持ちます。パワー半導体が稼働する高温環境(200℃超)でも劣化せず、効率よくチップの熱を放熱基板へ逃がします。
- 銀(Ag)代替によるコスト削減と信頼性向上
- 従来の高耐熱接合には銀(Ag)ナノ粒子が多用されてきましたが、銀は貴金属のためコストが高く、高電圧・高湿環境下でエレクトロマイグレーション(金属イオンの移動によるショート不良)を起こしやすい課題がありました。銅は資源量が豊富で低コストであり、エレクトロマイグレーション耐性にも優れています。
主な用途
- パワー半導体モジュールのダイアタッチメント: 車載インバーターや産業用インバーターの信頼性を飛躍的に向上させます。
- 高信頼性配線・プリンテッドエレクトロニクス: 金属錯体インクなどと組み合わせ、基板上に直接配線を形成する環境負荷の低い次世代製造プロセスへの展開が進められています。

パワー半導体向けナノ銅粉は、数nmサイズの極微細な銅粒子です。低温での焼結により強固な接合を実現し、高耐熱・高熱伝導性を備えることで、従来のハンダや銀に代わる次世代の接合材料です。
なぜ低温焼結が可能なのか
ナノ銅粉がバルク(通常の塊状)の銅よりもはるかに低い温度(200〜300℃)で焼結(融合)する理由は、粒子の微細化に伴う熱力学的・物理的な特性の変化にあります。
1. 表面積と表面エネルギーの劇的な増大
粒子が数ナノ〜数十ナノメートルサイズまで小さくなると、全体の体積に対する表面積の割合(比表面積)が爆発的に増加します。
- 表面に位置する原子は、内部の原子と違って周囲を他の原子に囲まれておらず、結合の手が余った不安定な状態(不飽和結合)にあります。
- そのため、ナノ粒子は極めて高い表面自由エネルギーを持っており、システム全体として表面積を減らし安定化(=粒子同士が融合)しようとする強い駆動力が常に働いています。
2. ギブス・トムソン効果(サイズ効果による融点降下)
熱力学において、粒子の曲率半径が小さくなると融点が低下する現象をギブス・トムソン効果(またはケルビン・ギブス効果)と呼びます。
- 通常の銅の融点は 1083℃ですが、粒子径が数ナノメートルレベルになると、表面原子の蒸気圧や化学ポテンシャルが高くなり、見かけ上の融点が数百度単位で低下します。
- これにより、本来なら高温でしか溶融・拡散が起きない銅であっても、パワー半導体の耐熱限界を下回る 200〜300℃という低温環境で原子レベルの結合(焼結)が可能になります。
3. 表面原子の拡散活性化エネルギーの低下
ナノ粒子表面の原子は結合が緩いため、原子が動き出すために必要なエネルギー(拡散活性化エネルギー)がバルク状態に比べて大幅に低くなります。
- 加熱されると、表面原子や界面近傍の原子が非常に低い熱エネルギーでも活発に表面拡散を起こし、隣接する粒子との接触点(ネック)へ急速に移動・凝集します。
- この物質移動によって粒子間の隙間が埋まり、短時間で強固な金属結合体が形成されます。

ナノ化により表面エネルギーが劇的に高まり、ギブス・トムソン効果による融点降下や表面原子の拡散活性化エネルギー低下が生じるため、200〜300℃の低温でも粒子同士が融合します。
金属の「イオンマイグレーション(電界と水分によって金属がイオン化し、移動してショートを引き起こす現象)」において、銀(Ag)は数ある金属の中で最も発生しやすい(ワースト1)特性を持っています。一方、銅(Cu)は銀に比べてマイグレーションが起こりにくい性質を持っています。
その主な理由は、イオン化のしやすさとデンドライト(樹枝状結晶)の成長速度の違いにあります。
1. イオン化と移動・析出のスピード
- 銀(Ag): 水分と電圧がかかった際、極めて短時間で容易にイオン化(Ag+)し、電界に引き寄せられて移動します。移動した先で瞬時に金属に戻り、針状の結晶(デンドライト)を急速に伸ばして対極に到達するため、数時間〜数日単位でショートを引き起こします。
- 銅(Cu): 銅も条件(水分やハロゲン等の不純物)が揃えばマイグレーションを起こしますが、銀に比べてイオン化の速度やデンドライトの成長スピードが圧倒的に緩慢です。そのため、実用上においてショート故障のリスクが大幅に低くなります。
2. パワー半導体における信頼性の差
EVや産業機器などのパワー半導体は、高電圧がかかった状態で高温・高湿環境にさらされるため、接合材料には高い耐マイグレーション性が求められます。
- 銀ペーストなどを高電圧下で使用すると、絶縁破壊やショートのリスクが高まります。
- 銅であれば、同様の高電圧・高湿環境であっても銀のような急速なマイグレーションが発生しにくいため、長期的な信頼性(ロバスト性)を高く維持できるという大きなメリットがあります。

銀は水分と電圧で容易にイオン化し急速に成長しますが、銅はイオン化や樹枝状結晶(デンドライト)の成長スピードが圧倒的に緩慢なため、ショート故障のリスクが低くなります。


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